■スポンサードリンク


明日を望んだ男



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
明日を望んだ男 (新潮文庫 フ 13-3)

明日を望んだ男の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

皆「明日を望んだ男」たちだった

フリーマントル3作目の本書ではエスピオナージュを扱う作家ならば一度は扱う題材、ナチスだ。ナチスの残党を追うモサドとそこから逃れようと身分を変え、潜伏している元ナチスの党員や人体実験を行った科学者たちの息詰まる情報戦を描いている。

オーストリアの湖から引き揚げられた箱の中にはナチスの残党に関する情報が収められたファイルがあった。ロシアの宇宙開発に携わるヴラジミール・クルノフは自分がナチス時代、ユダヤ人収容所で様々な人体実験をした責任者ハインリッヒ・ケルマン博士だったことを明かされてはならぬとベルリンへ乗り出し、ファイルを手に入れようとするが、バヴァリア訛りの謎の男に彼がケルマン博士であることを知られ、脅迫される。

この謎の脅迫者の正体と一連の事件の真相は物語の3/4辺りで明らかになる。

世界でも執念深さと世界中に散らばるユダヤ人と云う広範な情報網を持ったモサドという組織の凄さを改めて思い知らされた。

第3作目にして世界におけるナチスの存在の忌まわしさとモサドのナチスに対する復讐心の奥深さと執念深さを何の救いもなく描くとは、とても新人作家のする事とは思えないのだが。

また本書が発表された1975年はイスラエル問題の最中でもあり、また解説によれば実際に翌年の1976年に国際指名手配されていた元ナチスの党員が世界各国で自殺を遂げており、まだ第2次大戦から地続きであった時代だったのだ。

このユダヤ人大量虐殺を行ったナチスに対して異常なまでに復讐心を燃やすイスラエル政府の執念深さはマイケル・バー=ゾウハーの諸作で既に知っており、最近読んだノンフィクション『モサド・ファイル』は本作をより理解する上で非常によい参考書となった。
特に本書にも出てくるゴルダ・メイヤやモシェ・ダヤンといった実在の政治家は同書に写真まで掲載されているのでイメージも喚起しやすかった。書物が書物を奇妙な縁で結ぶことをまた体験したのだが、逆に云えばこのようなエスピオナージュの類を読むならば、『モサド・ファイル』ぐらいのノンフィクションは読むべきなのかもしれない。

題名『明日を望んだ男』はナチスの亡霊から逃れようとしたハインリッヒ・ケルマンやヘルムート・ボックら残党達だったのだろうが、それらに復讐を計画したナチスのユダヤ人収容所出身のウリ・ペレツもまた忌まわしき過去を清算して新たな「明日を望んだ男」なのかもしれない。
彼らが望んだ明日とは決して無傷では得られないものであった。それほどナチスが世界に及ぼした傷跡は深いのだと云う事を改めて教えられた。
だからこそいまだにナチスをテーマにした作品が紡がれるのだろう。本書はフリーマントルにとってナチス、モサドを題材に扱っていく足掛かり的な作品であったことはその後の作品からも窺える。

しかし本当に救いのない話だ。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!