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(短編集)

素敵な日本人 東野圭吾短編集



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素敵な日本人 東野圭吾短編集

素敵な日本人 東野圭吾短編集の評価: 7.33/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.33pt

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全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(7pt)

ミステリ歳時記からミステリ日本人讃歌へ

東野圭吾氏の季節の行事を絡めた4編と異色のミステリ短編5編が収録されている。

1年の始まりは正月だが、本書も「正月の決意」という作品で幕を開ける。
早くも東野氏の技巧の冴えが光る1編。正月の老夫婦のいつも通りの穏やかな風景から一転して神社で人が倒れているのを発見し、非日常が訪れる。
しかし正月早々に呼び出された警察官たちは昨夜の酒も残っており、士気が一様に低い。おまけに早く事件を解決して新年会に出席したいばかりに第一目撃者の主人公に嘘の証言を頼む始末だ。
そんな事件の真相は実にコミカルな物。
人生のおかしさを上手く描いた好編だ。

「十年目のバレンタインデー」はその題名通り、女性が愛を告白する日を扱っているが、その日は主人公峰岸にとっていつもと違う忘れらないバレンタインデーになった。
かつて愛した女性から10年ぶりに連絡がある。
男性にしてみればなんとも男冥利に尽きる話だ。再会してみれば当時と変わらず綺麗で、いや大人の落ち着きが出ただけに当時よりも洗練されている。しかも相手はまだ結婚してないと云う。更に再会のタイミングをバレンタインデーに合わせてきた。
ここまで来ればどんな男性も恋の再燃を期待するだろう。しかしそうはいかない。
しかしこの話、東野氏はある意味メタフィクションを意識して作ったのではないか。
というのもその作風の多様性と作品によって賛否両論が事あるごとにウェブで取り沙汰され、東野圭吾がファミリーネームで実は他に複数のライターがいて創作しているという都市伝説まで生まれているくらいなのだ。従ってこの峰岸はある意味、ある特定の読者が抱いている東野像を反映したものだろう。いやあ、何とも図太い作家だ、東野圭吾氏は。

「今夜は一人で雛祭り」は打って変わって子を持つ親の心配を描いた作品。
リアルな物語だ。手塩にかけて育てた娘は玉の輿に乗るのは嬉しいだろうが、果たして実の親としては本当に嬉しいのだろうか?
相手が地方の名家、いわゆるセレブであり、しかも相手の母親、つまり将来の姑は何かと手厳しそう。そんなところに1人の愛娘を嫁にやることの心配が濃く書かれている。
特に父親自身も妻が自分の実の母親から手厳しく躾けられていた経験を持ち、それを見ていただけに娘に対して同じ思いをしてほしくないと思う。この辺の設定は実に上手い。
しかし女は強い。姑に厳しく当たられながらも妻は上手にやり過ごしていたことを雛人形の飾りで三郎は知るのである。
京都女の強かさを思い知らされる内容だ。
しかし正直その内容は例えば星新一氏のショートショートに見られるような辛辣なものではなく、結末は実にハートウォーミング。
ところで主人公たちが試食会に行ったホテルはもしかしたらホテル・コルテシア東京なのかもしれない。そして三郎の雛人形の質問に対応したのは山岸尚美ではないかと思うのだが、どうだろうか?

「君の瞳に乾杯」は私もかつて若かりし頃に経験した合コンがテーマ。
いやあ、実にトリッキーな話である。30前でギャンブルにのめり込み、アニオタという冴えない男性像だった主人公が一転する。まさにツイスト感に溢れた作品だ。

次も上手さを見せられた。「レンタルベビー」は近未来の、タイトルが示す通り、赤ちゃんのレンタル業の話だ。
今、日本では少子化と未婚率の上昇が問題となり、毎年の出生率はどんどん下がり、2019年は政府予想よりも2年早くとうとう90万人を割ってしまった。それに加え、児童虐待問題も多々あり、折角生まれた子供も無事先人になれずに亡くなってしまうケースも増えている。
それはいわゆる日本の子育てにお金がかかる事と一方で経済格差が広がって、結婚したくても出来ない、子供を育てることができない家庭が増えていること、更には精神的に未成熟な夫婦が云うことを聞かない子供に暴力を振るうことなどが主な原因に挙げられている。
そんな中、本作に登場するレンタルベビーはまさに結婚、そして子育てのシミュレーションとしては実に有効だろう。人間と見まがうかの如き精巧さとなんと臭いや質感を再現したウンチまでし、夜泣きもすれば駄々もこねる。そして一方で言葉も覚えて「ママ」と呼び掛けたり、微笑んだりもし、子育ての大変さと愉しさをリアルに体験できるのだ。
そしてレンタル会社も急に発熱させたり、買い物に行けばどこかへいなくなったりといわゆる子育てあるあるトラブルを巧みに用意しており、利用者の心理を揺さぶり、ロボットに愛着を抱かせるようにしている。
しかしどちらかと云えばロボットとの共同生活という、藤子不二雄の『ドラえもん』から連なるオーソドックスなストーリーであるため、結末も予想できるのだが、流石は東野圭吾氏。私の、いや読者の想像の斜め上を行くのだ。
この結末には久々に星新一氏の切れ味鋭いショートショートを読んだほどの爽快感を味わった。

次の「壊れた時計」は打って変わって倒叙型のクライム小説。
依頼人のアリバイ工作のために犯罪を請け負う周旋屋という都市伝説的な話だが、ミステリの設定としてはオーソドックス。但し本書の主人公は周旋屋から仕事を斡旋される男がつまらぬミスで犯行が露見する話。
昨今の刑事ドラマも寧ろ防犯カメラに映ることを前提にしている内容が多い。東野氏の防犯カメラに対する認識の甘さが出た作品だ。

次の「サファイアの奇跡」は希少種の猫に纏わるお話。
不思議な猫の恩返しとも云うべき寓話か。青色の猫というのは青色の薔薇同様、非常に珍しい物らしく、ブリーダーの夢でもあるらしい。貧しい母子家庭で育った女性が小学校の頃に出遭った猫と、意外な形で再会し、そして青色の猫をどんどん生み出すブリーダーとなって裕福になるというお話だ。
しかしこれは今までの東野作品の中のヴァリエーションの1つとも云える作品だろう。従って本作に関してはそれまでの題材をミックスしてテクニックで書いた作品と思ってしまった。

さて4編目の季節の行事をテーマにしたミステリはありきたりだがクリスマス。その名も「クリスマスミステリ」と題名もど真ん中だ。
よくある男女の恋の縺れが殺人動機である本作はしかし東野氏らしいツイストを仕掛けてくる。てっきり毒殺したと思った相手が息を吹き返してパーティーに現れる。
この驚愕の展開に主人公は慄くが、相手は自分の不首尾を詫び、そして挙句の果てに自ら別れ話を告げる。男に取ってこれ以上願ったり叶ったりのことはないのだが、翌日彼女が遺体で見つかる。まさに上へ下へと読者を振り回す、ジェットコースターのような展開を見せる。
しかし本書はここまでだった。ただどうもアンバランス感が否めない。
また各登場人物の名前が黒須、鹿野、椛木、三田(さんた)とクリスマスに関連する名詞に擬えれていることから本作は東野作品にしては軽めのミステリの部類に入ると思われる。クリスマスを題材にしたミステリは傑作が多いが、本作は例外的にそれには属さなかった。

しかし次の「水晶の数珠」は最後を飾るに相応しい作品だ。
東野作品には色んなヴァリエーションがあるが、SF要素が入った作品も一大ジャンルを形成している。『時生』や『秘密』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』などがそれにあたるが、それらの作品から類推できるように東野氏のSF的要素を兼ね備えた作品はハートウォーミングな内容が多いことが特徴だ。そして本書もまたその系譜に連なる作品である。
度会家に代々伝わる水晶の数珠の秘密を語る話。
子どもを可愛がらない親はいない。表面では憎んでいるように思えても心の底では愛しているものなのだ。


2020年、東野氏は作家キャリア35年目を迎えた。
本書は2017年に刊行された短編集だが、雑誌掲載された短編を集めた物。最も古い収録作は1作目の「正月の決意」で2011年の作品で最も新しいのは「壊れた時計」で2016年の作品。

この事実を知って驚かされるのはそれぞれの作品のレベルが水準もしくはそれ以上の出来栄えであることだ。このことについてはまた後ほど語ることにしよう。

本書の背表紙の紹介文では季節の行事をテーマにした短編が収められていると書かれている。この季節の行事を扱った作品は「正月の決意」、「十年目のバレンタインデー」、「今夜は一人で雛祭り」、「クリスマスミステリ」の4編。

これらのうち前の3作はそれぞれ1月、2月、3月の行事をテーマにしていることから当初は各月の行事を扱ったミステリを書こうとしたのではないだろうか。
しかしさほどアイデアも固まらず、その後一気に12月の行事クリスマスをテーマにしたことからも察せられるように途中から行事に固執しない自由なテーマを扱った内容にスイッチしたのかもしれない。

その自由なテーマとは合コン、疑似家族、闇サイト、猫のブリーダー、俳優志願の男と様々でまたジャンルもミステリに特化せず、日常の謎系、倒叙物、SFからハートウォーミングと様々だ。

そしてそれぞれの作品には小技が効いており、話の内容に無理を感じさせない―いや中には感じるものもあるが―。

例えば「正月の決意」の正月早々に事件で呼び出された警察官たちの迷惑振りとコンパニオンが多数参加する新年会に参加するためにどうにか早く事件を解決しようと第一発見者に偽証を迫ったりするいい加減さに人間臭さを感じさせられる。そしてこの作品ではこの警察のいい加減さが見事なオチに繋がるのである。

一番驚いたのは「十年目のバレンタインデー」の露骨さだ。
主人公の作家は東野氏が日ごろネットなどで揶揄されている、いわゆる東野圭吾はハウスネームで複数の作家によって書かれているといった都市伝説を具現化したようなベストセラー作家であり、それらを逆手に取った、ある意味東野氏からの痛烈な仕返しとも取れる作品である。

「今夜は一人で雛祭り」は有名な童謡「うれしいひなまつり」に纏わる齟齬を上手く嫁姑の確執話へとつなげた手腕が光る。
恐らくそういえば雛祭りの歌って結構間違って雛飾りが解釈されているんですよねとどこかの担当編集者が語ったことが本作へと繋がったのではないだろうか。

「レンタルベビー」も精巧に造った赤ん坊ベビーに翻弄される女性の話だが、そんなに迷惑ならばすぐに返却すればいいのにという読者の思惑をきちんと想定して、早期返却には罰則金が掛かると設定しているのには唸らされた。こういう卒の無さに作家としての技術の高さが光る。

さてそんな中、本書のベストを挙げるとなると、「レンタルベビー」と最後の収録された「水晶の数珠」になるか。

前者は未来の育児のための予行練習として精巧な赤ん坊ロボットをレンタルするビジネスがあり、それを利用するカップルの子育て奮闘ぶりが描かれるが、これ自体はさほど目新しさを感じない設定である。独身女性が一人の赤ん坊に翻弄されるというのはよくある話なのだが、東野氏が優れているのはそんなありきたりな設定に二重三重にサプライズを仕掛けていることだ。上にも書いたがこれは星新一氏の切れ味鋭いショートショートに似た読みごたえを感じた。

後者は東野氏お得意のハートウォーミングSFだ。名家の長男が代々引き継ぐ水晶の数珠の秘密は今ではよくある秘密であるが、そこに“いつ父親がその力を使ったのか”という謎を見事親子の愛に繋げる東野氏の憎らしいまでのテクニックに唸らされるのだ。まさに本書のタイトル“素敵な日本人”のお話なのだ。

やはり東野氏は短編も上手いと改めて感じた。ウェブ上では東野作品は短編よりも長編が好きという感想が多く見られるが決してそんなことはない。短い中にも予定調和に終わらないツイストが盛り込まれており、最後にアッと云わされた。

通常ならば作家のキャリアも30年を過ぎればアイデアが枯渇し、いわゆる物語や結末に切れ味が無くなっていく。いや一流のベテラン作家ともなると凡百のアイデアをそれまで培った小説技法で上手く料理し、水準作ぐらいには仕上げるだろう。

しかし東野氏はどうだ。本書に収められた作品の数々はいまだに読者の想定を超えたサプライズに満ちている。
作家キャリア26年目から31年目の5年間という発表年月の幅があるが、そのどれもが水準作もしくはそれ以上の出来栄えである事に驚かされる―個人的に本書の中で一番内容的に劣ると思われた「壊れた時計」が2016年発表と本書の中で最も新しい短編であるのが気になるが―。

例えば私が読書を始めるきっかけとなった星新一氏は1,000編を超えるショートショートを書いたとして有名だが、それでも後期の作品は全盛期と比べるとやはり内容、質ともに劣化しているのは否めなかった。大作家という看板だけで収録されたのではないかと勘繰るような出来栄えの作品も複数見られた。
例えば私が星作品で衰えを感じたのは『どこかの事件』あたりだが、この時の星氏は作家キャリア28年目である。確かにそれまでのショートショート作品数と短編や長編の作品数を一概に比べることはフェアではないかもしれないが、それでも作家キャリア35年になろうとしている作家がこれほどクオリティの高い作品を提供していることに驚きを感じざるを得ないのだ。

つまり今、日本のベストセラー作品を35年目の作家が叩き出していることが凄いのである。

我々は本当に幸せな時代に生れたと感謝すべきだろう。なぜなら私たちには東野圭吾氏がいるからだ。

少年少女たちに読書の入口となってきた星新一氏、筒井康隆氏、赤川次郎氏、西村京太郎氏、内田康夫氏と連綿と続く国民的作家たち。東野氏は既にこの系譜に連なる国民的作家となった。さてこの東野氏に続く作家は誰なのか?
それはまだまだ先の話になりそうである。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

技巧が冴える、小咄集

2011年から16年にかけて雑誌に掲載された作品9点を集めた短編集。それぞれ独立した話だが、舞台設定や動機などで、日本人らしさという共通点があると言えば言えなくはない微妙なつながりで作品集として成立しているエンターテイメント作品である。
一つ一つの作品ごとに、きちんとした伏線と回収があり、しかも絶妙のオチが待っているという、読んでいて楽しい作品ばかり。今さらながら、東野圭吾のストーリーテラーとしての才能に感服した。
軽いミステリー作品のファン、ミステリーの初心者はもちろん、本格的なミステリーファンでも息抜き的に楽しめる、優れた作品集である。

iisan
927253Y1
No.1:
(7pt)

素敵な日本人 東野圭吾短編集の感想

東野の読みやすい文と話のてんかいで
楽しく読めます。
 
「素敵な日本人」
本の内容とは会ってないような気がする。



jethro tull
1MWR4UH4

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