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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数144件
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まさにタイトルの大誘拐の通り、100億円という莫大な身代金を巡り日本全土を巻き込み、さらには世界規模にまで注目を集める絶大なスケールの誘拐事件が題材の大作ミステリです。
しかし作中では誰も死なず、登場人物に根っからの悪人も一人もいない、「安心して読める」ミステリでもあります。 自分は普段は登場人物が悪人やキチガイだらけで、皆で憎しみあって殺し合うような作品ばっか読んでますが、同じ犯罪小説でもこういう真逆の作品もいいものだと思いました。 ただそれだけに誘拐を題材にした作品に、最終的な犯人の生死や人質の安否が読めない緊迫感を求める人には逆に物足りないものがあるかもしれません。 70年代発表の作品と言うことで、随所に時代を感じはしますが、悪い意味での古臭さは感じず、あくまで当時という時代を舞台にした現代にも通じる名作だと思います。 とにかく本来人質であるはずの刀自のスーパーおばあちゃんっぷりが痛快でしたね。 途中の外国人記者のインタビューの場面でカタカナ交じりの文章が数ページだけとはいえ、読みにくくてしょうがないところだけがちょっと不満でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「仏陀が悟りを開いたのはいつ?」「邪馬台国があったのはどこ?」「聖徳太子とは何者?」「信長はなぜ打たれた?」「明治維新が起きたのは何故?」「キリストはなぜ蘇った?」
バーのカウンター席にて行われる歴史の謎の議論……という形式の連作短編で、「死なないミステリ」どころか「事件すら起こらないミステリ」そもそもこれをミステリと呼んでいいのかさえ微妙です。 誰もが知っている一般常識ながら、謎の残るこれらの議題に、これまでにない「な、なんだってー!」といいたくなる新解釈が提示され、突拍子も無い意見であるのに、どこか説得力があり、納得してしまいそうになります。より詳しい知識のある人なら「いや違う!」と反論したくなる部分も多いのでしょうが、この物語はあくまで「飲みの席」での会話だということを念頭において、自分のグラス片手に楽しむのがいいのかもしれません。 以下個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『金田一耕助シリーズ』ですが、耕助の出番は少なく、今回主役となるのは音禰という、絶世の美貌を持つ女性です。
設定的には『八つ墓村』と『犬神家の一族』という同シリーズの二大有名作を足したようなストーリーですが、全体を通して見ると本格ミステリというよりはラブロマンス&サスペンス小説といった印象の作品でした。 また半分官能小説と言ってもいいような、かなりエロティックな話でもあり、箱入り娘として育てられてきた主人公の美女が殺人事件に巻き込まれると同時にこれまでの生活で決して経験することのなかった、淫靡な世界に否応なしに触れることになっていく展開にも目が離せません。 いずれも一癖も二癖もある女たちと、その女たちにはそれぞれやはり一筋縄ではいかない男たちが背後に控え、遺産絡みの命がけの駆け引きを演じていく物語は、今でいうチームバトルロイヤル作品の様相も呈しており、この点で見るとすごく時代を先取りしていると言えるかもしれません。 しかしはっきり言って設定にも展開にもかなり無理があって粗が目立つ作品です。 まず遺産額が「百億円」ってやりすぎでしょう。正直「横溝先生、小学生じゃないんですから……」と思ってしまいました。 現代でも文字通りケタ違いの大金ですが、この作品の発表当時の貨幣価値だとさらにその10~30倍くらいでしょう? スケールの大きさよりも逆に安っぽさを感じるだけでなく、そんな莫大な額だったら逆に取り分のために殺人犯す奴はいないだろ……と思ってしまいます。 他にも細かいところでツッコミどころはいっぱいあり、ミステリ作品として見るとお世辞にも出来がいいとは言えないと思いますが、単純に娯楽作品として見るなら個人的には面白かったですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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同作者の『告白』のブラックさが面白かったのでこちらも読みました。 それぞれ事情やコンプレックスを持つ二人の少女が「人が死ぬところを見たい」というなんとも不純な動機でそれぞれ、老人ホームと小児病棟を訪れる……あらすじの時点でロクでもない予感のするお話。 今作も期待を裏切らず、いろいろと酷い話なのになぜか暗さや胸糞の悪さは感じずむしろ笑えるという、独特のブラックユーモアが健在で面白かったです。 本当にこの作者はひねくれているな……と思い、そしてひねくれた私はこの作風が大好きです。 ちょっと*ごとに頻繁に一人称が入れ替わるのが最初判りにくく、冒頭20ページぐらいを一度読み直すことになりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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まず最初に「とうとう平成生まれの推理作家が出てきたか……」と思いました。
そしてまさに今時の子(?)と言うべきか、オタクという設定の探偵による漫画やラノベのサブカルネタがふんだんに盛り込まれ、むしろ往年のミステリファンがついていけない空気になっています。これは本筋的にはあってもなくてもどうでもいいものですし、賛否両論かもしれません。(かくいう自分は全く自慢になりませんが「おっはよほほ~ん」含めほぼネタが判ったので下手な衒学趣味とかより楽しめましたけどね) しかし内容そのものは、この上なくオーソドックスな正統派本格ミステリで、クドいくらいのロジックにより導き出される真相はまさに新たな「日本のクイーン」の登場を思わせました。 「○○館の殺人」というタイトルはまるで綾辻氏の「館シリーズかよ!」と思ってしまいますが、タイトルに全く偽りなく、ストレートに学校の体育館で起こった密室殺人が題材で、逆に新鮮で面白いと感じました。 手頃な分量と読みやすい文章で良くまとまっていますが、長編小説で殺人が一件、その後も特に大きな出来事などはないので少し物足りない感はありました。 あと探偵役は個性的ですが、主人公(?)の女の子はちょっとキャラが弱すぎるかなぁと。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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時代設定は昭和30年前後くらいの日本でしょうか。
いずれも名高い資産家の令嬢と、彼女たちが集う読書サークル「バベルの会」を題材とした五つの物語で構成される短編集です。 どの話も終盤ではいろんな意味で裏切られるような衝撃的な展開が待っています。 文章そのものはライトで読みやすいですが、内容は割りとヘビーで、一気読みすると精神にクるものがあるかもしれません。 しかしどの話も面白く、長編のネタにしてもいいぐらいレベルが高い作品だと感じました。 「読書サークル」が共通の題材であるため、作中で多くの古典が引用されますが、私の場合読書傾向が偏りすぎなのもあり、元ネタは3分の1もわかりませんでした。 この辺が全てわかるような人はより楽しめるのかもしれませんね。 ※以下、個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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昭和中期を舞台に、日本の土着・民俗学を題材としたホラーと本格ミステリが見事に融合し、独特の世界を作り出している『刀城言耶シリーズ』の第一弾です。
人ならざるものの仕業としか思えぬ怪異、しかしその真相はこの上なく本格ミステリのロジックで解決する二面性がまさに「黒」と「白」あるいはそれらが混ざり合ったそれぞれのカラーの魅力を感じるシリーズです。 また、このシリーズは作者が非常に綿密な取材で知識を身につけ作品を描いていると感じますが、それはあくまで物語にリアリティと説得力を持たせるためであり、よくある衒学趣味的な蛇足さや嫌味さがないところが個人的に好きですね。(あくまで個人の感想です) 序盤から次々に起こる怪異の怖さから、終盤の怒涛の謎解きまで楽しく読めましたが ・物語の視点が目まぐるしく入れ替わって時系列も前後するため混乱する。 ・名前が同音異句の「サギリ」という女性が大量に登場してややこしい。 ・部屋の間取りや村の地図が頭に入りにくい(図があっても) など、全体を通してちょっと読みにくい、わかりにくい部分が多いのが難点ですね。 これは後のシリーズでは改善されていった点だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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龍の彫像のある中庭を縁側状の廊下が囲むようにして多数の部屋が連なるという、特殊構造の元・旅館、「龍臥亭」を舞台に繰り広げられる連続殺人事件。
館ものの超長編『暗黒館』『人狼城』には流石に及ばぬものの、それらに準ずるぐらいの分量を持つ大作です。 横溝御代の有名作『八つ墓村』同様、有名な「津山30人殺し」がモチーフとして扱われていますが、この作品に関してはもはやモチーフというよりは、事実上あの事件そのものを取り扱った社会派ミステリの側面もあるかもしれません。 (事実作者の島田氏は実在のあの事件を正しい形で知ってほしいという主張をあとがきでもされています) そしてこの作品の最大の特徴は『御手洗潔シリーズ』でありながら、御手洗潔は外国におり、最後まで登場せず、事件の渦中にいるワトソンくん役の石岡くんに対して一度だけ、短いごく簡単なヒントと激励の手紙を送るだけという完全に石岡が主役であり探偵役という物語です。 次々と人が殺され、そのたびに謎が増えていく事件に、読者も石岡本人も「こんなの御手洗じゃなきゃ無理だろ~」と思ってしまう中、それでも手紙の御手洗の言葉を契機として、少しずつ石岡は自覚と自信が芽生えていきます。 普段は頼りない石岡和己というキャラをみんなが見直すことになると同時に、手紙の中の言葉だけでも御手洗潔というキャラの存在感と影響力の大きさを改めて感じる一作です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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「フリークス」=異形・奇形などを指す単語ですが、この作品は決して比喩ではなく、タイトルどおりそんなフリークスたちが多数出演するお話。
著者である綾辻氏の処女作を含めた、三つの短編(中編?)で構成されています。 個々の話に繋がりは無いですが、精神病棟の患者の記録という共通の形式がとられており、まさに心も身体も異形となった人々の物語です…… いずれも読後感が良いとは言えず、グロ要素も強めの悪趣味な話で賛否両論ありそうですが、私は三作とも好きですね。 ホラーと本格要素が絡み合い、叙述トリックまで仕組まれているまさに「綾辻行人」という作家の魅力が凝縮されている一冊だと感じました。 以下、個別ネタバレ感想です ▼以下、ネタバレ感想 |
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・作中人物が構想を語る「AがBに殺され、BがCに殺され、CがDに殺され、最後にDがAの生前仕掛けたトリックによって殺され、4つの密室殺人が起こる」という筋書きの推理小説。
・その小説の構想どおりに実際に次々起こる殺人を、まさに「読者目線」で、事件を他人事のように好き勝手に推理していく素人探偵たち ・今日に至るまで、推理小説の定番のアンチテーゼとなるような作中人物のとある主張 作中作、ミステリ議論、読者に訴えるようなメタな台詞……とあらゆる意味でアンチミステリ的な題材、作風であり『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』と並ぶ三大奇書と呼ばれている作品ですが、その2作に比べればいい意味で普通のミステリだと思いました。 おそらく発表当時は極めて画期的、前衛的な作品だったのでしょうが、今はそれこそこの作品の影響を受けて似たような手法、題材を使った作品が増えているため、そこまで奇抜な作品とは映らないのでしょうかね。 読みやすさという点でも三大奇書の中ではこれが圧倒的に読みやすいので(他2作が読みにくすぎとも言えるのだけれど)初心者向き、とまでは言えませんが、ミステリ好きを公言できるぐらいの、中級者を自称する段階になったら読んだ方がいいのかなと感じました。 個人的には「奇書」というよりは普通に「名作」「大作」と呼ぶべき作品ですね。 結構な分量の作品ではありますが、それに見合った内容の濃さなので、冗長さなどは感じませんでした。 非常にたくさんの密室殺人とトリックが登場し、一つ一つは今見ると大したものではない(当時にしても既存の名作などの焼き直し?)ですが密室トリック好きにはそれだけでお腹いっぱいになれる作品でもありますね。 どうでもいいことですが、主要登場人物の中で最年少とはいえ、もう高校を卒業する年齢の男性が、他者から徹底的に、地の文でまで「藍ちゃん」呼ばわりされるのはちょっと違和感を覚えるのですが、この時代の小説ではよくあることなのでしょうか? ▼以下、ネタバレ感想 |
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第二次世界大戦直後、1940年代後半のニューヨークで発生した連続絞殺事件。
犠牲者の数が増えると、絞殺犯にはやがて新聞紙上で、被害者を殺害した絹紐を尻尾に見立てた<猫>という異名がつけられた。 被害者はニューヨーク市民であること以外は年齢、性別、人種、職業、素行全てがバラバラで共通点が見えず、無差別に行われる連続殺人にニューヨーク全土は絞殺魔<猫>の恐怖に包まれる…… 一見異常者による動機なき無差別殺人だが、その裏に犯人の真の動機や意図があるはず…… というホワイダニットな作風はクリスティの『ABC殺人事件』を意識し、挑戦しているような所がうかがえました。 (実際『ABC事件』の根底に関わる部分のネタバレに近い台詞もあるので、未読の方は先にそちらを読むべきだと思います) しかしもちろん真相は全く違った形が用意されていました。 連続殺人犯<猫>に対する、ニューヨーク市民の恐怖によって発生するさらなる問題や、 名探偵という存在があるがゆえ、殺人をはじめとする悲劇が起こる、所謂「後期クイーン問題」に対する、クイーンの苦悩が描かれるなど、見所の多い作品です。 完成度も高く感じ、楽しく読めました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「甲賀」と「伊賀」。
2つの忍びの里から各十人ずつ、超人的な忍の術、技を身に着けた総勢二十名の忍者たちが殺し合いを行うという、現在では漫画やラノベなどでメジャーなジャンルとなった、能力バトル、バトルロワイヤル系の作品ですが、この小説の発表は1958年とかなり古い作品です。 能力バトル系の作品が市場に多く見られるようになったのは『ジョジョの奇妙な冒険』の三部(1989年)のあたりから。 バトルロワイヤル系が市場に多く見られるようになったのはタイトルどおり『バトルロワイヤル』(1999年)あたりからだと思われるので、この作品はまさに30年、40年時代を先取りしたと言っても過言ではない、とんでもない作品だと思います。 むしろ当時は時代を先取りしすぎたゆえ、十分に評価されなかったのではと思ってしまうほどです。 実は私は漫画版の方を先に読んだのですが、てっきり漫画版はある程度「現代風に」アレンジして書かれているのかな、と思ったのですが、原作の小説を読むと漫画はきわめて忠実に、原作ほぼそのままのストーリーで書かれていたことに驚きました。 また文章も非常に読みやすく、全く古くささを感じませんでした。 本当に現代の作者がタイムスリップして発表したのでは?とさえ感じるような一冊でしたね。 ただこの作品は自分の中ではどう考えても「ミステリ」という分類にはできないですね。 これがミステリだったらもうバトル漫画やラノベもみんな「ミステリ」です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『百鬼夜行シリーズ』の中でも特にブ厚い、文庫版で1300ページ超のボリュームの大作です。
舞台は雪山の奥深くに、時間を忘れたかのようにたたずむ禅寺、「明慧寺」。 そこは地図にも寺院名簿にも記録は無く、日本中の仏閣は全て知り尽くしていると言っても過言ではない京極堂ですらその存在を知らないという「幻の寺」だった。 寺では多くの僧たちが日夜修行の日々を送り、外界とは隔絶された独自の「社会形態」が構築されていたが、突如僧たちが次々と異常な形で殺害されていく事件が起こる…… 今回も作者の知識量に感服させられます。 「禅」や「仏教の宗派」などについてとりあえずさわりだけでも理解したいなら、この本を読むのが一番ではと思ってしまう一冊でした。 登場人物たちの文字通り「禅問答」的なやり取りも非常に読んでいて面白かったです。 また、これまでの同シリーズ作品同様、題材はシリアスかつホラー調でありながら、個性的な登場人物のやり取りは、随所にユーモアも効いていて相変わらず楽しいです。 このシリーズのレギュラーキャラでは、自分はやはり榎木津が一番好きですね。もうこの人が登場してるだけで無条件に面白い! 舞台が物理的に完全に外界と隔絶されているわけではなく、警察の介入は普通に行われているため、クローズドサークル作品という括りには当てはまらないですが、社会的に外界から孤立した禅寺という空間や、次に誰が殺されるのかという恐怖感など、物語の雰囲気的にはクローズドサークル的な楽しみ方も出来る一作でした。 しかし、本格ミステリという観点で見ると、長さに関係なく物足りないです。 特に何かトリックが弄されてるわけでもなければ、犯人もロジックの元導かれるわけでもなく、理屈で言えば「誰が犯人でも良かった」形だった気がします。 改めてこのシリーズは会話や薀蓄や雰囲気をゆるりと楽しみながら読んでいくもので、「長いけどがんばって読もう」などと考えず、読みたい人が読みたいから読むべきだと思いますね。(まぁ本来それはこのシリーズに限ったことじゃないんですが) ▼以下、ネタバレ感想 |
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長男と客人の2人の傴僂男、激昂すると平気で刀や銃を持ち出す2人の夢遊病者、監禁された精神異常者、精神薄弱者とやばい人だらけの名家で起こる連続首斬り殺人事件という、横溝御代らしい、おどろおどろしくも惹きつけられるストーリーが展開される今作は、『獄門島』と『八つ墓村』というシリーズ1,2を争う人気作に挟まれて発表された作品です。
その2作に比べると人気、知名度で遥かに落ちるのですが、個人的にはもっと評価されるべき名作だと思います。 傴僂や精神異常者が全面に押し出されてるストーリーがおそらく後年問題視されたのが痛いのだと思いますが、それだけに今は読めない当時の作品ならではの楽しみ方が出来る貴重な一冊だとも言えますね。 一方で古い作品ながら文章はとても読みやすいので、今のミステリファンにもぜひ読んで欲しいと感じる一作です。 300ページ強とそれほど長くない分量ながら、顔の無い死体に始まり、アリバイトリック、密室トリック(焦点になるのは人間でなく凶器ですが) など本格ミステリ定番の美味しい要素が多数盛り込まれ、かつ、それらは全て添え物に過ぎず、メインのどんでん返しが待っているという、非常に贅沢な作品と言えると思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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妻の殺害容疑をかけられた男のアリバイを唯一証明するのは、その日一夜限りを一緒に過ごした名も知らぬ女。
しかしその女のことを第三者は誰も「そんな女は見ていない」と証言し、女の存在はまるで幻のように消えてしまう。 死刑の判決を受けた男を救うため、彼の親友が立ち上がり「幻の女」の行方を追う…… 有名な海外古典の中ではクリスティ作品と並んで抜群の読みやすさだと思います。 無駄の無い緊迫感のある展開の連続、意外な犯人と驚愕の真相。 時代を超えて読み継がれるべき名作でしょう。 私が読んだのはハヤカワ文庫版ですが、日本語訳もセンスが良かったと思います。 ようやく幻の女の足取りを掴んだ時の「やっとこ、さっとこ、つかまえた。やっとこ、さっとこ、つかまえた」が秀逸ですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「夢の島」「イクル君」「カネゴン」「りさぴょん」などのニックネームが出てきた途端、「なんだこいつら、『密室殺人ゲーム』でも始めるのか!?」と思いましたが、彼らは遊びじゃない真剣な人殺しの相談者達でした。
もはや通常の二人の間だけの交換殺人では足がつくとばかりに、トランプを用いて四人の間で行われる交換殺人という題材で、犯人各々の事情、思惑が絡み合う、言わば群像劇倒叙ミステリーと言える作品です。 四人の犯人と四件の殺人、これだけで事件の複雑化は必須ですが、まったく無駄のない構成で冗長にならず綺麗にまとまった話になっています。 綿密なロジックの元に導き出される結末はクイーン的なものを感じさせられました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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中世ヨーロッパに近い世界観で、現実には存在しない魔法や種族などが登場するガチガチのファンタジー世界で起こった殺人の調査を行う本格ミステリ作品です。
「ファンタジー世界で本格ミステリ」という発想そのものはおそらくそこまで突飛で斬新なものではなく、多くの作家が「書いてみたい」と考えているシチュエーションだと思います。 しかし本格ミステリは現実及び先人の作品による捜査方法や事件解決にいたるまでのノウハウが構築されているからこそ、後世の作家は完成度の高い作品を書けるという実情があるため、ファンタジー世界では設定レベルでプロットを一からに近い形で練らなければいけないという点で実際に書いてみるのは非常に難しいでしょう。 よって大抵の作家は断念するか、書いても見向きもされない駄作となってしまう中、このような完成度の高いものを書き上げた作者の、構成力と発想力の高さが伺える作品だと思います。 戦争パートもそれ自体は緊迫感があって面白かったのですが、きわめてまっとうに本格ミステリしている作品なだけに、どちらか一方に集中した方が良かったのかな、と思わなくも無いです。 また、登場キャラクターが非常に多いですが、個性的なのであまり混乱することなく読めました。 続編も期待したい作品ですが、書くにしても思いっきり今作のネタバレになってしまいそうなのがネックですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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西澤氏のお得意の現実の物理法則から乖離した特殊設定ミステリです。
「同じ一日を何度も繰り返してしまう」「その中で何とか誰かの死の運命を変えようとする」という話は、SFではよく見ますが、それを本格ミステリに組み込んだのは非常に斬新で、また完成度の高い仕上がりになっていると思います。 背景は遺産と情欲、さらには過去の確執も絡み合った一族が骨肉の争いの果てに、必ず死人を出すという『犬神家』や『グリーン家』のようなやはり本格推理では定番の金だけはあるロクでもない一族の物語なのですが、基本的にユーモアミステリで、喧嘩する様子も傍から見る分には笑えるもので、家族連中は主人公を除きやはりみんなロクでもない性格なのに、どこか憎めない方々です。 主人公は頭が悪いという設定になっていますが、名探偵とは言えないまでも、十分賢い範疇だと思いましたけどね。 同じ日を8回(9回?)も繰り返すのは、最後の方は流石にやや冗長な印象もありましたが、展開の変化は富んでおり楽しく読めました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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