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弁護士ダニエル・ローリンズ



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【この小説が収録されている参考書籍】
弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

弁護士ダニエル・ローリンズの評価: 4.13/5点 レビュー 23件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.13pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全23件 21~23 2/2ページ
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No.3:
(5pt)

ダニエルやテディのどこまでも魅力的な人柄と、まっすぐな正義を求める浪花節的プロットが素敵すぎる!

なんて素敵な小説なんだ? これは読み終わったときの感想でもあり、読んでいる途中の感覚でもある。そう、ミステリーのプロットのみならず、読んでいる時間が充実している小説なのだ。

 軽妙な一人称文体による、ぱっとしない女性刑事弁護士の日常を活写しながら、重厚で手強いテーマへのチャレンジング精神豊かな、骨のある小説なのである。弁護士ヒロインの名前を邦題タイトルにしているので地味な印象を受けるが、映画されても素敵だろうなと思うくらい、ヒロイン以外にも忘れ難く味のある個性派キャラクターが脇を固める。

 騒がしいダニエルの生活基盤に入り込んで来るのは、捨て子で黒人で知的障害を抱える、まさに三重苦の少年テディ。この少年の描写が良い。この少年が生きて読者の傍らにいるんじゃないかと思うくらいに、優れていて、そんな彼の苦境に、きっと母性もあるのだろうな、女性主人公のダニエルは任侠道みたいな救済欲望を激しく感じてしまうのだ。

 ダニエルの境遇は活き活きと描かれる。行きつけのバーの女店主ミッシェル、70代の隣人ベス、秘書のケリー、調査員のウィル。癖がありながらも優しさに包まれた境遇はきっとヒロイン自身の人柄の反映であるのかもしれない。

 しかし、そんなダニエルは孤独にも苛まれる。ふとした浮気が元で離婚され、元夫ステファンは全米ライフル協会を代表するような狩猟マニアのタフ・レディとの再婚を待つばかり。一人息子のジャックともどもハッピーかつゴージャスな生活を送っている。そのジャックはなぜかダニエルに対して以上に優しく大人びて見える。ダニエルは完全な人格どころかアル中一歩手前の破滅的な生活で危ういバランスを取りつつ日々を送っているのだ。

 そのダニエルと事件の渦中にある少年との出会いが本書のすべてである。彼女自身も捨て子という過去から、自分を投影するが、テディはさらに黒人で知的障害である。そして彼はコカイン取引の首謀者として逮捕される。証人は四名。警察も検察も判事もすべてが敵という四面楚歌。

 作品世界はユタ州ソルトレイク。架空の町フーヴァー郡は、かつて犯罪者どもを隔離した町とのことで、州法も及ばないくらい警察や法廷の力が強い。さらに人種、人権などでの差別化を広げようと画策する権力者たちの動きが事件の背後に見えてくるにつれ、本書はリアリティと重さを増す。

 本書の作者は実際にユタ州で刑事弁護士を務め、日々権力と闘い、弱者たちを救うことに命を賭けている当事者であるそうだ。道理でリアリティのあるアメリカの法解釈の病的な問題ににかくも鋭いメスを入れてきたわけだ。

 ダニエルやテディのどこまでも魅力的な人柄と、まっすぐな正義を求める浪花節的プロット、巨悪に立ち向かう心意気。人間と人間が激しく情動を闘わせつつスリリングな展開に終始する熱い一気読み作品。

 最近お気に入りのロバート・ベイリーと言い、今やアメリカン・ミステリ独自の売りどころは、<胸アツ小説>と言って良いのではなかろうか。
弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
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No.2:
(4pt)

ギャンブラーの陪審

「弁護士ダニエル・ローリンズ "A Gambler's Jury"」(ヴィクター・メソス ハヤカワ・ミステリ文庫)を読みました。作者の初めての邦訳だそうですが、コンパクトで、とても手馴れたリーガル小説の秀作だと思います。(作者は、本国では既に50作以上の著作があるそうです。どおりで)
 舞台は、米国、ユタ州。女性刑事弁護士・ダニエルは、バツイチ、アルコホリック、別れた夫・ステファンには未練タラタラ、ストーカー行為も厭いません。尚且つ、一人息子のジャックに対しても深い愛情を注いでいます。
 事件は、人種差別が根強く残る土地で(人種のせいで有罪にしかねない陪審)、白人少年3人から少年・テディが麻薬取引の実行犯と名指しされたことに始まります。そして、テディは、知的障害を持ち、黒人で、尚且つ「少年」であるにも関わらず少年裁判所ではなく、地方裁判所宛訴追されてしまいます。対するは、検察+判事?。果たして、女性弁護士・ダニエルは、少年・テディを救い、無罪評決を勝ち取ることができるのか?(言ってしまっていいのか、最後まで「殺人」が起こることはありません(笑))ストーリーについて語るのは、ここまでだと思います。
 弁護士ダニエルは、血が熱く、感情をぶん回し、己が正義のためであれば、最後まで「権威」を怖がることはありません。破天荒ギリギリのキャラクターのまま、警察、検察、判事と(収監されることも承知の上で)やり合います。脇役たちも輝いていますね。元夫ステファンの現婚約者・ペイトン(私は、ステファンが彼女に惹かれる理由が理解できます(笑))、ダニエルに対して無償の愛を注ぐ調査員・ウィルの存在。
 少年法に人種差別、知的障害者を絡ませながら構築された「事件」はテーマ性が高く、実は、そのことが小さく収束してしまう点が少し不満でもあるわけですが、でも、最後まで物語を楽しめなければ意味がないことも確かだと思います。今回は、楽しめました。事件は、いくつかの伏線を回収してエピローグを迎えます。そして、「弱者」に身を寄せる作者の清潔な視点を思う時、本作が少しでもこの国で売れてくれたらいいなと思います。売れなければ、次はない。
 原題は、「ギャンブラーの陪審」。そんな勝ち目のない事件を背負うのは、ギャンブラーかおバカさんぐらいと言う意味らしい。グッとくるいいタイトルだと思います。
弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
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No.1:
(5pt)

刑事弁護人と「ギャンブラーの陪審」

ものすごく面白いリーガル小説でした。
原題は〈A GAMBLER’S JURY〉なんですが、これは本文でも言及されている〈ギャンブラーの陪審〉という、弁護士のあいだで交わされる俗語のような意味です。
アメリカの「陪審員」制度の、その真の問題点を示す言葉。

たとえば、状況証拠や能力的に十中八九無罪だと確定していている被告人がいたとして、いざ証言台に立つ人物が貧困層の黒人だった場合、陪審員の殆どが白人だと内なる差別感情から有罪にしてしまい、これまでの審理が覆ってしまう状況があるそうです。
それが〈ギャンブラーの陪審〉。
この用語は、そういった判例を受け持つことが、法律家たちにとって一種の「賭け事(リスク)」であるため〈ギャンブラーの陪審〉と呼んでいるのかな?
キャリア重視社会の内幕が垣間見えるような言葉ですね。
本来、この〈ギャンブラーの陪審〉ケースは誰にとっても良い事なしのリスクなのに……それがしばしば発生するのはなぜか?というのがこの物語の裏のテーマです。

若竹七海「葉村晶シリーズ」を手掛けた杉田比呂美さんのカバーは素敵で、コミカルなキャラクターが大勢登場するのですが、テーマ的にはシーラッハの『コリーニ事件』並みに重厚な社会派ミステリーという贅沢な小説ですね。

主人公のダニエル・ローリンズはいわゆる〈刑事弁護人〉です。
そういった職業があるわけではなく、軽犯罪で思いがけない重罪を科せられそうになる被告人を弁護する事の多い弁護士の通称です。日本でも亀石倫子さんの著書『刑事弁護人』などで有名ですね。
亀石さんの著書は国家的陰謀の端緒につながる事件を描いているのですが、ダニエルが扱うのは訴訟大国アメリカで、治安のよくない地方で毎日のように起こる軽犯罪です。
ユタ州のフーヴァー郡。この地域的設定が面白くて、ユタ州は治安の良いことで有名な州なんですが、なぜかフーヴァー郡は治安が悪い。お行儀のよいクラスの中にポツンと1人不良が混じっている感じです。

ご多分にもれずヒスパニックや黒人との軋轢があるのですが、それよりもカッとなって女性を車ではねちゃったオッサンとか、家出してへべれけになってるJKとか、何度もムショにぶちこまれてるのに付き合いでマリファナの移送をやっちゃった老ヤクザとか……「あぁー……」と嘆息がもれるしかない、正直言って人種はあんまり関係ないようなロクデナシたちがダニエルのクライアントです。

そんな日々に舞い込んできたのが、コカイン移送の容疑をかけられた知的障害の17歳の黒人少年、テディの弁護。
テディの知的障害は重度で、どう見ても4,5歳の幼児ほどの知能しかない。それなのにコカインの詰まったバッグを売人に届けた疑いで、「少年犯罪」ではなく「成年犯罪者」として有罪判決を受けようとしている。
色々な映画・ドラマでご存知の通り、アメリカの自由な学校のような刑務所で、テディのような自己防衛できない知的障害の少年が長く生き延びられるわけがありません。
ダニエルは嫌な予感がしながらも義憤にかられて弁護を請け負います。

リーガル小説は厳密には推理小説ではないと思うのですが、最初から不気味な謎が横たわっていて戦慄します。上述の通り、誰が見ても知的障害が明白なテディを、精神鑑定無しで有罪にするのはあり得ない暴挙です。
ではなぜそんな無茶を?
誰がそんなことを望んでいる?
そこに〈ギャンブラーの陪審〉としての疑惑が絡んできます。つまり、テディが黒人であり、このような舞台を用意した者がいるのではないか?というのは物語の骨子ですね。

二転三転していく真相もおもしろいのですが、やっぱりダニエルのキャラクターが痛快ですね。
刑事弁護人という仕事は「どうしてそんなクズの弁護なんかするんだ!」という世間一般の非難を浴びざるを得ない役割です。
しかし、ダニエルが不幸な生い立ちや生来的なタフな性格もあって、あまりそういった人間の善悪に頓着しない部分がものすごく好意的に描かれています。
「法律は常に社会的弱者を叩きつぶすために存在する」というのが彼女の心情で、リーガル小説になれてない読者には「あれ?逆じゃないの?」と意外に思う事でしょう。
でも、そうなんですよねぇ。

これぞハードボイルド。
女性を主人公にしたハードボイルドはたくさんあるのですが、ちょっとユーモアがなさすぎですね。
ダニエルはドン・ウィンズロウ『ストリートキッズ』の「ニール・ケアリー」や、デイヴィッド・ハンドラー『笑いながら死んだ男』の「ホーギー」のような、センスの良いジョークやアイロニーを常に忘れず、タフで前向きで健全なのに悲観的で繊細な神経を持ち、不幸な身の上の人々から付かず離れず節度を守ってスジを通す〈本物のハードボイルド探偵〉の系譜を継ぐキャラクターです。

たちはだかるのはホワイトカラーでありながらソシオパスな人々。人間社会にはやむにやまれぬ事情があるのだということをまるで解すことのできない、精神的サディストたちです。彼らはFBIのプロファイリングに登場する犯人ような貧困と暴力の生んだ犯罪者ではなく、十分に練り込まれた絶大なる権力でもって犯罪を起こします。
その被害者数は連続殺人鬼の比ではありません。

今こそ必要なヒーローですね。
今こそ読むべき物語をどうぞ。
弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)Amazon書評・レビュー:弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)より
4151840516

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