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オーデュボンの祈り



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オーデュボンの祈りの評価: 6.05/10点 レビュー 20件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.05pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全5件 1~5 1/1ページ
No.5:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

心くすぐられ、そして満たされ

2000年代のミステリシーンを代表する作家となった伊坂幸太郎の、奇想天外なデビュー作。
しかし奇想天外でありながらこの上なく爽やかで、そしてヤバい。

数あるミステリを読んできたが、人語を話し、未来を予測する能力を持つ案山子が殺される事件を扱ったミステリはまさに前代未聞だ。

それを筆頭に嘘しか云わない画家、園山や島の秩序を守るために殺人が許されている桜と云う男。天気を当てる猫に、300キロを超える大女など不思議の国に迷い込んだかの如き世界が繰り広げられる。

こういう風に書くとディキンソンのような過剰に異様な世界ではなく、牧歌的で寓話的なところが特徴的だ。案山子が優午と名付けられ、少し先の未来を予見できることが普通の日常として受け入れられるような普通に満ちた世界が荻島にはある。

この荻島と云う不思議の国の成立ちまでも伊坂氏は細やかに設定している。
150年もの間鎖国状態であり、独自の秩序で生活されている荻島という孤島。しかし鎖国状態でありながら、腕時計や洋服、車も走っており、どこか胡散臭さを感じる、テレビのセットのような作り物めいた世界を感じさせるこの島はその由来を伊達正宗の時代にヨーロッパへ渡った支倉常長によって隠密裏にヨーロッパと交易を成すために開かれたとされている。

さらに言葉をしゃべる優午の成立ちさえも時代小説の体裁で語られるのだ。それはお伽噺のようなエピソードであるが、その物語の強さを感じるお話には妙な求心力がある。

そんなゆっくりとした時間が流れる荻島でも犯罪はある。婦女強姦から弟殺しと云った残酷なエピソードも挿入される。
それはどこか「桜の木の下には死体が眠っている」という言葉のような、至極平和な生活に潜む闇のように。それら犯罪者に引導を渡すのは警察ではなく、桜と云う名の殺し屋だ。人を殺すことを認められたその男は寧ろ日常は異常な世界と共存して成り立っているのだと我々に知らしめているようにも取れる。日常生活を営む中で、我々が食む牛肉や豚肉を生産するために、知らない所で屠殺が行われているという惨たらしい事実のように思える。

対象的に極悪非道的な恐ろしさを見せるのは伊藤が逃げた仙台で元同級生で警官の城山のパートだ。
警官でありながらも人間の偽善性を試すように一般人の日常を暇つぶしに蹂躙する非情さを持っている。しかも感情で心を乱すことはなく、冷静かつ冷徹。城山によって囚われの身となった伊藤の元彼女静香の言葉を借りれば、まさに無敵の存在だ。

そして物語の終盤、それまで伊藤の目を通して我々読者に島民たちの奇妙な振る舞いや行為がパズルのパーツが収まるかのようにカチカチとある一点に収束していく様はまさに壮観。

しかしなんという世界観なのだろう、この作品は。
こののどかな営みの中で起こる人の死は決して少なくないのにも関わらず、それをあるがままに受け入れ、日常が続いていく。それは一種、天藤真氏の作風にも似ている。
そしてただ単純に穏やかで平和な世界ばかりが描かれるわけではなく、きちんと傷ましい事件や残酷な所業も挿まれる。それはこの世は決して綺麗事だけでは成り立っていないのだと我々に諭すかのように。

とにもかくにも島の住民日比野によって紹介される一種変わった島民たちのエピソードや過去、そして時折挟まれる伊藤の祖母の語りなどは実に示唆に富んでおり、日常生活で出来た心のささくれのどこかに引っかかってなかなか離れない。
それは教訓と呼ぶほどには説教じみてはないのだが、普通に過ごしていて忘れがちな約束事を思い出させてくれるかのような但し書きのように気付かせてくれるのだ。

名セリフに溢れた本書の中で私が最も印象に残ったのは優午が島唯一の郵便局員、草薙を評した言葉だ。
「彼は花と同じで、悪気がありません」
こんな文章に出逢うだけで私は何だか幸せな気持ちになってしまう。

物語の中で唯一暗い光を放つ存在、城山も静香を人質にして荻島に渡る。この物語の中で最もスリリングなのがこの城山のパートなのだが、実に爽快な始末の付け方を伊坂氏はしてくれる。

そして物語は唯一残った謎、「この島に足りない物」の謎を解いて実に気持ち良く終えるのだ。

ああ、まだ私の胸に留まる伊坂氏が残した歓喜を挙げたくなる嬉しさにも似た何かが心くすぐって堪らない。
なんと優しさに満ちた物語か。
なんと喜びに満ちた物語か。
こんな物語を紡ぐ作家が現れたことを素直に寿ぎたい。


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Tetchy
WHOKS60S
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

オーデュボンの祈りの感想

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hiloaki
QC6TR8ZY
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

オーデュボンの祈りの感想

よくこんな設定を考えますよねえ。
でも面白かった。


▼以下、ネタバレ感想

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レッダーン
JX3FQ5JY
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

オーデュボンの祈りの感想

未来が見える案山子がしゃべる・・
独特のルールを持つ島の住人・・など、奇抜な設定ですが、すんなり入れました。
謎解きのように回想がはいり、納得しながら話を読み進めることが出来ます。
物事は複雑に見えて、原理は単純なもの。
人の未来も、単純な願いから始まるってことでしょう。

Hidezo
GX0TU62Y
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

オーデュボンの祈りの感想

これが伊坂さんのデビュー作だとっ!?いきなりこんなすごいのだしたのかっ!
最後に全てがつながる爽快感はさすがは伊坂幸太郎です。
案山子が喋る(←裏表紙にも書いてあります)など、展開は斬新です。
実に面白かったです。

アンコウ
BKBVHN0W

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