それまでの明日
評判
それまでの明日の評価:
3.69/5点 レビュー 91件。 C ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全64件 61〜64 4/4ページ
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そもそも本家チャンドラーが読者の好みで毀誉褒貶が分かれる作家ですが、著者は一歩間違えば単なる悪趣味になりかねない、気取りと諧謔と怜悧さと若干の感興をブレンドした一人称の文体を全面に押し出し、都会の喧騒から抽出された事件達を探偵に絡ませ、やがて再び一人になる孤高の探偵の姿を描き出して、中毒性の高い読み物を作り上げました。著者がかくも遅筆で読者を焦らせてきたのは、独自の美学を妥協なく貫徹するため、文章表現やプロット、著者の心眼たる探偵の立ち位置を、一ミリの狂いもなく満足のいくまで、ひとえに推敲し尽くしてきたからだと思料します。
新作に邂逅した喜びはさておき、本作においてもトレードマークの原節が健在であるかが最大の関心事でしたが。読後感としては、構成が過去作品に比べて捻りが少なく若干御都合的で、本のボリュームは以前と変わらないものの、紆余曲折が乏しいだけにスラっと読め過ぎ、巧緻なプロットで事件の様相を万華鏡のように変化させて読者を瞞着した過去作品のような緊迫感は味わえませんでした。冒頭登場した「紳士」のような依頼人をどう絡ませるかが謎を魅力的にする成否のポイントだったと思いますが、蓋を開けると当該人物の依頼の動機はメロドラマ的で他愛なく、拍子抜けします。また従来のような緊密なプロットに守られていない分、沢崎探偵の言動がやや戯画的に見えてしまったという印象も持ちました。やはり精妙な構成があってこそ沢崎のキャラクターが成立するのだと実感します。
気になったのは、強盗未遂事件から姿を現す青年の存在です。この青年に対して沢崎は最初から好意を見せており、2人が意気投合している雰囲気が最後まで続きます。過去には沢崎は全ての関係者と頑なに距離を置いており、ここまで感情移入した相手はなかったと思うので、読んでいて何だか居心地の悪い気分になりました。さしもの沢崎も年を重ねて軟化したということでしょうか?軟化と言えば御馴染みの錦織警部とのやり取りも、ややルパンと銭形警部化した感じでした。
ドイルは一旦殺したホームズを読者の熱望により、仕方なくライヘンバッハの滝から復活させましたが、その後のホームズが以前と違うと苦情を述べた読者がいたとか。著者がかくも長き不在から沢崎を復帰させたのは、決して自身の意に反しての出来事でなく、必ずや新たな沢崎像を造形するべく心中期するものがあったと思いますので、期待を込めて今後の成り行きを見守るしかないのでしょう。ファンとしては、アナクロニズムまがいであっても古風な優雅さを纏った著者の世界の中で、いつまでも鋭く輝き続ける沢崎の姿を再び見たいと願っています。
(キンドル版、せめて章別の目次くらい付けてください。読みにくくて仕方ないです。)