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ただの眠りを



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【この小説が収録されている参考書籍】
ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)

ただの眠りをの評価: 4.50/5点 レビュー 4件。 -ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.50pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全4件 1~4 1/1ページ
No.4:
(4pt)

切なくも誇り高く足掻く老人の姿

かつてのハードボイルドヒーローが老人になっているではないか!お金にも、女性にも、枯れ切ってはいないが生々しくもない揺らぎが全編をとおして切ない。
謎解きはオーソドックスな展開で目新しさや一気読み系の展開ではないが、小説として心に染みる、もう一度頭から読みたいと感じる読後感です。
ありがちなスーパーおじいさんではなく、足掻きながらも誇りや矜持と孤独と共に生きるマーロウはやっぱりカッコいいですよ!そしてメキシコに行きたくなります。
ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)Amazon書評・レビュー:ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)より
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No.3:
(4pt)

老マーローとの不思議なる再会篇

いつまでも語り継がれ、愛される私立探偵フィリップ・マーロー。またの名をハードボイルドの代名詞。卑しき街をゆく騎士道精神。作者チャンドラー亡き後、遺構を引き継いだロバート・B・パーカーの二作『プードル・スプリングス物語』、『夢を見るかもしれない(文庫版で『おそらくは夢を』と改題)』、ベンジャミン・ブラックによる『長いお別れ』の続編『黒い瞳のブロンド』。そこまではマーローを如何に復活させるかを意図して書かれたもの。しかし本書は少し違う。

 老いたマーローの活躍をえがく本書では、マーローは72歳。足を悪くし、杖を突く。一線から身を引いてメキシコに隠遁していたが、保険会社から詐欺の疑いのある事故死を調査するよう依頼を打診され、それを受ける。全編メキシコ沿岸を舞台としており、同じ青空と太陽の光の中に生きるマーローとは言え、それはあの洒落た大都会ロス・アンジェルスではないのだ。

 ぼくが最初にマーローと出くわしたのは『大いなる眠り』。映画ではロバート・ミッチャムがマーローを演じ、キャデラックか何かを運転して、豪邸のファサードに向けて広い車回しを走るシーンが、小説とともに印象的だ。何故かハードボイルドに不可欠な存在としてぼくのイメージは<郊外の豪邸>がある。そしてそれは富と権力を誇るとともに大いなる秘密までが内包されているように見える。

 本書でも避暑地やマリーナ、ビーチ、といった陽光に包まれた大西洋沿岸のリゾート、今にも噴火しそうな火山と火山礫に覆われた山麓、多種多様のサボテンの群れが夕陽を遮る広大なメキシコの砂漠、などふんだんに舞台が変わる。老マーロウは車で、バスで荒野をゆくのだ。

 ハードボイルドに欠かすことのできない悪女は、これ以上ないほどに美しく魅力的で、多面的な様相を見せて探偵を惑わすし、怪しげな死体、その周辺をうろつく残忍な殺し屋、といったところも抑えている。

 何よりもマーロウの主観たる一人称が切り取る風景や人々の模様は、ハードボイルド文体でなければ表現のしようのない緻密と繊細に飾られ、レトリックの王道をゆく様々な作家たちの表情までが想起されるほどである。熱い太陽と砂の中で沸騰する血をそのままに、老探偵がおそらく人生で最後に引き受けたと思われる謎に挑んでゆく。

 ジン・ライム片手に「カンパイ」と日本語で言うシーンや、映画『座頭市』からの着想で用意している仕込み杖も活躍の場を求めてうずく、そんな日本贔屓も観られるのがこの作品。作者は世界を放浪し現在はバンコク在住の英国人、とあって、オリエンタルなものへの造詣が深い辺り、個性を出してきたとも思われる。

 老いた釣り人とウィスキーを傾け合うシーンに何とも言えない大人テイストを感じる。今は失われてしまった抑制の利いた文体によって物語られる世界に乾杯! 最後のページにじんと来る人は少なくなかろうと思われる。
ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)Amazon書評・レビュー:ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)より
4150019517
No.2:
(5pt)

大いなる眠りにつく前に

1984年、メキシコ。72歳になったフィリップ・マーロウは家政婦と拾ってきた野良犬と一緒に住んでいた。探偵の看板を外したわけではないが、引退に等しい暮らしだった。そんなマーロウに、生命保険会社から仕事の依頼が来る。事故死した男の保険金を払い込む前に、事実関係を洗って欲しいという依頼だった。
マーロウは(もちろん)仕事を引き受ける。そして、以前のように、自ら危ない橋を渡り、待ち受ける危険の渦中へ杖をつきながら乗り込んでいく。
フィリップ・マーロウのストーリーを、チャンドラー亡き後に何人かの作家が書いたが、どれもいまひとつだと感じていた。だが、この小説の中には、たしかにマーロウがいた。犯罪のにおいを嗅ぎつけ、気になる女の後を追う。理性よりも好奇心にまかせて進む無鉄砲な行動。少なめになったとは言え、相変わらず気の利いた言葉を吐く。拳銃の代わりに仕込み杖を相棒に、一人で悪党どもに立ち向かう。
欧米の小説によくあるように、神の視座によって、ときどき物語を俯瞰することなく、主人公の主観カメラを通して読者は旅をすることになる。ハードボイルド小説の楽しさはこれだったなと、久しぶりに実感した。それはわたしたちの人生の旅とよく似ている。ハードボイルド小説翻訳の大家、田口俊樹氏の訳文によって、大いなる眠りにつく前のマーロウと再び出会うことができた。
ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)Amazon書評・レビュー:ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)より
4150019517
No.1:
(5pt)

警官にさよならを言う方法はまだ見つかっていない

私は、ボストンの"Harvest"でスペンサーとホークがスーザンが来るのを待ちあぐねている姿を今でも信じていますが(笑)、ロバート・B・パーカーがチャンドラーの遺稿を書き継いだ「プードル・スプリングス物語」、"The Big Sleep"の続編?「おそらくは夢を」には感心できませんでした。

 「ただの眠りを "Only To Sleep"」(ローレンス・オズボーン 早川書房)を読みました。時は、レーガン時代。舞台は、メキシコ。72歳の引退した私立探偵、フィリップ・マーロウは、ドナルドという保険契約者がメキシコの海岸で水死し、多額の保険金が支払われているものの、<何せメキシコなので>(笑)、その事故の詳細を調査してほしいと保険会社から依頼されます。マーロウは、小金欲しさと退屈しのぎのためにこの依頼を引き受けることになります。
 いつものようにストーリーの詳細を語るつもりはありませんが、特に前半はこれといったことは起きません。そう、「プレイバック」と同じように。杖を持ち、老境にあるかつての「卑しい街をゆく白馬の騎士」マーロウは少しノスタルジーを感じながら、その事件を追ってメキシコの街をゆっくりと尋ね歩きます。(メキシコの街々は、ドン・ウィンズロウで知っているメキシコではなく、アステカ文明が残る土地、ハバネロとテキーラの酩酊感が残る中、そんな場所にあるのかと思えるようなホテルと「酒場(カンティナ)」へと読者はマーロウと共に「ある人」を追って巡り歩くことになります。)その呆けるようなメキシコの土地、背景、風景描写、風俗を読んでいるだけで、ページを捲る手が止まらなくなると思います。
 そして、酒場のカウンターには既に早すぎも遅過ぎもしない「ギムレット」が置かれています。

 溺死したはずの不動産業者。その美しい妻ドロレスが登場して以降、この物語の主人公がたとえマーロウではなかったとしてもそのエレガントな物語の道筋を本当にうっとりと読み進めることができると思います。私立探偵小説の「香気」にむせびつつ、高潔であること、いつの世も変わらない女性たち、そして「老いる」ということを思いながら、マーロウは杖を抜き?、ハンモックに漂い、アイロンがけをし、ワルツを踊り、痩せ我慢を見抜かれながら「サンタ・ムエルテ」に導かれるようにしてメキシコ・シティ、テペヤクの丘、「グアダルーペの聖母」の下へと辿り着くことになります。
 事件は事故の詳細を探るという目的があったはずですが、いつかしらその物語は、何故マーロウがこの事件を追い続けるのかというWhy-do-itへと振り替わります。その理由こそが、<既に私にはないものを持っている>若き世代には到底持ち得ない「貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)」と礼儀正しさを感じさせて心が、そして唇の震えが抑えられなくなると思います。

 エピローグ、事件のはじめに出会ったエル・セントロの刑事・ボンホッファーともう一度会い、マーロウは少しだけ事件を説明することになります。
 そう、
 「そのあと、事件に関係した人間には誰にも会っていない。警官は別だ。警官にさよならを言う方法はまだ見つかっていない」(訳:村上春樹)
ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)Amazon書評・レビュー:ただの眠りを (ハヤカワ・ミステリ)より
4150019517

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