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あれは閃光、ぼくらの心中



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【この小説が収録されている参考書籍】
あれは閃光、ぼくらの心中 (文春文庫)

あれは閃光、ぼくらの心中の評価: 4.78/5点 レビュー 9件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.78pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

中盤までは結構面白く読めたが、「終盤の強引な展開」と「あまり活かされていない重い設定」が足を引っ張っている印象が。

この作者の前作『心が折れた夜のプレイリスト』に関しては、あまりにも奇抜な面が強調されていて個人的には高く評価しなかったのですが、今作に関しては、少なくとも中盤まではしっかりと地に足の着いた物語になっているように感じられました。「全く関係の無さそうな二人が出会って、そこから話が始まっていく」という展開はある種の「ベタさ」を感じられますし、今作の主人公・嶋がもう一人の主人公・弥勒と出会うシーンは明らかに某映画を意識したりしていますが、やはり、読者を分かりやすく引き込むものがあります。

 もちろん、この作者のことですから、陳腐なものになるはずがありません。「ピアニストを目指す道の途中で壁に突き当たり、家出してしまった少年」と「ゴミだらけの部屋に住んでおり、家族に関して後ろ暗い過去を抱えているホスト」という組み合わせは興味深いですし、コミカルで生活感のある描写を交えつつ二人が次第に打ち解けていく展開もなかなか読み応えがあります。中盤以降も、嶋の両親と弥勒自身の手によって二人が引き離されたり、これまでの言動から「弥勒が自殺するかもしれない」と思い至った嶋が再び家出を敢行したり……と、分かりやすくドラマチックに進んでいきます。

 それ以降は、「嶋が弥勒の働いているホストクラブに突入するが彼はおらず、そこにあったピアノで弥勒に届かせるように渾身の力で演奏を行い、満足した嶋は家出を終える。その後、話は10年後へと飛び、そこで『嶋が演奏していた時、実は弥勒は偶然ホストクラブの近くに来ていて、その演奏を聴いて自殺を思い留まった』ということが読者に明かされ、二人は10年ぶりに再会し、物語は幕を閉じる」となるのですが……個人的にはこの展開についていけませんでした。この作者らしい超常的ともとれる凝った描写で飾られているものの、「嶋が弥勒の自殺を直接止める」という分かりやすい展開を無理に避けたせいで生じた不自然な展開を、作者の描写力で強引にまとめたように見える点が否定できません。特に、嶋の演奏シーンについては、感動的に仕立て上げたいのは分かるのですが、「弥勒の姿を確認したわけでもないのに、そんなタイミングでピアノを弾いてどうするの?」と思ってしまい、ある意味、作者との「温度差」というものを感じてしまいました。

 また、「弥勒は自身の『父親』と『姉』の間の子供で、その姉は父親を病気に見せかけて殺した」という過去が中盤で読者に明かされるですが、それが軸になって話が進んでいくわけではないので、そこまで重い設定にしなくても良かったように思えます。その「弥勒の姉」というのも、弥勒の回想の中で重要そうな感じで何度も出てくるのですが、本筋にはほんの少ししか登場せず、10年後の姿も描かれていないので、何だか、同作者の『砕け散るところを見せてあげる』の玻璃のような「メインヒロインになり得るキャラクター」を無理矢理脇役に追いやったように見えてしまいました。

 先程挙げた通り、中盤までは結構面白く読めましたし、凝った描写を興味深く読める点はあるものの、やはり「終盤の強引な展開」と「あまり活かされていない重い設定」が足を引っ張っている印象があり、前作ほどではないにせよ「あまり高く評価できない」というのが正直な感想となります。この作者の小説は色々と目を通してきましたが、「そろそろ読むのはやめようかな」と思わせるような一冊でした(『いいからしばらく黙ってろ!』の続編が出るなら話は別ですが)。
あれは閃光、ぼくらの心中 (文春文庫)Amazon書評・レビュー:あれは閃光、ぼくらの心中 (文春文庫)より
4167918951

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