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あんみつ さんのレビュー一覧
あんみつさんのページへレビュー数40件
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竹宮水穂はオーストラリアから帰国し、約1年半ぶりに十字屋敷を訪れた。
十字屋敷では数ヵ月前に竹宮グループ社長であり、水穂の伯母の頼子がバルコニーから飛び降り自殺した。 水穂の来訪は頼子の一人娘で、生まれつき足の不自由な佳織を心配してのことだった。 佳織は水穂の予想に反して着丈だったが、1年半ぶりの十字屋敷は微妙に様相を変えていた。 新たな人間の出入りと浮かび上がる歪み。 そして新たな美術品。 その一つがピエロの人形だった。 ある日悟浄と名乗る人形師が訪ねてきた。 悟浄いわくそのピエロの人形の持ち主は悲劇に見回れるというジンクスがあり、それ故に悲劇のピエロと呼ばれていた。 同じく人形師だった悟浄の父は生涯ピエロの人形を気にかけ、しかるべく処分をと言い遺した。 そのため、悟浄はピエロの人形を買値に上乗せするので譲り受けたいと申し出た。 実際、ピエロの人形は頼子が自殺した日に限って廊下に飾られており、頼子が最期に触れた物だった。 故に気味が悪いと仕舞われているばかりで譲り渡すのに抵抗はないが、一応頼子亡き今竹宮グループ社長であり、佳織の父である宗彦の許可を取って、後日引き渡しということで落ち着いた。 しかし、その晩宗彦が何者かに殺害された。 現場にはまたもやピエロの人形が置かれていた。 いったい誰が犯人なのか。 どのようなトリックが使われたのか。 水穂が思索する一方で、ピエロの人形は読者にだけ見たままの事実を語る。 はたして事件の真相はー・・・ 王道の舘ミステリです。 特殊な構造の舘。 不可解な過去の事件。 いわく付の品物。 どこか歪な人間関係。 まさに王道中の王道です。 途中余計な人間関係などで話が横道に逸れることもなく、文章も読みやすいです。 しかも、ただの王道の舘ミステリで終わらせてはいません。 そこにピエロの人形の視点を上手く組み入れています。 水穂の思索がメインですが、ピエロの人形は人と異なり思い入れなどなく、見たままの事実を語ります。 推理の伏線もミスリードも、両者を使って上手く構成しています。 ミステリにも「警察物」や「ハイテク物」など様々なジャンルがありますが、久々に王道ミステリを読みたいという方などにはとてもオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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夏村絵里子は結婚相談所エム・システムのシステムオペレーター。
絵里子はデータの入力中、交際相手である市丸輝雄がエム・システムに登録したことを知った。 腹立たしい中、土肥綾子という中年女性が会員データを見せてほしいと頼み込んできた。 綾子は兄の西浦勇がエム・システム経由で結婚した“勢津子”に殺されたと主張してきた。 綾子いわく兄は新婚旅行先のフィリピンで溺れ死んだ。 “勢津子”は兄との思い出の地フィリピンへもう一度行くと言ったきり戻って来ず行方不明。 綾子は“勢津子”のデータを見せてほしいと頼むが、絵里子は断った。 翌日新聞を読むと、何と綾子は殺されていた。 絵里子は心中複雑ながらも、輝雄になぜ会員登録したのか尋ねた。 すると輝雄は悪びれた様子もなく、単にサクラ要員として独身社員全員が入会させられたと言ってきた。 輝雄いわく特段審査などなく、簡易なアンケートのようなものに答えただけだった。 しかし、絵里子が後日データを見ると、輝雄が答えたとは思えない個人データが登録されていた。 データが勝手に増強されていた。 システム上でいったい何が起こっているのか―・・・ 1980年代後半に執筆されたため、フロッピーやカプラーといった古い箇所もあります。 しかし、この著書で記されている情報化社会への警鐘は、現実に大きな問題となっています。 正直登場人物が少ないため、犯人の予想はつきます。 ハイテク・ミステリですが、コンピュータの暴走や意思といったSFではありません。 あくまで情報化社会が今後抱えていくだろう問題をベースにしたミステリです。 そのため、殺人事件の恐さより、情報化社会の恐さがよく出ています。 本人の意図しないうちに別々で登録したデータが一か所に集積され、個人情報が埋められていく恐さ。 そしてそれに気づかないうちに関わっている恐さ。 その先見の明はさすが岡嶋二人氏です。 ハイテク・ミステリでもコンピュータに関して説明ぽくなく、グングン読めます。 ただ、メインが情報化社会への警鐘のためか、犯人の人物像や背景描写はあまりありません。 また、同じハイテク・ミステリならば『99%の誘拐』『クラインの壺』の方が上かなと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作『六の宮の姫君』で卒論に芥川龍之介を選んだ<私>は無事書き上げ、学舎を卒業した。
アルバイト先だったみさき書房に就職し、新人編集者としてついに社会人へ。 新たな環境、新たな人間関係、そして新たな謎。 お馴染みの円紫師匠と共に謎を解いていく。 シリーズ初の学生ではなく社会人となった<私>。 今作ではどんな日常の謎が、<私>に何を与えるのか。 シリーズ通じて<私>は何を受け入れて成長し、今作ではどう受け入れて成長するのか。 多忙な日々の中、変わるものも変わらないものもある。 今作は学生時代の懐かしさや切なさ、そして新たな出発への希望を内包。 前シリーズの伏線や引用もふんだんに散りばめられた、ファンには嬉しい一冊。 <私>と円紫師匠シリーズ第五作目。 シリーズ久々の短編集です。 『山眠る』『走り来るもの』『朝霧』の三編構成。 所謂日常の謎を取り扱う「死なないミステリ」で、一見初期作のようですが、違いもあります。 前シリーズまで<私>は学生で、各巻の時間の流れは一年以内です。 しかし今作の<私>は社会人であり、次編との間に数年経過していることもあります。 学生は進級などから一年単位がハッキリしていますが、社会人となると異なり、時の流れが早いということかもしれません。 構成が初期作を思い起こさせるだけに、学生の<私>と社会人の<私>の違いが際立ちます。 前シリーズの登場人物のその後だけではなく、前シリーズの出来事や引用が再登場しています。 ここでも月日の流れや<私>の成長がうかがえます。 また、前シリーズ同様文学作品の引用が多いです。 ただ、初期は謎がメインで引用は謎解きやそこに込められたメッセージのためのサブだったのに対し、最近は引用が増え、サブと言えなくなってきた気がします。 個人的には勉強になりますが、初期の程度の方が好きです。 円紫師匠も<私>と食事しながら謎解きするか、落語をするかとパターン化してきた気がします。 <私>も謎に直面すると円紫師匠に頼るという考えにすぐ至ってしまいます。 初期の円紫師匠は変装したり山登りしていたり、人間味や面白みがあります。 シリーズ物の宿命かもしれませんが、そのあたりが少し残念です。 今作のテーマは「結婚」さらには「男と女のつながり」かなと思います。 これは第一作『空飛ぶ馬』から続くテーマだと思います。 第一作では「男と女のつながり」に抵抗があった<私>ですが、今作の<私>の反応は異なります。 今作は社会人の<私>の成長が見れる、ファンには懐かしく、切ないながらも嬉しい一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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季節は秋。
20歳の「私」は卒論を芥川に決め、取り組みはじめた。 卒業まで残り一年半。 「時」の流れを感じる「私」であった。 ところで、最近「私」の周りに時が止まってしまった人がいた。 津田真理子。 「私」が小学生の頃から顔見知りの、3歳下の後輩。 彼女は文化祭準備の合宿の夜、屋上から転落死した。 「私」にはもう一人、顔見知りの後輩がいた。 和泉理恵。 津田さんの葬式の際の彼女は、まるで影のようであった。 「私」はというと、悲しみよりも驚きがまさった。 「私」より年下の少女の一生が「私」の人生の中にすっぽり収まってしまうという不思議な感覚。 ある日、「私」の郵便受けに奇妙な封筒が入っていた。 中身は多少落書きのある教科書見開きのコピー一枚。 そこでは何故かアダム・スミスの「見えざる手」にマーカーが引かれていた。 また別のある日、和泉さんが学校にも行かず、ぼんやりと痛ましく座っていた。 「私」の家から見える場所で、見つけてといわんばかりに。 彼女によると、コピーは津田さんの教科書のものだが、津田さんの政経の教科書は棺に入れ火葬した。 存在しないはずの教科書のコピーがなぜ存在するのか。 そもそもなぜそれが「私」のもとに送られてきたのか。 「私」と円紫さんシリーズ第3作目。 シリーズ初の長編であり、初の死者。 はたして事故の真相は。 「私」は何を思うのか―・・・ 前2作は「私」の日常の謎を取り扱う、いわゆる「死なないミステリ」です。 短編集ですが一連の流れがあり、その中で「私」が「大人」になるため清濁受け入れていきます。 ミステリであり、「私」の成長記でもあります。 メッセージ性が強く、推理に関しては伏線ももちろんありますが、正直想像力で補う箇所も多いと思います。 今作はシリーズ初の長編であり、一人の少女の「死」からはじまるミステリです。 全2作と異なり「死」にまつわるため、前2作よりミステリの印象が強いです。 推理も割合前2作より想像力で補う箇所が少なく、しっかり伏線を回収し組み立てていけると思います。 犯人当てというより、事故の真相について考え、その流れで著者のメッセージが浮かんでくる感じです。 今作も前2作同様文学作品からの引用があります。 推理のための伏線であり、今作を理解するためのヒントやメッセージでもあります。 長編だからか、前2作より引用や語りがより多く感じます。 私が教養不足なだけかもしれませんが、馴染みがない作品の引用や語りが多いです。 文学少女な「私」はもとより、友だちとの文学談義。 前2作までは一つ賢くなった程度にしか思いませんでしたが、今作は諸所で評論を読んでるようで、少し疲れます。 友だちとの会話も高尚すぎて、女子大生の会話としては違和感があります。 今作はただの事故の真相を考えるミステリではありません。 明日を迎えることができなくなった少女の人物像。 残された者の苦しみ。 日常において転落死は身近ではありませんが、「死」に伴う喪失感や欠落感は誰しもが抱くものです。 「死」を通じて、「生きる」ことについて考えさせられます。 今作は死者がいるため、前2作のように甘酸っぱくとか、爽やかに締めるわけにはいきません。 生きること、そして救いについて考えさせられる、切ない一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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季節は春、「私」は20歳になり所謂「大人」の仲間入りをしたが、相変わらずお洒落より読書を愛する文学少女である。
ある日、友だちの正ちゃんがアルバイトをしている本屋へ出掛ける。 正ちゃんを冷やかしがてら国文コーナーを見ると、本が数冊逆向きに置かれている。 これはただのイタズラなのだろうか。 何故こんなイタズラをするのか。 またまた円紫さんと会う機会を得た「私」はさっそくことの次第を話す。 今作も「私」と円紫さんが日常の謎を解いていくが、そこで語られるものは人間の悪意だけではない。 「女」であること、「男と女のつながり」、そして「姉」との関係。 「大人」になるにつれ、受け入れていかなければいけないことが多くなる。 「私」もまた少しずつ受け入れ、成長していく。 「私」と円紫さんシリーズ第2作目。 今作も「私」を取り巻く日常の謎を、「私」の成長と共に解いていくー・・・ 「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の全三編です。 構成は前作と同じで、やはり文学作品からの引用や、落語の噺も多いです。 さらに今作は俳句といった詩の引用も多いです。 軽い説明はあるため、私のような教養不足な者でも、わからないなりに楽しめます。 ひとつ賢くなった気分になれます。 しかし一方で、吉田利子氏の解説を読むと、その詩の意味、なぜその落語や詩が使われたか、それが結末にどう繋がるかなど、より作品の理解や北村薫氏の話の巧みさがわかるのだと思います。 それを思うと教養不足が口惜しいです。 前作の「私」は円紫さんと出会い、彼との謎解きを通じて「大人」の美しさも汚さも噛みしめ、成長します。 今作は前作でいう「女」や「男と女のつなかり」といった恋愛面が多目です。 「恋愛」もまた美しいだけでなく、汚い面もあります。 「私」は「恋愛」の甘さもほろ苦さも噛みしめますが、今作は前作よりほろ苦さが残る印象です。 また、今作は前作から少し見え隠れしていた「姉」へのコンプレックスについても語られています。 そこではよくある微妙な姉妹間の確執(実際は確執というほど重いものではないが)と、それぞれの思いが穏やかに語られています。 「大人」になるとほろ苦い思いをすることが多くなります。 しかし、すでに「大人」である「姉」との会話はほろ苦さだけでなく、人生の先輩として、そして「姉」としての優しさにあふれています。 そのため、ほろ苦くも優しい気持ちになれる一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「私」は19歳の女子大生。
文学部所属で読書を愛する典型的な文学少女である。 落語も好きで、機会があれば見に行っていた。 梅雨のある日、「私」はたまたま早起きし登校するも、講義はあいにく休講。 思わず欠伸をした瞬間、タイミング悪く、近世文学概論の加茂先生に見られてしまう。 少し気まずく思いつつも、加茂先生に誘われ、彼の研究室でコーヒーをいただくことに。 そこで「私」は雑誌「卒業生と語る」の聞き手役を打診される。 卒業生は「私」が追い掛けている噺家春桜亭円紫。 勿論「私」は引き受け、無事雑誌用の座談会を終えた。 その後「私」、加茂先生、円紫師匠の3人で打ち上げをすることに。 ほどよく酔いもまわる中、加茂先生が幼少期の謎「織部の霊」について話し出す。 さっぱりわからない「私」。 しかし、円紫師匠には真相がわかった様子。 北村薫氏デビュー作にして、「私」と円紫師匠シリーズ第一作目。 「私」を取り巻く日常の謎を、「私」の成長と共に解いていく―・・・。 「私」の19歳から20歳にかけての成長を全5編の日常ミステリと共に見守る構成です。 5編はそれぞれ異なる独立した日常の謎である一方、梅雨から冬にかけての一連の流れもあります。 何気ない話の中にしっかり伏線があるといえばありますが、少し想像力も必要かと思います。 日常を「私」の視点で辿りますが、彼女は物事への感想や気付きを、文学作品の引用で表現することが多いです。 探偵役も噺家なので、落語の引用も多々あります。 引用の多さが鼻につくような文体ではないのですが、私自身の教養不足から、想像や共感がしにくいときがあります。 また、「私」は1980年代の昭和の女子大生なので、時代の違いを感じる箇所が多々あります。 女性の社会進出の過渡期なのか、現代より「女のあり方」についての認識や理解が複雑な様子がうかがえます。 「私」は社会に大人と認められる20歳を目前とした19歳の少女です。 知識は豊富でも経験は少なく、初心なところがあります。 大人は子どもと違い、甘くもなければ汚いところも多々あります。 しかし、そればかりでもありません。 5編はそれぞれ異なる色があり、酸いも甘いもあります。 「私」は5編を通じてそれらを噛みしめ成長していきます。 ミステリとしても「私」の成長記としても面白く、「私」の成長を円紫さんと見守りたい一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「ななつのこ」「魔法飛行」に続く、駒子シリーズ待望の第3弾。
クリスマスにみぞれが降る中大疾走した駒子は風邪をひいてしまう。 駒子いわく日頃の行いが良いということで、幸い2~3日で軽快し、大晦日へ。 入江家はお節作りで忙しく、普段料理をしない駒子と末妹もこの日ばかりはお手伝い。 そんな中、駒子は母親から買い物とあるお使いを命じられた。 お使い内容は、お節に飾る松の葉を公園から「分けていただいてくる」こと。 駒子はしぶしぶデパートに来たものの、これから公園へ確実にあるかもわからない松の葉を取りに行くのは面倒くさい。 そんなとき、デパートに大きな門松が。 <魔がさす>とは誰にでもあること。 こっそり手を伸ばし折ろうと四苦八苦していると、思いがけない人に声をかけられる。 息が止まりそうなほどびっくりした駒子の後ろには、警備員のアルバイト中の瀬尾さんが。 瀬尾さんからクリスマスに貰った羊のぬいぐるみのお返しをしていない駒子。 お返ししようにも、必要最低限のものしか持たない人に何を送ればいいのか。 「瀬尾さんにまた、読んでいただきたい手紙があるんです。」 駒子は瀬尾さんに「謎」をお返しすることにした―・・・ 「ななつのこ」は全7話、「魔法飛行」は全4話。 どちらも駒子が日常の謎を手紙にしたため、瀬尾さんが返事で解答する形式でした。 全て異なる短編でありながらしっかり伏線が散りばめられており、最終話でそれらの伏線が回収されます。 しかし、今作は<スペース><バックスペース>の2部構成に、おまけ的にエピローグという形式です。 従来の手紙のやりとりや、最終話でまとめる形式とは全く異なるとはいわないですが、全く同じでもないです。 <スペース>の謎は<スペース>内で明らかになり、<バックスペース>で更に裏側がわかるという形式です。 そのため、今作は駒子の感性や比喩表現は少な目です。 駒子シリーズは全4作の予定とのことなので、今作は登場人物の肉付けをし、関係性を明確にすることで、最終巻への布石としたのかと思います。 前2作と同じものを期待すると、少し違和感があるかもしれません。 駒子シリーズが好きな方、駒子と瀬尾さんの関係が気になる方などにはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。
性根が真っ直ぐで血気盛んな根っからの江戸っ子、坊ちゃん。 彼は東京の物理学校卒業後、四国は松山に新任教師として赴任することとなる。 田舎社会の閉塞感、学校教員間の人間関係、生徒による悪戯。 坊ちゃんは単純に惑わされたり、辟易したりしつつ、持ち前の気質で真正面から不器用に向き合う。 最後は山嵐と共に卑怯な赤シャツと野太鼓を天誅よろしく撲り、教師を辞して東京へ戻る。 その後、坊ちゃんは東京で街鉄の技師となる。 それから三年。 社会は日露講和条約について対立論争したり、身近では自身を可愛がってくれた下女の清が亡くなったり。 周りの変化はあったが、坊ちゃん自身は自分を変えることなく働いていた。 そんな中、炭坑で働いていたらしい山嵐が訪ねてくる。 何と赤シャツが自殺したという。 赤シャツは卑怯で悪びれない輩で、到底自殺するタイプとは思えない。 赤シャツは誰かに殺されたのではないか。 真相を探るため、二人は四国松山へ赴く。 しかし、真相を探るうち、ある疑問が生じる。 三年前の様々な出来事の、自身の認識と事実は異なるのではないか。 赤シャツの死の真相は。 坊ちゃんと四国松山の地でいったい何が起きていたのか―・・・ という展開です。 原作の雰囲気、文体、登場人物の特性をよく掴んでいます。 まるで原作の続編のようで、違和感がありません。 坊ちゃんの心境や登場人物の言い回しなど、「そうそうこんな感じ!」と思いました。 真相を探る過程で度々三年前の出来事が関わってきます。 原作でもひとつの騒動として大きく取り上げているものもあれば、原作ではサラッと読み飛ばすような些細な箇所もあます。 「あぁ、こんなのあった!」「おぉ、こう繋げるか!」と感心しました。 原作の別解釈、そして思いもよらぬ世界観の広がり。 「坊ちゃん」をこう読めるとはという驚きと新鮮さがありました。 また、柳広司氏が夏目漱石も「坊ちゃん」という作品も好きで、原作を読み込み敬意を示しながら執筆したのだろうなと感じました。 解説では原作未読でも楽しめる一冊と書かれています。 しかし、私的には既読向けだと思いました。 確かに登場人物や三年前の出来事の説明はありますが、短編ですし、説明くさくならないようサラッと最低限に留められている気がしました。 そのため、原作を読んでいないと、どうしてそう名付けたか、どうしてそう思ったのかといった空気や流れまではわかりにくいです。 原作既読だからこそ楽しめる箇所が多く感じました。 原作では些細な箇所を取り上げている際などは、既読の場合「こんな処をこう取り上げるか!」と楽しめますが、未読の場合サラッと流してしまうのではないでしょうか。 文体も原作らしさを十二分に残しているため、古めかしいとも言えます。 坊ちゃんの江戸っ子気質や当時の田舎への偏見も好みがあると思います。 既読の場合その辺りは承知の上で楽しめるでしょうが、未読で更にミステリを求めている人には読みにくい上とっつきにくいかもしれません。 勿論、原作未読で本作を読んだ訳ではないので一概には言えないのですが。 また、ミステリとしては後半少し急展開で駆け足気味だと思いました。 ネタバレになってしまうのであまり書けませんが、田舎松山から大きく広げた風呂敷のたたみ方が急で、「えっ、それでその後は」といった感じでした。 トリックもないわけではないですが、メインは原作のオマージュや世界観の新解釈にあると思います。 既読の場合、既読故に犯人の予想がついてしまいますし、未読でミステリを求めた人にはニーズに合いにくいかもしれません。 ミステリを楽しんだというより、「坊ちゃん」の別の見方を楽しんだ一冊でした。 既読だからこそ高評価ですが、未読だったら普通評価かもしれません。 解説にある通り、未読だからこそ楽しめる箇所もあるのかもしれませんが、既読だからこそ、「ここがこう繋がるのか」の連続で面白かったです。 あと、四国松山を田舎と称していますが、原作準拠ということで、申し訳ありません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「鈴虫」「ケモノ」「よいぎつね」「箱詰めの文字」「冬の鬼」「悪意の顔」の全6話の短編集です。
それぞれ独立した関連性のない短編になります。 共通項は登場人物の一人が「S」と表記されていること(同一人物ではありません)。 主人公たちの暗鬱な未来の象徴なのか、鴉が出てくること。 そして「鬼」。 タイトルの「鬼の足音」という短編はありませんし、「鬼」そのものが出てくるわけではありません。 「鬼」とは恐らく、人間に潜在する負の部分や、罪の象徴になります。 この短編集は「鬼」と化さないために越えてはいけない一線を越えてしまった人々の話といえると思います。 どのような境遇、心境で一線を越えるのか、個人の認識は別として社会的にどの程度の罪になるのかは、各話ごとに異なります。 「鬼」と化すわけなので、当然ハッピーエンドはありません。 しかし、明確に全話バッドエンドともいえません。 伏線はしっかり回収されているのですが、ラストは読者に想像の余地を残しています。 それも想像するとゾッとするような余韻があります。 また、短編にも関わらず、最後に予想を裏切るパターンや二転三転するパターンもあります(俗にいうどんでん返しとまでいえるかはわかりませんが)。 若干ホラーテイストで、どことなく世にも奇妙な物語のような雰囲気かもしれません。 短編でサラッと読めるにも関わらず、非常に密度が濃く面白いです。 道尾秀介氏の才能が光る短編集だと思います。 個人的には「冬の鬼」と「悪意の顔」がとくに好きでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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藤木芳彦は異様な光景の中目覚めた。
見たこともない深紅色の奇岩の連なり。 ここに至る直前の記憶の喪失。 傍にあるのは僅かな水、食糧、そしてゲーム機。 ゲーム機を作動すると「火星の迷宮へようこそ。」。 これはいったいどういうことなのか。 疑問、焦燥に苛まれながらも、ゲーム機の指示通り第1CPへ向かう最中、大友藍という女性と出会う。 2人で第1CPへ辿り着くと、そこには他に7人のプレイヤーがいた。 全員同様に水、食糧、ゲーム機が与えられており、第1CPまでは新たな情報、アイテム共に平等に分配された。 第2CPへの指示は4択。 サバイバルへのアイテムを求める者は東へ。 護身用のアイテムを求める者は西へ。 食糧を求める者は南へ。 情報を求める者は北へ。 ゲームは最初の選択肢が重要。 藤木と藍は北ルートを選択し、実質的に各プレイヤーとの協調関係が終了する。 この選択は正しいのか。 他の選択は各プレイヤーにどう影響するのか。 究極のゼロサム・ゲームが始まる―・・・ といった展開になります。 とても面白い作品でした。 非常にゼロサム・ゲームらしく緊迫感があり、恐怖への煽りが上手です。 ハラハラ、ドキドキしてつい一気に読んでしまいました。 読者を引き込むのが非常に上手だと思います。 正直、ミステリでもホラーでもあまりないと思いました。 ゼロサム・ゲームらしいサバイバルゲーム小説という印象です。 感想で米澤穂信先生のインシテミルと比較している方がいますが、インシテミルの方がミステリ要素はあると思います。 同じクローズド・サークルかつゼロサム・ゲームですが、ミステリ要素を求めるならばインシテミル、緊迫感を求めるならば本作かもしれません。 好みの問題はありますが、どちらも面白いと思いました。 しかし、若干不満点もありました。 ゼロサム・ゲームであからさまに殺し合いを狙っているのは作中で藤木自身の指摘しているぐらいなので分かるのですが、ゲームの設定や説明に曖昧と感じる箇所があります。 他のプレイヤーについての説明もないため、各プレイヤーの変化の過程が見えません。 そして、ラストは多くの方が感想で述べているように好みがあるのですが、それ以上に割と早い段階で最後の終わり方が予想出来てしまいました。 不満点が割と物語の根幹に関わる気がしたので、面白い作品だったのですが、-2点の8点評価にしました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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森真希は29歳の版画家。
まだまだ駆け出し状態の彼女の作品は、小サイズとはいえ額付で2500円。 当然それだけではやっていけず、友人と共に子供向け美術教室の講師をしていた。 ある日、教室で使う材料の買い出し中、ダンプと衝突事故を起こしてしまう。 しかし、彼女は自宅の椅子で微睡みから目覚めた。 時刻は3時15分。 まるで事故などなかった様子に驚く彼女だが、外に出てさらに驚く。 何と世界は彼女一人を残し、みんな消えてしまっていた。 さらにどのように一日過ごしても、定刻には前日の3時15分に戻ってしまう。 そんなターンを繰り返すこと150日。 静寂の世界の中で電話が鳴りだした。 唯一の現実世界との繋がりができた彼女は、現実世界の様子を知る。 はたして現実世界に帰られるのか この世界に取り残されるのか 帰れたとして、今の自分はどうなるのか 考えながら、電話を頼りに彼女は今日もターンする~・・・ という展開になります。 世界に独りぼっち。 時間が戻り同じ日を繰り返す。 この永遠ともいえる孤独はとても怖いです。 しかし、読了後の印象は美しく爽やかさすらあります。 ひとえに主人公である真希の感性によるものだと思います。 明るく楽観的な訳ではありません。 しかし、芯は強く健気です。 また、物の見方や表現がどこか美しく爽やかで、透明感があります。 その感性がとても素敵です。 ミステリですが、あらすじからわかるように、推理物ではなくタイムリープ系のSFになります。 ただSFといっても、辻村深月氏がSF=少し不思議と表現したことがありましたが、まさに少し不思議といった感じてす。 恐ろしい世界にも関わらず、緩やかにどこかほのぼのと進みます。 読了後はミステリというか、少し不思議でロマンティックという印象でした。 また、日本語の美しさも感じました。 その独特な文章には好みがありそうですが。 私は素敵な一冊だと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(3件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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大学院入試を控えた主人公・悠木拓也が試験準備のため叔父の別荘に訪れます。
そこで美しく、どこか神秘的な双子の兄弟・実矢と麻堵に出会います。 3人で遊んでいた様子なのに、もう一人“あっちゃん”は見えず、双子も“あっちゃん”については口を閉ざしてしまう。 悠木は双子に気に入られ、試験勉強しつつ、過ごします。 しかし、そんな日々は続かず、双子の別荘で事件が起きます。 誰が殺したのか? “あっちゃん”とは? といった流れの話です。 面白い作品でした。 ページ数的にも、文章的にも、スラスラ読みやすかったです。 綾辻先生の囁きシリーズでは一番好きかもしれません。 典型的というと言い過ぎですが、綾辻先生らしい世界観だと思いました。 神秘的な雰囲気。 いわくつきの建物。 不思議な双子。 厳格な父親と美しい母親。 何か隠している使用人。 ずる賢い親戚。 ミステリにはよくわる設定かもしれませんが、綾辻先生らしいキーワードな気もします。 なので館シリーズのような連続物ではなく、単品で綾辻先生の世界観に浸りたいときに良いと思います。 ただし、綾辻先生の作品を読み慣れている人は、推理なしに何となくで先読みできてしまうかもしれません。 あまり悩まず世界観を楽しんだほうがいいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作「密室殺人ゲーム王手飛車取り」を読んでからの方が楽しめる…かも?
2.0なので、基本的に前作を読んでいる前提で話が展開していきます。 しかし、前作を読んでいるからこそ、トリックは解けなくても、犯人の素性に関しては予想しやすいかもしれません。 ミステリーを読むにあたり、トリックを推理するのが好きという方は、特に楽しめると思います。 といっても、あまり現実離れしたトリックは駄目という方は微妙かもしれませんが。 犯人の素性当てや、意外性が好きという方は、あまり先読みができない私が先読みできてしまった箇所がところどころあるので、どうでしょう。 しかし、驚きの程度に差こそあれ、意外性がないことはありません。 前作の続きが気になる方には断然おすすめです。 終わり方に関しても、前作より好みだったので、前作より高評価にさせていただきました。 推理合戦みたいなところがあるので、多少説明的にはなりますが、文章も大変読みやすかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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新装版の方を読ませていただきました
ミステリーでは王道の、吹雪の館での連続殺人の話です 山奥で他人を寄せ付けない、どこか不気味な霧越邸に、下山途中で迷った劇団「暗色天幕」のメンバーが避難 そこで起こる連続殺人と、霧越邸の不思議な偶然 霧越邸の面々も不気味で何かを隠している いったい誰が犯人かー・・・という話です 綾辻先生の館シリーズとanotherの中間のようと聞いていました しかし、館シリーズとanotherほど、叙述トリックに傾倒した作品ではないと思います ミステリーはもちろん、ホラー要素も多少ありますが、anotherほどホラー要素はないです また、作家や芸術作品が頻繁に出るため、少し説明が多いです その辺りを楽しめるか、冗長と感じるか、好みが分かれると思います 綾辻先生が京大ミステリ研に在籍していた、若かりしころの作品ということがわかっているためか、文章に若さや時代を感じました 上述の説明も、今の綾辻先生が執筆したら、もっとシンプルかもしれません しかし、面白い作品ですし、綾辻先生のある種の原点的作品なので、オススメです ▼以下、ネタバレ感想 |
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ミステリーはいろいろな解釈や定義があると思います。
ミステリーに推理を期待する場合は、あまりこの作品は合わないかもしれません。 まったく推理がないわけではないですが、それが全面的に出てくるわけではないです。 人間味がないのに、その人間味のなさがどこか面白い死神の千葉が、7日間対象者を観察し、「可」か「見送り」にするか判定するというものです。 この作品では6人の人生を垣間見ます。 それぞれ異なる人生、価値観の人々のお話なので、どこかしら共感したり、気に入ったりできるのではないでしょうか。 6人分ということで、6つの短編集なので、さくっと軽く読める作品だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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綾辻先生の館シリーズよりホラーミステリーの雰囲気がありますが、anotherほどホラーミステリーではありません。
anotherとフリークスの中間のような雰囲気でしょうか。 幼少期の記憶がない主人公冴子が、歴史ある厳格で隔離された女子校に転入することから始まります。 あらすじにあるように、ひとりの女子生徒が焼身「自殺」をはかったとされ、そこから元々異常だった学校がさらに異常な事態となって行きます。 ただ、少し解かなければならない謎が多すぎる気もしました。 女子生徒の死の謎、その後の事件の謎、冴子の過去の謎、学校の過去の謎、そしてクラスの謎。 そのあたりは綾辻先生ですので、上手くリンクしますし、最後にはすっきり解決しますが。 あと、綾辻先生はanotherの時にも思いましたが、歪な学園生活を描くのが上手だと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(3件の連絡あり)[?]
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短編5本で、読みやすい一冊です。
ミステリーホラーの導入としても良い作品だと思います。 正直大きな盛り上がりはありませんが、はずれもない一冊だと思います。 短編5本もあるので、どれか1作は好みがあるのではないでしょうか。 ただ、このオスダメミステリーの評価より、帯の煽り文句が内容にマッチしていないと感じました。 ラストの一行に驚かされる的なことが書かれていますが、決してそういうわけではないですし、そこがメインとも思いませんでした。 まったく驚きがないわけではないですが、それよりも雰囲気や登場人物の歪みが魅力の作品と思いました。 そのため、帯の煽り文句に魅かれ、どんでん返し的なものを期待した人にとっては、せっかく良作品なのに、期待外れになってしまうと思いました。 また、前述でホラーミステリーの導入云々の書きましたが、所々にミステリーを読み込んでいる人にはニヤリとさせられる知識が出てくるので、ミステリーを読み慣れた人にも面白い面がある作品だと思います。 あまり帯の煽り文句を気にせず、先入観なしで楽しんでほしい作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(2件の連絡あり)[?]
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