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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1137件
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2009年の日本推理作家協会賞受賞作。テンポよく読ませるコン・ゲームミステリーである。
ケチな詐欺を生業とする武沢とテツのくたびれた中年の2人組が、ふとしたことから18歳の少女・まひろと同居を始めると、さらにまひろの姉・やひろと恋人の貫太郎まで転がり込み、5人での奇妙な共同生活が始まった。ところが、それぞれに闇金がらみでの悲惨な過去を抱えていた彼らに、再び過去からの暗雲が襲いかかってきた。追い詰められた5人は命をかけて、闇金組織相手に逆襲のコン・ゲームを仕掛けていった・・。 とぼけた中年2人組の詐欺話と、つかみ所の無いまひろ・やひろ姉妹の生き方がテンポよく展開されて行く中盤までは非常に読みやすく、軽快である。また、武沢と姉妹との隠された因縁が適度な緊張感を醸し出し、どんどん話に引き込まれていく。闇金相手のコン・ゲームの仕掛けもまずまずで、クライマックスは盛り上がる。 それでも不満が残ったのは、最後のネタばらしがイマイチだったこと。文末の解説にあるように「相手が騙されたことに気付かせない」詐欺と「騙されたことを自覚させる」マジックの違いで、本作品はマジックを楽しむ作品ということなのだろう。 読みやすくて面白い、手軽なエンターテイメント作品を読みたいという読者にはオススメだ。 |
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「どんでん返し職人ディーヴァーが初めて挑んだ歴史サスペンス」という裏表紙の解説にある通り、1936年のベルリンを舞台にした、ナチス幹部の暗殺を巡るサスペンス。2004年度の英国推理作家協会のスパイ・冒険小説部門賞を受賞したという、本格派の作品である。
マフィアの仕事を受けていた殺し屋ポールは、米海軍情報部の罠にかかって捉えられ、刑務所送りかドイツに渡ってナチス要人を暗殺するかの二者択一を提示された。ベルリン・オリンピックに参加する米国選手団と一緒にベルリンに着いたポールは、現地工作員と接触する際に誤って殺人事件をひき起こし、現地警察に追われることになる。凄腕の殺し屋とは言え、逃亡しながらでは思うように行動できず、暗殺計画を実行するのは不可能かと思われたのだが・・・。 物語自体はもちろんフィクションなのだが、時代背景、登場人物などは史実に基づいており、660ページという大作だが、緩むこと無く読者を引っ張って行くところはさすが。ただ、ライム・シリーズほどのどんでん返しの連続ではない。それでも、ベルリンに潜入してから脱出するまで、わずか4日間の緊迫したストーリー展開がサスペンスを高めて、最後までスリリングである。 第二次世界大戦時のスパイもの、逢坂剛氏のイベリア・シリーズなどのファンをはじめ、ラドラム・ファンなどにオススメしたい。 |
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「凍原」と同じく「北海道警釧路方面本部刑事第一課」の女性刑事が主役の長編ミステリーだが、ヒロインは前作の松崎比呂から大門真由に変わっている。
釧路の海岸で老人男性の変死体が発見された。被害者は札幌でタクシー運転手をしていた80歳の滝川という一人暮らしの男性と判明し、大門は先輩刑事の片桐とのコンビで、被害者の身元調査を担当することになった。老人のアパートに残された数少ない遺品や周辺への聞き込みから、滝川老人は青森出身で、半世紀以上前に八戸から北海道にわたってきたらしいことは分かったが、詳しい履歴はなかなか判明しなかった。生涯独身で人付き合いも少なかった老人が、なぜ釧路へ来て殺害されたのか? 大門と片桐の粘り強い調査で分かってきた被害者と釧路とのつながりは、あまりにも切なく悲しいものだった・・・。 Amazonのレビューでも指摘されているように、被害者と犯人の出会い、殺害動機などに弱点はあるものの、それを補ってあまりある魅力を持つ作品である。特に、ヒロインの大門刑事の背景設定が効果的で、事件の真相が解明されるたびにじわじわと胸が熱くなってくる。 フーダニット、ワイダニットの面白さとともに「人が幸せに生きるとは、どういうことか」を考えさせる重厚な作品として、多くの方にオススメしたい。 |
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著者のデビュー長編で、2001年の江戸川乱歩賞受賞作。死刑制度という重いテーマを一級のエンターテイメントに仕上げた傑作ミステリーである。
死刑執行のトラウマを抱える刑務官・南郷は、冤罪の可能性がある死刑囚・樹原を救うための調査を高額の報酬で依頼されたのを機に早期退職し、傷害致死罪で服役後に出所したばかりの青年・三上を助手にして調査を開始した。再調査の手がかりになるのは、犯行時の記憶を失っていた樹原が思い出した「階段を上った」という根拠が無い記憶だけ。二人は、当時の関係者から話を聞き、犯行現場周辺を掘り返して調べるのだが、冤罪の証拠を見つけることはできなかった。一方、樹原の死刑執行命令書は役所の手続きの階段を踏み、執行の時間は刻々と迫っていた。南郷と三上の調査は、死刑執行に間に合うのだろうか・・・。 誰が、何故、どうやってという謎解きに、タイムリミットのサスペンスが加わって非常に読み応えがある。当然のこととして人の命を奪う業務を背負わされた刑務官、傷害致死の前科を持つ青年という異色の探偵役を設定したことで、罪と罰、法の正義と私怨、応報と更生という重いテーマがストーリーに無理無く取り入れられ、物語に厚みを増している。「誰が死刑囚を救う調査を依頼したのか」という、構成の肝になる部分がやや強引すぎる気がするが、作品全体から見れば大した問題ではない。 ジャンルを選ばず、幅広いミステリーファンにオススメできる。 |
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エラリイ・クイーンの代表作にも挙げられる1942年の作品。新訳版での感想である。
ニューイングランドの田舎町・ライツヴィルを訪れたエラリイ・クイーン(なぜかエラリイ・スミスの偽名を使用)は、地元の名家ライト家の敷地に建つ空家を借りることにした。この家は、ライト家の次女ノーラが新婚で住むはずだったのだが、結婚式前日に花婿ジムが姿を消したために空いていたのだった。ところが、ほどなくジムが町に帰ってきたため、ノーラとジムは結婚し、この家で新婚生活をスタートさせた。幸せな生活を送っていた二人だったが、ジムの蔵書を整理していたローラが三通の未投函の手紙を発見したことから事態は暗転する。その手紙はジムの姉に宛てたもので、妻の発病、悪化、死亡を告げていた。そして手紙に書かれていた通り、大晦日のパーティーで悲劇が発生した。 ヒ素を使った毒殺事件の謎を解明する本格派の謎解きミステリーである。ストーリー展開の基本は殺害の動機と手段の解明にあるのだが、同時に被害者と加害者の人間性にも重点が置かれていて、単なる謎解きだけではない心理ミステリーにもなっている。ただいかんせん時代状況が古過ぎて、ミステリーとしては「これはないだろう」というのが事件のポイントになっているのが残念だ。 古典作品を古典として楽しめる読者にはオススメだ。 |
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1941年に発表されたヘレン・マクロイの第三長編で、精神科医ウィリング博士シリーズの第三作でもある。
美貌の資産家クローディアが知人の研究室から開発中の新しい自白促進剤を盗み出し、夫と友人を招いたパーティーで飲み物に入れて使用したことから、クローディアが殺害される事件が発生した。恋人とのデートの帰りに殺害現場に遭遇したウィリング博士は、自分の足音を聞きつけた犯人が現場から立ち去る音を聞いたのだが、警察の事情聴取に現われた友人たちの中から犯人を特定することは出来なかった。クローディアを中心とする人間関係から捜査を進めた警察と博士は、パーティー参加者全員にクローディア殺害の動機があることを確認したのだが、実行に移したのは誰なのか? 登場人物の紹介、人間関係、人々の言動など、犯人の特定に至る伏線はきちんと張られていて、とんでもない論理の飛躍やオカルト的なものはない、まさに正統派の謎解きミステリーである。 犯人探しで作者との知恵比べに挑戦したい人には、絶対のオススメだ。 |
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スウェーデンの歴史家、歴史小説家によるユーモラスな犯罪小説。本作の成功を受けてシリーズ化され、すでに第三作まで発表されたというのも納得の良質な犯罪小説である。
居住する老人ホームの待遇が悪くなったことに怒っていたコーラス仲間の5人は、テレビで刑務所のドキュメンタリーを見て「ホームより刑務所の方がましじゃない」と意見が一致し、大金を盗んで隠してから刑務所に入り、出所後に大金を使って豊かに暮らそうと目論み、平均年齢80歳?の犯罪集団を結成することになる。体力は無く、計画は行き当たりばったりながら老人ならではの知恵と厚かましさを発揮して、国立美術館からモネとルノワールの作品2点を誘拐(盗み出し)し、身代金を要求する・・・。 なんせ主人公がみんな、老人なのでスピード感はゼロ。ドンパチも殺人も無い(カーチェイスはあり)のだが、老人たちは金を手に入れられるのか、失敗するのか、犯行のスリルはなかなかで最後までハラハラさせられる。高齢者を主人公にしたハードボイルドやミステリーが散見される時代ではあるが、老人集団を主役にしたアイデアが秀逸。全体を覆う明るいユーモアも楽しい。 「もう年はとれない」や「フロスト警部シリーズ」がお好きなら絶対のオススメだ。 |
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1979年度のアメリカ探偵作家クラブ最優秀ペーパーバック賞受賞作。かなりヒネリが利いたディテクティブミステリーである。
ブリーザードが吹き荒れるニューヨーク州の地方都市で連続殺人事件が発生。自らをHOGと名乗る犯人は、車の事故、家庭内での事故、麻薬の使用ミスなどに見せかけながら、まったく共通項が見つからない被害者を殺害し、事件のたびに地元紙の記者にメッセージを送りつけてきた。捜査の方向性が見つからない警察は、犯罪学の研究者・ベイネディッティ教授に協力を要請し、教授は教え子の私立探偵ロンとともに調査に乗り出した・・・。 シリアルキラーものではあるが、サイコパスが登場するわけではない。殺人事件そのものには重点が置かれていないので、凄惨さや恐さは無い。ただ、犯人が見つかりそうで見つからないこと、捜査陣の中に裏切り者(犯人?)がいそうな疑惑がつきまとうこと、犯行の目的や動機がまったく推測できないことなどから、かなりジリジリさせられる。そして、真相が判明した時の意外性もなかなかで、読み応えがあるミステリーに仕上がっている。 サイコ系の連続殺人ものを読み慣れた今の時代の読者には、ちょっと生ぬるいかもしれないが、構成の上手さがそれをカバーしているので、謎解きもの、私立探偵ものなどオーソドックスなミステリーが好きな方にはオススメだ。 |
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1954年に発表された古典的ノワール小説。謎解きやサスペンスとは無縁のノワール世界だが、人間の闇を描いて魅力的である。
50年代のサンフランシスコ。ハンパ仕事で食いつないでいたカフェのカウンター係ハリーの前に、酔っぱらった美女ヘレンが現われた。コーヒーを飲んだあと文無しだと言うヘレンの面倒を見、ホテルまで連れて行ったハリーは、翌日、金を返しに来たヘレンに触発され、衝動的に店を辞めヘレンと行動をともにすることになる。ヘレンが家出するときに持ってきた200ドルを頼りに、酒浸りの日々を送っていた二人だったが、やがて金が底を尽き、絶望の果てに心中を図ることになった・・・。 物語の構成は人生に希望を見出せない男女の破滅型の恋愛であるが、ストーリーは恋愛部分と破滅衝動の部分で、前後半に分かれている。全編にわたって「死の誘惑」が充満して重苦しいのだが、特に前半での二人の救いの無さが印象的である。かといって、悪辣な犯罪や目を背けるような暴力があるわけではなく、むしろたんたんと破滅して行くプロセスが恐いといえる。 詳しいストーリーは紹介しない方が良いだろう。とにかく、最後の二文でガツンと衝撃を受け、最初から読み直す誘惑に駆られること間違い無し。古さを感じさせない傑作である。 |
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メキシコの30年にわたる凄絶な麻薬戦争を描いた「犬の力」の続編。上下巻1200ページの全編にわたって凄まじい戦いが繰り広げられる、暴力で圧倒する作品である。
主人公は前作と同じ、DEA捜査官のケラーと麻薬王のパレーラで、アメリカで囚われていたパレーラがメキシコに移送され、脱獄するところから物語が始まる。再び、メキシコの麻薬の世界に戻ったパレーラは、自らのカルテルをまとめ、他の勢力との戦闘状態に入って行く。一方、修道院に紛れ込み静かな生活を送っていたケラーだが、DEAによって麻薬戦争の現場に引き戻された。運命の糸に結ばれたように二人は、命をかけた戦いを繰り広げることになる。 麻薬戦争とは、何か? 「麻薬」と「戦争」という2つの禍々しきものが掛け合わされたとき、そこから生まれるのは、勝者も敗者も無く、戦争の出口すら見つからない絶望でしかない。その無意味さと狂気が、読者を圧倒する。「人間がカルテルを動かしているのではなく、カルテルが人間を動かしている」という一文が、麻薬との戦いの救いの無さを表わしている。 読後の疲労感はハンパではないが、世界の麻薬の問題に関心を持つ人には、絶対のオススメだ。 |
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ウェスタン・ミステリーの最優秀処女長編賞を受賞し、大型新人の登場との評判を呼んだという話題作。私立探偵ハードボイルドを軸に、ウェスタンとノワール風味が加わった、乾いたテイストのミステリーである。
ロデオ競技のスターだったロデオ(主人公)は、メキシコとの国境に近いアリゾナの僻地で私立探偵として生活していた。ある日、休暇から帰ってみると自分の敷地のそばにアメリカ先住民の死体が放置されていた。近くでは先住民が殺される事件が相次いでおり、この男が4人目の犠牲者で、どうやら先住民を狙う連続殺人鬼が出没しているようだった。そんなおり、友人のルイスから紹介されてインディオの少年が殺された事件の再調査を進めることになった。簡単に終わるはずの調査だったが、やがて先住民社会に隠された闇に足を取られて身動きできなくなってくる・・・。 主人公のロデオも先住民の血を引いており、主要登場人物もほとんどが先住民系で、ウェスタンといっても白人カウボーイ視点からのウェスタンではなく、インディオとメキシカンの世界をベースにした物語である。世界中から見捨てられた土地を舞台に、世の中の動きとは無縁のような人々が繰り広げる、一種殺伐とした人間ドラマが、砂漠の風のような乾いた文体でたんたんと綴られていく、徹底してドライな作品である。そんな中にちりばめられたハードボイルドなセリフと、ユニークで個性が際立つ登場人物たちが強い印象を残す。 誰にでもススメられる作品ではないが、ハードボイルドなノワールが好きな人にはオススメだ。 |
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2001年に「著者略歴」でデビューし、高評価を受けながら、なかなか次作が発表されなかったジョン・コラピントの長編第二作である。
大して人気ではないミステリー作品シリーズを書き続けてきたウルリクソンだったが、娘の出産時に妻が脳卒中になり、車椅子生活を余儀なくされてからの日々を描いた自叙伝が大ヒットし、一躍、時の人となり、TVのインタビュー番組にも出て注目を集めるようになった。そんなある日、若き日に関係を持った女性が亡くなり、その娘である17歳の少女クロエから「親子関係の確認と保護」を求める召喚状が届いた。驚いたウルリクソンだったが、DNA鑑定の結果でも娘であることが証明され、クロエを新しい家族として迎え入れることを決心する。裁判所で初めて会ったクロエはあどけなさとコケティッシュな魅力を併せ持つ美少女で、ウルリクソンはしだいに心を奪われるようになり、とうとう最後の一線を越えてしまうことになってしまった・・・。 クロエの裏には弁護士崩れの悪人デズがいて、DNA鑑定も含めて全てがウルリクソンを陥れるための罠であることは最初から明らかにされており、ストーリーの中心は罠の仕組みを解くミステリーではなく、誠実で家族想いの好人物であるウルリクソンが壊されて行くプロセスのサスペンスに置かれている。 ウルリクソンが罠に気付き、自分を取り戻そうとする物語の最後の部分がやや急ぎ過ぎで尻すぼみな感なのが惜しいが、非情に良くできた心理サスペンス作品である。アメリカで賛否両論(というか、否定的論調の方が圧倒的に強かったようだが)を呼んだというが、巻末の解説にもあるように、近親相姦や未成年者との性愛というタブーがアメリカでは反感を招いたということで、日本の感覚からすると特に問題視するほどの内容ではない。多くのサスペンスファンにオススメだ。 |
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米国ミステリー界の異色の才人、パット・マガーの1950年の作品。まったく古さを感じさせないエンターテイメント作品である。
人気コラムニストのラリーが、NYのコンドミニアムに4人の女性を招待して開いたディナー・パーティー。その4人とは、ラリーの先妻、現在の妻、年上の愛人、次に結婚しようとしている19歳の女性という、訳ありの面々。ラリーは、その中の一人を事故に見せかけて殺害するために、バルコニーの手すりに仕掛けを施していた。そして、深夜のNYの路上に誰かが落下した・・・。 冒頭に事件が起きたことが提示されるのだが、被害者が誰かが最後の最後まで明らかにされない「被害者捜し」は、デビュー作からのマガーお得意のパターンだという。前作は読んでいないのだが、本作は凝縮された時間の流れ、濃密な人間関係、登場人物のリアルな描写、意表をつく結末など、すべてにレベルが高い傑作だ。「被害者捜し」ミステリーとしてはもちろん、ハーレクイン(読んだこと無いけど)的なラブロマンス、主人公の成上がりの物語など、多面的な要素を含んだ作品として楽しめる。 戦後すぐの作品とは思えない、現代でも十分に楽しめる作品として、多くの人にオススメだ。 |
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1950年代のイギリスの「新本格派」とされているエリザベス・フェラーズの1955年の作品。謎解きミステリーであると同時に人間ドラマとしても面白く、古さを感じさせない作品である。
ロンドン近郊の村で暮らす元女優のファニーは、理解ある夫に支えられ、田舎の主婦として満ち足りた日々を送っていた。同居する歳の離れた弟が婚約し、その婚約者ローラが訪ねてくるというので、親しい友人たちへの紹介を兼ねてカクテルパーティーを開くことにした。当日、パーティーの時間になるとローラは頭痛を訴えてパーティーを欠席した。ファニーは得意料理のロブスター・パイを出したのだが、口にした参加者はみんな「苦い」といって食べるのを止めてしまった。そんな中、隣人のサー・ピーターは「美味い」といって食べ続けたのだが、食事の後で死亡し、パイにヒ素が混入されていたことが疑われた。 ヒ素を混入したのは誰か、なぜ引退したマスコミ界の大物サー・ピーターが狙われたのか。動機と手段を巡って、パーティーの参加者がさまざまな推理を展開し、それぞれの人物が抱える人間関係の問題が徐々にあらわになってくる。怪しい人物は二転三転し、最後の最後に思いがけない動機と犯人が判明する。 被害者が狙われた動機が不明で、ほとんどの登場人物にヒ素を混入するチャンスがあるため、全員が怪しく見えてくる。しかも、誰かが推理を語るたびに事件の様相がどんどん変化してしまう。登場人物のキャラクター設定が巧みで描写も優れているので、全員が生き生きとして立ち上がってくる。殺人の動機、犯人判明までのプロットもよくできていて、最後まで読者を引っ張っていく強さがある。 謎解きミステリーのファンはもちろん、ヒューマンドラマ好きの方にもオススメだ。 |
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ホラー小説の巨匠・キングが挑戦した本格ミステリー。1015年度エドガー賞の最優秀長編賞に選ばれた実績が示すように、読み応え十分の傑作である。
2009年4月の霧の早朝、就職フェアに参加するために徹夜で集まっていた求職者の列にメルセデス・ベンツが襲いかかり、死者8名、負傷者多数を出す事件が発生。ピエロのマスクをかぶっていた運転者は、別の場所にベンツを放置して逃走した。凶行に使われたベンツは盗難車で、捜査は行き詰まり警察は犯人を捕らえることができなかった。 それから一年以上が経過した頃、当時の捜査を指揮したホッジスは警察を退職し、妻と娘が出て行った自宅で、一人寂しく、拳銃を口にくわえることを夢想するような日々を送っていた。ところがある日、メルセデス・キラーを名乗る人物から捜査の失敗を嘲笑し、ホッジスを負け犬とののしる手紙が届けられた。この手紙を契機に、ホッジスの刑事魂が蘇り、警察とは別に、単独で犯人を追い始めることになった・・・。 退職した警官とサイコキラーとの攻防という、よくあるパターンというか、あえてオーソドックスなハードボイルドの構成を取りながらまったく飽きさせないところは、さすがに希代のストーリーテラーである。さらに、犯人のキャラクター設定、ホッジスを助ける、ハーバードをめざしている黒人青年ジェローム、精神的に不安定な中年女性ホリーという助演者も効果的で、サイコもの、警察もの、私立探偵ものとして楽しめる。 本作は、ホッジス、ジェローム、ホリーのトリオが登場する三部作の第一部で、残りの二作もすでに刊行済みとのことで翻訳が待ち遠しい。 実は、ホラー嫌いなので、キング作品は初めて読んだのだが、これは多くのミステリーファンに自信を持ってオススメできる。 |
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今や北欧を代表するミステリー作家となったジョー・ネスボの新作。オスロを舞台にした警察小説であるが、ハリー・ホーレ・シリーズ外の単発作品である。
尊敬していた警察官の父親が「自分は汚職警官である」と書き置きして自殺し、ショックを受けた母親も後を追うように亡くなってから息子・サニーは麻薬に溺れ、今は刑務所に収監されていた。刑務所では誰とも争わず、静かに囚人仲間の聴罪司祭のような役割りを果たしていたのだが、ある囚人からサニーの父は殺されたという秘密を聞き、刑務所を脱獄して、次々と敵を殺していく凄絶な復讐劇を開始した。 一方、サニーの父と仲の良い同僚だったケーファス警部は定年を目前にした殺人課の警部で、愛する妻が失明の危機にさらされており、その手術費用を工面するのに苦慮する日々を送っていたが、刑務所付き牧師の殺害事件を捜査しているうちに、連続して起きた殺人事件の裏にはサニーの復讐劇があることに気がついた。 本作は、一人の若者が犯罪組織や富豪を相手に復讐を果たすサスペンスアクションであり、頑固者のベテラン刑事が一匹狼的に捜査を進める警察小説であり、父と子、仲間たちの愛憎の物語でもある。いくつものストーリーが重なり合い、見事な伏線の回収があり、意表をつくどんでん返しがあり、最後まで楽しめる上出来のエンターテイメントである。 ノンシリーズなので、ジョー・ネスボは初めてという読者にもオススメだ。 |
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現役のパイロットという異色作家の作品。経歴を生かした飛行機乗りが主役のハードボイルド小説である。
1960年のカリフォルニア。太平洋戦争でも活躍した元海軍パイロットのジョーは、戦後、友人と民間航空輸送会社を経営し、パイロットとして生活していた。ある日、親友(!)であるフランク・シナトラから「新しい恋人をハリウッドに送り届けてくれ」と頼まれた。仕方なく引き受けたジョーの前に現われたのは、かつての婚約者ヘレンだった。その翌日、シナトラからヘレンが行方不明になったと連絡があり、ジョーが探し始めると、彼女の友人が殺され、ヘレンも追われていることが判明した。一度はヘレンを見つけたジョーだったが、ヘレンは再び行方が分からなくなる。やがて、シナトラの元にヘレンの身代金を要求する電報が届いた。ジョーはヘレンを救うため、メキシコに乗り込んでいった。 かつて愛した女性のために命をかけて突っ走るヒーローが中心の物語だが、事件の背景をなすのがシナトラ、マフィア、大統領をめざしているケネディという胡散臭い連中で、その中でヒーローの想いの純粋さはまさに、正統派のハードボイルドヒーローである。セリフや独白にも、古き良きハードボイルド風味がたっぷりで、2013年の作品なのに、チャンドラーでも読んでいるような懐かしさが感じられる。 正統派のハードボイルドファン、飛行機マニアにはオススメだ。 |
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ブラジルの女性作家の本邦初訳作品。なぜかドイツミステリ大賞の翻訳作品部門で一位に選ばれたという異色のミステリーである。
ボリビアとの国境の田舎町でしょぼくれた生活を送っていた「俺」は、釣りに出かけたパラグアイ川で自家用飛行機の墜落に遭遇し、パイロットの青年を助けようとするが、青年は死んでしまった。機内にリュックサックと1キロほどのコカインを見つけた「俺」は、それを盗み出し、下宿先のインディオの男と組んでコカインを売りさばいて小金を稼いでいたのだが、欲を出したインディオの男に引っ張られてギャングと取引して失敗し、ギャングに借金の返済を迫られることになった。窮地に陥った「俺」は、警官でもある恋人を説得して、死体を使った詐欺を計画する・・・。 偶然見つけた墜落機から盗みを働いたことで人生が大きく狂ってくるというのは、かつてのベストセラー「シンプル・プラン」などでもおなじみの設定だが、さすがブラジルのミステリーだけあって、結末の付け方が意表をつく。良くも悪くも人間的というか、すべてに泥臭いのである。 スリルj、サスペンス、アクションや謎解きより、犯罪者心理が中心の作品を好む方にオススメだ。 |
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オーストラリアのベストセラー作家の本邦初訳。「誰が、誰を殺したのか?」を解いて行く、ユニークなエンターテイメント作品である。
シドニー近郊の幼稚園での資金集めのパーティー会場で騒動が起き、父兄の一人が死亡した。この事件の被害者、犯人は誰か? 動機は? 騒動の背景には、6ヶ月前の子供同士のトラブルが原因で、幼稚園ママの派閥間の対立が激化したことがあった。さらに、それぞれの家庭には表に出せない秘密があり、ストレスにさらされ続けてきたママたちが、パーティーで出された強力なカクテルの影響もあって一気に爆発したのだった。 冒頭に殺人事件が起きたことがほのめかされ、背景となったトラブルから事件当時までの出来事が主要登場人物の視点で徐々に明らかにされ、さらに所々で関係者の証言が挿入されるのだが、最後の最後まで、犯人も被害者も秘密のままという、なかなかに意地の悪い構成で読者をぐいぐい引き込んで行く。さらに、人物のキャラクター、細かなエピソードがリアルかつユーモラスで飽きさせない。世界的なベストセラーを記録したというのも納得の面白さである。 ホームドラマに隠された暗い秘密系のミステリーが好きな方には絶対のオススメだ。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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デビュー作でエドガー賞処女長編賞を受賞し、2作目の本書が2014年度エドガー賞長編賞にノミネートされたという、新進作家の注目作。坦々とした展開の中、じわじわと不安感が積み重なってゆく静かなサスペンス作品である。
長期的な不況への入口に立っている1958年のデトロイト郊外の小さな白人コミュニティに暮らす主婦たち。繁栄した50年代のアメリカ中産階級の典型のような彼女たちも、自動車産業の衰退、近隣に進出してきた黒人たちなどの不安を抱えるようになっていた。そんなある日、夫たちが働く工場の近くで黒人娼婦が殺害される事件が発生、さらに数日後、コミュニティの一員で知的障害がある若い白人女性が行方不明になった。黒人娼婦の事件には無関心だったコミュニティも、白人女性の捜索には地域の全力を挙げて取り組むことになる。 ストーリー展開の中心は行方不明者の捜索なのだが、作品のテーマは、時代の影響を受けて変化して行く主婦たちの心理である。満ち足りた、平凡な生活を送っているように見える主婦たちだが、それぞれに不安や心の闇を抱えており、それが互いに影響し合って、複雑な心理ドラマが展開される。そして最後、もうあの時代は戻って来ないことが明らかになる。 静かなストーリー展開にも関わらず、じわじわとサスペンスが高まって行く上手さは新人離れしたテクニックである。殺人、行方不明ともに、解決方法にあいまいさが残るのは、本作品のメインはそこには無いということだろう。 謎解き、本格ミステリーファンには不満が残るだろうが、社会派作品、心理ドラマ好きの方にはオススメだ。 |
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