密やかな結晶

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評判

密やかな結晶の評価:

3.94/5点 レビュー 77件。 A ランク

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平均点3.94pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全112件 1〜20 1/6ページ
No.112
(5pt)

胸に迫る作品

古びない名作。本当に素晴らしい。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.111
(4pt)

誤植が残念

講談社にも連絡済みで次回重版で正しい表記に変更されるそうですが、Amazonで購入した2022年3月30日第7刷62頁の後ろから4行目に「瓜切り」とあり、文脈的に「爪切り」だと思う誤植が残念でした。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.110
(4pt)

消えることのないもの

相変わらず静かな物語
消失を書くことによって
消えゆくことのない結晶を
明らかにしたのだと思う
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.109
(5pt)

胸に迫る作品

古びない名作。本当に素晴らしい。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.108
(4pt)

誤植が残念

講談社にも連絡済みで次回重版で正しい表記に変更されるそうですが、Amazonで購入した2022年3月30日第7刷62頁の後ろから4行目に「瓜切り」とあり、文脈的に「爪切り」だと思う誤植が残念でした。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.107
(4pt)

消えることのないもの

相変わらず静かな物語
消失を書くことによって
消えゆくことのない結晶を
明らかにしたのだと思う
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.106
(4pt)

官能と倒錯の密やかな結晶

物とそれにまつわる記憶がすこしずつ消失していく島に暮らす語り手=小説家が、記憶を保持する少数派の存在である編集者を自宅に匿い、記憶を保持する者を狩る秘密警察から守ろうとする……という筋書きである。すこしずつ何かが喪われていくという世界観自体、ある種甘美な響きがあり、淡々と喪失を受け入れながらも編集者の世話を甲斐甲斐しくする小説家の姿には、純愛に似た感動をもたらすかもしれない。だが、この小説はそれにとどまらない。
そもそも小説家と編集者の関係はすこしおかしい。独身女性である小説家は編集者にたいして敬語で接し、まもなく子供が生まれる妻帯者の編集者は小説家にたいして余裕のあるタメ口で接する。ここに非対称関係があるうえ、小説家はどうやら編集者に恋愛感情をもっているらしいということも早い段階でわかる。そのような存在である編集者を、小説家はいかにも献身的な素振りで自宅に匿うのだが、これはかならずしも純粋に無私の行為であるとはいえず、編集者を妻子から引き離し「監禁」するものとしても読める。事実、編集者を「飼育」に近いかたちで世話をしながら、主導権の多くは自身にあるにもかかわらず脆く弱い存在として編集者に頼り、小説家は情愛を深めていく。ここに男女の力の非対称性を逆転する、倒錯的な性愛を見出すことができる。
いわば小説家は「信頼できない語り手」の一種であり、彼女が編集者を保護するのは献身なのか欲望なのかじつは曖昧であるというのが、この物語のキモでもあるだろう。そもそも世界から消えていくもののリストがおかしいのだ。エメラルドに香水に、ハーモニカにラムネに乗車券に、鳥に写真にカレンダーに……とそれは、いかにも「少女趣味的」な対象であり、そのリストにけっして水虫や梅毒や白血病や、トコジラミやバクテリアや性具や鼻糞が入り込む余地はない。あたかも世界が消失する対象を意図的に選んでいるかのようで、それは語り手=小説家の趣味にいかにも近く、この語り手がどこまで正直に語っているのか読者には判断がつかない。
さらに、小説家が書き進めている小説内小説の筋書きともシンクロする。小説内小説では本筋の物語とは逆に(というかオーソドックスに)、タイピングの教師である男が受講生である女をしだいにコントロールし、声を奪い、ある部屋に監禁して支配するというものだ。これが反転したかたちで、本筋の小説家(支配する側)と編集者(支配される側)の関係性を形作っているともいえる。
小説内小説では最後、声を奪われた女は支配された末に監禁部屋のなかで存在を消すが、本筋の物語では、支配されていた男(編集者)が、声だけ残された支配者である女(小説家)から解放されて、女の肉体をさまざまな物品とともに残したまま監禁部屋から外に出る。谷崎潤一郎『刺青』のように、支配する側がいつのまにか支配される側に転化するようなフェティシズムをここに感じることもできるだろう(足にたいするこだわりも谷崎を思わせる)。だが、あくまでも一見、非力である女が、潜在的に男を閉じこめ、支配し、愛でたすえに、肉体を失いながら男に記憶のコレクションのひとつとして部屋に取り残されるという点に、谷崎にはない、性愛のあらたな展開がある。『密やかな結晶』をたんなる美しいディストピア小説で終わらせない魅力はここにある。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.105
(4pt)

官能と倒錯の密やかな結晶

物とそれにまつわる記憶がすこしずつ消失していく島に暮らす語り手=小説家が、記憶を保持する少数派の存在である編集者を自宅に匿い、記憶を保持する者を狩る秘密警察から守ろうとする……という筋書きである。すこしずつ何かが喪われていくという世界観自体、ある種甘美な響きがあり、淡々と喪失を受け入れながらも編集者の世話を甲斐甲斐しくする小説家の姿には、純愛に似た感動をもたらすかもしれない。だが、この小説はそれにとどまらない。
そもそも小説家と編集者の関係はすこしおかしい。独身女性である小説家は編集者にたいして敬語で接し、まもなく子供が生まれる妻帯者の編集者は小説家にたいして余裕のあるタメ口で接する。ここに非対称関係があるうえ、小説家はどうやら編集者に恋愛感情をもっているらしいということも早い段階でわかる。そのような存在である編集者を、小説家はいかにも献身的な素振りで自宅に匿うのだが、これはかならずしも純粋に無私の行為であるとはいえず、編集者を妻子から引き離し「監禁」するものとしても読める。事実、編集者を「飼育」に近いかたちで世話をしながら、主導権の多くは自身にあるにもかかわらず脆く弱い存在として編集者に頼り、小説家は情愛を深めていく。ここに男女の力の非対称性を逆転する、倒錯的な性愛を見出すことができる。
いわば小説家は「信頼できない語り手」の一種であり、彼女が編集者を保護するのは献身なのか欲望なのかじつは曖昧であるというのが、この物語のキモでもあるだろう。そもそも世界から消えていくもののリストがおかしいのだ。エメラルドに香水に、ハーモニカにラムネに乗車券に、鳥に写真にカレンダーに……とそれは、いかにも「少女趣味的」な対象であり、そのリストにけっして水虫や梅毒や白血病や、トコジラミやバクテリアや性具や鼻糞が入り込む余地はない。あたかも世界が消失する対象を意図的に選んでいるかのようで、それは語り手=小説家の趣味にいかにも近く、この語り手がどこまで正直に語っているのか読者には判断がつかない。
さらに、小説家が書き進めている小説内小説の筋書きともシンクロする。小説内小説では本筋の物語とは逆に(というかオーソドックスに)、タイピングの教師である男が受講生である女をしだいにコントロールし、声を奪い、ある部屋に監禁して支配するというものだ。これが反転したかたちで、本筋の小説家(支配する側)と編集者(支配される側)の関係性を形作っているともいえる。
小説内小説では最後、声を奪われた女は支配された末に監禁部屋のなかで存在を消すが、本筋の物語では、支配されていた男(編集者)が、声だけ残された支配者である女(小説家)から解放されて、女の肉体をさまざまな物品とともに残したまま監禁部屋から外に出る。谷崎潤一郎『刺青』のように、支配する側がいつのまにか支配される側に転化するようなフェティシズムをここに感じることもできるだろう(足にたいするこだわりも谷崎を思わせる)。だが、あくまでも一見、非力である女が、潜在的に男を閉じこめ、支配し、愛でたすえに、肉体を失いながら男に記憶のコレクションのひとつとして部屋に取り残されるという点に、谷崎にはない、性愛のあらたな展開がある。『密やかな結晶』をたんなる美しいディストピア小説で終わらせない魅力はここにある。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.104
(5pt)

きれいな本でした

きれいな本をありがとう
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.103
(5pt)

きれいな本でした

きれいな本をありがとう
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.102
(5pt)

アンネへのオマージュ

記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。
人は何をなくしたのかさえ思い出せない。
何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、
言葉を、自分自身を確実に失っていった。
「BOOK」データベースより

1994年に出版された小川洋子のデストピア小説「密やかな結晶」が2019年に
英訳されたのを機に、全米図書館賞ノミネートや映画化の話が進む等
再び脚光を浴びています。
「アンネの日記」との出会いが小説を書く切っ掛けになったという小川洋子が、
アンネへのオマージュとして新たに組み立て直した本作は、
理不尽な政治権力に何もかも奪われても、消滅した記憶が心の奥底に密やかな結晶と
なって残っていて、その小さな感覚を不自由な言葉と言う道具によって紡ぎだすことで、
誰も犯すことのできない「言葉に出来ない自由な場所」へ導いて行きたいと言う
思いが根底に込められています。

小説を書いていた時と今と、君自身はどこも変わっていない。
ただ違うのは、本が燃えてしまったとうことだけだ。
紙は消えたけれど、言葉は残っている。
だから大丈夫。僕たちは物語を失ったわけじゃないよ
※本文より抜粋

終わり方に批判的な意見が多いようですが、読む人の心の弱さや想像力に対して
普遍的に問いかけるには、閉ざした物語にする必要があったわけで、
彼女が今でも小説を書き続けなければならない理由とも言えるでしょう。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.101
(5pt)

アンネへのオマージュ

記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。
人は何をなくしたのかさえ思い出せない。
何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、
言葉を、自分自身を確実に失っていった。
「BOOK」データベースより

1994年に出版された小川洋子のデストピア小説「密やかな結晶」が2019年に
英訳されたのを機に、全米図書館賞ノミネートや映画化の話が進む等
再び脚光を浴びています。
「アンネの日記」との出会いが小説を書く切っ掛けになったという小川洋子が、
アンネへのオマージュとして新たに組み立て直した本作は、
理不尽な政治権力に何もかも奪われても、消滅した記憶が心の奥底に密やかな結晶と
なって残っていて、その小さな感覚を不自由な言葉と言う道具によって紡ぎだすことで、
誰も犯すことのできない「言葉に出来ない自由な場所」へ導いて行きたいと言う
思いが根底に込められています。

小説を書いていた時と今と、君自身はどこも変わっていない。
ただ違うのは、本が燃えてしまったとうことだけだ。
紙は消えたけれど、言葉は残っている。
だから大丈夫。僕たちは物語を失ったわけじゃないよ
※本文より抜粋

終わり方に批判的な意見が多いようですが、読む人の心の弱さや想像力に対して
普遍的に問いかけるには、閉ざした物語にする必要があったわけで、
彼女が今でも小説を書き続けなければならない理由とも言えるでしょう。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.100
(4pt)

不可解な島での出来事

孤島に住む人々の話です。この島ではある突然、船、切手、鳥、ハーモニカ、身近なものがどんどん消滅します。
ものが消滅するとその記憶も消えてしまいますが、最初からなかったことになるので、人々は生活が不便になってもあまり不満を持ちません。
一方、一部の記憶が消えないひともいますが迫害を受け、拘束されるか、隠れ家に身を潜めるか、いずれにせよ自由が奪われます。
自分は、記憶が消えるのと消えないとでは、どちらがいいのだろうか?記憶が残った場合、社会に抗って生きることができるのか?そんなことを感じました。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.99
(4pt)

不可解な島での出来事

孤島に住む人々の話です。この島ではある突然、船、切手、鳥、ハーモニカ、身近なものがどんどん消滅します。
ものが消滅するとその記憶も消えてしまいますが、最初からなかったことになるので、人々は生活が不便になってもあまり不満を持ちません。
一方、一部の記憶が消えないひともいますが迫害を受け、拘束されるか、隠れ家に身を潜めるか、いずれにせよ自由が奪われます。
自分は、記憶が消えるのと消えないとでは、どちらがいいのだろうか?記憶が残った場合、社会に抗って生きることができるのか?そんなことを感じました。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.98
(5pt)

象徴的で不思議な雰囲気の小説

鳥、香水、フェリー、薔薇…など、少しずつ、いろいろなものが消失していく島。ものは「消失」し、人々はそれを持っていたら捨てたり燃やしたり川に流したりし、次第に記憶からも消えていく。しかし時々、記憶を持ったままの人たちもいて、その人達は秘密警察に連れ去られてしまう。
小説家である「わたし」の担当であるR氏は記憶保持者。「わたし」と「おじいさん」は、R氏を隠し部屋に匿うことになる。

ものが消失していくことへの不安、暗く長い冬。食料も日用品も不足がちな閉鎖された島。威圧的で恐ろしい秘密警察。全体的に暗いトーンなのだけれど、主人公やおじいさん、R氏とのやり取りは明るく、心がこもっていて、希望が持てた。あまりにも不思議な設定なので「これは誰かの脳内世界なのか」と思っていたけれど、そういうオチではなく、謎は謎のまま結末を迎える。
描写がていねいで、また迫力があった。作中小説の、タイプライターの話もとても意味深だった。
なにかとても象徴的な、不思議な雰囲気をまとった小説だった。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.97
(4pt)

ネタバレふくむ個人的な考察

自分なりに考察すると…(幻想的な物語を、考察するのも野暮かもしれないけど、腑に落ちたかったので理論的に考えました)

↓ネタバレしてるので見たくない方飛ばしてください↓

秘密警察側は、本当は消失していないけどそう思わせる電磁波かなにかを放出しているのではないだろうか。そういう電磁波が効かない人間が一部存在するのだろう……消失の行われない人間

連行された人たちは特権階級として扱われているのかもしれない。(母親を迎えにきた車の豪華さ、いぬい先生に約束された環境などから推測)

秘密警察たちが消失の行われない側の人間ということは、主人公に出されたものがおそらく消失したはずのコーヒーらしき描写があるため確実だ。
主人公の記載した個人情報を見て、母親が消失の行われない人間と知ったため、反応を試したのだろう。

また、連行の際に子供や配偶者など家族全員で連れていかれる描写がある(いぬいさんの例から家族の生活も保証されている)のは
主人公の母親がひとりで連行された際、死を選んだため、家族も連れて行くように制度が変わったのではないかと推測する。

物語終盤、激しくなっていく記憶刈りと消失で、人種選別は終わったので、全てを消した(消す暗示)をかけたのだろう。

部屋を出たR氏は春の訪れた世界で、拍手で迎えられているかもしれない。
ひょっとしたら彼の子供はR氏と同じように消失しない側の人間であり、妻は失ってしまったかもしれないが、子供は消失しておらず今後ふたりで生きていけるかもしれない。

「島」は大きな実験施設か、収容所なのか。気象も操作できる(季節の停止、人工地震、人工津波)

それならば、連行された者たちは、特権階級などではなく、単に普通の暮らしに戻るだけだが、島から見れば至れり尽くせりの豊かな暮らしではあるだろう。

R氏はきっと島の外に出て、世界の真実を知っていく。主人公の母は真実を知ったが、外で暮らすのを拒み、家族やこれまで暮らしてきた世界に寄り添うことを選んだ。
電磁波の効かない人間でありながら、効いてしまう主人公たちと居ることを選んだ。

主人公やおじいさんには、そんな選択すらできない。ただ受け入れるだけ。羊。奴隷のように。人種選別される側の存在だから。

あまり考えたくはないが、島は「日本」の比喩なのかもしれない。はたしてすべてを粛々と受け入れていく側の人間でいいのだろうか?

また、自分の考察だと、善と悪が反転してることになる……連行=家族みんなで実験施設から出られる……から、主人公が良かれと思ってR氏を隔離したが、しないほうが奥さん子供と家族揃って幸せな人生を送れたということになる。

選択も消失もできない主人公の、そんな主人公なりに抱いた、切ない願いや想いを感じる。

完全に自分の考察だが↑こういったテーマを感じさせる話を美しく幻想的に書き上げられる能力が、素晴らしすぎます。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.96
(4pt)

救いのない不可逆的な「消滅」が示すもの。

雪が滅多に降らないある島を舞台に、20代前半の女性が島内で突然起こる「消滅」を受け止める話。ひたすら身の回りの「消滅」が続き、大きな抵抗なくそれを受け止めていく。

本作品を読みながら、想起したのは次のような本。
「アンネの日記」
「モモ」
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」村上春樹
「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ
「忘れられた巨人」 カズオ・イシグロ
「アルジャーノンに花束を」 ダニエル キイス
「わが母の記」井上靖

読み始めて3分の1までは、「アンネの日記」の印象が強く、「消滅」とは組織化された大きな力によって踏みにじられるものという印象である。

ただ、読み進めていくと、自分の周りでも不可逆的に「消滅」していったものも多いと考えさせられる。絶滅危惧種、少数民族の言語、社会の変化でやらなくなった行事や手に入りづらくなった食材など、「消滅」の危機に瀕しているものは沢山ある。まあそれらは自他の「他」と言える。

作者は意図していないだろうが、私は自分に起こるだろう「自」の「消滅」を強く意識した。老いや病などにより、できていたことができなくなる、思い出すことが難しくなることは避けられない。もっと日常を見れば、興味や関心がなくなり、自分の中から消滅したものは数えきれない。作中では「消滅」が広がりを見せるため、テーマがやや曖昧になる感があるが、突き詰めていけば、自分の中の「消滅」をどう認識するかが最も重要で、その辺りを上手く書き切れていない点が物足りない。物語はどこに残るのだろうか。
密やかな結晶 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶 (講談社文庫)より
4062645696
No.95
(5pt)

象徴的で不思議な雰囲気の小説

鳥、香水、フェリー、薔薇…など、少しずつ、いろいろなものが消失していく島。ものは「消失」し、人々はそれを持っていたら捨てたり燃やしたり川に流したりし、次第に記憶からも消えていく。しかし時々、記憶を持ったままの人たちもいて、その人達は秘密警察に連れ去られてしまう。
小説家である「わたし」の担当であるR氏は記憶保持者。「わたし」と「おじいさん」は、R氏を隠し部屋に匿うことになる。

ものが消失していくことへの不安、暗く長い冬。食料も日用品も不足がちな閉鎖された島。威圧的で恐ろしい秘密警察。全体的に暗いトーンなのだけれど、主人公やおじいさん、R氏とのやり取りは明るく、心がこもっていて、希望が持てた。あまりにも不思議な設定なので「これは誰かの脳内世界なのか」と思っていたけれど、そういうオチではなく、謎は謎のまま結末を迎える。
描写がていねいで、また迫力があった。作中小説の、タイプライターの話もとても意味深だった。
なにかとても象徴的な、不思議な雰囲気をまとった小説だった。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.94
(4pt)

ネタバレふくむ個人的な考察

自分なりに考察すると…(幻想的な物語を、考察するのも野暮かもしれないけど、腑に落ちたかったので理論的に考えました)

↓ネタバレしてるので見たくない方飛ばしてください↓

秘密警察側は、本当は消失していないけどそう思わせる電磁波かなにかを放出しているのではないだろうか。そういう電磁波が効かない人間が一部存在するのだろう……消失の行われない人間

連行された人たちは特権階級として扱われているのかもしれない。(母親を迎えにきた車の豪華さ、いぬい先生に約束された環境などから推測)

秘密警察たちが消失の行われない側の人間ということは、主人公に出されたものがおそらく消失したはずのコーヒーらしき描写があるため確実だ。
主人公の記載した個人情報を見て、母親が消失の行われない人間と知ったため、反応を試したのだろう。

また、連行の際に子供や配偶者など家族全員で連れていかれる描写がある(いぬいさんの例から家族の生活も保証されている)のは
主人公の母親がひとりで連行された際、死を選んだため、家族も連れて行くように制度が変わったのではないかと推測する。

物語終盤、激しくなっていく記憶刈りと消失で、人種選別は終わったので、全てを消した(消す暗示)をかけたのだろう。

部屋を出たR氏は春の訪れた世界で、拍手で迎えられているかもしれない。
ひょっとしたら彼の子供はR氏と同じように消失しない側の人間であり、妻は失ってしまったかもしれないが、子供は消失しておらず今後ふたりで生きていけるかもしれない。

「島」は大きな実験施設か、収容所なのか。気象も操作できる(季節の停止、人工地震、人工津波)

それならば、連行された者たちは、特権階級などではなく、単に普通の暮らしに戻るだけだが、島から見れば至れり尽くせりの豊かな暮らしではあるだろう。

R氏はきっと島の外に出て、世界の真実を知っていく。主人公の母は真実を知ったが、外で暮らすのを拒み、家族やこれまで暮らしてきた世界に寄り添うことを選んだ。
電磁波の効かない人間でありながら、効いてしまう主人公たちと居ることを選んだ。

主人公やおじいさんには、そんな選択すらできない。ただ受け入れるだけ。羊。奴隷のように。人種選別される側の存在だから。

あまり考えたくはないが、島は「日本」の比喩なのかもしれない。はたしてすべてを粛々と受け入れていく側の人間でいいのだろうか?

また、自分の考察だと、善と悪が反転してることになる……連行=家族みんなで実験施設から出られる……から、主人公が良かれと思ってR氏を隔離したが、しないほうが奥さん子供と家族揃って幸せな人生を送れたということになる。

選択も消失もできない主人公の、そんな主人公なりに抱いた、切ない願いや想いを感じる。

完全に自分の考察だが↑こういったテーマを感じさせる話を美しく幻想的に書き上げられる能力が、素晴らしすぎます。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X
No.93
(4pt)

救いのない不可逆的な「消滅」が示すもの。

雪が滅多に降らないある島を舞台に、20代前半の女性が島内で突然起こる「消滅」を受け止める話。ひたすら身の回りの「消滅」が続き、大きな抵抗なくそれを受け止めていく。

本作品を読みながら、想起したのは次のような本。
「アンネの日記」
「モモ」
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」村上春樹
「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ
「忘れられた巨人」 カズオ・イシグロ
「アルジャーノンに花束を」 ダニエル キイス
「わが母の記」井上靖

読み始めて3分の1までは、「アンネの日記」の印象が強く、「消滅」とは組織化された大きな力によって踏みにじられるものという印象である。

ただ、読み進めていくと、自分の周りでも不可逆的に「消滅」していったものも多いと考えさせられる。絶滅危惧種、少数民族の言語、社会の変化でやらなくなった行事や手に入りづらくなった食材など、「消滅」の危機に瀕しているものは沢山ある。まあそれらは自他の「他」と言える。

作者は意図していないだろうが、私は自分に起こるだろう「自」の「消滅」を強く意識した。老いや病などにより、できていたことができなくなる、思い出すことが難しくなることは避けられない。もっと日常を見れば、興味や関心がなくなり、自分の中から消滅したものは数えきれない。作中では「消滅」が広がりを見せるため、テーマがやや曖昧になる感があるが、突き詰めていけば、自分の中の「消滅」をどう認識するかが最も重要で、その辺りを上手く書き切れていない点が物足りない。物語はどこに残るのだろうか。
密やかな結晶 Amazon書評・レビュー: 密やかな結晶より
406205843X