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(アンソロジー)
迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成
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迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.25pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全4件 1~4 1/1ページ
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数多の西洋怪奇小説の紹介と翻訳で、本邦における怪奇翻訳の礎を築いた、翻訳業界そして編集業界の巨匠、平井呈一。彼の偉業である怪談翻訳集成第2弾、前半は平井をして「近世怪奇小説四天王」と言わしめた4人のうち、M.R.ジェイムズとA.ブラックウッドの傑作選、後半は平井の翻訳者の原点である初期翻訳作品2点の他、彼が翻訳したラフカディオ・ハーンの文学講義や平井氏の翻訳に対する姿勢が見えるエッセー等を収録。 以下、なるべくネタバレなしの収録作品各話感想。 --------------------------------------------------------- ★ジェイムズ「消えた心臓」(1904) 半年前から孤児だったスティーヴァンは、年長の従兄弟であるアブニーに迎え入れられる。ある日、スティーヴァンは使用人から、過去に二人の孤児が屋敷に引き取られた後に失踪したことを聞かされる。そしてその夜、屋敷の古い浴室で怪しい人影を目撃する――。 (ジュブナイルの要素と魔術の要素をミックスした怪奇譚。) ★ジェイムズ「マグナス伯爵」(1904) スウェーデンに関する本の執筆を思い立ったラクソールは、向かった先で風変わりな教会を発見する。そこに眠っている、怪奇な伝承が伝わるマグナス伯爵という人物に興味を惹かれた彼はその霊廟の前で、自然と「お目にかかりたいものだ」と口にする。その時、カチャンという金属音が――。 (吸血鬼ものを下敷きにしつつ、全く異なる独創的な怪異を表現した傑作。) ★ブラックウッド「人形」(1946) インド駐在歴のある英軍人マスターズ大佐。彼の家の呼び鈴が鳴らされ、料理女が対応に出ると、そこには黒い肌の男がいて、大佐に渡してほしいと、彼女に小さな紙包みを押し付けて消えてしまう。 主人からそれを捨てるよう命じられた料理女が紙包みを開けると、現れたのは蝋細工の人形だった――。 (呪いの人形をテーマにした、オーソドックスな怪奇小説。事の真相は最後まで明かされないが、当時のインドは英国の植民地で、独立運動が盛んな時期でもあったので、読者はそこから推し量ることもできるだろう。) ★ブラックウッド「部屋の主」(1917) 急に思い立ってフランスのアルプスを訪れたミンタンだったが、それが災いして宿を取れない状況にあった。近くの民家に一泊を請おうとした矢先に、ホテルのボーイから「『予約済み』だが泊まれる部屋」があると伝えられ、詳細を聞いた上でその部屋に泊まることにする。だが、その部屋はどうにも厭な感じが――。 (いわゆる「旅行怪談」もの。はたして彼を嫌な気分にしていたものは、前の宿泊客の残念か、それとも部屋そのものか。) ★ブラックウッド「猫町」(1908) 心霊事件を追求してはそれを解明することに心血を注ぐ医師ジョン・サイレンス。そんな彼の元を訪れたアーサー・ヴェジンが語った旅先のフランスで自身を襲った体験とは――。 (原題である『いにしえの魔術』という邦題の方が有名な、"輪廻"を主軸にしたダーク・ファンタジー。ジョン・サイレンスものの代表作だが独立した作品として読んでも面白い。) ★ブラックウッド「片袖」(1921) ヴァイオリン収集を趣味とするギルマー兄弟。彼らのもとには、鑑定家で演奏家でもあるハイマンが度々訪れては名器を演奏させてもらっているが、ヴァイオリンに対する認識の違いから、双方は密かに相手を嫌悪していた。 ある霧の晩、兄が帰宅すると、在宅中の弟は、つい先程までいたというハイマンとの間で起きた不気味な出来事を語り始めた――。 (「妄執」をテーマに黒魔術的な要素を絡めた短編。) ★ブラックウッド「約束」(1906) 深夜まで勉強に励んでいたマリオットを訪ねたのは、かつての学友であるフィールドだった。ささやかな食事で歓迎するマリオットに対し、沈黙を続けるフィールド。やがて眠そうな様子を見せた彼に、マリオットは快く寝床を提供するのだったが――。 (ジュブナイルな怪談話。ブラックウッドは小泉八雲の作品を読んでいるようなので、彼の『守られた約束』がモチーフになっているかもしれない。) ★ブラックウッド「迷いの谷」(1910) 容貌ばかりか趣味や思想も同じくする双生児マークとスティーヴァン。彼らはある年の夏に旅行に出かけるが、訪れた山中のホテルでスティーヴァンは美しい女性に恋をする。異性への好みも同じくすることから、スティーヴァンはこのことをマークから隠そうとするのだが、事態は思わぬ方向へ――。 (文中で語られる、死にきれない霊が集まるという「迷いの谷」の伝説が、その結末に彩りを添える、傑作の一つ。) ★コッパード「シルヴァ・サアカス」(1928) 女房とその間男になった友人に逃げられたハンズ。意気消沈している彼のもとを、サアカス団の団長が見世物の主役にスカウトするために訪れる。法外な値段で雇われ舞台に立ったハンズの前に現れたのは――。 (様々な意味で"人間"を描いた短編。その結末に抱く感想は、読者によって多く異なるだろう。) ★ホフマン「古城物語」(1917) 男爵一家の補佐を担う大伯父とわたしは、仕事で男爵の世襲領がある地に向かう。しかしいつも使っている城の部屋が折悪しく使えなくなっていたため、急遽別の部屋に泊まることになる。その晩、私はその部屋で不気味な現象に襲われる――。 (男爵一家の因縁物語を綴ったゴシックホラー。下に恐ろしきは人の妄執か。) | ||||
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「平井翁は視覚的なセンスがはなはだ良くて、英文を読んだとき、頭の中に鮮烈な画像が出来上がっている。それを、永井荷風に弟子入りするくらいの作家の文章力でサラッと表現する。つまり、"英文" から "心の眼" に渡されたイメージを "日本文" に書き表すので、文字を文字に変換しているのではない。」 これは巻末解説に引用された、自身優れた翻訳家・アンソロジストである南條竹則が自作の登場人物に語らせた平井呈一評だが、平井訳文の特徴・魅力を過不足なく語るものとしてこれ以上的確なものはない。 実際、この短編集でも「スコーン」を「焼きせんべい」と訳すような用語の移し替えを平気で行っているし、欧米の言語文化ではほとんどないはずの「繰り返しのオノマトベ」をひんぱんに使っている。ほんの1~2ページの間でも「ガリガリ勉強しだした」「グウグウ寝てしまう」「ジリジリ鳴った」といった具合で、翻訳小説でここまでオノマトベを使いまくる訳者はほとんど例がないと思う。 (余談だが、日本語のような「繰り返しのオノマトベ」はポリネシア言語ぐらいしか使われていないらしい。私たちは年代によらず日常会話で便利に使っているが、欧米どころか中国大陸でもない文化なのだ。つまり、原文で使われているはずがない表現なのである。) 要は学校や翻訳講座などで提出したら落第点間違いなし、というぐらい言語変換の正確さを重視しない、あくまで日本人の言語感覚で受け入れやすい、まるで語り手や登場人物が日本人であるかのような錯覚を覚えさせる文章なのである。 こんなことを書くのは最近はネットや電子書籍で原文に触れることが容易になったこともあり、「逐語的に原文とは違う」というだけで「誤訳」という低評価レビューが溢れてしまうからだ。平井訳も岩波のラフカディオ・ハーン作品などでは用語が古いことと並んで不正確なことを酷評するレビューが出ている。 確かに用語の古さはあると思う。特にこの本に収録されたコッパード『シルヴァ・サアカス』ホフマン『古城物語』などは平井の翻訳者としての駆け出しの頃、戦前の昭和ヒトケタの時代の訳業だから、さすがに若い平井初心者が挑むにはちょっと難物かなと思われる。できれば先行する『幽霊島』や『恐怖』などを先に試されてから、波長が合えばこの本を手に取る方がよいでしょう。 さらに老婆心から付け加えるなら、Kindle版がオススメ。フォントを大きめにして難しい用語はタップすれば国語辞典が呼び出せるので、「言葉の意味がわからない」という事態は軽減できます。 少し脱線しましたが、それくらいの手間をかける価値はあると信じる。 原作自体はM・R・ジェイムズにしてもブラックウッド、コッパード等々人口に膾炙したものばかりだが、平井呈一という「怪奇の語り部」のフィルターを通して西洋怪談の独特の世界を堪能できます。 | ||||
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創元社から出版された平井呈一さんの翻訳物が、 これでほぼすべて復刻されたのではないでしょうか!? 以前「幽霊島」が出版されましたが、 その時に収録されなかった作品(A・ブラックウッド)、 M・R・ジェイムスの作品、 そして、創元社の本ではありませんが「古城物語」が主な収録作品で、 後は、あとがき、作品紹介などのエッセイ類となっています。 M・R・ジェイムズ、A・ブラックウッドの諸作は、世界恐怖小説全種に収録されていた作品で、 私は40年位前、古本屋をあさり全巻揃えて読みました。 後、創元推理文庫で出ていないのは「オトラント城奇譚」などでしょうが、出版されるのかな? 翻訳は少々古臭く感じるかもしれませんが、 格調高く、当時の雰囲気がしのばれ私は好きですね!! | ||||
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M・R・ジェイムズもアルジャーノン・ブラックウッドも大好きな作家。その作品が平井呈一先生の翻訳で今も手に入るとは、本当にすばらしいことです。しかも600ページ以上もあって、よみごたえばつぐんの1冊! しかし、悲しいことに、字が小さすぎて読めません。本当に悲しい。 東京創元社の文庫本に収録されると、どんな名著も読めなくなる。さながら、名著の墓場と呼ぶべきだろう。このような本を読むのはノスタル爺だけなのだから、字が小さければ売れるはずがない。東京創元社はいつまでこんなことを続けるのか。腹が立つ。 | ||||
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