■スポンサードリンク


iisan さんのレビュー一覧

iisanさんのページへ

レビュー数538

全538件 441~460 23/27ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
 閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
No.98: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

バルセロナのニューヒーロー登場

スペインの新星トニ・ヒルのデビュー作。スペインで大ヒットになったというだけあって、非常に面白い警察小説である。
取調べ中の呪術師に激しい暴行を加えたことから強制的に長期休暇を取らされていた、アルゼンチン移民の警部エクトル・サルガドがようやく仕事に復帰しようとしたとき、呪術師が部屋に豚の頭と人血を残して失踪。関与を疑われたサルガドはこの事件捜査からは外され、新人女性刑事と組んで、19歳の少年の転落死の再調査を命じられる。「事故か自殺か、簡単に調査すればいい」という、どうでもいいような事案だったが、調べを進めるうちに数々の疑問が発生し、やがては社会の闇に隠されていたおぞましい真相に近づくことになる。
まず、謎解きミステリーとしての構成がしっかりしているので、最後の最後まで緊張感にあふれ、読後は十分なカタルシスが得られること間違いなし。さらに、キャラクター作りが巧みなため、主要な登場人物がみな生き生きとして魅力的で、自然な共感を呼びさまされる。また、ストーリーは過去と現在を行き来しながら展開されるのだが、非常に読みやすく、混乱することはない。
本作は「バルセロナ警察三部作」の第一作だということで、残りの二作品の登場が待ち遠しくなる、傑作エンターテイメントである。
死んだ人形たちの季節 (集英社文庫)
トニ・ヒル死んだ人形たちの季節 についてのレビュー
No.97: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

読み応えあり

ノルウェーの人気ミステリー「ハリー・ホーレ」シリーズの第一作、作者ジョー・ネスボのデビュー作でもある。北欧5ヶ国の最優秀長編ミステリーに贈られる「ガラスの鍵賞」を受賞しただけあって、実に読み応えがあった。
オスロ警察の刑事ハリーは、オーストラリアで起きたノルウェー人女性殺害事件の捜査に協力するためシドニーに派遣された。シドニー警察と一緒に捜査を進めると、事件は連続レイプ殺人ではないかと疑われるようになってきた。オーストラリア先住民族の刑事とのコンビで事件を解明していくハリーだったが、容疑者が次々に現われ、さらに頭の切れる真犯人に翻弄され、それまで抑制していた自身のアルコール依存症まで再発させてしまう・・・。
物語の前半は警察小説の王道を行く殺人事件捜査だが、連続レイプ殺人が疑われるところからはサイコミステリー風に展開し、さらにオーストラリアの歴史に絡む社会派小説の様相も帯びてくる。しかし、メインストーリーの犯人探しがしっかりしているので、実に魅力的なミステリーになっている。
シリーズすでに10作まで発表されているが、日本では、まだ3作品しか翻訳されていないので、今後が大いに楽しみである。
ザ・バット 神話の殺人 (集英社文庫)
ジョー・ネスボザ・バット 神話の殺人 についてのレビュー
No.96:
(8pt)

後半、ぐんぐん加速!

巨匠ゴダードの22作目の長編は、90年代のボスニア・ヘルツェゴヴィナ内戦をベースに、医師のモラルを問うサスペンス小説である。
イギリスの優秀な移植外科医ハモンドはかつて、自身の離婚に絡んで金が必要だった為、高額な報酬に惹かれてセルビアの民兵組織のリーダー・カジの肝臓移植手術を成功させた。それから13年後、戦争犯罪人として裁判中のカジの娘がハモンドに接触し、父親が隠した巨額の財産を引き出すために、父親の会計係の男を探せと依頼する。亡き妻の殺害事件をネタに脅迫されたハモンドは会計係を探すためにハーグ、ミラノ、ベオグラードを駈け回るが、会計係を探しているのはハモンドだけではなかった。
単なる外科医に過ぎない主人公の人捜しはスムーズには進まず、物語の前半はまどろっこしい。しかし、会計係と接触し、さまざまな敵と遭遇しながら隠し財産の引き出しを試みる後半になってからは、まさに「ノンストップ」のスピーディーな展開で一気に読ませる。驚愕の真実が明らかにされるエンディングも印象深い。
血の裁き(上) (講談社文庫)
ロバート・ゴダード血の裁き についてのレビュー
No.95: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

読ませる力がある作品

2014年度江戸川乱歩賞の受賞作。著者は過去、何度も最終候補に残りながら受賞を逃してきていたというだけに、並みの新人とは違う実力を感じさせる。
かつてはカメラマンとして活躍しながら中途失明によって仕事も家族も失い、孤独な生活を送っている主人公は、腎臓病を患う孫娘のために生体腎移植を希望するが、自身の腎臓も状態が悪くて移植できないと判断された。孫を救う最後の手段として、27年前に中国残留孤児として帰国し、現在は故郷で母親と暮らしている兄に腎臓の提供を依頼するが、兄は腎臓の適合検査さえかたくなに拒否してきた。どうして、孫娘を助けてくれないのか? 検査を受けると、何か不都合があるのだろうか? ひょっとして、兄は偽者ではないのか? 疑心暗鬼に陥り、真相を探り始めた主人公の周囲では、次々と不審な出来事が起きてくる・・・。
視覚障害の老人が探偵ごっこに乗り出すというシチュエーションが効果的で、晴眼者なら何でもないことに苦労する主人公に、読者は思わず肩入れしたくなる。さらに、中国残留孤児、満州からの引揚げ、現在の密入国ビジネスなどの背景の設定、エピソードが物語に厚みを与えている。また、伏線の張り方もお見事。セリフや状況設定に多少の疑問が残るが、それを補う力強さがある。
幅広いミステリーファンにオススメしたい。
闇に香る嘘 (講談社文庫)
下村敦史闇に香る嘘 についてのレビュー
No.94: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

主人公の視点が秀逸

アスペルガー症候群の18歳の青年が主人公の悲しくもユーモラスなミステリー。スリリングではないが、登場人物に共感する部分が多く、心地よい読後感が得られる。
人とのコミュニケーションは苦手だが、興味を持つことへの追及心は並外れているパトリックは、8歳のときの父親の事故死をきっかけに「死」への探求心を刺激され、小動物の死骸を集めたり、少女の死体の写真を集めたりしていたが、18歳になり優秀な成績で医大に合格し解剖学を学ぶことになる。解剖実習の授業では、遺体を解剖し、死因を突き止めるという課題が学生に与えられた。パトリックの班に割り当てられた遺体「19番」の死因は容易には判明しなかったが、パトリックは遺体からある不審物を発見したことから、授業のレベルを越えて、個人的に死因の究明に取りつかれて行く。コミュニケーション障害の為、周りとさまざまなトラブルを起こしながらパトリックが明らかにした真相は、隠されていた殺人事件を暴露することになる。
パトリックの言動、母親を始めとする周囲との軋轢の歴史、19番の死因の究明を本筋に、昏睡状態の入院患者の記憶、それを世話する看護師のラブコメがサブストーリーとして展開される物語は、生と死の分かれ目を追及する重いテーマでありながら、どこかユーモラスで、心温まる物語にもなっている。周到に張り巡らされた伏線が最後に見事に結実し、ミステリーとしても上出来だ。
ラバーネッカー (小学館文庫)
ベリンダ・バウアーラバーネッカー についてのレビュー
No.93: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

巡査と警察犬、相棒を失った者同士の再生の物語

ロサンゼルスの街中で銃撃事件に巻き込まれて相棒を死なせてしまったパトロール巡査・スコットと、アフガニスタンでの戦闘でハンドラーを失った軍用犬・マギー、心身に深い傷を負った者同士が新たな相棒を見つけ、再生していく物語。このタイプの作品の定番通り、一人と一匹が一体となって力を合わせ問題を解決するのだが、犬の外見や行動はもちろん心理状態まで丁寧に描かれているのが読ませるポイント。警察小説、ミステリーファンにはもちろん、犬好きの読者には絶対のオススメだ。
心身の負傷によってSWATの夢を諦めたスコットは警察犬隊への配属を希望し、ハンドラー養成課程を終了したとき、軍用犬の任務を解かれて警察犬候補として連れてこられていたマギーと出会い、指導官に頼み込む形でペアを組んだ。お互いに「突然の大きな音にびくつく」というPTSDに悩まされながらも、相棒としての絆を深め、スコットが遭遇した事件の真相を探ることになる。
ストーリーは分かりやすく、善人悪人がはっきりしているので読みやすく、読後感もすこぶる爽やか。しかしながら単純な印象ではなく、ハートウォーミングで味わい深いのは、やはり犬の力だろうか。
容疑者 (創元推理文庫)
ロバート・クレイス容疑者 についてのレビュー
No.92:
(8pt)

憎めない悪党と悪女の騙し合い

発売早々、書評紙誌で高い評価を受け、「オーシャンズ11」の監督から絶賛されたという、クライムノベルの新星ルー・バーニーのデビュー作。粋でお洒落な会話、凄惨なシーンが無い犯罪描写、スピーディーな場面展開は、まさにアメリカン・ノワール映画の王道、「オーシャンズ11」を彷彿させる傑作エンターテイメント作品である。
刑務所から出て来たばかりのシェイクは、旧知のアルメニア人マフィアの女ボスから車をラスベガスに運び、交換にブリーフケースを受け取って戻る仕事を依頼された。車泥棒と犯罪集団の運転手をやってきたシェイクには簡単な仕事だった、車のトランクに閉じこめられたジーナに気付くまでは・・・。
ジーナに心を惹かれたシェイクがジーナを助けようとしたことから、二人はラスベガスのギャングを敵に回して逃げ回るハメに陥った。さらに、ブリーフケースの中身である500万ドルの価値を持つ聖遺物を換金するため、二人はパナマに飛び、隠棲する大金持ちのコレクターを探すことになった。
主役の二人、シェイクとジーナがどちらも、お互いを信用できない悪党ながら憎めなくて、思わずどちらにも肩入れしたくなる魅力があるのが、本作品のポイント。登場人物のキャラクターといい、ストーリーといい、まさにエルモア・レナードの後継という印象を受けた。
軽やかなクライム&コンゲーム作品が好きな人には、絶対のオススメ!
ガットショット・ストレート
No.91: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

イギリス版ハードボイルドは・・・

「ハリー・ポッター」シリーズのJ.K.ローリングが別名で書き始めた「私立探偵コーモラン・ストライク」シリーズの第一作。イギリスの作品では数少ない私立探偵もので、アメリカの私立探偵ものとの共通点、相違点が面白い。
アフガニスタンで足首を吹き飛ばされて軍隊を引退し私立探偵を始めたストライクは、ビジネスは下落の一途をたどっており、私生活でも超美人の恋人に振られ、住まいを追い出されるというどん底にあったとき、少年時代の親友の兄が訪ねてきて、「三ヶ月前に自殺したとされている妹は殺されたのではないか、調査してもらいたい」という依頼を受ける。依頼者の妹はイギリスのトップモデルとして有名で、その死は大きな話題になっただけに自殺という警察発表に疑問はないと思っていたストライクだが、高額の調査費に引かれて調査を引き受けることにした。死亡した妹の周辺調査から彼女を利用しようとしていた様々な人物が浮かび上がり、他殺の可能性が捨て切れなくなってきた。
トップモデルと兄はともに養子で、複雑な家族関係、人間関係を抱えていた。一方、ストライクも有名ロックミュージシャンの婚外子で、家族に関する屈折した思いを抱えており、全編を通して単純なハードボイルド物語にはなりきれない、ヒューマンドラマの柔らかさが感じられる。さらに、臨時の派遣秘書として雇われたロビンが色気だけではない華やかさと優しさを添えている点も、人情物語としての完成度を高めている。
犯人探しの点では最後にややご都合主義なところもあるのだが、ミステリーファンにも十分に楽しめるだろう。殺伐としたアメリカン・ハードボイルドに忌避感を持つ人にもオススメしたい。
カッコウの呼び声(上) 私立探偵コーモラン・ストライク
No.90: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

87歳、初期認知症におびえるヒーロー誕生!

最近では「ヴァイオリン職人の探求と推理」が思い浮かぶように、老人の主人公が活躍するミステリーはたまに目にするのだが、本作の主人公はなんと87歳! ほとんどの紹介記事で「ミステリー史上最高齢のヒーロー」とされている、高齢化社会を先取りした作品である。
老妻とふたりで引退生活を送っている元凄腕刑事バック・シャッツは、臨終の床にあった戦友から「あんたを痛めつけたナチ強制収容所の将校が金塊をもって逃げている」と知らされる。最初は気乗りがしなかったのだが、取り合えずその男の行方を探ろうとしたところ、周辺で不可解な殺人や不穏な事態が続発した。捜査権限はもちろんのこと、捜査活動を続ける体力もなく、あるのは「意地と皮肉」だけという老人がITに強い孫と357マグナムの助けを借りて獅子奮迅の働きを見せる。
本作の魅力は、なんと言っても87歳の主人公。ところかまわずラッキーストライクを吹かし、相手構わず強烈な皮肉を連発する一方、庭の芝生の手入れも出来なくなった体力不足と、医者に指摘された認知症の初期症状に悩んでいるところが人間的で微笑ましい。主人公のキャラの強烈さに隠れてしまいそうだが、犯人探しのストーリーもしっかりしていて、良質なミステリーとしてもオススメ。
もう年はとれない (創元推理文庫)
No.89: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

主人公もオチも、ひねりにひねってます(笑)

2010年に発表されて以来、本国スウェーデンをはじめヨーロッパでベストセラーになっている「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズの第一作。すでに実績のある脚本家ふたりが書いているだけあって、主人公も、他の登場人物も魅力的で、ストーリーも波乱に富んでいて非常に楽しめる。
ストックホルムにほど近い静かな街で、心臓をえぐり出された男子高校生の死体が発見され、地元警察の要請を受けて国家警察の殺人捜査特別班の4人の腕利き刑事が捜査に乗り出した。殺された少年は家庭に恵まれず、以前の高校ではいじめに遭い、転校先でも友達が少なかったという。捜査が進むにつれ、少年の通う名門高校には隠された問題があることが分かってきた。さらに、少年の関係者が殺害され、家が放火されるという新たな事件まで発生した。
事件捜査の主役は捜査特別班のメンバーだが、ひょんなことから(ちょっと邪な動機から)捜査に加わることになった元プロファイラーのセバスチャンが、物語全体を引っかき回すところが、本作の読みどころ。かつてはトッププロファイラーとして活躍したセバスチャンだが、自信過剰、傲岸不遜、協調性ゼロ、おまけにセックス中毒で捜査関係者であろうと関係なくベッドに入ってしまうという、ねじれにねじれた人間性が影響して、他のメンバーからは総スカンをくらうのだが、そんなことには一向にへこたれず、独自の解釈で捜査の方向性をリードすることになる。
ミステリーにはいろんなタイプの主人公が出て来るが、セバスチャンほどひねくれた捜査側の人物はおそらく初めてだろう。少なくとも、自分の読書体験では出会ったことがないキャラクターである。そういう人間になるには、それなりの背景があるのだが、表面的には実に「イヤな奴」で読んでいて共感を抱くのが非常に困難だった。しかし、最後の最後に、セバスチャンの抱える鬱屈が晴らされるような展開が待っていて、読者は救われる。
ストーリーの魅力と、それ以上の登場人物の魅力。シリーズの成功が納得できるデビュー作である。
犯罪心理捜査官セバスチャン 上 (創元推理文庫)
No.88: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

主人公の設定が凝っている

ウォールストリートで20年以上の勤務経験を持つ著者が自身の体験をもとに書き上げたデビュー作で、2013年のシェイマス賞最優秀新人賞の受賞作である。
最近目にすることが多い金融サスペンスものだが、花形トレーダーとして大金を稼いでいたのに不正行為で2年間服役し、出所したばかりという主人公・ジェイスンの設定が面白い。裁判所命令で金融関係には就職できず、とりあえずの現金が欲しいジェイスンは、証券会社の最高財務責任者から「事故死した若手社員の取引に不正があるかどうかを確認して欲しい」という依頼を受ける。非協力的な社員や乏しいスタッフに苦労しながら調査を進めたジェイスンは、大掛かりな不正行為の存在を発見し、FBIに協力して摘発しようとする・・・。
ミステリーとしての本筋は金融不正行為をめぐるサスペンスで、一筋縄ではいかないジェイスンの性格もあって、犯罪者やFBIなどとの虚々実々の駆け引きが面白い。しかし、本作品が高い評価を得たのは、ジェイスンが自閉症の息子・キッドと懸命に向き合って親子二人の生活を成り立たせようとする「父子の成長物語」でもあるからと言えるだろう。身勝手な前妻、その再婚相手、さらには世間の無理解に直面しながら奮闘するジェイスンとキッドに思わず声援を送りたくなる。
金融サスペンスというより、父と息子の心温まるハードボイルドとしてオススメしたい。
ブラック・フライデー (ハヤカワ文庫NV)
No.87: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

63歳の素人探偵デビュー!

1958年生まれというから遅咲きの英国人作家ポール・アダムの本邦初訳作品。タイトルの通りにヴァイオリン職人である63歳の素人探偵が主役の静かな味わいのミステリーである。
イタリアのヴァイオリン職人・ジャンニの親友で同業者のトマソが殺害された。共通の友人で地元警察の刑事であるアントニオに協力して犯人探しを始めたジャンニは、トマソが極めて高価なヴァイオリン、幻のストラディヴァリを探してイギリスに行っていたことを突き止めた。金銭的に豊かでなかったトマソがイギリスまで行ったのは、古いヴァイオリンのディーラーかコレクターの依頼に違いないと見当をつけたジャンニは、ヴァイオリンの名器を取引する業界の知り合いに探りを入れ始め、別の殺人事件に遭遇することになった。
主人公は真っ当で誠実な職人だが、幻の名器を巡って巨額の金銭が飛び交う業界は、悪徳ディーラー、詐欺師、贋作師が跋扈し、真実と嘘の見分けがつかなくなる闇の世界だった。ジャンニは持ち前の豊富な知識と人脈を活用し、歴史の謎を解きながら一歩一歩真実に近づいていった。
63歳の素人探偵が主役なので派手なアクションシーンやサスペンスの盛上りはなく、淡々のストーリーが流れていくのだが、所々に挿入されている深い人生経験に基づいた言動がじんわりと心を温めてくれる。ミステリーとしてもレベルが高い作品だが、ヒューマン小説としても高く評価できる。古典的な探偵小説ファン、アームチェアディテクティブのファンにオススメだ。
ヴァイオリン職人の探求と推理 (創元推理文庫)
No.86: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

金融事件だが読みやすい

2012年のデビュー作「ブラック・フライデー」でシェイマス賞最優秀新人賞を受賞した実力派新人マイクル・シアーズの第2作。デビュー作と同じく、ウォールストリートで華々しく活躍していながら金融不正の罪で2年間服役して出所した元花形トレーダー・ジェイスンを主人公とする作品である。
一代で大手投資銀行を築き、大富豪として知られた銀行家が巨額の投資詐欺で逮捕され、拘置所で自殺した。遺族は、父親には30億ドルという巨額の隠し資産があるのではないかと疑い、ジェイスンに調査を依頼する。スイスに500万ドルの年金を隠してはいるものの当面の仕事にも金のやり繰りにも苦労していたジェイスンは、高額の報酬に惹かれて調査を引き受けた。自殺した銀行家の関係者への聞き取りからスタートしたジェイスンは、銀行家が麻薬組織のマネーロンダリングに加担していた疑いを深めていく。それと同時に、ジェイスン本人と家族にあからさまな脅迫が加えられるようになってきた。
投資詐欺やスイスのプライベートバンクを利用した資産隠しという金融犯罪を扱った作品だが、高度な金融知識がなくてもストーリーが理解でき、ミステリーとしてのストーリー展開もよく出来ているので、最後まで退屈することなく読みこなせる。さらに、ジェイスンと発達障害を持つ息子・キッドとの親子関係、あるいは離婚した妻、バーテンダーである父親などとの家族関係などが物語の背景として上手く描かれており、父と息子の心の交流を描いたハードボイルドとしても楽しめる。
このシリーズは好評を得ているようで、すでに3作目を執筆中だという。シリーズ作品なので第1作から読むのがベストだが、本作品から読み始めても問題なく楽しめること、請け合いだ。
秘密資産 (ハヤカワ文庫NV)
マイクル・シアーズ秘密資産 についてのレビュー
No.85: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

主役を譲ったのも、余裕の表れかな

日本でも安定した人気を誇る、コペンハーゲン警察の未解決事件専門部・特捜部Qシリーズの第5弾。今回、おなじみQのメンバーが挑むのは、アフリカの開発援助を担当していた外務官僚の失踪事件である。まじめで心優しい男性だったのに、担当するプロジェクトの進行を確認するための出張を一日早く切り上げて帰国したのち、まったく姿を消してしまったのだった。彼の事実婚相手の娘で、彼を慕っていたティルデは、情報提供を依頼するポスターをコペンハーゲン市内に張り出したが、情報は全く得られなかった。
それから3年後、特捜部Qのメンバー・ローセは偶然、そのポスターを入手し、乗り気ではないカール・マーク警部を説得し捜査を始めようとする。実は、そのポスターがローセの目に留まったのは、ロマ(ジプシー)を装った犯罪集団から逃げ出した15歳の少年マルコが、組織の追及を逃れながら一人で生き延びるための仕事としてポスター張りをしていて見つけたものだった。マルコはそのポスターを見て、自分が大変な犯罪の証拠を知っていることに気がついた。マルコは、自分の命が狙われていることを確信する。さらに、外務官僚の失踪に絡む汚職の犯罪者たちもマルコを捕まえようとする。
生粋のストリート・チルドレンであるマルコが、知恵と勇気と偶然を味方にコペンハーゲン中を駆け巡る逃走劇と、いまひとつ覇気が無いカール、病み上がりのアサド、やたらと正義感が強くなったローセというQのメンバーによる失踪事件捜査が並行して進行し、やがて悲劇と感動のクライマックスを迎えることになる。
本作では、読者の関心は圧倒的にマルコの逃走に向けられるだろう。いわば、Qのメンバーがマルコに主役を譲ったと言えるかもしれない。それでも、カールの老いらく?の恋話、ローセの意外な一面の暴露、アサドの秘められた過去の部分的な判明など、シリーズ読者には必読のエピソードも盛り沢山で、主役を譲ったのは彼らの余裕の表れといえるだろう。今回も、オススメの出来栄えだ。
特捜部Q―知りすぎたマルコ― 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.84:
(8pt)

やられたら、倍返しだ

稀代の悪徳刑事・禿鷹シリーズの第2弾。やくざ同士の縄張り争いに悪徳警官同士の勢力争いが加わって、今回も壮絶な暴力の応酬が繰り広げられていく。
渋谷の小さなバー「みはる」に、新宿を根城にする南米マフィア・マスダの幹部・宇和島がちょっかいを出し、ママの世津子を脅迫した。そこに現れた禿鷹は宇和島を痛めつけて放り出したが、その夜、禿鷹は3人組に襲われてしたたかに痛めつけられた。実はこの3人は、宇和島とつながりのある悪徳警官グループだった。絶対にやられっぱなしにはしない禿鷹は、さまざまな策を講じて悪徳警官たちに次々に落とし前をつけていく。
個人も組織も、時には付合っている女性さえ「とかげのように無表情な目」で冷徹に見極め、徹底的に自分の損得で行動するアンチヒーロー・禿鷹。好きと嫌いがはっきり別れるキャラクターだが、もっと読みたくなることは間違いない。日本のハードボイルドにビターな味が欲しいと思っていた読者にはオススメだ。
無防備都市 禿鷹II (文春文庫 お 13-20)
逢坂剛無防備都市 禿鷹の夜II についてのレビュー
No.83: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

福島第一原発事故後に読んで

1995年に発表された作品だが、ミステリーとしての本筋とは別に、16年後の原発事故を予感していたようなリアリティのある話にぞくぞくした。
自衛隊から受注した大型ヘリ「ビッグB」が、最後のテストの日、遠隔操縦装置を駆使する何者かに奪われて無人のまま飛び立ち、高速増殖炉「新陽」の真上でホバリング状態になり、犯人からは「すべての原発を使用不能にすること。ただし、新陽は運転を停止させないこと」という要求が届いた。要求が聞き入れられなければ、ヘリを墜落させるという。原発が人質に取られたのである。ところが、犯人は知らなかったのだが、ビッグBには小学生の男の子がひとり入り込んでいた。子供の救出と原発の事故防止、二つの難題を解決するために、前例の無い危機管理活動が展開されることになる。
子供の救出作戦、犯人探しという本筋のストーリーの完成度の高さもさることながら、本作品では「原発は必要なのか?」という裏のテーマの重さが、読者の心に迫ってくる。原発を推進する政府、電力会社、原発メーカー、誘致する自治体、原発労働者、反対運動を進める人々・・・さまざまな視点から原発を捉え直し、「沈黙する群衆」の責任を問うてくる。
福島第一原発事故の前であれば、「原発は必要か」の部分が多少鬱陶しく感じただろうが、あの事故を経験した今では、こちらにこそ本質があるような気さえしてくる。そうした重い問い掛けを含みながら、エンターテイメントとしても優れた作品であり、多くの方にオススメしたい。
天空の蜂 (講談社文庫)
東野圭吾天空の蜂 についてのレビュー
No.82:
(8pt)

最凶悪徳刑事に迫る、最強最悪の女刑事

禿鷹シリーズ四部作の完結編(のはずが、禿鷹外伝が誕生したため、シリーズ第4弾になった)。禿鷹の傍若無人が最高潮に達し、極めて緊迫感のあるハードボイルド作品である。
ルールも倫理も一切意に介さず、ヤクザも南米マフィアも警察組織も手玉にとって悪行の限りを尽くす禿鷹を抹殺する密命を帯びて、警察上層部から送り込まれた刺客は、禿鷹以上に凶悪な女警部・岩動寿満子だった。渋谷を縄張りとするヤクザ渋六興業と禿鷹との癒着を暴くため、岩動は権謀術策を巡らせ、さまざまな罠を仕掛けてきた。知恵と度胸で岩動に対抗してきた禿鷹だったが、権力と悪知恵で締めつけてくる岩動に、さすがの禿鷹も追い詰められ、壮絶なラストへと突っ走る。
本作ではなんといっても、禿鷹を追い詰める岩動のキャラクターが際立つところが特筆もの。ハードボイルド、ミステリーはやっぱり悪役(もっとも、禿鷹も悪役なのだが)がインパクトがあるほど面白いことを実証する作品だった。
継続性が強いシリーズなので順番に読むことをお薦めするが、本作だけでも十分満足できるだろう。
禿鷹狩り〈上〉―禿鷹〈4〉 (文春文庫)
逢坂剛禿鷹狩り 禿鷹IV についてのレビュー
No.81: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

定員オーバーの救命ボートで、何が起きた?

1914年の夏、大西洋上で爆発炎上した大型客船から下ろされた救命ボートには、乗客と船員を合わせて39名が乗っていた。大混乱の現場から離れ、沈没する船から逃れたボートだったが、用意された水や食糧は乏しく、さらに乗船可能な定員が実際には30名ほどだったことが判明する。定員オーバーの船は海が荒れればたちまち海水が浸入し、沈没する恐れがある。いつ来るのか分からない救助を待つには、「積み荷」を減らさなければならない・・・。積み荷を減らすための手段は? 減らす積み荷を誰が選別するのか? 極限状態に置かれた人間集団にとって、善と悪はどこで線引きされるのかという厳しい問いが投げかけられる。
物語は、主人公である22歳の女性・グレースが裁判のためにまとめた回想記として進められているが、実はグレースはボート内で起きた出来事について起訴されている立場であり、いわば被告人の弁明のための主観的な記述でしかない。従って読者は、書かれている内容を完全に信用することが難しく、常に緊張感をもって読まなくてはいけなくなる。
遭難サバイバル物語というより、「羅生門」などと同じ「薮の中の物語」と言えるだろう。作者はこれがデビュー作ということだが、じわじわとくるサスペンスの盛り上げ方をみると、かなりの技巧の持ち主である。
アン・ハサウェイ主演で映画化されるということで、これも楽しみだ。
ライフボート (集英社文庫)
シャーロット・ローガンライフボート についてのレビュー
No.80:
(8pt)

もしも裁判員に選ばれたら・・・

裁判員に選ばれたとき、「あなたは責務を果たせると思いますか?」というテーマのシミュレーションゲーム、ガイドブックである。
現実にありそうな12のケースについて、先に小説家が状況説明のフィクションを提供し、すぐに法律家が刑法での考え方を解説するというユニークな構成で、エンターテイメントと実用の二兎を追って成功している。
刑法の説明のためという縛りがあるので、あまりに荒唐無稽な話は出来ない(「事実は小説より奇なり」ではあるが)ため、小説部分はかなりの制約を受けただろうと思うが、それにしては12編とも面白いストーリーになっていて感心させられた。それ以上に、罪と罰に関する法律の考え方の解説が面白く、今後の事件記事を読むのに大いに役立ちそうである。
犯意 (新潮文庫)
乃南アサ犯意 についてのレビュー
No.79: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

マリア警部、公私共に大混乱、大奮闘!

フィンランドでは大人気の「マリア・カッリオ」シリーズの邦訳第三弾(本国ではシリーズ6作目)。警部に昇進し、エスポー警察暴力課を率いることになったマリア警部、相変わらずエネルギッシュです。
一年間の出産休暇を終えるにあたり、マリアは夫のアンティ、娘のイーダの三人でヨットで小さな島を訪れる。かつては要塞だったこの島は、船舶塗料メーカーのメリヴァーラ社が所有し、一般に公開していた。マリアがこの島を訪れたかったのは、かつて付き合いがあった鳥類学者ハッリが、一年前にこの島の断崖から落ちて死亡したためだった。島ではメリヴァーラ一家と出会い、面識を得る。
休暇を終えて出勤したマリアは、早速、昇進争いのライバル・ストレム警部がらみの組織内問題に悩まされることになる。さらに、メリヴァーラ家の長男は過激な動物愛護団体のメンバーとしてデモに参加し、警察沙汰になる。しかも、一年前にハッリが死んだのと同じ日に、同じ場所で、メリヴァーラ家の当主が同じように滑落死しているのが発見された。これは、偶然の出来事だろうか、それとも・・・。
前作では妊娠中にも関わらず激しいアクションを繰り広げて読者をハラハラさせたマリア。今回はアクションこそ大人しいものの、心理的には公私共に息を継ぐヒマもなく難題が降りかかってきて大奮闘を見せる。いやいや、並みの男では太刀打ちできないタフな警部です。
二つの死の真相解明というメインストーリーは、まあありがちな動機とプロセスで、さほど新鮮味はない。ただ、さまざまなエピソードの背景となるフィンランド社会、フィンランドの自然が印象的で興味深かった。
前作を読んでいる人はもちろん、本作が初めての人でも十分に楽しめる警察物ミステリーといえる。
要塞島の死 (創元推理文庫)
レーナ・レヘトライネン要塞島の死 についてのレビュー