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復讐のダブル・クロス



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復讐のダブル・クロスの評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 -ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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No.1:
(8pt)

アラブ諸国とナチスの根深い闇

マイケル・バー=ゾウハー6作目の本書では前作『ファントム謀略ルート』に続いてアラブ諸国の問題について扱われている。後に作者自身が共著でノンフィクションとして著すことになるミュンヘン・オリンピックで起きたイスラエル選手団暗殺事件に端を発する復讐の連鎖の物語だ。

物語の冒頭でイスラエル選手団を虐殺したアラブのPLOの首謀者であるサラメハを長年の追跡の末、仕留めるところから始まる。そのニュースを聞いたドイツ人テロリスト、アルフレート・ミューラーなる人物がアラファトにある計画を持ち出す。それはサラメハ暗殺作戦の総責任者であるモサド長官エレミア・ペレドの暗殺のみならず、ユダヤ人に対する決定的な報復をなすことになるという謎めいた実に不気味な計画だった。

本書ではこのテロリスト、アルフレート・ミューラーが最も強烈に印象強いキャラクターだ。

骸骨のように痩せ、全身黒づくめの服装の酷薄な顔をした男。各国の要注意人物を掌握するモサドのファイルにも登録されていない謎のテロリストである彼はドイツ人でありながらアラファトと親しい関係にある。

友人であろうが自分の目的のためなら完膚なきまでに息の根を止めることも全く厭わない冷酷な性格の持ち主。その容貌が象徴するようにモサドに死をもたらす死神なのだ。

また本作でもナチスの影は物語に落ちてはいるものの、その色合いはそれまでのバー=ゾウハー作品に比べるとあまり濃くはない。本書の影の主役とも云うべきアルフレート・ミューラーの母親がナチスの婦人将校であったということぐらいだ。
これはナチスという過去の戦争の呪縛からオイルマネーで世界を牛耳り始めたアラブ諸国の紛争へとシフトしていったことになるだろう。第二次大戦から80年代当時の問題へと作者の視点が移行したことになるのかもしれない。

それは自身が従軍した第3、4次中東戦争の経験と執筆当時に連なる政治的問題が肥大していくにつれて作家として書くべきテーマを見出したように思える。

解説にもあるが、これまでの作品でCIAとKGBの攻防を、OPECとアメリカ次期大統領候補との丁々発止の駆け引きを、そして本書ではアラブのPLOとイスラエルのモサドとの復讐戦を描いてきた作者が次回どんな題材を見せてくれるのかが非常に楽しみだ。
さすがに政治家の経験もあるだけに国際情勢の複雑さを食材に謀略小説にする料理の腕前は一級品だ。そしてまた自身が子供だった70年代から80年代にかけての当時の世界情勢を振り返るのに格好の教材になっている。

しかしこれまでの作品でどれにもナチスが絡んでいるのは作者個人のナチスに対する個人的な怒りがあるのだろうか、もしくは自身の政治家経験で知りえた世界を語るうえでどうしても避けられない題材なのだろうか、その真意は解らないが、ここまで来るとこれからの作品に作者がナチスをどのように絡ませていくのか、興味は尽きない。


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Tetchy
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