あなたも私も
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鉱山の遺産が若い娘に転がり込む。 と思いきやダイヤモンドや金鉱ではなくウラニウムとは! まず採掘しても精製したり技術がなくては使い物にならないではないか。と、いう山師的な設定ではあるのだが、それ自体がこの小説のいかがわしさ、トリック、ペテンの構造を示して余りある。 創作から二世代以上の歳月に洗われると、ウラニウムから爆弾なり原子力発電なり、あるいはソビエト(もう解体されて一世代になる)や西ドイツや合衆国や…の思惑、さらには端的にペテン師、山師でしかない登場人物のいくたりかといったストーリーよりも、水上サト子というヒロインの無色透明、また凡庸なのだが(すみません)この年代の人間なら身につけていたと思われるはっきりした理非判断、世知、現実をリアルに受け止め、分析する「凡人の正常さ」のキャラクター設定だった。 ・いまの東京ではこれ以上の贅沢はないと思うと出かける気もしない ・無為の生活のなかで、人間がだんだんものぐさくなってく経過が分って面白くもある。 ・あてもなくブラブラしているうちに、以前のような元気がなくなり、どんなことにもきっぱりとした決断を下すことが難しくなった。 ・24の娘の意想のすべてはどれも真実からほど遠いところで霞んでいる。 ・人生の端っこを覗いたばかりなのに、なにもかも知り抜いているみたいにいい気になって差し出るのは止めた方がよろしかろう。 作者は当時の日本がウランの輸出禁止といった法的措置がないこと、ビキニで炸裂したばかりの水爆のエネルギー源がウラニウム238であること(半世紀ぐらい未来にビキニ環礁は負の遺産として世界遺産に認定される)といった科学的・法律的事情をよくよく調べ上げたうえで、そのような複雑怪奇な説明や背景を一切書かず、数人の恋愛模様と敗戦後の喧騒に溢れた人間関係に極限したプレーンな物語を編み上げた。 初めて久生十蘭を読んだ。 一読、深遠な知識と物語構築の計算の上に、凝りに凝って意図的に軽く作られた物語、という印象で、これがかの魔術師の作物か、と思う反面、余りにも超絶技巧すぎて筆者のようなニブイ人間にはその舞台装置の深淵は理解できず、結果的にはライトノベルにも見えたところはあるのだった。 おそらく著者、この感想を聞いても 「まあ、そんなもんでしょう(凡俗には何を言っても仕方ないな、の意」 という感じだろうと思いますけれども。 | ||||
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十蘭先生の作品といえばいままでは河出文庫、岩波文庫であらかた出尽くしていて、でも出版されたらすぐ売り切れになってしまう幻の作品になりつつあります。これがこの度角川から出版されたことには大変意味があります。 内容については、言うまでもないでしょう。「あなたも私も」という、十蘭先生の作品には珍しい長編というか中編です。でもこれもよく見ていくと、短い小説の集まりのように思えて、最後であっさりすべてがわかるような、ハッとするトリックがあります。文章の美しさ、人物の清廉さ、本当に読んでいて気持ちいい。これほどの小説家はあと100年経っても現れないでしょうね。 角川さんGoodJoB!! | ||||
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書き出し、も大切であるが、この物語の“書き入れ”はこうだ。 <ウラニウム爆弾だの、死の灰だの、血なまぐさい話をしたあとでは、この山ノ辺への静けさがなにかありがたくて、サト子は涙を落すところだった。> これが本当の“おしまい”かどうかはよくわからないが、何だか突然パアッとレモン汁だかが飛び散ったようで、妙に納得してしまった。<血なまぐさい話>とは、「自らも知らぬ間に、時価十三億円の鉱業権の相続人に指定されていた!」ことにまつわるエトセトラであるが、ここにもある通り、ヒロイン=サト子にとっては、何ほどのことでもない、いや、むしろこのことじたいは忌避したいことがらであったようだ。 要するに、このたびの顛末は、これら「一攫千金のにおいをかぎつけた実業家や弁護士ら」の有象無象―それは、<三十二枚の歯をそっくりみせて>笑ったり、<どう見てもトニーなにがしの弟子>だったり、<愛してるだの、好きだのということのほか、話題がないみたい>な連中、あるいは、さも<人間のいのちを、いとおしむために、戦争をしてみる必要>があるとでもいわんばかりの人びとの群像劇を目の当たりにする機会であった、にすぎない。もちろん、彼女の生活は貧乏という境遇に規定されていた。<ファッション・モデルという職業も、好きではない。この仕事に適しているとも、考えていない。期待も、希望もない。食べるためだけのために、行きあたりばったりに、漂い流れている感じ…頭のなかがいそがしくて、ひとを愛している暇もない。愛されたいとも、思っていない。><二十四という中途半端な年ごろの、娘の心のなかにある意相のすべては、どれもみな情緒たっぷりで、真実からはほど遠いところで霞んでいる。> それを見透かされて、<あなたの神経衰弱ノイローゼは、生活のなかに、大切なものが足りないせいなの。精神を高めて、生きて行く張りあいを感じさせる、希望といったようなものが…>などと指摘されもする。 貧乏なサト子の望みは、<OSSで缶詰や腸詰を山ほど買いこんで、西荻窪の部屋へ帰って、そんなものに取巻かれながら、二三日、安心してごろっちゃらしていたい>というものだ。「雲の上の散歩」という章で、サト子は、それを叶えてしまう。いや、それ以上の経験をする。<この五日、サト子は広大な洋館の翼屋で、のうのうと暮らしていた。><宙に浮いている感じは、スポンジの寝椅子に寝るときだけではなくて、ここの生活自体が、雲の上の青い天界を散歩しているような、のどかなおもむきがあった。>ところが、<食べる心配がないときまると、あんなにも叫びつづけていた胃袋が急にだまりこんでしまい、思うほど食べものを受付けてくれない>のだ。 貧乏性と言えばそれまでだが、<祖父の死や、神月の自殺や、偽ドルのかかわりあい、質の悪い外国人に国外へ連れだされかけたゴタゴタのあと、麻布の家の夢のような贅沢な生活からほうりだされてから>、サト子は<地道な職業につきたい>と強く願うのだ。これは、周りに流されたくない、強い意思の表明だ。それをお釈迦様のてのひらの上の孫悟空といった体でかかわる秋川という人物もいるが、それはそれ。これは、「あなたも私も」誰もが経験するようなことではないかもしれないが、「あなたも私も」共感してしまう平凡なバランス感覚をもった稀有な冒険譚である。 尚、町田康氏による[解説]にはまったく感心した。以上は、彼の解説の言い換えにしか過ぎない。 | ||||
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いい意味で人を小馬鹿にしたような話。何やら一癖ある人物達が主人公のまわりを蠢き、陰謀めいた不穏な空気がみちる。面白そうなミステリー仕立てで話は進んでいくのに、肝心の主人公はその日暮らしのアプレ世代でまったく活躍せず、状況に流されるだけ。しかも最後は一応ハッピーエンドだが、結局は大きな空騒ぎだったというオチ。それでいて妙な現実感がある。 戦後まもない頃の日本人は、皆こんな感じだったのかもしれない。いろんなものを失い、新しい世界が目の前にひろがっていてもその日を生きるのに精一杯だった。多くの庶民は世界情勢などわからずというより気にかけないで(戦争に懲りた反動で)、ただ状況に流されるままだった。あなたも私も...。 | ||||
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I don't often write reviews about books I've read because I don't feel like I could do a good job, but this is one not to miss if you love a great book. Give it a chance. You'll see what I mean. What I do know is that you will not be able to put this book down. I read so many books that the stories are enjoyed but many are quietly forgotten. | ||||
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