(短編集)
蠅の帝国: 軍医たちの黙示録
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“新しい戦前” である現代に、2020年代を生きる現代人が読んでおくべき「戦記小説」というべきか。「戦争の」ではなく、「戦場」のリアル、戦争の勇ましい大言壮語や「正義」とは別次元に繰り広げられる、実に生々しい、死と病、生への執着、恐怖、絶望、諦念、残虐さ、親切さ、ずる賢さ、したたかさ、誠実さ、国籍の垣根を越えた人類愛、男女それぞれの性事情、人間持つ実に伸縮自在で身勝手な「身内―他者」による差別観念など、あらゆる角度から、「人間」のリアルを読者は疑似体験できる。ミサイルや爆弾、戦車や戦闘機を国がふんだんに所有すれば人々の平穏な暮らしが守られるなどと言う、政府のプロパガンダ、マスメディアが振りまく「妄想」から解き放たれるために、この国、ニッポンの人民が舐めた80年前の辛酸を、「思い出す」手掛かりにしてはどうか。 作家であり精神科の医師である帚木は、15人の軍医らが体験した事実と証言、歴史資料をもとに、15の短編小説として寓話を再構成している。大空襲下の東京本所で、広島の原爆野で、関東軍遁走後の奉天で、銃後の瀬戸内で、ソ連軍侵攻下の樺太で、米軍の弾薬降り注ぐ沖縄摩文仁の丘で、ジャワ島で、習志野で、満州チャムスで、大日本帝国の軍の将校であり、医師/医学生である彼らは、それぞれの任地で兵隊・捕虜・住民・患者らの求めに応じて、与えられた限られた物資と時間的制約の中で、判断し、必要な処置を行ってゆく。決してドキュメンタリーではないのだが、作家帚木が実に冷静な文体で、個々の軍医の実体験に基づいて「物語」を再構成しているので、読者はそれに引き込まれざるを得ない。 政治社会学的な読み方もできる。医師という存在は、国家と軍による人民支配の「道具」でもあること。だからこそ、医大を各地に増設し、軍医の「員数」増やすことが戦争国家の重要政策だったことも見て取れる。また、「命を守る能力がある専門職」と見做されるがゆえに社会から尊敬され「権威」が与えられているという「知識」の権力性や、「命を守る」という崇高な志と併存しうる、個々の医師の人格的多様性と「この世」を生きる人としての経済的欲望の存在も見える。国家、軍という組織の人間として「末端」とは言え「将校」として課せられる社会的責任。医学研究、症例・病態の研究に対する科学者としての意欲。社会における一種の「階級」であり「身分」であり「家業」である医師層の意識と生態はいかなるものか、を一般読者は垣間見ることもできる。魯迅の『賢人、馬鹿、奴隷』に例えるなら、軍医は間違いなく「賢人」、インテリであり、体制内「プチブル」でもあるのだが、ただそれだけという訳ではないのだ。抑圧構造を理解しえいない哀れな「奴隷」兵隊、庶民はあまた登場するのだが、残念ながら、「戦前」の日本に秩序=支配構造のアウトサイダーである「馬鹿」は登場しない。現代日本に必要なのは「馬鹿」であろう。 蛇足:出版社が付けたであろう副題「軍医たちの黙示録」は全く相応しくない。終末思想も神の啓示もない。黙示文学ではまったくない。端的に無教養な誤り。 | ||||
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戦時下、医薬品が少ない中、為す術も無い軍医達の無力感。兵隊達が死んで逝く。色々な戦地での各軍医の苦悩を集めた短編集。よく調べて書かれています。 | ||||
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帚木蓬生さんの本です。 最初、源氏物語の本かな、とか思っちゃったんですね。「帚木」(ははきぎ)も、「蓬生」(よもぎう)も、どちらも源氏物語の巻名だからね。 だから、ははきぎよもぎう、それで帚木蓬生なのかな、とか思ってたんですが、ちがうみたいね。「ははきぎほうせい」が正しい読み方のようです。 「空爆」「蠅の街」「焼尽」「徴兵検査」「偽薬」「脱出」「軍馬」「樺太」「土龍」「軍医候補生」「戦犯」「緑十字船」「突撃」「出廷」「医大消滅」の十編がおさめられています。 軍医で太平洋戦争を戦った人たちの短篇で、どれもが戦争体験の濃淡があったりします。 とりあえず、読むと、戦争という行為が、いかに人的リソースを消耗させるかがよくわかります。 | ||||
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陸軍の戦記を読むのが好きな人間にとっては、野戦病院の事は良く知っているのだが、陸軍は人気が無いせいか、一般人は意外と知らないのかも知れないね。 戦記と言っても、海軍や空軍の方が圧倒的に人気があるからね。 陸軍を題材にした映画も殆ど作られないし(野火くらいか)。 まあ、じんにくばっか食ってるから映画にもならないのだろうが、それにしても、ニューギニアやフィリピンやビルマの戦地が映画になる事は無い。 野火だって、野戦病院の描写はユルかったしね。 陸軍の戦記を読んでる人間からすれば、軍医さんが書いた戦記は沢山あるし、まずハズレは無い事で有名だから、結構読んでる事が多いね。 肌感覚で、アタリが多いのも分かるしね。 特にビルマは軍医さんの戦記が多いねえ。 ニューギニアの、柳沢玄一郎氏の戦記は有名だねえ。 フィリピンの守屋正氏の戦記も有名か。 ビルマは多すぎて分からん。 まだビルマに本腰を入れてないし。 では、戦地の野戦病院の事って、あまり知られていないのかね。 あんな素敵な世界を知らないなんて、人生損してるね。 兵隊さんの世界だと、野戦病院は誰もが行きたがらない場所だねえ。 行ったら、生きて帰れないから(笑)。 野戦病院に行く、というのは、死を意味するからね(笑)。 ジャングルに野晒しで放置されるだけだからねえ。 衛生兵が世話してる話なんて聞いた事無いし、水も食糧も与えられず、大抵は患者本人が、ブラブラと食糧探している。 食糧を探す体力が無ければ、そのままその場で餓死して、腐って白骨化していくだけの話だからねえ。 遺体も埋めないからねえ。 極たまに、塹壕の中で寝かせられる話もあるが、塹壕だって露天だし、水ハケが悪いんだから、下手すりゃ溺れ死ぬ。 遺体の処理は楽そうだが、それすら衛生兵はやらないイメージだねえ。 患者達の事を、冷酷な目で見てる印象がある。 少なくとも、人間扱いはしてないね。 衛生兵が、患者から略奪してる印象すらある。 | ||||
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帚木蓬生の作品は色々読んできたが、おすすめ作品が多い。ヒトラーの防具、三たびの海峡、逃亡、 日御子、安楽病棟、など。 戦記小説では殆ど出てこない軍医であるが、本作では軍医の目を通して、各戦地での状況が子細に客観的に 描かれている。満州、東京、沖縄、広島、樺太、北海道、支那、東南アジア。 「爆心地にも行ってみました。猫1匹おりません。(略)屍体はみんな上向きです。地面が見えんくらい、 屍体が横たわっとりました。歩くのに死んだ人の腰を踏むように進まねばなりません。ごめんなさい、 ごめんなさい、と言ってるうちに涙が出てきました。」P84 「これからお前たちは幾度となく失敗していくであろうが、その度に内省を加えれば、失敗は成功に繋がる。 その意味で、成功とは自己内省の加わった失敗の蓄積である。」p361 (トラックの脇で苦しんでいる兵がいる。両手両足を中途からもぎ取られていた。しかしもはや誰も 顧みるものはいない。軍医の私とて、構ってはいられない。)p474 (国民を守るべき軍だけでなく、役人すらも韋駄天走りで退去している事実に、私たちは開いた口が 塞がらなかった。)p543 (将校が言うには、こんな難行軍では赤ん坊もどうせ死ぬに決まってる。それよりはここで殺した方が 全滅の憂き目にあわずにすむと言うのだ。親たちは泣く泣く我が子の首を絞めたり、それが どうしてもできない親は、人に頼んで絞め殺してもらった)p565 巻末に掲載されている多数の軍医の手記その他資料に驚く。 それらを緻密に取材研究、再構成した労苦がうかがえ、膨大な作業を費やしたであろうと拝察されるが、 作者が伝えたいことは、日本人の誇りとか、反戦とかではなく、 史実を知って欲しい、平和な現代だからこそ、この国の過去を知って欲しいという思いであろう。 読んで楽しい小説ではないが、多くの方に読んで頂きたい。 | ||||
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