(短編集)
立春大吉
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戦後を代表する探偵小説家でありながら半ば忘れられた作家の文庫による全集。第一巻には、作者の分身的なキャラクターを探偵役に起用したシリーズものを含む本格ものを中心とした構成。嘗ての全集の月報への寄稿文など資料の充実っぷりが特に魅力。 | ||||
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推理小説はあまり読まない。犯人がわかることはほとんどなく、探偵(役)が語る真相がピンと来ない時もある。なので推理小説集としての本書を語る筋合いのものではない。 なんとも凝った作家であるな、という印象。謎解きの構成・論理よりも、それを読ませる・成り立たせるための作品の構成・力学に力が注がれているような。それも緻密さとして文に表れてくるのではなく、情感として出てくるようにするための。 決して読みやすい文章ではないけれどじっくり構えて読むと、じわじわと伝わってくるものがある。ああ犯人わかってよかったというカタルシスではなく、なんというか、答えは出たけれど、オチは付いたけれど、心にモヤモヤと残るものは・・・。戦後という時代か、作者自身の背負った何かか。 推理が苦手なので心理に興味を持つことになるのだが、読んでいくうちに登場人物の心理ではなく、作者の心理に興味が移っていく。彼の心理のその背景にあるものが気になってくる。技巧的な推理モノという印象は薄く、言い過ぎかもしれないけれど私小説に近い読後感がある。 編者の日下さんによると、本作は(大括りとして)本格推理集とのことで、推理苦手者としては2巻目以降に掲載される作品にはさらに惹きつけられそうだなと期待。 | ||||
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カミングアウトするが、私は小栗蟲太郎のゴテゴテに装飾された文体が好きではない。 澁澤龍彦が蟲太郎と等しく偏愛する大坪砂男も、程度や質の違いこそあれ他の探偵作家がやらないような独特の装飾文体を特徴とする。 戦後派五人男の一人であるこの男は明治37年生まれ。横溝正史より2歳年少なので戦前デビューしていてもおかしくはなく、遅咲きなのだ。 第一巻となる本書は謎解き要素の強いものを集めた内容。読み始めた時はその過剰な言い回しにうっとおしさを感じていた。 ところが、冒頭の鑑識課・緒方三郎技師もの4篇を過ぎた頃にはすっかり紙面に引き込まれている自分に気付く。 三代にわたり未明の古井戸で頭部を砕かれ屍となる白無垢姿の女達(「三月十三日午前二時」)。 闇の崖から舞い上がる龍・鳴く骨壷・妖しき光を放ったその骨壷から現れた赤児(「大師誕生」)。 未亡人となった嫂を娶った弟の前に出征で死んだ筈の兄が帰ってきた三角関係が起こす恐ろしき悲劇(「涅槃雪」)。 抗い難いそのドラマツルギーには、文体が気になる事さえ忘れてしまう。私の考える大坪砂男の上出来な作とは、 「チェスタトン流儀の謎・トリック」と「終戦直後、脂がのりきった時期の横溝正史が描く和の趣き」を融合した感じに仕上がったものだと思う。 「黒死館」のようにエジプトの古文書でも読むようなしんどさではなく、選び抜いた日本語の綴れ織だから、一度ハマれば抜け出せなくなる人もいることだろう。 今回の全集では薔薇十字社版全集(昭和47年)未収録分を大幅増補との事だが、本書では「浴槽」「贋作楽屋噺」窪田般彌の旧全集書評の三点にとどまった。 この点は2巻以降に期待したい。 抜打座談会事件で本格派作家(特に高木彬光)の怒りを買ったり、探偵作家クラブ資金問題で文壇を追われたり、良家の出にもかかわらず非業の人生を送った大坪。 だが没後2度もこんな立派な全集を出してもらえるのだから、禍福は糾える縄の如しとはよく云ったものだ。 | ||||
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収録作品 「赤痣の女」 「三月十三日午前二時」 「大師誕生」 「美しき証拠」 「黒 子」 「立春大吉」 「涅槃雪」 「暁に祈る」 「雪に消えた女」 「検事調書」 「浴 槽」 「幽霊はお人好し」 「師父ブラウンの独り言」 「胡蝶の行方−贋作・師父ブラウン物語」 第二次大戦後の探偵文壇に乱歩に激賞された、比類なき超論理の短編「天狗」(本書には未収録)で彗星の如く登場した寡作の天才作家、その完全全集の第一巻。(薔薇十字社版全集(1972)にも未収録の新たに発掘された作品、随筆を含む) その推敲を重ねたこだわりぬいた文体は弟子に当たる都筑道夫に濃密な影響を与えている。(両者の交流は都筑の自伝『推理作家の出来るまで』に詳しい) 「天狗」と並びアンソロジーなどにも頻繁に収録される密室物の傑作「立春大吉」にしても、その魅力を支えているのは憑かれたような主人公の独白体にあり、複雑な凶器トリックの「涅槃雪」も異様な三角関係を描写する文体の熱がそのトリックの実現性に有無を言わせない説得力を与えている。 文体や構成の美意識にこだわるあまり、既成の探偵小説の枠を結果的に破らざるをえなかった点が寡作をしいられ、作者晩年の金銭的醜聞による苦境や不遇につながったとは穿ちすぎであろうか。 「黒子」のメタフィクションめいた構成や「赤痣の女」の結末の探偵の発言の破調ぶりにもその特徴がよく現れている。 子息と谷崎潤一郎の弟による回顧談(貴族院議員の六男として生まれ、谷崎夫人との関係など奔放な女性関係、骨董商や警視庁鑑識班員を経て佐藤春夫の弟子となった経歴、悲劇的な晩年などその人生自体がまるで一種の貴種流離譚のようだ・・・)や澁澤龍彦らによる批評を収録した日下三蔵氏による編集はいつもながら丁寧な仕事ぶり。 巻末の北村薫氏のエッセイも愛情に溢れる、素晴らしい全集の開巻。 | ||||
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