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(短編集)
風に舞いあがるビニールシート
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風に舞いあがるビニールシートの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.10pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全93件 81~93 5/5ページ
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六篇の短編集のうち、注目される表題作は、短編でありながら、 長編に匹敵する様な、深い内容を凝縮している様に感じる。 それは、人間の生きる権利といった、根元的な問題から、 里佳の微妙な精神の揺れまでを鮮やかに描ききっている。 作品の骨格が強固なので、著者は読者心理を巧みに誘導する。 読者は、平和ボケした里佳が、頑なに現地派遣を拒むのなら、 最初からこういう会社の門をたたかなければ良いのにと思わされる。 しかし、エドの壮絶な生き様が、里佳を変える。 戦時と平時とでは、人間の心身の機能のレベルは全く異なる。 エドの肉体は、劣化した里佳の心身を賦活したと言える。 これらを著者は、計算し尽くされた文章により、 閃光を放つが如く、緻密に表現している。 これは直木賞にふさわしい作品だが、 著者の今後にも期待させられる。 | ||||
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美濃焼の瀬戸黒の黒。薄暗い店内。仄暗い廊下。漆黒の夜。前歯についたイカ墨の黒まで。 なんだかやけに黒が目に付いた。主人公達が、誰かのために、何かのために、黒子として生きる人々だからか。 そもそも人生は得も損も落ちていない不毛な荒野をひた歩くようなものであり、勝ち組だとか負け犬だとかそんな世間のカテゴライズを主人公達は踏み越えていく。 過去を振り返り、未来へ一歩を踏み出す力強さを描くところが、この作者らしいのかもしれない。踏み出す力は、すべて出会いから与えられる。どこからか差し込む光がある。 表題作は、男女の物語として読んでも苦しくなるほど切なくてよかったが、喪の悲しみを乗り越える瞬間の輝きが印象的だった。 | ||||
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50頁前後の6つの中篇から成り立つ本書。本音を言えば、それぞれに結構気になる箇所はある。言い回しがやたら薀蓄くさかったり(←私は個人的にこれが気に障る)、主人公の仕事の選び方に説得力がなかったり。でもね、ラストがいいんだ、6つとも。主人公の思考や生き方に共感できるかどうかは別にして、とても前向きな感じで読んでて気持ちいいです。あと、盛り上げの技術もなかなかのものです。 | ||||
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本書は、6つのそれぞれ独立した短編を集めたものである。どれ一つをとっても、十分に長編に育てられる充実した世界を背景に持ったものを、きりっとしまった短編に仕上げてあるのだから、実に贅沢な本と言える。帯に書かれた惹句に曰く「自分だけの価値観を守って、 お金よりも大事なものを持って生きている――。あたたかくて強くて、生きる力を与えてくれる、森絵都の短編世界。」多分、担当編集者の書いた文であろうが、作者の作品のポイントを見事に捉えたよい惹句である。 巻末に置かれた、表題作は、作者としてかなり苦労して書いたらしく、参考資料のほとんどはそれで埋まっている。その辺が表題に選んだ理由なのだろう。しかし、主人公が周りの理解に支えられて頑張るのであって、主人公自身の強さはあまり出ていなくて、私は高く評価しない。 それよりも、冒頭に置かれた「器を探して」の方が、一見受け身のようでいて、その実周りの人間を引っ張っている主人公の強さが出ていて好きである。担当さんも同じ意見らしく、帯に引用されている文章はこっちの作品の方である。 この作者、「アンパンマン」のシナリオライターから出発して、最初は児童文学一筋だったが、近年急速に非ジュブナイル作品も書くようになった。今後が期待される。 | ||||
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森絵都さんの直木賞受賞作。 ある者は難民救済。 ある者は草野球。 6人の主人公達は 他人から見ればちっぽけにしか見えないかもしれないけど、 かけがえのない大切なものを持っている。 それに対して、それぞれ譲れない確固としたプライドも持っている。 他人がその重みの大小を決めることはできない。 その重さは本人だけが決めるのだから。 その価値は自分にしかわからなくても、 お金よりも大事なものを持っている人の強みを見せ付けられました。 個人的には私と同性であり、日常を感じさせる 「器を探して」「犬の散歩」の二人の女性に 最も感情移入できました。 それにしても森絵都さん、 どんどん一般文学らしいテーマを描くようになってますね。 個人的には「永遠の出口」くらいの 瑞々しさがあった方が好みなのですが、 間口の広い作家になっていくのが手に取るようにわかるので これからも楽しみです。 | ||||
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六つの短編集。「器を探して」「犬の散歩」は、そこそこに、「守護神」ぐらいでおもしろいかもと思い始め、「鐘の音」のラストで「ほぉ、そうきたか」と思う。(このあたりまでの感じ方には個人差があるかもしれない)そして「ジェネレーションX」で、さわやか且つ優しい気持ちになり、「風に舞いあがるビニールシート」でドカーンとやられる。 「風に・・・」は、東京の国連難民高等弁務官事務所で働く女性が主人公。基本的に回想で語られる主人公の元・夫エドの姿と人生がリアル。こういう人生を歩んでいる人って、世界中に結構いるのではないだろうか。 そして表題の「風に舞いあがるビニールシート」の意味・・・。「感動」という言葉とはまた別種の感情の揺らぎ(動揺)を与えられる。 | ||||
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洋菓子作りの才能だけでなく、容姿でも注目を浴びるヒロミと、彼女の作る菓子に魅せられ、ショップ経営から雑用までこなす弥生。恋人の高典からから大切な話があると言われたクリスマスイブの朝、弥生はヒロミから用を言いつけられる。新作のプディングに合う美濃焼を現地に行って調達して来いというのだが…。果たしてこれはヒロミの嫌がらせなのか…高典の機嫌の悪い声を電話越しに聞きながら、弥生は後ろ髪を引かれる思いで新幹線に乗り込んだ。(「器をさがして」ほか5編) ついにやった〜♪待ってました!直木賞です。6編とも主人公も置かれた状況も全く違うのだけど、どれも心をきゅっと締め付けられるような内容で短編ながらも重厚で読み応えのある作品でした。 表題作「風に舞いあがるビニールシート」は不覚にも主人公の気持ちに共鳴してしまい、切なくて苦しくて…でも読後は不思議と元気が出てきます。 YA小説もいけれど、こんな風に大人が楽しめる本を書いてもらえるとうれしい♪やっぱりいいなぁ〜森絵都はいい。一生懸命、誠実に、自分の気持ちも大切な人への思いも大事にし続けたら、人はどんな状況でも決して悪いようにはならないのだと勇気をもらいました。 | ||||
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自分だけはまっとうに生きて、何かをつかむんだときっと思っているのだろうけれども、人生って、やはりあっという間に過ぎていく走馬灯のようなもので、そんなに完璧な人生なんて所詮ないもので、でも、もがきながらみんな何かを探しているのだろう。 「犬の散歩」は、なんかいいよなと思いました。義理の父母が最後にビビを引き取るところとか、ドンペリの代わりに餌代にとお金をおいていく常連客や、なかなかいいよこの話。 「ジェネレーションX」は、ありそうでなさそうな、そうだな大人になっても、純真な心を持ち続けられる人って、ある面、成功者なんだと思う。「風に舞い上がるビニールシート」には、号泣してしまいました。愛をもらえなかった男が、妻を愛しているのに心からさらけだすことができず、風に舞い上がるビニールシートのような人生をおくらなければならない人達のために自分の人生を犠牲にするような選択を選ぶ。どこかでわかっていたような・・・そうなのです。 普通の家庭に育たなかった人には、普通の家庭の暖かさが時として、居心地の悪いものでどこかに逃げ場所を作るものなのだと。 | ||||
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このほど直木賞を受賞した短編集です。表題作を含め六編の、どれも素晴らしい粒よりの短編集です。 「器を探して」「犬の散歩」の二編は、女性が自分のもやもやとした人生に対して、ある吹っ切りをして自己をしっかりと掴んで、新たな歩みを始める物語です。 前の二編はやわらかさの中に描かれていますが、それを更に突き詰めて、個人の幸せと世界の幸せを対決させて、主人公の女性に大いなる一歩を踏み出させる作品が、表題作の「風に舞いあがるビニールシート」です。この難民たちの「風前の灯」のような人生を著わす言葉が、何度も登場しますが、元夫の死の様子を聞いた時、本当の意味でこの言葉の意味を理解し決断をしたのだろうと思います。 私が男だからなのか、ミステリー好きだからかは解りませんが、この表題作以上に気に入ったのが、仏像の修復師を主人公にした「鐘の音」です。タイトル自身の捻りも気に入ったのですが、とにかく主人公の心理描写が素晴らしくぐんぐん引き込まれましたし、そこにあった「謎」が氷解し意外な形を見せるミステリー風の終わり方も気に入りました。 「守護神」もややミステリー風の展開で面白いですし、「ジェネレーションX」も軽妙で楽しい作品でした。 いずれにしても大満足の一冊で、私としては今年120冊近く読んだ中で、BEST1の本でした。 | ||||
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この本の帯には「大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語」と書かれていますが、そのことば通り、この本には、様々な価値観を抱えた人たちが登場します。 有名パティシエの専属秘書として働く女性、行き場のない犬たちを預かるボランティアをしながらスナックで働く主婦、フリーターをしながら大学に通う男性、仏師を目指していたが、あきらめて仏像修復師を目指そうとした男性、団塊の世代を疎み、若い世代にも大きなギャップを感じている男性、国連難民高等弁務官事務所で働きながら、元夫の死を悲しんでいる女性。 立場は様々ですが、彼らの中には、誰かと出会うことによって、あるいは何かの事件によって価値観を変えていく人もいます。また、自分の価値観を見出せずに悶々としていたり、自分の価値観と周りの価値観のギャップに苦しんでいたりしている人もいます。違う価値観をもつ人どうしがぶつかったり、相手をうらやましく思ったりする場面も出てきます。まさに、現代社会の縮図です。 昨今、「勝ち組」とか「負け組」などのことばをよく見かけますが、この本では「どの価値観が良くて、どの価値観が悪い」という類のことは述べられていません。一貫して描かれているのは、「自分の価値観に従って生きることによって幸せを感じている人たちの姿」です。 「自分にとっての幸せ」と「他人にとっての幸せ」が同じとはかぎらない。だからといって、下手に相手に迎合したり、逆に自分の価値観を相手に押しつけたりする必要もない。 当たり前のことかもしれませんが、私はこの本から、改めてそのことを教わりました。 | ||||
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はじめにあったのは、正直、座りの悪さだった。短篇集ならばもう少しテーマやトーンを揃えてもいいのではないか。直木賞を意識して近作を集めて刊行という出版社の思惑が透けて見える気さえした。けれど「守護神」を読み終えて楽しくなり、「鐘の音」でまた違う色合いの世界を覗かせられ、作品集に統一感を求めるのは、そうした収まりのいい本に慣れすぎていたためかも、と思い直した。そして「ジェネレーションX」で爽快感を味わった後、表題作でいきなり横面を張られた気分になった。構えが外されていた分、死と隣り合わせの難民に関わる物語の衝撃波は強かったのだ。 森さんは難民や死を、その渦中からではなく、すぐ近くに居場所を得ながらも踏み込めずにいる人の目線で書き出した。二重三重の意味で宙ぶらりんな主人公が、複数の葛藤を抱えて苦しむ様が痛かった。もしかしたら、あくまで作家で当事者ではない森さんが、この苛烈な世界を内側から書くことを敢えて控えた「わきまえ」の産物であるのかもしれない。と、これまた勝手な想像をしたりしたが、ともかくこの設定に、非日常を日常にひきつける引力があった。 読了後、森さんは現在進行形で「挑む人」なのだ、と思った。だからどこかはみ出す。そういえば、森さんの本の惹句や紹介文はいまひとつピンと来ない場合がある。それもはみ出し現象ゆえか。本書の新刊案内の文章には「市井で懸命に生きる人を描く六篇」とある。確かにそうだが・・・表題作の迫力は伝わるだろうか?(『DIVE!!』も「森絵都、初の『スポ根』小説」で、?と思ったものだ) 他の作品も、表題作ほどでないにせよ懸命になるあまり突き抜けてしまった人たちの話だ。それは森さんの姿とも重なる。なのに、森さんにお行儀のいい本を求めていた自分を恥じた。森さんがどこへ向かうか、まだ誰にもわからないと思う。 | ||||
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6編から成る。きちんと人生に対して向き合い、挑戦している確かな人たちの足取りを描いている。人気パティシエのマネージャーの話から始まり、ホステス、社会人大学生と、それぞれひとひねりあるものの、比較的地味な話が続く。へえ、正統派に近い作品も書くんだな、と思っていると、「鐘の音」で、仏像修復師なんていう奇抜な世界が用意されている。この作品は、オチが少々鼻につくが、それ以外は迫力がある。「ジェネレーションX」は、うまい。ラストの余韻もいい。 ところが、最後の「風に舞いあがるビニールシート」が、もう感動作品なのである。国連難民高等弁務官事務所が舞台だ。重い。でも胸にこたえる。まいった。 この作家自身も、色んな世界に挑戦する気概のある人だ。 | ||||
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表題作を除けば、決して当事者以外にとっての大事件は起こらない。仏像の復元職人、有名パティシエの秘書など新奇な立場の人物は登場するが、どこか山本周五郎や藤沢周平の時代小説を彷彿とさせる淡彩だが深い味わいの短編集。著者の昔からの愛読者は驚かれるかもしれないが、間違いなく本書で著者は本年度の賞レースの主役となるだろう。 | ||||
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