アーサーとジョージ
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途中までは、二人の人生を外からただ眺めてそこそこ平和に毎日数ページずつ読んでいたのが、途中からぐわっと引き込まれてその後はやめられず、夜を徹して読みきってしまった。 ジョージの描写に、最初から微かに漂う違和感。それが彼の人種的特徴と、身体的特徴と、何より彼の持って生まれた性質に由来するものであることはすぐには明かされず、しかもジョージの話をしているときはジョージの視点から語られるから違和感の正体がなかなか分からない。これがなかなかにしんどい。ジョージ自身が頑強な精神を保ち続けてるからこそ、彼の辿った人生の異質さがよく分かる。 彼に自分と似た境遇・気質を見出す人は、読み進めるのを辛く感じるだろう。文体は淡々としているけれど、差出人の分からない悪意の手紙、何年も続く中傷、家族の疲弊、それから…外の世界にうっすらと膜が張られたような感覚、信仰への不審。私自身にジョージと重なる部分があるから、本当に堪えた。それに更に被せるようにして冤罪事件がやって来る。これは単なるミステリーではなく、本当に実在した人の話だ。彼は無実の罪である日突然捕らえられ、法廷に立たされ、身に覚えのない罪が自分にじわじわと近寄ってくるのを、最初は弁護士としての立場から自信をもって、しかし最後は絶望と諦観とともに眺めていた。「敵」は複数いる。徒党を組んでる訳ではなく、別々の観点から敵になった者たちが、無防備なジョージに一斉に襲いかかる。怖いのは、ひとつひとつの事象は(冤罪を別として)それほど極端なものではないが故に、真綿で首を締めるようにじわじわやられていくのだ。読んでいて苦しくなった。 アーサーの方は最初そんなに感情移入できなくて、歴史的に有名なシャーロックホームズの生みの親として伝記を読むみたいな感じでより客観的に楽しんでいた。コナン・ドイルについて何か知ってる訳ではなかったからそれだけでまあ面白かったんだけど、途中、そうジョージの物語が急展開を迎えたころ、アーサーの私生活にひゅっと心臓を掴まれるような場面があり、そこからアーサーの物語にも人間臭さが増してくる。 そしてやっぱりジョージと比べてしまうんだよなあ。読んでいるとアーサーの天性のある種の傲慢さというか、そういうものが辛くなってくる。横でジョージの物語が進行しているからこそ。同じ人間でもここまで物語は変わってしまうのか…と。二人の人生はあるとき交差するのだけど、その交差の仕方も偶然の産物で、あれがなかったらジョージの汚名は雪がれなかったんかい、と思うと苦しい。でも世の中にはこんな事例が山ほど隠れているんだろう。 アーサーがジョージに初めて出会った瞬間、あの描写がすごくよかった。それまで霞がかっていたジョージの姿が、クリアーに、且つ美しさと力強さを持って私たちの前に現れ始める。アーサーの観察眼によるものだ。ここで本当に、溜めに溜めてきた何かが救われた気がした。 | ||||
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『アーサーとジョージ』(ジュリアン・バーンズ著、真野泰・山崎暁子訳、中央公論新社) は、シャーロック・ホームズ・ファンには興味深い長篇小説です。ホームズならぬコナン・ドイルその人が実際に解決した冤罪事件がドキュメタリー・タッチで描かれているからです。 著名な推理作家、アーサー・コナン・ドイルと、アーサーより17歳年下で地味な事務弁護士であるジョージ・アーネスト・トンプソン・エイダルジの人生が交差するのは、1906年12月末のことです。ジュージは連続家畜殺しという冤罪で懲役7年の刑を宣告され、監獄に送られてしまいます。3年後に仮釈放されたジョージが面識のなかったアーサーに自分の無実を証明してほしいと依頼したことから、二人の関係が始まったのです。 「奴ら(アンソン警察本部長を頂点とするぼんくら州警察、裁判所、内務省)の目を覚まさせてやる。無実の人間をこんな目に遭わせたことを後悔させてやる」と、アーサーは怒りに燃えて、警察本部長との直接対決に立ち上がります。ジョージが仮釈放されたといっても、有罪判決が取り消されたわけではなく、投獄に対する謝罪もないからです。有罪判決が取り消されない限り、ジョージの弁護士資格は回復されないのです。 「あなたは私を探偵として雇うのではありませんよ、エイダルジさん。私はあなたに力をお貸ししたいのです。そして我々があなたの恩赦のみならず、不当な投獄に対する多額の補償金も勝ち取った暁には・・・」。「お金は重要ではありません。私は名誉を取り戻したいのです。事務弁護士として再登録したい。それだけが私の望みです。再び開業を許されること、平穏で有益な人生を送ることが願いです。普通の生活をすることがですね」。 警察の怠慢、不法を暴くべく、ホームズ張りの推理力と粘り強い調査によって、アーサーがジョージの無実を証明していく9カ月間の過程は、ミステリのようにスリリングです。 そして、アーサーは遂に真犯人の特定に至るのです。「今回、自分(ジョージ)に与えられた救済は、サー・アーサーの献身と努力、理詰めの論法、それにサー・アーサーが得意の『一騒動起こすこと』(=メディアの利用)を抜きにしては実現しなかった」。 「サー・アーサー、この胸にある感謝の気持ちは到底言葉では言い表せません――」。「表せなくてよろしい。私がこの仕事をしたのは君から感謝してもらうためではないし、君からはすでに十分に感謝してもらった。私がこの仕事をしたのは、君が無実の罪を着せられているからだし、まともに機能しないこの国の司法制度と官僚組織を恥ずかしく思うからだ」。事実、この冤罪事件は法曹界に大きな物議を醸し、司法行政改革に繋がっていくのです。 万一、コナン・ドイルがシャーロック・ホームズのように颯爽と事件を解決できなかったらどうしようという懸念は杞憂に終わり、ホッとしました。 | ||||
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上下二段の476ページ。読むのに二日かかりました。 序盤、はずれやったなーと思ったのですが、 ジョージが事件に巻き込まれていくあたりからぐいぐい引っ張られまして、 ガンガン読んだのですが、 ハリウッド系エンターテイメントに毒されている私には スッキリハッキリしない結末にモヤモヤ。 小説というより、コナンドイル人物録として読むと面白いかな? | ||||
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とてつもなく面白かった。私のなかでコナン・ドイル株が急上昇したが、それもこれも作者ジュリアン・バーンズの手腕のおかげであろう。かつて『フロベールの鸚鵡』などを手にし、結局通読できなかった(しなかった)作家の株も私のなかで大きく上昇した。 日本のある映画会社の社長が、映画を観させるのに必要なものとして「泣く、笑う、握る(手に汗を)」と言ったそうだが、ここにはそれらすべてがある。しかも見事なかたちで、と補足しておこう。なにしろその社長が指揮してつくった映画に、それらの要素があったにしろ、およそ繊細さに欠けたものが多かったからである。 ミステリーとしても読むことができるため踏み込んだ内容紹介をしたくないが、私が不思議に思うのは、うかつにも今まで知らなかったこのエイダルジ事件が、たとえば『クロニック世界全史』(講談社)のような本に一行の言及もないことである。ドレフュス事件は大きな項目をたてて記事になっているのに、である。 読みながらグッときて、じわっとくる場面のなかでも最高なのはドイルの二度目の結婚式において、新妻が招待されたジョージに言葉をかけるところだろうか。こうしたほんの些細な紹介さえもが、これから本書を読むひとの感興をそいでしまうのではないかと恐れる。 デイヴィッド・ロッジの『作者を出せ!』がそれなりに面白かったのは、主人公がヘンリー・ジェイムズだからだった。ジェイムズへの長年の関心を通して、その一筋縄ではいかない伝記小説を読んだのだが、その意味において本書の主人公であるコナン・ドイルに対しては、ホームズものをいくらか読んでいる以上の関心はなかった。そのことが今回の読書に新鮮なショックともいうべき作用をもたらした一因なのかもしれない。 | ||||
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