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妊娠カレンダー



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【この小説が収録されている参考書籍】
妊娠カレンダー
妊娠カレンダー (文春文庫)

妊娠カレンダーの評価: 3.79/5点 レビュー 56件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.79pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全33件 21~33 2/2ページ
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No.13:
(5pt)

小川洋子という謎

芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」と、ほかの二編「ドミトリイ」「夕暮れの給食室と雨のプール」からなる初期短編集である。
 いや、びっくりした。
 小川洋子といえば、映画にもなって話題を呼んだ読売文学賞受賞作『博士の愛した数式』の作者であり、芥川賞選考委員も勤めて、今の日本ではメジャーな作家の一人だろう。それなのにまるで何も読んだことがなかった。たしか芥川賞受賞の時に名前を知ったのだから、もう20年も放っておいたことになる。「妊娠カレンダー」にも興味を持ったのに、題のせいもあってか何となく近づきがたかったかもしれない。それがちょっとしたきっかけがあって、ようやくその「妊娠カレンダー」を含むこの短編賞を読んでみた。そしてびっくりしたのだった。こういう才能がある人だったのか。
 単に才能があると驚いたのではない。その才能のタイプ、資質ということになろうか。表題作以外の二編もとても魅力的で、これらの三編にこの作家のすべてが含まれているという気がした。この作家がわかったと思わせるものがそこにはあった。魅力から言ってもなかなかこれだけのセットはないと思うが、たまたまというわけではあるまい。ごく初期の三編でもあり、作家自身が魅力的なのだ。
 まずもって文章の隅々まで繊細な意識が通っているのに感心した。それを、たとえば『作家の値打ち』の福田和也は、作者の「企み」とか「悪意」とか呼ぶ。といって普通の意味の悪意とは違う、要するに読者を振り回す仕掛けがあるということなのだろうが、そこにはある種の必然、作家の内面から来る要請のようなものがあるのを感じる。
 描かれているのは微妙な不思議な世界だ。それはおそらく現実の素材の枠内にあるのだが、それでいて手の込んだ仕掛けの数々によって奇妙に現実離れしていて、はたしてリアルな物語なのかそうでないのかの境界線の近くを漂うかのようである。その極端な例が、ミステリーか、はたまたホラーかすらと思える「ドミトリイ」だろう。このサスペンス性はすごい。
 そしてそれには理由がある。どの作品でも作者は、一見秩序立った日常に潜む裂け目を紡ぎだそうとしているように見えるのである。その意味では実存的なテーマといえるかもしれない。支えとなっているはずの日常に、ふと垣間見える不安、寄る辺なさ、孤独。「妊娠カレンダー」では、語り手の姉の妊娠が、姉自身だけでなく語り手にとっても、そうしたものとの対峙を強いることになる。
 その姉の精神のしょうがいや、次の「ドミトリイ」における「先生」の身体的しょうがいは、それを暗示するモチーフといえるだろうか。いや、そこまでではなくても、たとえば「夕暮れの給食室と雨のプール」に登場する男が回想する「給食を食べられない」状態など、精神的肉体的苦痛がそれを表現してもいるだろう。そうした場では、必然のようにして、生きることの傷みのようなものが、そこはかとない哀れみと共感とをもって提示されて魅力的である。
 一方その対極にあるのが、ここでは「ドミトリイ」に登場するが、秩序があるゆえに「美しい」数学の世界である。おそらく作家個人も数学が好きなのだろうが、それは『博士の愛した数式』でも重要なモチーフのようだし、そこにおける人物のしょうがいにしても、この短編におけるのと同じ意味を持つに違いない(未読なので違ったらすみません)。おそらくそれらはこの作家の本質的なものに関わっている。
 なお「ドミトリイ」については、振り回されることへの不満や、あるいは不全感を覚える読者があるかもしれない。しかしこれをやはり先に述べた「裂け目」の物語と捉えるなら、それはそれで一個の必然ではないかと私自身は考えている。
 やり残した宿題をするような感覚でこの本を読み出したのだが、これだけ感心するとほかも読みたくなる。ここで作家の核心のようなものとして強く感じたことを確かめるためにも、ほかの作品も読もうと思う。

妊娠カレンダーAmazon書評・レビュー:妊娠カレンダーより
4163124209
No.12:
(5pt)

同性の姉妹に対するゆがんだ思いを書き切る

「ニ・ン・シ・ン」した姉に、有毒で「危険な輸入食品!」と確信するグレープフルーツでジャムを作って食べさせる妹の内心を、日記風に描いた芥川賞受賞作がとにかくすごい。小川さんの屈折した陰の部分がよく表れた傑作。

 他二話でも、たとえば「夕暮れの給食室」に偏執せずにいられない奇妙な人々などが登場していて、小川文学の原点を知るための格好の作品集。




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No.11:
(4pt)

著者の芥川賞受賞作はこれでよかったか?

著者の芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」と、「ドミトリー」「夕暮れの給食室と雨のプール」の3篇収録。前2者が日常世界の中で進行する歪みを描いた作品で、「夕暮れ〜」は過去の追憶。

前2者は身体感覚の描写がさすがだが、それを中心に組み立てて著者の身体フェチの極点とも言える作品。

しかし、「妊娠〜」は著者の作品の中で突出した傑作だとは思わない。平均的な水準の作品だ。著者の創作キャリアの早期の段階で将来傑作を連発する筆力を評価したにしても、デビュー作の「揚羽蝶が壊れる時」の方が作品の出来としては優れていると思うのだが。

3作とも、主人公の作為(ジャムを作ること、あるいは話を聴くこと)対する反作用が描かれておらず、私は宙ぶらりんの状態で放り出されるような読後感を持った。
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No.10:
(4pt)

くつくつ、とジャムを煮込むさるきちも。

妊娠した姉のために くつくつ とグレープフルーツを煮込み ジャムを作っている、わたし。 姉はその鍋を抱えるようにして スプーンですくって食べ尽くす。 「アメリカ酸のグレープフルーツには 強力な毒薬が使われており 染色体をも破壊する」 ふと目にした広告。 その毒は胎児の染色体も破壊するのかしら だからわたしはせっせと 姉にグレープフルーツを食べさせる。 精神のバランスを欠いている姉と フツーであるようで やはり何かが損なわれている、わたし。 その二人を結びつけているのが 食べモノだ。 小川洋子氏の食べモノの表現は とてもグロテスクで 身体の内部を彷彿させる。 さるきちが口にしたものもね、 ぬめっとした腸や、 柔らかい皮が張った胃や、 きゅっと締まった卵巣といった、 臓器へと変容するのだなあ と、想像することができる。 さらに、 食べ物は 単に身体を形成するだけでなく、 精神にも深く寄与しているのだと、 考えさせられる。 摂食障害で 時に食べモノが敵となり、 食事が苦痛となっている さるきちにとっては、 彼女の作品て、 何かココロにひっかかるモノがあるのよね。 どうして破綻を期したのが 「食」なんだろう… ちょっぴりミステリアスな短編です。 本書には、他にも 「ドミトリイ」「給食室と雨のプール」が おさめられています。
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No.9:
(5pt)

すでに独自の作風を確立している

芥川賞受賞作となった「妊娠カレンダー」。妊娠をきっかけに、刻一刻と変貌を遂げ、どんどん知らない人になっていく姉に戸惑う妹。やがてアメリカ産グレープフルーツジャムを作り続けることにより、周囲を振り回し続ける姉に密かな抵抗の手段を見い出す。「悪意」と言うよりは、ふとしたきっかけで、暗い考えにとらわれる、そのハードルのあっけなさみたいなものを書こうとしたのだろうか?「夕暮れの給食室と雨のプール」。婚約者との同居生活が始まる前の、細々した生活の準備の様子を書いても書いても、見事に生活臭がしないところがさすが、小川洋子(笑)。こういうノスタルジックな日常からファンタジーに迷いこんでしまう…というのも彼女の基軸の一つ。「博士の〜」や「ミーナ〜」もこの路線かな?しかし、私は作者の真骨頂は「ドミトリイ」だと思う。この頃すでに、短編集「海」の「バタフライ和文タイプ事務所」に匹敵する完成度のものを書いていることに驚かされた。読んでほんわかしたいい気持ちになるのは、「博士〜」や「ミーナ〜」だろうけれど、ザ・小川洋子なのは「バタフライ和文タイプ事務所」や「ドミトリイ」のような作品だと思う。
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No.8:
(5pt)

食の安全はどこにあるのでしょうか

『妊娠カレンダー』です。表題作の他に、『ドミトリイ』『夕暮れの給食室と雨のプール』を収録した短編集です。表題作は芥川賞を受賞していますが……作者の小川洋子といえば代表作は『博士の愛した数式』でしょう。『ドミトリイ』の中には数式を駆使する数学科の大学生がいたりして、ちょっと興味深いです。三作に共通しているのは、けっこうダークな作風であることと、食べ物が作品の中心に描かれていることです。偽装とか薬物混入とか、食の安全がわからない昨今の中で読むと、更に面白さが増しそうです。どの作品も純粋に面白いです。文章は読みやすいし、純文学なんだけど、どの方向性に向かっているのか分かりやすいし、主人公の心理も分かりやすいです。ちょっとホラーっぽくもあり、謎解きっぽい要素もあったり、面白いです。
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4163124209
No.7:
(4pt)

現実世界の「ねじれ」から見える風景

本作に納められている短編3篇とも、現実世界の「ねじれ」から見える風景を表現している。物語の設定はすべてどこにもありそうな話しである。それこそ僕達の住んでいる地方にもありそうな話である。でもその何処にでも「ありそうな話」が何処にもない不思議な話なのである。それは作者の目線がちょっとズレたところにあるからかも知れない。古い産婦人科、学生寮、給食室。何処にでもあるが、ちゃんと見ていないと見逃してしまう、その独特の場所から現実世界では感じられない「ねじれ」を作者は我々に見せてくれるのである。ところどころに、作者の後から発表された作品の萌芽を感じることが出来るのも読書の楽しみを増やしてくれる。
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No.6:
(5pt)

疑似体験

その詳細な記述により再現された現象の記述にわれを忘れた。「ああ、こういうふうになるのか」と納得させられた。それはおそらく著者の、現象を、それに対して感情移入することなく、冷徹に観察し、記述するという姿勢によるものであろう。あくまでも冷静に進行するが、知らず知らずのうちに読む側を引きずり込むその書きぶりにわれを忘れる。是非ご一読を。
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4163124209
No.5:
(5pt)

大好きだから不安になる。

オレンジの色は、濃いから良い。グレープフルーツの色は、どうも色が薄すぎて透明で、はかない。しかも、それがジャムになってとろとろにとけて蜜と化せば、くずれそうで、こわれそうで、色が今にも空気にとろけていきそう、と思う。 自分の大好きな、きれいで、はかなげで、ほんぽうでわがままな人が、結婚して妊娠していく様は、どんなだろう。人間らしくないような人が「人間」に「動物」に成り下がる様子はどんなろう。しかも、そのことで大好きなその人の容姿がくずれだしたりしたら、いっそのこと殺したい、と思うんだろうか。主人公が赤ん坊を一人の人間として考えず、ゲノムとして考えた理由は、姉から「人間」が生まれることに実感がもてなかったからじゃないだろうか。また、グレープフルーツのジャムで赤ん坊を壊したいと思ったのは、姉と義兄、自分という3人だけだった生活のなかで、姉と義兄だけの生産物ができることに恐れたからじゃないだろうか。もし、ジャムの毒でもって子供が破壊されていた場合、子供は三人の生産物となり、また生活は続く。妊娠した姉の心境よりも、妹の心のうつろいの描写がすごい小説だと思った。とても、おもしろい。
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4163124209
No.4:
(4pt)

一面

妊婦というものはおなかで赤ちゃんをはぐくむ間に勝手に母性本能が発揮されるものと思っていた。自分が妊娠するまでは。「妊娠カレンダー」は友人が貸してくれた本だが、内容を知らなかった私はこれもまた妊婦の暖かい気持ちとか赤ちゃんを心待ちにする様子が描かれているのだろうと思い込みなかなか読む気になれなかった。ここにあるのは妊婦雑誌に出てくる前向きな女性とは正反対の女性「姉」である。普段匂わないようなものにさえ疎ましい悪臭を感じるつわり。体は思うように動かず鬱かと思うほどちょっとしたことに落ち込みイラつき、それが過ぎればまた馬鹿らしいほどの食欲。まわりの気遣いをものともしない上、素直に感謝する余裕もない。自分でもどうしたいのかわからない。おなかは見る間に膨れ、いまさらなにをどうしたって生むことの痛みと母親になることから逃れられない怖さ。このなかで「妹」が淡々とつくるジャムには姉を変えてしまう妊娠への無意識の抵抗に思える。もしかしたら妊婦にも二種類のタイプがあるのかもしれない。人事ではない、自分のおなかに生命が宿ったとき、この姉に共感する人は私だけではないと思う。自分の姉に赤ちゃんができたときは、楽しみで可愛くて幸せな気持ちにしてくれるまさに天使のような存在だった。特に子供好きなわけではなかった私でもそうなのだ。我が子ならきっと手放しで嬉しいものだと思っていた。それが我が子であるだけでどうしてこんなにおそろしいのだろう。作品には産まれてからの姉と赤ちゃんの様子は書かれていない。私のような人間には妊婦にはこんな一面もあるのだと認めたもらった気がする作品だった。
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No.3:
(5pt)

上手い恐怖の書き方

『妊娠カレンダー』でイメージする妹の悪意は、もしかすると誰にでもあるものかもしれない。特に女は小意地悪いところがあるけど、それに自ずから気付いている人の方が人間くさくて面白い。妹に悪があるとしたら、姉の母性本能の方が冷たい。妹はそんな姉に従順でいながら、どこかで懲らしめてやりたいという思いがあって、それがグレープフルーツ事件を起こさせたのかもしれない。三作のうち『ドミトリイ』が一番読み応えがあった。この二作は読後もいろいろなことを思い起こさせる、とてもエンターテイメント性があるものだった。
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No.2:
(5pt)

ぜんぜん違う

「博士の愛した数式」を読み、優しい世界を描く作家なのかと思い、なんとなく手にしてみたこの作品。 まるで違う。どこにも癒しなんてありはしない。かなりヘビーでダークなドロドロとした世界が描かれている。少しも癒されはしなかったが作品自体は楽しめたので、よい意味で予想が外れる形となった。 小川洋子が人の「綺麗な面」だけではなく、「汚い面」まで描けることを知り、彼女の描き出す世界の広さを感じる作品となった。
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4163124209
No.1:
(5pt)

注意!

決して心温まるマタニティ小説ではありません。妊娠中の方は読んではいけません(笑)芥川賞受賞作。妊娠した姉を見つめる妹の日記形式による作品。農薬づけのグレープフルーツで作った鍋いっぱいのジャムを食べる姉。妹は、毎日ジャムを作る…。日常に潜む淡い悪意が、静かに積もっていく。
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4163124209

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