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逃亡
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逃亡の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.42pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全50件 41~50 3/3ページ
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友人から「君は国を愛していないの?」と尋ねられたことがある。私は「なら国は君を愛してくれているの?」と言下に尋ね返した。友人は黙っていた。 本書の主人公は逃亡を余儀なくされた戦犯である。彼は国家のために身を賭して働き、人倫に悖る行為をもあえて引き受けた。 その見返りが国家による裏切りだ。 辛うじて命をつなぎ戦地から家族の下に帰還し、ようやく安息が得られると思った。しかし突如として今度は国家から追い詰められていく。 「愛国心」「国のため」を称揚していたのは誰だったか。 国家の欺瞞に滅茶苦茶にされた個人の人生は一体何によって贖われるのか。主人公やその家族、逃げ回る戦犯たち。本書に登場するのはいずれも国家そして戦争にたった一つしかない自分の人生を蹂躙された者ばかりである。 どうして人間がここまで理不尽に翻弄されなければならなかったのか。 幸福な時代に生まれた私の生活の背後には、自らの力を大きく超えた暴力に常に怯えていなければならなかった人々の苦悩があった。 そのことを強く胸に留めておかなければならないと思った。 読むことがこれほどつらくなる小説はなかった。 しかし、なんとしても読まなければならないとこれほど強く思った小説もなかった。 | ||||
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戦争中憲兵(特高警察)として香港で厳しく治安維持にあたっていた主人公が敗戦後一転して戦犯に指名され、その理不尽さゆえ中国大陸から日本、そして日本各地を逃亡するという、文庫版で上下合計1200ページの大作でした。 97年の作品で柴田錬三郎賞を受賞しています。 原爆を投下して罪もない一般の人々を何十万人も殺したアメリカが罪を問われず、上官の命令で対日不満分子をはからずも手にかけてしまった者が、敗戦国ということで指名手配される。 作者はその不公平さ、理不尽さから戦争の愚かさを訴えているように思いました。 | ||||
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主人公守田征二は敗戦の時、中国大陸で憲兵をしていた。一夜にして立場が変わり、身の危険を感じた守田は同僚の誘いに応じて離隊し、変名で民間人として収容所に潜り込む。憲兵の身分がばれるのに怯えながらようやく日本に帰り着き、家族と再会したものの、戦犯追及の手は国内にも及んでいた…。フィクションではあるが、十分な取材に基づいて詳細に描き上げられる戦時下から終戦直後にかけての意識と生活が興味深い。自らが加害者でもあった憲兵を取り上げながら、家族を愛し追求に怯える、感情移入できる主人公として据えることで、過去の一方的な断罪や被害者面といったありがちで皮相な描き方からは無縁となった。元上司である曹長の戦後の天皇批判にはやや鼻白むが、戦勝国がレッテルを貼った戦犯とは何だったのか、ということを考えさせられる。追われる者を描くエンターテインメントとしても上質であり、苦難に堪える家族の描写は泣かせる。多面的な読み方ができ、それぞれの点でレベルの高い傑作であった。 | ||||
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広島生まれのせいか、時代のせいか、私にとって戦争とは「原爆」しか印象にありません。学校の教科書は嘘ではなかったけど真実でもなかったようです。知らなかった事が罪のように感じました。読みながら考えました。「誰が悪い?」作者もその答えは出ていないのでしょうか・・・。っというより、誰が悪いか考える事事態が間違っているのでしょうか?戦争をしらない現代の人にこそ読まなければならない一冊だと思います。今まで適当に聞き流していたおじいちゃんの戦争体験。お盆に帰省した時に、もう一度きちんと聞いてみようと思いした。 | ||||
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戦時下の暗いイメージの象徴的存在として取り上げられる憲兵。守田は戦時中、香港・広州で憲兵として諜報活動を行った経歴をもつ。終戦とともに憲兵の多くが戦犯容疑者として拘束されることを察し、逃亡を決意する。民間人に身をやつしようやく故国に帰り妻子と再会するが、やがて国内でも戦犯追及の手が及ぶと、家族の下を離れ、果てしない逃亡生活に入っていく・・・。上巻は戦時下の諜報活動とそこで出会った人々の回想を交えながら、中国の日本人収容所での生活を描く。下巻は帰国後の日本、ヤミ市、農村、そして逃亡生活が描いていく(主人公の故郷が筑後地方という設定のため、後半は福岡が舞台となる)。国家権力によって徴兵され、戦地に赴き、軍隊としての命令の中で行った活動が罪に問われる理不尽さ・・・。終戦後、日本の旧占領地各地で行われた戦犯裁判、世に出ることがないB・C級戦犯に対する扱い、その中で多くの憲兵が裁かれていったという事実が直接・間接に描かれていく。後半の逃亡を続ける主人公と、その帰りを信じ待ち続ける家族。運命に屈することなく、抗い続ける生き様が、しっかりした筆致で描かれる。ラストにかけての主人公とその妻の心理描写は秀逸。それだけにラストの感動は深い。的確な心理描写、ディテールをおろそかにしない描写や人物造形に最後まで読ませる。派手な場面はないが、しっかりストーリーは好印象。 | ||||
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不条理極まりない状況下でも必死で個人そして国家と向き合う姿。戦争の世紀に生まれた我々が、原罪と幸福論の狭間でどう生きて行くのか?余りにも重い、そして痛い。ただこの作家特有のわずかな光がさしていることに気がつくとき、これも形を変えたエンターテインメントだと気が付き一瞬救われるのだが... | ||||
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この作品を書く為に作者は作家になったとのコメントをどこかで見て以来、この本の発売を心待ちにしていました。(単行本で既に読みました。)作者の構成力の素晴らしさ、根底に流れるヒューマニズムは他の作品に変わらぬ独自の魅力です。しかし、本作品の特色は何といっても、通常わたしたちが持っていた「憲兵」という「悪役」の側から戦争の不条理と、敗戦国日本の取った、「自国の戦争犯罪人に対する取り扱い」という、ほとんど知られていない事実を私たちの目の前に見せてくれた事にあると思います。戦争という非常時に行われた行為を犯罪と呼べるのか、また、それらを裁くという事ができるのか。ルーマニアの最高権力者でさえ、非常時の行為を無実と訴えて裁判に抗している現在、何の抵抗もできずに罪を着せられ、死刑になった人々の数を考えれば余りの不条理を感じます。最近、売れているらしいドイツ人の作家シュリンクの「朗読者」にも通ずるところが有り、併読もお勧めします。 | ||||
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塩野七生氏の著作の一つである「サイレント・マイノリティ」という言葉が、本書を読んでいる間に何度も頭に浮かんだ。主人公の母トメのように気丈かつ声高に彼を擁護する人物も登場するが、妻子は生活を必死に維持することで彼を支え、逃亡を助ける元同僚の多くは自らが犯した「罪」をどう理解すべきか苦しみながら、決して声を上げることはない。それは、戦中の軍隊組織や戦後の反論が許されない世情に表される、常に現実から逃避していた当時の日本社会によって沈黙せざるを得なかった人々の姿である。レビューのタイトルは、本書の終盤で主人公が戦犯とはいかなる存在か、あるいは自分が犯したとされる罪状の根源を振り返る場面の一文である。巣鴨の独房でこの結論に至った人物が本当にいたかもしれな!い。だとすると、終戦から半世紀以上を経た現在でもこの文章で表せる社会とは、一体何を成し遂げたと胸を張って言えるのだろうか。 | ||||
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五味川純平の’人間の条件’とは、主人公の軍隊での役割は、違っても、そのイメージは、重なり合いながら、どんどんと、ストーリーの流れのなかに、押し流されながら、一気に読み終わった小説である。帚木さんの作品は、ほとんど読ませてもらっているが、何回も、車中の中で、涙が出てしまったのは、初めてである。後書きで、久世さんが主人公の守口は、帚木さんの父である様な事を書かれていたが、とても作者が、主人公に愛情を持って書かれている 優しさが、なんとも心地がいい。この小説を読み終えると ’目薬’、’日薬’の薬に意味が分かります。 | ||||
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久しぶりにあんなに没頭して読んだ.上下2巻からなる本.少し長いかもしれない.しかしここに詰められた内容の濃さに圧倒される.どきどきするストーリーの進行のみならず,戦争という今や遙か彼方に日本人の記憶から薄れつつある悲しい悲劇を思い出させ,いかにそれが無意味なものであるかというおきまりの主張ではなく,それに向かっていった人々の必然性を説く.戦争を二度と起こしてはならぬ.逃亡するもと憲兵の立場に立つと,戦争の裏が見えてくる. | ||||
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