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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数155

全155件 21~40 2/8ページ

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No.135:
(8pt)

ダレカガナカニイル…の感想

かなり好みの作品でした。92年の作品ですが今も問題なく楽しめます。

冒頭は宗教施設や反対運動の過激なデモ模様がレトロな村を舞台とするホラーを感じさせました。そこから監視カメラで囲まれた宗教施設の火災の謎、教祖の死、そしてそれを切っ掛けに生まれた主人公の頭の中に入り込んだ意思。という具合にどんな物語に展開するのか予想できないワクワク感のある読書でした。
あらすじにある通り、SF、ミステリー、恋愛、など当時には珍しいジャンルミックスの作品です。所々に生まれる奇妙な違和感がホラーやSFでの演出と思いきや、ミステリー的な解法で巧く繋がるスッキリ感もあり、かなり巧妙な作品だと感じました。

恋愛要素についてはとても好みなのですが、惜しむべきはもう少し男性と女性が惹かれ合う切っ掛けを描いて欲しかったです。あまり説明がないので一目惚れ感が凄くて、そんなご縁でこの行動力は違和感です。ベタですが男性側に頼りがいがあったり、知的な要素があったり、女性を助けたとか何かしらのエピソードがちゃんとあれば個人的に非の打ち所がないと感じる作品でした。
ダレカガナカニイル… (講談社文庫)
井上夢人ダレカガナカニイル… についてのレビュー
No.134:
(8pt)

正解するマドの感想

本書は事前の予習が必要な作品。
対象読者は野﨑まど作品が好きな人、そして野﨑まどが脚本を手掛けた『正解するカド』を視聴している人向けとなります。その内容を知っている人に向けて仕掛けられた予想外の展開の物語となります。狭い読者層向けの作品なのですが、該当する方に楽しめる作品です。ファンの期待に応えている作品と言えるでしょう。

本書はアニメオリジナル作品となった野﨑まどの『正解するカド』のスピンオフ作品を、野﨑まどファンである作者の乙野四方字が依頼を受けて執筆するという物語です。アニメのストーリーを小説化した作品ではなく、完全オリジナルの物語です。

物語の主人公は乙野四方字自身。大ファンの野﨑まど作品に関われる依頼に喜ぶ一面もあれば、その期待故にプレッシャーでまったく書けなくなる悩みが描かれます。登場人物や出版社とのエピソードが本当の事のようにリアルに描かれているのが面白く、どこまでが本当の事でどこから創作なのか不思議な感覚での読書でした。その雰囲気が続いていく中で、まったく執筆できずに病んでいる作者の前にアニメ作品に登場するキャラクターが現れるという流れです。

ジャンルとしてはSFメタフィクション小説。現実や虚構やその他いろいろな要素が入り混じる作品です。そして要素として何を混ぜているかというと、野﨑まどの作風や、アニメの『正解するカド』の内容なので本当に読者は限定的です。ただそれらを知っている人にはわかると思いますが、野﨑まどが最後にどんでん返しのように仕掛ける構成やユーモアを本書特有の世界で行われているのが見事でした。

▼以下、ネタバレ感想
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正解するマド (ハヤカワ文庫JA)
乙野四方字正解するマド についてのレビュー
No.133:
(8pt)

僕が愛したすべての君へ/君を愛したひとりの僕への感想

並行世界の存在が実証された世界におけるSF恋愛小説。☆8(+1好み)

2つの作品『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』で1セット。上下巻という意味ではなく、どちらから読んでも楽しめる作品です。
私の読書順序は『僕愛』→『君愛』の順で読んだ後、→もう一度『僕愛』を読みました。

どちらから読むかの参考として
『僕愛』の方は作品の構造を曖昧とし、登場人物達のドラマをメインで楽しめます。
『君愛』の方は作品の構造が明確になり、世界設定を把握して楽しむ作品となります。

ミステリ―好きの人は『僕愛』→『君愛』の順序が良いかと思います。普段から序盤は謎で最後に真相がわかるような作品を読み慣れていますのでこの順序の方で問題なく楽しめます。一方、よく分からない事が苦手で全容がわかった上で作品を楽しみたい方は『君愛』→『僕愛』となります。

時間ものの恋愛作品において、本書の特徴として面白いなと感じたのは、並行世界が全員に認識されている事です。その設定で恋愛要素が含まれると、違う世界線での恋愛に抱く感情はどのようになるのかが興味深く読めました。今の時間軸の恋人と、違う時間軸の恋人を大切にした場合、並行世界を認識している恋人の視点からは嫉妬や羨みの感情はどのような形で納得するのかとか、夜の関係や結婚の瞬間に対してはどうかなど、なかなか踏み込んだSF作品として楽しめました。表紙はライトノベルっぽいですがしっかりと早川書房のSFだなと感じた次第です。

全てを読んだあとでハッピーエンドなのか、そうではないのか、読者に委ねられます。読者がどの世界やキャラをメインで考えるのかで変わる事でしょう。恋愛アドベンチャーゲーム(ある意味平行世界)やSF作品、特に某有名なSF映画の結末に近しいものもあるので、この手の作品はそういう所に落ち着くのかなと感じる次第でした。何はともあれこの手の作品は好みなのでとても楽しい読書でした。
単体でそれぞれ2作品の結末を楽しみ、両方を読むとその関係性をメタ的に俯瞰できる面白い試みの作品でした。
僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)
No.132: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

Ank: a mirroring apeの感想

圧巻の作品でした。
単純なパニック小説かと思いきや、人類の進化論に関する著者なりの説を描いた作品。
デビュー作の『QJKJQ』は好みに合わなくて著者の作品を敬遠してしまっていたのですが、その後数々の賞を受賞している事から改めて作品に触れた次第。著者の作品イメージが変わりました。凄く面白かったです。

ジャンルはSF+パニック小説から始まり、その原因に触れる一端として、チンパンジーの霊長類研究やAIの研究まで範囲を広げていく流れ。知識的欲求が降り注いでくる物語なので文庫600ページの厚い本ですが飽きさせない読書でした。ただ万人向けではなく人により好みが分れるかと思います。人によっては論文に近しい固い物語を読まされているように感じてしまうかもしれません。

ざっくり傾向を他作品で例えると、軽いライト向けの鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』のような著者なりの新説を伝える中、描き方はジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』の様に帰結するイメージ。ちょっと誇大かもしれませんが、少しでも興味を持ってもらえればと。そんな新説をミステリとして体験できた内容でした。

人類の進化はこのように起きたのではないか。今のなお人間の無意識に起きている反応はこういう事でないか。神話の物語は実はこういう事ではないのか。などなど、著者なりの説とそれを面白く体験できる物語が素晴らしかったです。
読んだら誰かに話したくなる。そんなエピソードでした。

▼以下、ネタバレ感想
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Ank : a mirroring ape (講談社文庫)
佐藤究Ank: a mirroring ape についてのレビュー

No.131:

幻夏 (角川文庫)

幻夏

太田愛

No.131: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

幻夏の感想

冤罪事件をテーマとした社会派ミステリー。
これはとても圧巻の作品でした。「面白い」以上に「凄い」と思ったのが率直な感想。緻密なストーリー、社会的なテーマ、そしてミステリー仕立ての構成。完成度の高さに唸らされます。素晴らしい作品でした。

読後にシリーズ作品で2作目である事を知りましたが問題なく楽しめました。2作目から読んだ為、どの人物に対しても先入観なく疑いながらの読書。序盤は行方不明者の人探しから始まり、23年前に起きた事件に関係してくるのですが、ここら辺はまだ序の口。どこに着地するのか先が見えない展開が続き500ページ近い本なのに一気に読めた次第。1作目、3作目も上下巻の凄いボリュームで躊躇しますが早めに追っ掛けようと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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幻夏 (角川文庫)
太田愛幻夏 についてのレビュー
No.130:
(8pt)

テロリストのパラソルの感想

有名な故に積読していた一冊。何となく内容を知ってしまっていた為読んでいなかったのですが、これはちゃんと読んで正解の一冊でした。

冒頭からの爆発事件がいきなりクライマックスかの如く盛り上がり、そこからどんどん謎や怪しい人物達が登場して先が気になる読書でした。キャラクターが本当によくて、主人公はもちろん周辺に出てくる人物達も人としてどんな姿かリアルに存在する感覚がとてもよい。
ミステリーとしての構造も世界の広げ方が想定外の所へ行くのも素晴らしいし、ちゃんと収束させる物語なのが見事。30年ぐらい前の作品ですが今読んでも楽しめます。

扱う内容がちょっと重めのハードボイルドなので好みが分かれそうな作品ではありますが優れた作品である事は確か。江戸川乱歩賞の作品群の中でも飛びぬけているなと感じます。とても面白かったです。
テロリストのパラソル (講談社文庫)
藤原伊織テロリストのパラソル についてのレビュー
No.129:
(8pt)

ストーンサークルの殺人の感想

2019年のCWA受賞作。
以前から気になってはいましたが海外もので580ページのボリュームに躊躇して積読状態でした。
読み始めてみると躊躇していた気持ちは杞憂でした。翻訳はとても読み易く、冒頭からは猟奇殺人模様が描かれ一気に作品に惹きこまれました。
読み終わってみるとページ数の多さは納得のボリューム。各キャラクターの魅力や警察組織模様、飽きさせない連続殺人、社会的な問題、などなど魅力的な要素が豊富であり、かつそれらが絡み合った本作の物語は圧巻の内容でした。海外ミステリの警察ものとしては個人的にオススメ。ただ注意事項としては陰鬱な事件内容なのでそういうのが苦手な方はご注意を。最後の終わり方も好みで満足でした。本書単体で完成されているのですがシリーズとして続きもあるのですね。どうなるのだろう。気になるシリーズになりました。
ストーンサークルの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.128: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破するの感想

凄く好みの作品で楽しい読書でした。

ライトノベルやアニメ系が好きなミステリ読者にオススメです。
まず特徴的な要素として【事件の手掛かりは、すべて太字で示される。】という作りになっており、ミステリーや推理小説は難しいという読者に対して読み所が提示されています。なんでこんなネタ要素が太字?と思う箇所も、後の推理でちゃんと活用されるのが面白いです。新しい読者獲得の実験にも感じました。

こういう仕掛けがある事から本書は推理ものに特化している印象が強いのですが、実の所謎解きよりも学園ラブコメのハーレムものとして楽しい雰囲気を味わいました。
例えば事件現場にプールがあるのもミステリで必要な要素としてではなく、水着を描きたかったのだろうなと感じる次第でして、ミステリよりも学園ラブコメの楽しさが強い。でもちゃんと仕掛けは施されている塩梅です。ここら辺は読者の好みが分かれる所なのでラノベやアニメ系が好きな方にお薦めというワケです。

キャラクターがどれも可愛く明るくてよい雰囲気。読後感も気持ちよいので次巻も楽しみです。
シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する (MF文庫J)
No.127:
(8pt)

消えた女の感想

元凄腕の岡っ引。現在は版木彫りの主人公。恩師から行方不明となった娘を探すという物語。

普段馴染みのない時代小説だった為、序盤は慣れない用語や雰囲気や言葉遣いで読むのが大変かなと心配しましたが、30ページ程読み進めているとすぐに慣れて夢中になりました。
"消えた女を探す"という分かりやすい目的があり、それを調べて行く中で遭遇する事件や怪しい人々で先が気になる面白さでした。主人公の姿、おまさという女性との男女関係、人情模様など魅力ある要素が豊富。

本書は設定も然ることながら時代小説を感じる文章がよかったです。ここが面白いとポイントで説明するのが難しいのですが、名場面が多くてあのシーンやこのシーンがよかったなと感じる所が豊富でした。あとお蕎麦を食べたくなりました。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)
藤沢周平消えた女 についてのレビュー
No.126: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

あなたに会えて困ったの感想

個人的に好みの結末で締めくくられていた作品で大満足でした。(☆7+1好み)

まず本書を楽しめる可能性があるのは90年代が小中高大学生として青春時代を過ごした人が効果抜群で、30代以上が読者ターゲットとなります。逆に現在25歳以下の方が読んでも面白さが分り辛いかと思いました。何故なら本書のネタは90年代の音楽や芸能ネタの時事ネタが多く、その当時の思い出を感じる作品だからです。過ごしていないと何が面白いのか分からない物語です。タイトルが小泉今日子の『あなたに会えてよかった』のもじりであると頭の中によぎるような方が対象に感じました。

物語は前科二犯として服役していた主人公が出所早々に空き巣として忍び込んだ先がかつての初恋の相手の家だったという始まり。現在の状況と初恋の相手に出会った当時の思い出を回想しながら物語は進みます。
冒頭にて懸念した内容はこの回想の所でして、90年代のあの頃はこんな音楽が流行ったよねとか、こんな事件があったよね、お笑いはこれが流行ったよねという、当時の誰かの日記を読んでいるような物語です。著者の藤崎翔さんは1985年生まれなので内容はまさに著者の世代にそったエピソードを感じました。著者は芸人でもあるので著者らしさが発揮された作品であるとも感じます。
正直な所としてミステリーとはあまり関係ない脱線話が多い為、この点は好みが分かれると思います。個人的には当時を懐かしく感じられてエンタメとしてとても面白い読書となった次第。

結末もこれどうするんだろうと不安になっていた所で、巧い締めくくられ方をしており読後感も満足な作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転泥棒 (双葉文庫)
藤崎翔逆転泥棒(あなたに会えて困った) についてのレビュー
No.125: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

世界でいちばん透きとおった物語の感想

SNSやメディアで話題の本書。ネタバレを被弾しないように早速手に取りました。

物語は大御所のミステリ作家の遺稿『世界でいちばん透きとおった物語』とはどんな作品だったのか。という遺稿探しの物語。
仕掛けも然ることながら、美しく終わる物語と作品作りへの想いが良かったです。

本書は予備知識がない方が良い作品なので調べずに読書推奨です。
という事で、情報はあまり載せずに詳しい感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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世界でいちばん透きとおった物語
杉井光世界でいちばん透きとおった物語 についてのレビュー
No.124: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

君のクイズの感想

2023年度の日本推理作家協会賞受賞作。
昨年からSNSやメディアで目にしていて気になっていた中、推協の受賞に後押しされて手に取りました。

物語はクイズ番組決勝の最終問題にて、問題を読み上げる前に解答し優勝を果たすという出来事が発生。これは事前に解答を知らされていたなどのヤラセではないのか?ヤラセではないとしたら何が起きたのか?というもの。

まず読者の興味が沸く掴みが素晴らしい。
ミステリ好きのみならず一般読者にも分かりやすい不可能状況である。
何が起きたのか?に始まり、どのような可能性があるのか。水平思考で脳を刺激する読書が面白く結末が気になる読書でした。

ただ本書に興味がある方への懸念点を補足すると、本書はミステリの楽しさを求める物語ではなく、『クイズ』にまつわるプレイヤーの思考や物語を体験するエンタメです。推理作家協会賞作品だからと言ってミステリを期待し過ぎると思っていたのと違うという評価になってしまうのでその点は注意です。

読書中はクイズプレイヤーの思考の探索が面白かったです。クイズに答えられるという事は人生においてその事象に触れている事や肯定になる考え方にも感銘を受けました。映画『スラムドッグ$ミリオネア』という作品を思い出しましたが、クイズは知識だけでなく人生の積み重ねをも感じます。

実の所、結末に関しては好みではありませんでした。
恐らく同じような感想の方が多く出そうな内容です。ただこれがクイズに対する考え方の多様性を表している面を感じます。後味が好みではないのですが、なるほどなという後味でした。
タイトル『君のクイズ』が巧い言葉で、読後にクイズとはあなたにとって何になるのか考えさせる事でしょう。おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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君のクイズ (朝日文庫)
小川哲君のクイズ についてのレビュー
No.123: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

希望が死んだ夜にの感想

世の中に問題を投げかける社会派小説として素晴らしい作品でした。

著者はミステリ作家ゆえミステリを用いた作品となっていますが、本書の内容はミステリよりも世に投げかける社会問題のテーマに比重が多いです。言い換えるとミステリ的な仕掛けを期待する作品ではありません。その為、読者が何を期待して本書を手に取ったかで好みが分かれてしまう事でしょう。社会に投げかけるテーマを持った作品として手に取ると良いです。

扱う社会派のテーマは貧困問題。
構成として優れているのは、事件を基点に2つの視点で物語が描かれている点だと感じました。
1つ目の視点は事件の当事者である少女の視点。中学生の少女を取り巻く環境。家庭や学校や友人関係といった中学生から見える世界。貧困のアラートが分からない。中学生で考えられる情報の範囲。この状況での青春小説が描かれます。
2つ目の視点は事件を捜査する大人の視点。生活安全課少年係の警察視点。少女の身に何が起きたのか。何が起きているのか。動機探しの警察小説が描かれます。
子供と大人。事件関係者と捜査側。この対比となる2つの視点で物語が伝えられます。本書を読み進めて得られるものはミステリ的な驚きの真相ではなく、テーマとなる貧困問題を感じさせるというものです。タイトルが事前に示している通り内容的に読後感が晴れるものではありません。なので人によっては手に取るのは注意。ただ巧く言えませんが心に残る物語であるのは確かです。社会派の小説を求める方にはオススメ。

著者の作品はデビュー作からいくつか読んでおりますが、今までライトな作風の著者の印象でした。こういう真摯な社会派の作品が描けかつ面白いという著者の新たな一面を感じた次第でした。
希望が死んだ夜に (文春文庫)
天祢涼希望が死んだ夜に についてのレビュー
No.122: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

北緯43度のコールドケースの感想

2021年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙が吹雪で険しい雰囲気を醸し出しており北海道警察が舞台。読書前の印象はかなり堅物で難しい本なのかなと思っていましたが、読んでみるとそれらは杞憂に終わり大変読み易く魅力的な作品でした。

派手な仕掛けや一発ネタがあるわけではないのですが読んでいて面白かったです。
まず登場人物達が魅力的で印象に残りました。登場人物はめちゃめちゃ多いのですが、読んでいて苦にならず、誰がどういう人か把握できるのが純粋に凄いと思いました。特徴的な名前があるわけでもありません。主人公や警察や事件に関わる一人ひとりの特徴や背景がしっかりしているのです。一方あえて悪く捉えるとページの半分は事件の物語よりも人を描いている印象でした。中盤まではなかなか捜査が進まない印象でしたが、ある所からは一気に物語が進みさらに面白くなりました。事前に読んでいた各人物達の背景も合わさり物語に深みがでて大変良かったです。

読み終わってみれば事件の顛末も乱歩賞らしい構成と展開で見事でした。先程派手な仕掛けはないといいましたが、派手でないだけで多くの地道な伏線といいますか読者への情報の浸透のさせ方が見事な構成。キャラについては申し分なく今後のシリーズ作品として読みたくなる人や警察組織が魅力的でした。事件を扱いますが読んでいて嫌な気分になる事はなく、むしろ組織や主人公の前向きな成長を感じるよい雰囲気。役者が多くでるドラマ向けとも感じました。2作目もあるので追っ掛けてみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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北緯43度のコールドケース
伏尾美紀北緯43度のコールドケース についてのレビュー
No.121: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

汝、星のごとくの感想

『流浪の月』の読書で著者の作品に惹きこまれたので本書も手に取ってみました。
本書はミステリではなく、すれ違い系の恋愛小説。ただよくあるような軽い話ではなく、あらすじにある通り、生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ物語となっております。

地方と都会、親と子、仕事とお金、人生の占める割合が大きなこれらのポイントや分岐点、それに伴う男と女、不倫や浮気など、読者が感じるポイントは様々でしょう。
恋愛や不倫など男女の物語としてみる方もいると思うし、やりたい事を貫く為の自立や勇気を感じさせる側面も感じました。身近な人だったりお金だったり仕事だったり、各人の心の支えとなる柱を見つめる物語にも感じられました。

『流浪の月』でも感じましたが、心模様の描き方が本当に凄い。現実的には共感できない事が多いのですが、読書中はその人物の気持ちがわかる気分になってしまう。夢中にさせられる読書です。一つの恋愛物語としても良いラストでした。個人的には好きな事を自分で決断して動いてくという自立をテーマに感じた作品でした。
タイトルの『汝、星のごとく』についても、どこにいても想い人を感じる星の意味もあれば、自分が独りでも輝ける存在にという意味にも感じ取った次第です。心に残る名セリフも多く素晴らしい作品でした。

汝、星のごとく (講談社文庫)
凪良ゆう汝、星のごとく についてのレビュー
No.120: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

流浪の月の感想

映画化したり2020年の本屋大賞に選ばれたりで書店でよく目にしていた本書。
よくある一般文芸かと思い気に留めていなかったのですが、本書の出所がミステリ・SFでおなじみの東京創元社からであり、しかも新たに創設された"創元文芸文庫レーベルの1作目"に選ばれているという事を最近知り興味を持った次第。
結果は大満足。流石創元といいますか、ミステリではないにしても技法は入り込んでいるのを感じる事でしょう。東京創元社の今までの読者はもちろんの事、さらに一般読者を獲得する狙いをも感じるレーベル1作目でした。

著者本は初読み。今まで普通とは違った恋愛小説を描いてきた著者。本書は少女誘拐事件の当事者視点で描かれる物語。ミステリ好きな方へ本書をPRするとするなら、イヤミスや倒叙ミステリ傾向。事件の真相が先に読者に伝えられており、真相と事実の違いが扱われます。合わせて本書は様々な"違い"を多く感じました。それは常識と非常識だったり、人や環境の違い、心の中とそれを巧く言葉にできない違い、様々な違う事による苦悩、違っていても良いという救済、これらの情景や感情の描き方が素晴らしく惹きこまれた読書でした。

内容は好みが別れると思います。不幸寄りの物語なので、どんよりと重く暗く、たまに見える希望が明るい。そんな感覚でした。イライラさせられたり嫌な気持ちになる事が多いのですが、それだけ惹きこまれる文章である事は確か。内容は好みではなく登場人物達にまったく共感はできないのですが、物語としてはとても面白い読書体験でした。
流浪の月 (創元文芸文庫)
凪良ゆう流浪の月 についてのレビュー
No.119: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件の感想

玄人向けの濃厚なミステリ。もの凄い作品でした。

タイトルが似ている『名探偵のはらわた』とは関連はなく、本書単体で楽しめます。
ライトな読者や登場人物名がカタカナの外人なので海外ものが苦手な方には合わないかもです。
物語よりも凝りに凝ったマニアックなミステリを読みたい方にオススメです。

1978年に実在したカルト宗教の人民寺院集団自殺事件をモチーフとした作品。
本書を読んだ後に実際にあった事件である事を知ったのですが、事件を知るほど本書の本格ミステリに落とし込んだ扱われ方が見事だと感じました。本作品を読む前にちょっとでも事件の概要を調べておくと作品の雰囲気や登場人物が把握しやすくなると思います。
時系列や毒や凶器、調査団、などなど実際に起きた事はそのまま扱い、ミステリを構築しているのに驚きました。

カルトの異常性を活用した特殊設定ミステリ。そして多重解決ものの組み合わせが見事。ここ数年ミステリで話題となる名探偵のテーマや、特殊設定の流行や、著者の異常な世界観が良い形で絡み合っていると感じました。

著者の作品はいくつか読んでおりますが、過去作で好みでなかった要素が払拭されています。例えば鬼畜系のグロ表現は単語表現だけで気持ち悪くないと感じる事が多かったのですが、今作はグロい単語は軽減されていても、不気味さ、異常さ、宗教の怪しさを感じられました。『少女を殺す100の方法』では100という数が商業的なPRで意味を感じなかったのですが、そういう数字的な事に意味をちゃんと持たせた内容があり、表現の描き方や意味の持たせ方が進化していました。個人的に著者の作品の中で一番良い作品。

正直な気持ちとして物語としての面白さは弱かったのですが、ミステリの技巧作品としては一品でした。カルトの異常性と多重解決の組み合わせが本当に見事で凄く練られたミステリを堪能しました。
名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件

No.118:

爆弾 (講談社文庫)

爆弾

呉勝浩

No.118: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

爆弾の感想

警察小説の爆弾もの。
爆弾による緊迫感。愉快犯との頭脳戦。先が気になる展開で止め時が見つからない読書でした。非常に面白かったです。

著者の作品は初読み。年末のミステリランキングで目にしたので手に取りました。今まで著者の本は凄く難しそうで硬派なイメージを持っており、手に取る事を躊躇していました。ランキングを切っ掛けに手に取ったわけですが、そんなイメージは杞憂でして大変読み易いエンタメでした。食わず嫌いだったと思った次第。

スズキタゴサクという不気味なキャラが強烈で良い。いわゆる無敵の人であり常識が通用しない相手。警察を翻弄し次に何をしてくるのか、そして何を考えているのかが不安と期待で読んでしまう。この気持ちは著者の悪だくみが組み込まれており、読者は傍観者だから楽しんでいるという毒を感じました。そう表現する登場人物やセリフもあり巧いなと思います。

非常に楽しめた読書だったからこその気持ちですが、欲を言うと最後の結末への展開が駆け足に感じました。前半、中盤、後半と8割ぐらいまではハラハラドキドキで警察と一緒に翻弄される読書でしたが、最後の終盤だけ正答だけ突き進んで物語が急に終わってしまって置いてけぼりになった気分なのが少し勿体ない。印象としては推理して真相に辿り着くのではなく犯人や神の声で真相を全部喋っちゃった系の感覚。ページ数を400台に収める為に削られたのかなとも感じ、もう少し推理模様があれば本格ミステリとしても行けたんじゃないかと感じました。と、面白かったゆえの欲ですね。
爆弾 (講談社文庫)
呉勝浩爆弾 についてのレビュー
No.117: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリックの感想

前作から大躍進を感じたとても好みの作品でした。

デビュー1作目の『密室黄金時代の殺人』はトリックを数で勝負みたいな問題集で好みとは違ったのですが、今作は前作で気になった不満点が一気に改善され面白い作品となっておりました。

作品の雰囲気はライトミステリ。殺人が起きていても会話やキャラは軽い雰囲気です。その為、細かい事を気にする現実的なリアル志向のミステリ読者には不向きです。一方、ライトノベルやゲーム系のミステリが好きな方にはオススメな作品となります。何を期待して読むかにより評価が分かれると思いました。

物語の舞台は金網に囲まれた金網島。富豪に招待された密室のスペシャリスト達。密室トリック当てゲームの予定が本物の密室殺人事件に巻き込まれるという流れ。

前作に引き続き『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界が効果的。アリバイ同様、密室が破られなければ有罪にならない世界なので、苦労してでも密室を行う事に意味がある。この設定により奇想な仕掛けが有効となっているのが見事です。

密室トリックについても小粒から壮大なものまで面白いラインナップでした。
前作では物語に関連なくバラバラな印象だったのが、本書では読者に提示する順番まで考えられていたと感じます。徐々に密室トリックの難度が上がるのと同時にそれを納得させる説明が段階的に読者へ伝えられている構成なのがよい。最後の最後まで問題編と解答編が繰り返される贅沢な展開なので仕掛け好きなミステリ読者にはオススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.116: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

逆転美人の感想

素晴らしい作品でした。SNSや書店で盛り上がっている本書。
ただ帯のテキストが問題で残念なのでそれを目にしない&何の予備知識もなく手に取る事を推奨します。

物語はある美人の不幸話を主体とする為、雰囲気はイヤミス模様。ベースの物語がどんよりする内容なのが好みの別れ所。

これ系統の前例は有名作がいくつかあります。ただ本書は前例作の弱点を解決しており、それを行う事に必然性がある物語となっているのが素晴らしい。この系統の進化を感じた一冊でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転美人 (双葉文庫 ふ 31-03)
藤崎翔逆転美人 についてのレビュー