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フランケンシュタイン 野望



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【この小説が収録されている参考書籍】
フランケンシュタイン野望 (ハヤカワ文庫 NV ク 6-12)

フランケンシュタイン 野望の評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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No.1:
(8pt)
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フランケンシュタインの新機軸

クーンツの手によるフランケンシュタイン譚。
メアリー・シェリーのオリジナルをリメイクするのではなく、彼女が生み出したフランケンシュタインが実は現実の産物であり、その人造人間、そして創造主であるフランケンシュタイン博士が今なお21世紀の世に生きているというパスティーシュになっている。

正直に云って、最初は全く期待していなかった。今更フランケンシュタイン?クーンツも他の作家からアイデアを拝借するなんて衰えたか?
そんな侮りめいた先入観を抱いたが、読後の今、己の不明を恥じる思いで一杯だ。

これは面白い!
最近読んだクーンツで面白かったのはオッド・トーマスシリーズの第1作だったが、本書はそれに次ぐ面白さと云えるだろう。

メアリー・シェリーが創造したフランケンシュタインを換骨奪胎してクーンツなりのアレンジを加えて、世界観を広げていることに感服した。

まず原典では愚かな犠牲者とされているフランケンシュタイン博士、そして怪物とされている人造人間の価値観、役割を180度転換させているのがミソだろう。

フランケンシュタイン博士ことヴィクター・ヘリオスは現代まで生き残り、世間では実業家として名を馳せているが、実は自らが生み出した完璧な人類、新人種による新世界の創造を夢見ており、近い将来全ての人間を新人種に変換して理想社会を作らんと画策している。

一方彼によって生み出された忌まわしい怪物はデュカリオンと名を変え、200年もの間、知識と人間の文化、宗教を学び、逆に人間という存在に敬意を払うまでに改心している。

つまり悪玉と善玉が逆転しているのだ。

さらにヴィクターは200年の間に蓄積した知識で新人種と呼ぶ人間をしのぐ身体能力を持ち、感情を制御し、ヴィクターに従順である存在を多く生み出し、人間社会に溶け込ましていた。

通常ならばこの新人種対人間+デュカリオンという二極対立の構図を描くのがセオリーだが、クーンツはさらにヴィクターが生み出した新人種たちが自らの生き方に疑問を持ち、本来逆らうことが出来ないようにプログラミングされているのにもかかわらず、創造主たる博士に叛旗を翻すという、もう1つの敵を設定した。

これにより物語に幅が広がり、様々なドラマを生み出す効果が生まれた。

作者によればこのシリーズは三部作になるとのことだが、解説によれば5巻目が近日中に本土アメリカで刊行されるとのこと。従ってもう1つのシリーズ、オッド・トーマスとは違い、本書で起きた事件や出来事のいくつかは完結せずに本書以降に持ち越される。

例えばカースンの自閉症の息子アーニーの幸せそうな笑顔を見て、なぜ彼がそんな幸せなのか秘訣を知りたいと思い、彼と逢うことを決意し、ヴィクターの研究所を脱走する。

また神父として人間社会に送り込まれた新人種パトリック・デュケインは神への信仰を重ねることで、ヴィクターに逆らえないプログラムを凌ぐことに成功する。

そして本書における悪役である新人種の警官ジョナサン・ハーカー。彼は誰も愛せない新人種の特徴に絶望し、その孤独を癒すために幸せを追求するが、次第に彼の内部に何かが生まれ、やがてその存在が彼を支配し、生まれた新たな生命はいずこへと消えてしまう。

これらが今後の物語でどのように物語に関っていくのか、非常に興味深いところだ。

また本書で最も印象に残ったキャラクターは連続殺人鬼ロイ・プリボーだ。
彼は完璧な女性を求めて、理想のパーツを持つ女性を殺し、そのパーツを切除して冷蔵庫に保管して愛でる精神異常者だが、この設定を読んで思い出したのが2つある。
1つは島田荘司氏の『占星術殺人事件』で出てくるアゾートだ。これは美しい女性のパーツを組み合わせて生み出された完璧な美女のことで全く同じだ。
しかしそれよりも強く思い出したのは荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部に出てくる吉良吉影だ。日本の漫画は数多く海外へ輸出されているが、まさかクーンツがジョジョを読んでいたとは思えない。しかしよく似た人物設定だ。

しかし2000年代になって、なぜアメリカモダンホラー界の大御所のクーンツが今更ながらにオッド・トーマスや本作のフランケンシュタインといったシリーズ物を手がけることになったのだろうか?
確かに最近のノンシリーズは似たような設定をキャラクターと場面を変えて語っていただけのマンネリ感はあった。それを打開する為のシリーズ作品の創作なのだろうか?

しかしオッド・トーマスシリーズが主人公オッドの一人称叙述で彼の考えや感じ方を逐一細かく叙述しているがために饒舌になり、1章の分量も多いのに対し、本書は三人称叙述で1つ1つの章が10ページに満たなく、中には2ページという短さで語られることから非常にテンポ良く物語が展開しているのが今までのクーンツ作品では見られなかった特徴だ。これが映画のカメラの切り替えを思わせ、非常に小気味よく物語が進むのも心地よい。
何より、最近のクーンツ作品で見られた陰鬱になる現代社会の抱える異常な家族環境のエピソードや説教くさい警句が極力抑えられているのが本書のスピード感を醸し出し、エンタテインメント性を高めている。

全くノーマークだった本書が予想外に面白かったのは収穫だ。クーンツ未だに枯れず。版元には一刻も早く次作の訳出を願う。

Tetchy
WHOKS60S

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