むすぶと本。 『さいごの本やさん』の長い長い終わり
※以下のグループに登録されています。
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
むすぶと本。 『さいごの本やさん』の長い長い終わりの総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
心和む一冊 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
最後に出された本から本当にまるっと4年ぶりの新刊でした。 地元の本屋さんがこれほどまでに愛されていることはすごく喜ばしいことで、多分誰しもが両親に連れて行ってもらった本屋さんを思い浮かべながら読むことができる一冊です。 お手元にハンカチを用意の上穏やかな気持ちで読んでいただきたいです。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
教育社会学者の舞田敏彦氏によれば1991年に人口10万人あたり62.0軒も存在した書店数は2014年時点では29.8軒にまで減少しているらしい……半分以下である。平成が始まって30年も経たずに日本からは半分以上の「本屋さん」が姿を消してしまったらしい。これはちょっとした衝撃じゃないだろうか? Amazonのレビュアーがこれを言ってはイカンと思うのだが……本屋さんという空間が好きなんである。それも梅田や三宮に店を構えている様な大規模な書店ではなく中高生が学校からの帰りにフラッと寄れるような、狭い店舗にギチッと本や雑誌を詰め込んでいる様な「町の本屋さん」で読書の楽しみを教えて貰った世代としてはこの現状は余りにも寂し過ぎる。 野村美月がこの度発表した「むすぶと本。」シリーズ。単行本サイズの本作はそんな日本から消えつつある業態である「町の本屋さん」を舞台として描かれる一作となっている。 物語は東北のある町に残ったただ一冊の書店「幸本書店」で働くアルバイト、円谷水海が店長である幸本笑門の訃報を知らされる場面から始まる。閉店後脚立に乗って作業していた際に倒れた笑門の死は警察によって事故死として片付けられてしまい、親子3代、69年にわたって続いた幸本書店の歴史も絶たれてしまう事態を迎えてしまう。 水海が中学生の頃には町に5軒もあった書店が幸本書店だけになってしまった状況下で最後の「本屋さん」であった店が無くなってしまった事を嘆く住人の為に一週間だけの閉店セールが開催される事になるが、店に独り残って整理作業を続けていた水海は笑門が亡くなった現場で一人本と話をする奇妙な少年と出会う。 東京からやって来たというその少年・榎木むすぶは笑門から自身の身に不幸が訪れた際に幸本書店に残された本を任せると弁護士を通じて伝えられたらしい。水海はむすぶが本に対して尋ねていた「誰が笑門さんを殺したの?」という言葉が引っ掛かったまま閉店セールを迎えるが…… 驚いた。数年ぶりに野村美月が発表した新作なのだけど、これまでに野村美月が見せてくれなかった世界を見せてくれている。明らかに野村美月という作家がこれまで踏み込んでいなかった新しい領域へと歩を進めた事を証明する、そんな一冊に仕上がっている。「男子三日会わざれば刮目して見よ」とは言うが沈黙していた数年で明らかに作家としての成長を遂げている(野村美月は女流だけれども) 体裁としては東北の小さな町で最後の本屋となってしまった幸本書店が三代目経営者の死で迎えることになった最後の一週間での閉店セールを舞台にした短編連作形式となっている。地域の住民を相手に営業を続けてきた「町の本屋さん」の閉店を知った店の利用者が様々な想いを抱いて幸本書店を訪れる姿を描いている訳だが、これが実に新鮮であった。 舞台が学校という閉じられた空間、基本的に生徒と教師以外には入って来れない狭い、何より均質性の高い社会に限られていないという点。これは既存の野村美月作品との大きな違いだろう。本作も基本的には幸本書店という狭い本屋さんが舞台ではあるのだけど、書店というのは老若男女を問わず本を求める人が集まる場であり、何より70年近い歴史を持つ町の本屋だけあって幸本書店に関わりを持った人々が抱える背景は一つとして同じ所が無い。この登場人物の多様性は間違いなく本作最大の特徴である。 戦後間もない時期に創業したばかりの幸本書店で図鑑を読む楽しさを知り、貧しさを紛らわせていた老いた獣医師。 70年代の終わりに年上の女子高生への憧れを硬派を気取っていたが故に打ち明けられないまま一冊の文庫本を手にした熟年サラリーマン。 東北の田舎町で埋もれる事を嫌い都会への夢を抱いて人気作家に接近したものの、結局は売れないままに過ごしてきた若くない女優。 幼い頃に経験した東北一円を襲った大地震への怯えをコミカルな絵本によって癒し続けて貰った中学生。 各章や挿話で主役を務める幸本書店の「お客様」は見事なまでに送って来た人生の長さも抱えている背景もバラバラである。「主人公補正」なんて物が働かない以上、彼らの人生は社会の理不尽に振り回されていたり、想いや願いを抱えつつも思うに任せないまま過ごし続けて着たりとどちらかと言えば苦味の方がが強いかもしれない。だが、その哀歓こそが市井の人々を描く良さではないだろうか? 特に作中の重要人物である作家・田母神を頼って故郷を捨て、女優になるべく東京に出たアスカがチェーホフの「かもめ」の作中人物ニーナの台詞に被せる様に自分のままならない人生を否定してたまるかと捨てた筈の地元に残って平凡な生き方をする可能性を振り払う場面などその象徴と言っても良いかもしれない。どんな人生にでも「意味」はあり、これが自分の人生なのだと前を向く姿などたった一人の特別扱いされる主人公に頼り切った作品とは決定的に違う部分だろう。 無論ストーリーのメイン部分には物語の発端となる幸本笑門の死と、生前の笑門と交流のあった地元出身の作家・田母神港一が抱え、そして悩み続けたデビュー作のアイデアに纏わる秘密が存在している。だが、そんな田母神もまた田舎町に埋もれる事を嫌い作家として成功し、都会に出る野心を滾らせていた男であった事が明かされる。つまりこの作品で描かれる群像はみなこの東北の小さな町に深い縁を持つ存在であり、彼らを結び付ける場としての幸本書店が、その場を維持し続けてきた幸本書店の三代の経営者たちがどんな役割を果たしてきたか、が群像を通じて野村美月が描こうとした物では無いだろうか? そして野村美月が大きな背景を背負った特別な人物ではなく、社会のどこにでもいる平均的な大きさの、しかしどれ一つとして同じものが無い背景を背負った市井の人々の人生を描ける様になっていた事は大きな驚きであった。こういったスタイルはライトノベルというよりもライト文芸と呼ばれる部類の作品群には屡々見られるけど(美奈川護さんなんかはこの手の市井の人々の描き方が実に巧い)あの野村美月がこういう物を描ける様になっていたとは……雌伏の日々をただ漫然と過ごしていた訳では無かったという何よりの証であろう。 一定以上の年齢の方であればどんな小さな町にも存在し、狭い店舗に「読む楽しみ」をギッシリと詰め込んだ町の本屋さんやそこに集う人々を記憶の底に仕舞っている物と思われる。衰退していく東北地方の小さな町を小規模書店や、あるいは自分が頑なに拘り続ける「紙の本」に重ねているのかも知れないし、それは最早覆す事の出来ない大きな流れなのかも知れない。 だが、大衆向けの出版が普及し人々が「次の一冊」を求めて町の小さな書店にイソイソと足を運んだ日々が確かにあったのだ、という「本屋さんと過ごした幸福な日々」を思い出す上で本作は大きな役割を果たす物かもしれない、そんな一冊。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
田舎の町の立派な本屋さんは三代目の主人も短命で、若くして亡くなってしまいます。それを予期していた三代目は遺言で、知り合いの「本と話ができる」高校一年生榎木むすぶに店の最後を託します。閉店フェアにはこれまでこの書店で自分向けの本に出会い、その本と寄り添うように人生を過ごしてきた人たちが集まります。 全7話で、『ほろびた生き物たちの図鑑』、『野菊の墓』、『かもめ』、『緋文字』、『かいけつゾロリのなぞのうちゅうじん』、『幸福論』、『長い長い郵便屋さんのお話』の7冊(実はもう1冊)を、その本愛した、救われた、あるいは囚われた人と再度結びつけるのは榎木むすぶ。でもあくまでも主役は本と読者です。 物語もエッセイも、生きている読者に作者が声を掛けてくれているものだと思います。実写やアニメの映像作品も、演劇もそうなのでしょうが、一番空想の翼を広げられるのは書籍なのではないでしょうか。そのような書籍はネットでも探せますが、どうしても自分が親しんだ領域のすぐ隣までになってしまいます。自分の全く知らない新しい領域の書籍に出会える本屋さんや図書館はワンダーランドのようです。 東日本大震災での犠牲、難病の辛さ、思い通りの未来を拓けない口惜しさ、生きること自体から来る不安など、作者がこのところ身近で見聞きして共に悩んだんじゃないかと思われることと、小さなころからの本を愛する、本屋を大切に思う気持ちがぶつかって、この作品で溢れ出したんだと思います。 本を読むことが好きな人にはもちろんお薦めですが、平易で読みやすく、流れるような文章ですから、普段はあまり本を読まない人にも薦めたいなあ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
町で最後の本屋の店主が事故死してしまい、閉店することになったときに、あとのことを託されたという少年・むすぶがやってきて閉店フェアを行うなかで、この書店に関わった一人一人の物語が展開されるという話。 このむすぶは「本の声が聞こえる」という能力の持ち主で、ファミ通文庫のほうでも主役をはっています。 ただこの小説では、主役はあくまで書店に関わってきた人々それぞれで、導き手であるものの、サブのような立ち位置です。 ファミ通文庫のほうと比べると、話の作り方とかがやはりむこうはラノベという感じだなとわかります。 閉まるお店と、そこに集まる人々のそれぞれのドラマという設定だけなら珍しくないものの、非常に優しい文章で、そこにきた人々の人生と心を描いて、切なくなったり、温かくなったりします。 小説本編もグッと来るのですが、あとがきの方もグッと来ます。 作者さんとほぼ同年代だからでしょうが、私が子供の時にあった大きな本屋が閉店してしまったり、品揃えがよく、毎日利用していた小さな書店が後継者がいなくて閉店したりと経験していて、本屋がドンドンなくなっていっていることに淋しい思いをしているので、共感してしまいました。 ひょっとしたら本屋がなくて当たり前で物語はwebで読むのが当たり前という人もでてきたら共感できないでしょうが。 私も置場所に困るなどの問題で、かなり電子書籍に移行はしているものの、休日に本屋に行って、沢山並べられた本を眺めて、面白そうなものを見つけて購入したするのはいまだに楽しいですし、本屋という形は存続して欲しいなと思います。 ちなみに、この物語を書籍でも購入したのですが、新刊の匂いとか、竹岡さんの優しい色の表紙にピッタリな手触りなども楽しめました。紙の感触を味わいながらの読書もやはり気持ちいいものです。 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 5件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|