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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数147

全147件 21~40 2/8ページ

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No.127:
(8pt)

消えた女の感想

元凄腕の岡っ引。現在は版木彫りの主人公。恩師から行方不明となった娘を探すという物語。

普段馴染みのない時代小説だった為、序盤は慣れない用語や雰囲気や言葉遣いで読むのが大変かなと心配しましたが、30ページ程読み進めているとすぐに慣れて夢中になりました。
"消えた女を探す"という分かりやすい目的があり、それを調べて行く中で遭遇する事件や怪しい人々で先が気になる面白さでした。主人公の姿、おまさという女性との男女関係、人情模様など魅力ある要素が豊富。

本書は設定も然ることながら時代小説を感じる文章がよかったです。ここが面白いとポイントで説明するのが難しいのですが、名場面が多くてあのシーンやこのシーンがよかったなと感じる所が豊富でした。あとお蕎麦を食べたくなりました。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)
藤沢周平消えた女 についてのレビュー
No.126: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

あなたに会えて困ったの感想

個人的に好みの結末で締めくくられていた作品で大満足でした。(☆7+1好み)

まず本書を楽しめる可能性があるのは90年代が小中高大学生として青春時代を過ごした人が効果抜群で、30代以上が読者ターゲットとなります。逆に現在25歳以下の方が読んでも面白さが分り辛いかと思いました。何故なら本書のネタは90年代の音楽や芸能ネタの時事ネタが多く、その当時の思い出を感じる作品だからです。過ごしていないと何が面白いのか分からない物語です。タイトルが小泉今日子の『あなたに会えてよかった』のもじりであると頭の中によぎるような方が対象に感じました。

物語は前科二犯として服役していた主人公が出所早々に空き巣として忍び込んだ先がかつての初恋の相手の家だったという始まり。現在の状況と初恋の相手に出会った当時の思い出を回想しながら物語は進みます。
冒頭にて懸念した内容はこの回想の所でして、90年代のあの頃はこんな音楽が流行ったよねとか、こんな事件があったよね、お笑いはこれが流行ったよねという、当時の誰かの日記を読んでいるような物語です。著者の藤崎翔さんは1985年生まれなので内容はまさに著者の世代にそったエピソードを感じました。著者は芸人でもあるので著者らしさが発揮された作品であるとも感じます。
正直な所としてミステリーとはあまり関係ない脱線話が多い為、この点は好みが分かれると思います。個人的には当時を懐かしく感じられてエンタメとしてとても面白い読書となった次第。

結末もこれどうするんだろうと不安になっていた所で、巧い締めくくられ方をしており読後感も満足な作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転泥棒 (双葉文庫)
藤崎翔逆転泥棒(あなたに会えて困った) についてのレビュー
No.125: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

世界でいちばん透きとおった物語の感想

SNSやメディアで話題の本書。ネタバレを被弾しないように早速手に取りました。

物語は大御所のミステリ作家の遺稿『世界でいちばん透きとおった物語』とはどんな作品だったのか。という遺稿探しの物語。
仕掛けも然ることながら、美しく終わる物語と作品作りへの想いが良かったです。

本書は予備知識がない方が良い作品なので調べずに読書推奨です。
という事で、情報はあまり載せずに詳しい感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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世界でいちばん透きとおった物語
杉井光世界でいちばん透きとおった物語 についてのレビュー
No.124: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

君のクイズの感想

2023年度の日本推理作家協会賞受賞作。
昨年からSNSやメディアで目にしていて気になっていた中、推協の受賞に後押しされて手に取りました。

物語はクイズ番組決勝の最終問題にて、問題を読み上げる前に解答し優勝を果たすという出来事が発生。これは事前に解答を知らされていたなどのヤラセではないのか?ヤラセではないとしたら何が起きたのか?というもの。

まず読者の興味が沸く掴みが素晴らしい。
ミステリ好きのみならず一般読者にも分かりやすい不可能状況である。
何が起きたのか?に始まり、どのような可能性があるのか。水平思考で脳を刺激する読書が面白く結末が気になる読書でした。

ただ本書に興味がある方への懸念点を補足すると、本書はミステリの楽しさを求める物語ではなく、『クイズ』にまつわるプレイヤーの思考や物語を体験するエンタメです。推理作家協会賞作品だからと言ってミステリを期待し過ぎると思っていたのと違うという評価になってしまうのでその点は注意です。

読書中はクイズプレイヤーの思考の探索が面白かったです。クイズに答えられるという事は人生においてその事象に触れている事や肯定になる考え方にも感銘を受けました。映画『スラムドッグ$ミリオネア』という作品を思い出しましたが、クイズは知識だけでなく人生の積み重ねをも感じます。

実の所、結末に関しては好みではありませんでした。
恐らく同じような感想の方が多く出そうな内容です。ただこれがクイズに対する考え方の多様性を表している面を感じます。後味が好みではないのですが、なるほどなという後味でした。
タイトル『君のクイズ』が巧い言葉で、読後にクイズとはあなたにとって何になるのか考えさせる事でしょう。おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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君のクイズ (朝日文庫)
小川哲君のクイズ についてのレビュー
No.123: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

希望が死んだ夜にの感想

世の中に問題を投げかける社会派小説として素晴らしい作品でした。

著者はミステリ作家ゆえミステリを用いた作品となっていますが、本書の内容はミステリよりも世に投げかける社会問題のテーマに比重が多いです。言い換えるとミステリ的な仕掛けを期待する作品ではありません。その為、読者が何を期待して本書を手に取ったかで好みが分かれてしまう事でしょう。社会に投げかけるテーマを持った作品として手に取ると良いです。

扱う社会派のテーマは貧困問題。
構成として優れているのは、事件を基点に2つの視点で物語が描かれている点だと感じました。
1つ目の視点は事件の当事者である少女の視点。中学生の少女を取り巻く環境。家庭や学校や友人関係といった中学生から見える世界。貧困のアラートが分からない。中学生で考えられる情報の範囲。この状況での青春小説が描かれます。
2つ目の視点は事件を捜査する大人の視点。生活安全課少年係の警察視点。少女の身に何が起きたのか。何が起きているのか。動機探しの警察小説が描かれます。
子供と大人。事件関係者と捜査側。この対比となる2つの視点で物語が伝えられます。本書を読み進めて得られるものはミステリ的な驚きの真相ではなく、テーマとなる貧困問題を感じさせるというものです。タイトルが事前に示している通り内容的に読後感が晴れるものではありません。なので人によっては手に取るのは注意。ただ巧く言えませんが心に残る物語であるのは確かです。社会派の小説を求める方にはオススメ。

著者の作品はデビュー作からいくつか読んでおりますが、今までライトな作風の著者の印象でした。こういう真摯な社会派の作品が描けかつ面白いという著者の新たな一面を感じた次第でした。
希望が死んだ夜に (文春文庫)
天祢涼希望が死んだ夜に についてのレビュー
No.122: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

北緯43度のコールドケースの感想

2021年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙が吹雪で険しい雰囲気を醸し出しており北海道警察が舞台。読書前の印象はかなり堅物で難しい本なのかなと思っていましたが、読んでみるとそれらは杞憂に終わり大変読み易く魅力的な作品でした。

派手な仕掛けや一発ネタがあるわけではないのですが読んでいて面白かったです。
まず登場人物達が魅力的で印象に残りました。登場人物はめちゃめちゃ多いのですが、読んでいて苦にならず、誰がどういう人か把握できるのが純粋に凄いと思いました。特徴的な名前があるわけでもありません。主人公や警察や事件に関わる一人ひとりの特徴や背景がしっかりしているのです。一方あえて悪く捉えるとページの半分は事件の物語よりも人を描いている印象でした。中盤まではなかなか捜査が進まない印象でしたが、ある所からは一気に物語が進みさらに面白くなりました。事前に読んでいた各人物達の背景も合わさり物語に深みがでて大変良かったです。

読み終わってみれば事件の顛末も乱歩賞らしい構成と展開で見事でした。先程派手な仕掛けはないといいましたが、派手でないだけで多くの地道な伏線といいますか読者への情報の浸透のさせ方が見事な構成。キャラについては申し分なく今後のシリーズ作品として読みたくなる人や警察組織が魅力的でした。事件を扱いますが読んでいて嫌な気分になる事はなく、むしろ組織や主人公の前向きな成長を感じるよい雰囲気。役者が多くでるドラマ向けとも感じました。2作目もあるので追っ掛けてみようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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北緯43度のコールドケース
伏尾美紀北緯43度のコールドケース についてのレビュー
No.121: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

汝、星のごとくの感想

『流浪の月』の読書で著者の作品に惹きこまれたので本書も手に取ってみました。
本書はミステリではなく、すれ違い系の恋愛小説。ただよくあるような軽い話ではなく、あらすじにある通り、生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ物語となっております。

地方と都会、親と子、仕事とお金、人生の占める割合が大きなこれらのポイントや分岐点、それに伴う男と女、不倫や浮気など、読者が感じるポイントは様々でしょう。
恋愛や不倫など男女の物語としてみる方もいると思うし、やりたい事を貫く為の自立や勇気を感じさせる側面も感じました。身近な人だったりお金だったり仕事だったり、各人の心の支えとなる柱を見つめる物語にも感じられました。

『流浪の月』でも感じましたが、心模様の描き方が本当に凄い。現実的には共感できない事が多いのですが、読書中はその人物の気持ちがわかる気分になってしまう。夢中にさせられる読書です。一つの恋愛物語としても良いラストでした。個人的には好きな事を自分で決断して動いてくという自立をテーマに感じた作品でした。
タイトルの『汝、星のごとく』についても、どこにいても想い人を感じる星の意味もあれば、自分が独りでも輝ける存在にという意味にも感じ取った次第です。心に残る名セリフも多く素晴らしい作品でした。

汝、星のごとく (講談社文庫)
凪良ゆう汝、星のごとく についてのレビュー
No.120: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

流浪の月の感想

映画化したり2020年の本屋大賞に選ばれたりで書店でよく目にしていた本書。
よくある一般文芸かと思い気に留めていなかったのですが、本書の出所がミステリ・SFでおなじみの東京創元社からであり、しかも新たに創設された"創元文芸文庫レーベルの1作目"に選ばれているという事を最近知り興味を持った次第。
結果は大満足。流石創元といいますか、ミステリではないにしても技法は入り込んでいるのを感じる事でしょう。東京創元社の今までの読者はもちろんの事、さらに一般読者を獲得する狙いをも感じるレーベル1作目でした。

著者本は初読み。今まで普通とは違った恋愛小説を描いてきた著者。本書は少女誘拐事件の当事者視点で描かれる物語。ミステリ好きな方へ本書をPRするとするなら、イヤミスや倒叙ミステリ傾向。事件の真相が先に読者に伝えられており、真相と事実の違いが扱われます。合わせて本書は様々な"違い"を多く感じました。それは常識と非常識だったり、人や環境の違い、心の中とそれを巧く言葉にできない違い、様々な違う事による苦悩、違っていても良いという救済、これらの情景や感情の描き方が素晴らしく惹きこまれた読書でした。

内容は好みが別れると思います。不幸寄りの物語なので、どんよりと重く暗く、たまに見える希望が明るい。そんな感覚でした。イライラさせられたり嫌な気持ちになる事が多いのですが、それだけ惹きこまれる文章である事は確か。内容は好みではなく登場人物達にまったく共感はできないのですが、物語としてはとても面白い読書体験でした。
流浪の月 (創元文芸文庫)
凪良ゆう流浪の月 についてのレビュー
No.119: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
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名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件の感想

玄人向けの濃厚なミステリ。もの凄い作品でした。

タイトルが似ている『名探偵のはらわた』とは関連はなく、本書単体で楽しめます。
ライトな読者や登場人物名がカタカナの外人なので海外ものが苦手な方には合わないかもです。
物語よりも凝りに凝ったマニアックなミステリを読みたい方にオススメです。

1978年に実在したカルト宗教の人民寺院集団自殺事件をモチーフとした作品。
本書を読んだ後に実際にあった事件である事を知ったのですが、事件を知るほど本書の本格ミステリに落とし込んだ扱われ方が見事だと感じました。本作品を読む前にちょっとでも事件の概要を調べておくと作品の雰囲気や登場人物が把握しやすくなると思います。
時系列や毒や凶器、調査団、などなど実際に起きた事はそのまま扱い、ミステリを構築しているのに驚きました。

カルトの異常性を活用した特殊設定ミステリ。そして多重解決ものの組み合わせが見事。ここ数年ミステリで話題となる名探偵のテーマや、特殊設定の流行や、著者の異常な世界観が良い形で絡み合っていると感じました。

著者の作品はいくつか読んでおりますが、過去作で好みでなかった要素が払拭されています。例えば鬼畜系のグロ表現は単語表現だけで気持ち悪くないと感じる事が多かったのですが、今作はグロい単語は軽減されていても、不気味さ、異常さ、宗教の怪しさを感じられました。『少女を殺す100の方法』では100という数が商業的なPRで意味を感じなかったのですが、そういう数字的な事に意味をちゃんと持たせた内容があり、表現の描き方や意味の持たせ方が進化していました。個人的に著者の作品の中で一番良い作品。

正直な気持ちとして物語としての面白さは弱かったのですが、ミステリの技巧作品としては一品でした。カルトの異常性と多重解決の組み合わせが本当に見事で凄く練られたミステリを堪能しました。
名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件

No.118:

爆弾 (講談社文庫)

爆弾

呉勝浩

No.118: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

爆弾の感想

警察小説の爆弾もの。
爆弾による緊迫感。愉快犯との頭脳戦。先が気になる展開で止め時が見つからない読書でした。非常に面白かったです。

著者の作品は初読み。年末のミステリランキングで目にしたので手に取りました。今まで著者の本は凄く難しそうで硬派なイメージを持っており、手に取る事を躊躇していました。ランキングを切っ掛けに手に取ったわけですが、そんなイメージは杞憂でして大変読み易いエンタメでした。食わず嫌いだったと思った次第。

スズキタゴサクという不気味なキャラが強烈で良い。いわゆる無敵の人であり常識が通用しない相手。警察を翻弄し次に何をしてくるのか、そして何を考えているのかが不安と期待で読んでしまう。この気持ちは著者の悪だくみが組み込まれており、読者は傍観者だから楽しんでいるという毒を感じました。そう表現する登場人物やセリフもあり巧いなと思います。

非常に楽しめた読書だったからこその気持ちですが、欲を言うと最後の結末への展開が駆け足に感じました。前半、中盤、後半と8割ぐらいまではハラハラドキドキで警察と一緒に翻弄される読書でしたが、最後の終盤だけ正答だけ突き進んで物語が急に終わってしまって置いてけぼりになった気分なのが少し勿体ない。印象としては推理して真相に辿り着くのではなく犯人や神の声で真相を全部喋っちゃった系の感覚。ページ数を400台に収める為に削られたのかなとも感じ、もう少し推理模様があれば本格ミステリとしても行けたんじゃないかと感じました。と、面白かったゆえの欲ですね。
爆弾 (講談社文庫)
呉勝浩爆弾 についてのレビュー
No.117: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリックの感想

前作から大躍進を感じたとても好みの作品でした。

デビュー1作目の『密室黄金時代の殺人』はトリックを数で勝負みたいな問題集で好みとは違ったのですが、今作は前作で気になった不満点が一気に改善され面白い作品となっておりました。

作品の雰囲気はライトミステリ。殺人が起きていても会話やキャラは軽い雰囲気です。その為、細かい事を気にする現実的なリアル志向のミステリ読者には不向きです。一方、ライトノベルやゲーム系のミステリが好きな方にはオススメな作品となります。何を期待して読むかにより評価が分かれると思いました。

物語の舞台は金網に囲まれた金網島。富豪に招待された密室のスペシャリスト達。密室トリック当てゲームの予定が本物の密室殺人事件に巻き込まれるという流れ。

前作に引き続き『密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある』という判例が起きた世界が効果的。アリバイ同様、密室が破られなければ有罪にならない世界なので、苦労してでも密室を行う事に意味がある。この設定により奇想な仕掛けが有効となっているのが見事です。

密室トリックについても小粒から壮大なものまで面白いラインナップでした。
前作では物語に関連なくバラバラな印象だったのが、本書では読者に提示する順番まで考えられていたと感じます。徐々に密室トリックの難度が上がるのと同時にそれを納得させる説明が段階的に読者へ伝えられている構成なのがよい。最後の最後まで問題編と解答編が繰り返される贅沢な展開なので仕掛け好きなミステリ読者にはオススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
No.116: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

逆転美人の感想

素晴らしい作品でした。SNSや書店で盛り上がっている本書。
ただ帯のテキストが問題で残念なのでそれを目にしない&何の予備知識もなく手に取る事を推奨します。

物語はある美人の不幸話を主体とする為、雰囲気はイヤミス模様。ベースの物語がどんよりする内容なのが好みの別れ所。

これ系統の前例は有名作がいくつかあります。ただ本書は前例作の弱点を解決しており、それを行う事に必然性がある物語となっているのが素晴らしい。この系統の進化を感じた一冊でした。

▼以下、ネタバレ感想
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逆転美人 (双葉文庫 ふ 31-03)
藤崎翔逆転美人 についてのレビュー
No.115: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

invert II 覗き窓の死角の感想

シリーズ3作目。今回も面白かった。 ☆7(+1好み補正)
本シリーズは1作目から順番に読むことを推奨します。
本書は『生者の言伝』と『覗き窓の死角』の2編からなる中編集。どちらも倒叙ミステリです。

『生者の言伝』は倒叙ミステリドラマの古畑任三郎の一話目『死者からの伝言』のタイトルオマージュ。
犯行が行われた洋館に豪雨で立ち往生した翡翠と真が訪れるという始まり。この導入は古畑任三郎と合わせてありますが中身は別物。
倒叙の作風は行き当たりバッタリな犯人の慌てふためく様が楽しめるユーモアミステリ調。ユーモア&ドタバタのまま終わるかと思いきや、しっかり手がかりを得て推理して真相に到達する様が見事でした。明かされていない問題の癖の解答についてはネタバレで後述。

『覗き窓の死角』
「翡翠ちゃんかわいい」と言ってる場合じゃなく感じる程、城塚翡翠の内面を掘り下げた物語でした。
※これも次回以降に向けて読者をミスリードさせたキャラ作り……と言われたらショックですが(汗)
倒叙ミステリなので犯人は明確なのですが、どのような犯行だったのかは伏せられているのが面白い。提出されている手がかりを元にロジカルに推理した結果、犯行方法が明らかになるのが見事でした。倒叙ミステリというより本格的な倒叙推理小説であり、推理をする楽しさが堪能できました。

どちらもミステリとしての楽しさは然ることながら、キャラクターの良さ、翡翠と真のユーモアあるやり取りの緩急が面白く読んでいて楽しい読書でした。続編も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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invert II 覗き窓の死角
相沢沙呼invert II 覗き窓の死角 についてのレビュー
No.114: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

#真相をお話ししますの感想

日本推理作家協会賞受賞の短編『#拡散希望』を含む短編集。
ネットやSNSなど、現代要素を活用したミステリでとても面白かったです。

短編集として5つの物語がありますが、個人的に全て面白く読めました。
人に薦める時の懸念点としては、真相がわかりやすくて結末が見えすぎる事です。人によっては驚きがなくて物足りないという感想になると思いますが、個人的には良い方向で感じてまして、現代的な内容を扱った本書はミステリ初心者や本をあまり読まない人にとても刺さる内容だと思いました。
タイトルに組み込まれているハッシュタグ然り、若者を対象としたSNSでバズリ易い本であるとも感じます。最近の若い読者はネタバレを許容する傾向があり、先に真相を知って安心してから物語を楽しむ層が一定数いる為、そういう層にも好まれる本という姿を感じました。

『惨者面談』『ヤリモク』『パンドラ』の3作品は結末が読めやすいのでそこにどう導くのかを楽しみました。
『三角奸計』はリモート会議をネタとしたミステリ。これは現代的な仕掛けで面白い。
『#拡散希望』は第74回日本推理作家協会賞の短編賞受賞作品であり、その名に恥じない見事な真相の短編でした。この仕掛けは過去の作品や映画にもありますが、現代要素が効いていて見事な伏線回収と個性を生み出した作品でした。

本書は良い意味で現代要素を取り入れたミステリとなりますが、悪い意味では賞味期限があります。
SNSやアプリやネットの状況が50年後には変わったものになるからです。ただでさえITの状況は1年で移り変わりが早い為、本書で使われている内容がすぐに古臭くなってしまう事でしょう。
未来における名作として名を残すのは難しいかもしれません。ただ、2020年代の今のネタを取り入れた短編ミステリとしては丁度良いですし、巧く考えられた作品集ですので早めに読書推奨な作品です。
#真相をお話しします (新潮文庫 ゆ 16-3)
結城真一郎#真相をお話しします についてのレビュー
No.113: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

此の世の果ての殺人の感想

これは面白かったです。
2022年度の江戸川乱歩賞受賞作品。

地球に小惑星が衝突し滅びる定めとなった終末もの。主人公はそんな世界の中で自動車教習所に通い運転を学んでいる。という始まり。

世界崩壊を舞台になんで教習所?というチグハグさがまず印象的でした。
江戸川乱歩賞は昨年『老虎残夢』の特殊設定ミステリが受賞した事から、今年も特殊設定ミステリを採用しエンタメ系の流行に乗る変わり種かと思った次第です。
ですが先に伝えておきますと、中身は災害小説としての日常や社会的テーマも絡めた堅実な本格ミステリでした。

災害小説における死体が道端に転がっているなどの非現実的要素が日常化されており、生きる希望を失った者、最後まで生き抜こうとする人々のドラマを感じる物語。教習中の車に乗り不慣れな運転で街を移動する様はロードノベルのような味わいも感じられました。主人公は著者と同じ23歳の女性。社会に出たての者の不安や、弟の面倒を見る姉としてしっかりしなくてはいけない気張った心境など主人公の等身大が描かれているのが印象的でした。
総じて文章が大変読み易く情景が浮かびやすいのでドラマや映画を見ているような気分にも感じた次第です。

ミステリとしては大きなインパクトがある訳ではないのですが、作り方が巧いと感じる所が多くてそれでこうなっているのか~と印象に残る所がしばしばありました。
終末ものと自動車教習の組み合わせは最初不思議でしたが、読み終わってみれば納得。
結末&読後感も良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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此の世の果ての殺人
荒木あかね此の世の果ての殺人 についてのレビュー
No.112: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ナキメサマの感想

ホラーとミステリの見事な融合。かなり好みの作品でした。
『横溝正史ミステリ&ホラー大賞・読者賞』の名にピッタリの作品です。

舞台は音信不通となってしまった知人の状況を探る為に訪れた村。
知人は23年に一度行われる『ナキメサマ』の儀式の巫女に選ばれた為、儀式開催の日までは誰とも会えないという事で、暫く村に滞在する事に。
滞在して間もなく異様な人影に遭遇したり、さらには無残な死体が発見されて……この村で何が起きているのか?という流れ。

田舎・集落を舞台にしたホラー作品ですが、よくあるホラーと違うのは怪異というものの存在の解釈です。
他作家を例に説明すると、三津田信三や京極夏彦の作品群ではそれが存在しているかどうかを曖昧にしたり、科学的、現実的に解明を試みたりします。本書の場合は現実には存在しない怪異というものが実在すると前提条件として決めており、その怪異はどんな特性なのか理論的に考えている様が新鮮でした。その為ホラー小説としての雰囲気や恐怖感を楽しみつつ、ミステリとしてのロジックや驚きまでも味わえる為、2度美味しく飽きさせない面白さでした。

賞の応募作なので出し惜しみせずやり切っている表現も好感。後半なんて正にそうで、ホラーとしての演出、後味、そしてそれがミステリとして機能させた着地など、物語の内容としては好みが分かれそうですが個人的には大好物でした。今後のシリーズ展開に期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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ナキメサマ (角川ホラー文庫)
阿泉来堂ナキメサマ についてのレビュー
No.111: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

黒牢城の感想

とても素晴らしい作品でした。

まず著者名が伏せられていたら米澤穂信と気づかないぐらい、文体まで時代小説に変えているのに驚きます。文章作りにまで拘る、これぞ作家の作品という意気込みを感じました。

物語は、史実に基づき"黒田官兵衛"が幽閉されていた期間、有岡城での出来事をミステリ仕立てで描かれた作品です。
第一章『雪夜灯籠』では、捕らえていた人質が雪に囲まれた納戸で殺されたという雪密室。何故どのように行われたのか不明。このままでは城内で混乱が起きる。有岡城の当主、荒木村重が苦肉の策として幽閉した黒田官兵衛に助言を仰ぐという流れは安楽椅子探偵もの。牢獄の中の名探偵役いう構造は『羊たちの沈黙』のレクター博士を想起させました。

その後も短編作品のように各章ミステリ物語が展開します。
どれもこの時代ならではの武士や民の心情を活かした構造に驚かされた作品集でした。
そして最終章は、史実上謎とされる『そもそも何故、荒木村重が織田信長を裏切ったのか』、そして『黒田官兵衛が殺されず幽閉されていた時に何が起きていたのか』。それらの1つの解法として物語が見えてくるのが見事。ミステリ的な演出や戦国時代の背景など複雑に絡まった物語は本当に圧巻でした。そして一言では説明できない重く深みある物語なのが凄い。

読み終えて絶賛ではありますが、実は初読30ページ程で挫折しそうになったのも本音です。
私は歴史や時代ものが超苦手。人物や当時の土地勘がさっぱりで、最初のページから頭に入らずでした。

同じような人への参考です。

なのでひとまず"黒田官兵衛"で検索して出てくるページをざっと下調べ。
史実となる有岡城での幽閉とその後を先に把握しました。
再び本書を開くと史実通りの展開から始まるのですんなり世界に入り込めました。そのうち文体にも慣れて没入です。本当に序盤は苦手な人は苦手だと思うので、歴史が苦手な方はちょっとだけで十分なので下調べ推奨です。

読後はこの時代の歴史に興味が沸き、wikiを巡回。
苦手な歴史もこういう作品に出合えると興味が沸きます。素晴らしい作品でした。
黒牢城 (角川文庫)
米澤穂信黒牢城 についてのレビュー
No.110: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

教室が、ひとりになるまでの感想

著者の着眼点とそれを投げかけるメッセージ性に驚かされた作品でした。
テーマの内容から中高生に刺さる話であり、大人が読んでも学生の頃を回想し何かを感じてしまう事でしょう。雰囲気の部類としては気分が晴れるものではないので、イヤミスに近しい内容でずっしりとさせます。

前情報は少ない方がよい為、あらすじの範囲内で簡単に紹介しますと、本書の分類としては今でいう所の特殊設定ミステリ。
“他人を自殺させる力”の存在を感じさせる事で、非現実的な舞台とした新たなルール設定の場において、誰がどのような方法で、何故行われているのかの謎をミステリとしての求心力としています。

ただ個人的には本書はミステリとして読むよりも、ミステリを活用した暗黒面の青春小説という印象の方が強い。主人公や犯人の動機に共感はしたくないんだけど、なんか分かってしまう。そのバランスの描き方やテーマの選出が著者の凄い所だと感じます。

著者の作品を読むのは本書で2冊目なのですが、どちらも伏線や仕掛けは楽しむもの以上に伝えたいテーマを印象付ける作用で使われており強く心に響いた作品でした。他の本も読んでみたくなりました。
教室が、ひとりになるまで (角川文庫)
浅倉秋成教室が、ひとりになるまで についてのレビュー
No.109: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

甘い鞭の感想

勝手に感じる著者の持ち味が十分に堪能できた作品でした。

内容はあらすじ通りの凌辱・暴力・官能作品なのでそれらが苦手な人には不向き。というか著者の作品はこれらを扱う作風です。で、何が魅力かというと、それをどう表現して読ませるか、文章で読者を惹き込む小説としての作品が面白いのです。本作は映画化もされており、そちらは痛さエロさの映像での魅力作品。それとは違い、本書は主人公女性を中心に異常な場を覗き見るような、体現する魅力を感じる作品となっていました。惹きこまれて止め時が見つからず一気読みでした。

小説として意味があり、読まないと伝えづらい内容なので、ちょっと視点を変えて印象に残った箇所の感想です。

文章作りで『一行空け』が多くみられた作品でした。
一区切りとなる文章が数ページ単位の章区切りではなく、1-2ページ内で細かく一行空けをして場面や視点がコロコロ変わる印象を受けました。また、同じシチュエーションを二者から描いている所もありました。勝手な想像ですが、全体像の物語が先に決まっており、思いついたシーンからバラバラに文章化して枚数を重ねたような作り方に感じました。一見すると読書のブツ切り感で集中力が途切れそうなのですが、本作はそれが効果的に使われています。また後述。

対義する要素が多く散りばめられていると感じました。
拉致監禁され生き残った少女の過去と現在。加害者と被害者。現在の仕事における医師としての表、M嬢としての裏。不妊治療として医者と患者。内面と外面。やさしさと暴力。生者と死者。という具合で所々に対義するものが散りばめらているのを感じました。
それらを一行空けの多い場面転換により、色々なシチュエーションで読ませ、バラバラに断片的に得る情報の繋がりの面白さがあり、結果として読者を惹き付けるプラスの構造に感じた次第です。読書序盤は文章がよく途切れるなと思っていたのが、終盤はこの先どうなるのかハラハラドキドキに代わった次第。
ラストの締め方も巧いです。

あらすじ通り物語の内容としては万人薦めるものではないのですが、小説のフィクションだからこその、怖いもの見たさで異常な世界を覗き見る欲望の作品としては著者作品は癖になる次第です。新しい刺激を受けた作品でした。
甘い鞭 (角川ホラー文庫)
大石圭甘い鞭 についてのレビュー
No.108: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

invert 城塚翡翠倒叙集の感想

前作必読。必読理由は前作がとても名作でありそれを楽しんでもらいたいからです。シリーズ2作目の本書は前作のネタバレが含む為、せっかくならシリーズ最初から読んでもらいたいです。

本書は倒叙ミステリを題材とした3作品が収録。
犯人視点のミステリ。犯人を追い詰める探偵役が前作同様の城塚翡翠。キャラクターがもう出来上がってますね。華やかさ、外見、性格、口癖、とても個性的で魅力ある探偵でかなり好みです。映像映えもするので、そのうちドラマや映画になりそうだと感じました。
キャラクターも然ることながら、話の内容はしっかりとした本格ミステリ。決してキャラだけの本ではなく謎解きがとても面白いのが魅力でした。本文に作者の想いが書かれていましたが、ミステリの評価はどれだけ驚かせたかという分かりやすい指針になりやすい傾向があります。地味でもちゃんとロジカルな推理を描いてこそ推理小説・ミステリなんだという気持ちが感じられる内容でした。

オマージュ・パロディとして古畑任三郎を演じる城塚翡翠も面白い。倒叙ミステリにも分類が色々ありますが、正に古畑任三郎構成で、探偵が犯人を追い詰める系の内容です。何が手がかりになったのか、どう追い詰めるのか、推理要素1つとっても複数の手がかりが散りばめられていたのが見事でした。また、それだけでは終わらせない著者の仕掛けもナイスで、短編集だから軽めの作品かなと思いきやしっかりとした仕掛けにヤラれました。

カクテルで"サンドリオン"とか、自身の作品(デビュー作のタイトル)を小ネタで挟んでいるのも気づくと楽しい。女子高生ネタは今回自粛してましたね。※気づかなかっただけかも。百合に行ったのかな。。。

などなど楽しい読書でした。シリーズ化で続編希望です。
invert 城塚翡翠倒叙集
相沢沙呼invert 城塚翡翠倒叙集 についてのレビュー