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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
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アメリカの女性ミステリー作家のデビュー作。拉致監禁された妊婦(高校生)が知恵と勇気で脱出を成功させた経緯を、17年後に回顧するという物語である。
登校途中に拉致され、一人で監禁されている女子高校生は、お腹の子供を売買する目的で誘拐されたことを知る。実は彼女は極めて特殊な科学的頭脳を持っていて、身の回りにあるものだけを使って犯人に復讐する計画を立て、実行するチャンスを虎視眈々とうかがっていた。そしてある日、計画を実行し、犯人を殺害して逃げ出すのだが、思いも寄らぬ事態に直面することになる。 一方、誘拐事件専門チームに所属するFBI捜査官は、自分の弟が誘拐された経験から誘拐犯を憎悪しており、個性的な相棒とのコンビでFBIの規則も無視して捜査にのめり込んで行く。 誘拐された妊婦とFBI捜査官のそれぞれの独白で、交互にストーリーが展開し、犯行の動機、いかれた犯人の心理、凄惨な犯行様態などが明らかになって行く。事件そのものは凄惨で醜悪なのに、読んでいて嫌悪感が少ないのは、ストーリーの重点が犯行ではなく、ヒロインの脱出に置かれているからである。とにかく、彼女の超人的な能力に驚かされるばかりである。 普通の翻訳ミステリーには必ず付いている登場人物リストが無いので不思議に思ったのだが、途中でその理由が判明すると、なるほどと手を打ち、編集部の配慮にニヤッとさせられた。 女性が監禁される小説としては「その女アレックス」というより、「クリスマスに少女は還る」に近いテイストと言える。 |
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オーストリアを代表するミステリ作家の「夏を殺す少女」の続編。ライプツィヒの警部ヴァルターとウィーンの女性弁護士エヴェリーンが登場するシリーズ第二弾である。
ウィーンで学費を援助してくれる男性を出会い系サイトで探しているカルラは、裕福そうな医者の誘いに乗り、彼の家に同行するのだが、そこで待ち受けていたのは・・・。その一年後、ライプツィヒで全身の骨が折られ、血が抜かれた若い女性の死体が発見され、ヴァルターが捜査を担当することになった。遺体の確認にやって来た母親ミカエラは、殺された娘の妹で一緒に家出したダーナが行方不明であることを知り、何としても探し出すと決心する。警察が頼りにならないと判断したミカエラは、単身で犯人探しに突っ走る。頑固で一途なミカエラの暴走に手を焼きながらも、ヴァルターは事件捜査を進めるうちに連続猟奇殺人事件を疑い始めた。 一方、ウィーンでは、女性殺害の疑いをかけられた裕福な医師が、エヴェリーンに弁護を依頼して来た。信頼できないクライアントだと思いながらも依頼を受けたエヴェリーンは、弁護を引受けたことを後悔するハメに陥ってしまうことになった。 前作同様、二つのストーリーが交互に進展し、やがては一つの物語につながって行く構成が見事である。また、犯人のおぞましさ、狂気が際立っていて、レクター博士シリーズを彷彿させるサイコミステリーに仕上がっている。 しかし、本作の本当の主人公は復讐の鬼と化すミカエラで、その無鉄砲な行動に読者はハラハラさせられ通しで最後まで目が離せない。 「夏を殺す少女」に高ポイントを付けた方はもちろん、サイコミステリー好きには絶対にオススメの傑作である。 |
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フランスの新鋭ミステリー作家の第2作。ミステリーというより、悪漢小説、成長物語的な犯罪小説である。
人気絶頂のフランスのロックスターがシチリア島で姿を消した。身代金の要求は無く、死体も見つからない、謎の失踪だった。が実は、その二年前に北フランスのカレーで2人のチンピラが、マフィアの金を盗んで逃走するという事件と、関係があったのだ。この二つの出来事を結ぶのが、金を盗まれたマフィアだった。チンピラとロックスターとマフィア、それぞれが欲望と人生をぶつけあったとき、物語は思わぬ方向に転がって行く。 主役となる人物が皆、泥棒というか犯罪に関わっている割には、暗さや凄惨さはない。かといって、ユーモラスな犯罪小説でもない。暴力や陰謀が繰り広げられるのだが、そのシーンが乾いているのである。それはきっと、チンピラ、ロックスター、マフィアのそれぞれが人生に何かを引きずっており、なおかつ自由な生き方を希求し、実現させようとしているからである。 文庫本で500ページの分量、元の文体の読みにくさ(訳文は上手い)もあって、読み通すには体力が必要だが、読んで損が無いことは確かだ。ミステリーというより成長物語ファンにオススメだ。 |
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「エーランド島四部作」の完結編。今回も、古い因縁が現在を揺さぶるゴシック風味のミステリーである。
エーランド島で一大リゾートを経営するクロス家の末端に連なる11歳のヨーナスは、遊びに来たエーランド島でひとり夜の海にボートを漕ぎ出し、幽霊船に遭遇する。必死の思いで逃げ帰ったヨーナスは、高齢者ホームから自宅に帰り、一人でボートハウスで寝ていたイェルロフに助けを求めた。イェルロフはヨーナスの話を信じてくれたが、ヨーナスの父や伯父はヨーナスの話を無視しようとする。しかし、クロス家のリゾートでは不穏な事件が続発し、正体不明の怪しい男の影が見え隠れしていた・・・。 過去の因縁が引き起こした事件というのが、シリーズのいつものパターンなのだが、今回は70年近く前の出来事から物語が始まるというきわめてスパンが長い話で、しかも探偵役は杖が手放せない老船長イェルロフなので、ストーリーはきわめてゆっくりと展開する。季節が夏ということで、いつものエーランド島に比べると賑やかな登場人物やエピソードもあるのだが、基本のテイストは前3作と変わらない。老船長の人間味溢れる推理をじっくり楽しむのが、本作の読みどころだろう。 各作品のストーリーは独立性が高いので、本作から読み始めても問題ないが、できれば第1作「黄昏に眠る秋」から読み始めることをオススメする。 |
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精神科医・伊良部シリーズの第3弾。雑誌掲載の4作品を収めた短編集である。
伊良部医師のとぼけた味は相変わらずなのだが、今回は表題作「町長選挙」以外は患者(主役)のキャラが勝っていて、しかも「モデルはあの人」というのが容易に想像できて、前2冊ほど意表をつかれることがなかったのが残念。辛辣でユーモラスな奥田ワールドの持ち味がちょっとだけ薄くなった気がした。 |
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辻原登(初めて読んだ)の長編小説。80年代の世相を上手に切り取った、読みやすいクライムノベルである。
1980年代の和歌山県、田舎町の生真面目で堅物の出納室長・梶は、ふと立ち寄ったスナックのママ・カヨ子からの意味深な誘いにふらふらと乗ってしまい、関係を持つようになったのだが、それをネタにカヨ子の情人のヤクザ・峯尾に脅迫され、公金を横領するハメになった。山口組と一和会の抗争に巻き込まれた峯尾は、組の命令で相手の若頭を殺害したのだが、対立組織はもちろん、自分の身内の組織さえ信用できず、一人で隠れたのち、タイへの逃亡を計画し、その資金を梶から脅し取ることにした。一方、カヨ子の夫だったのだが、峯尾に脅されて別れることになった不動産屋・紙谷は、峯尾の計画を知り、金を横取りしようと目論んだ。、田舎の公務員、ホステス、ヤクザ、不動産屋が入り乱れての色と欲とのドタバタは、やがて殺人事件へと発展した・・・。 バブルの始まりの頃という時代背景が生きており、登場人物のキャラクターもしっかりしているので、ストーリーもエピソードも非常に面白い。黒川博行の疫病神シリーズや吉田修一の犯罪小説に通じるテンポの良さと現実感があり、ぐいぐい引き込まれていく。 エンターテイメント系のクライムノベル好きには絶対のオススメだ。 |
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「北海道警釧路方面本部刑事第一課 松崎比呂」のサブタイトルが示すように、女性刑事が主役の長編ミステリー。単行本を完全改稿した(表4の説明文)文庫版である。
17年前に釧路湿原で行方不明になった少年の姉・松崎比呂は刑事として釧路方面本部刑事第一課に勤務しており、湿原で他殺死体が発見された事件を担当することになる。被害者は札幌の自動車セールスマンで、青い目を隠すために常にカラーコンタクトを使用していた。被害者が釧路まで来たのはなぜか、殺害されたのはなぜか。17年前の弟の事件を担当したベテラン刑事の片桐とコンビを組み、札幌、小樽、室蘭と巡りながら、松崎比呂は被害者の身元を丁寧に洗っていったのだが、そこで現われて来たのは、終戦時の樺太から命からがら引き揚げて来た女の壮絶なドラマであった。 終戦時の樺太からの引き揚げ、17年前の失踪事件、そして現在の殺人という3つの出来事がつながっていくプロセスが見事である。全体の構成も、登場人物も上手くコントロールされていて、物語に破綻がない。ただ、全体的に文章が硬質で、エンターテイメントとしてはやや読みづらいところがあるのが残念だが、これこそ作者の持ち味とも言え、そこは好き嫌いが分かれるところだろう。 警察ミステリーとしても、女性が主役の社会派ミステリーとしても良くできており、多くの方にオススメできる。 |
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V.I.ウォーショースキー・シリーズの第17作。いつまでたっても、いくつになっても無鉄砲に走り回るヴィクの魅力が爆発した、痛快なハードボイルド小説である。
ヴィクが高校生の頃、一時期だけ付き合ったことがあるフランクが突然訪ねて来て、25年前に実の娘(フランクの妹)を殺した罪で服役し、2ヶ月前に出所した母親が「私は殺していない。だれかに嵌められた」と言っているので助けてやってくれないかと頼み込んで来た。フランクの母親はヴィクの一家を毛嫌いし、何かにつけ文句を言って来た過去があるので断りたかったのだが、頼まれると否とは言えないヴィクは、しぶしぶ引受けることになる。事件の再調査のためフランクの母親を訪ねると、案の定、助けを断られ、罵声を浴びせられた。しかも、ヴィクの従兄弟でホッケーのスターだったブーム=ブームが真犯人だという反論まで出して来た。ヴィクが大切にしている従兄弟の名誉を守るため、そして何より、真相解明を拒む巨悪の存在を許さないために、ヴィクは生まれ育ったシカゴの貧困地域を駆け巡ることになる。 もうとっくに50を過ぎたのに、立ち止まることを知らず、ひたすら突っ走って行く、ハートも行動も相変わらず熱いヴィクである。周辺人物も変わりなく、シリーズ物の安定感をベースに、今回はシカゴ・カブスとアイスホッケーチーム関係の話題が加えられ、現代のシカゴが生き生きと描写されている。 シリーズのファンにはもちろん、自分の年齢が気になって弱気になっている中高年の方には元気回復の特効薬として、ぜひオススメしたい。 |
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「最悪」と並び称される、奥田英朗の長編犯罪小説。平穏な日常がいとも簡単に崩れ去って行く恐怖を鮮やかに描いた、傑作エンターテイメント作品である。
東京郊外の住宅街に暮らす及川恭子は、近くのスーパーにパート勤務しながら二人の小学生の子供を育てている専業主婦だった。ある日、夫が勤務する会社が放火され、たまたま宿直だった夫は火傷を負って入院するが、第一発見者として警察から事情を聞かれ、さらに容疑者扱いされるようになる。夫の無実を信じている恭子だったが、ふとしたことから、夫に疑惑を抱くようになった。それでも、子どもたちとの平穏な日常生活を守るために、恭子は強く生きようとする。 放火事件を担当する刑事・久野は36歳独身。7年前に愛妻を交通事故で亡くしてからは義理の母を自分の家族、心の拠り所とし、不眠症に悩む孤独な生活を送っていた。放火事件の捜査の進展とともに、二人の人生の様相が変化し、やがて絡み合い、予測不可能な展開を見せるようになる・・・。 主人公二人(もう一人、高校生も重要な役割りを果たしているのだがキャラが希薄)の描写が絶妙で、ぐいぐい引き込まれ、いつのまにか及川恭子に心を寄せている自分を発見することになる。この辺りのストーリーテラーぶりは、さすが奥田英朗である。あえて欠点を探せば、久野と義母との関係が今ひとつ説明不足というか、腑に落ちない。登場人物たちのさまざまなトラブルや疑問にあえて明快な答えを出さないまま終幕を迎えるのも、奥田英朗流である。 重いノワールというより、犯罪をテーマに時代を描いた心理エンターテイメント作品として楽しめる。ミステリーファンに限らずオススメしたい。 |
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雑誌掲載の7作品を集めた短編集。連作ではなく、独立した作品を集めているのだが,首折り男と黒澤という二人の登場人物でつながっている。
登場人物が個性的で,恋愛から復讐、ホラーなどそれぞれの作品にヒネリがあり、それなりに面白いのだが、伊坂ワールドというか独特の世界観があるので、好き嫌いが分かれる作品集である。 |
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大阪府警の元マル暴コンビ堀内・伊達シリーズの第三弾。二人の元刑事が暴力団対策で培った知恵と度胸と人脈を駆使して,パチンコ業界のトラブルに首を突っ込んで大金を引き出す、痛快なエンターテイメント作品である。
暴力団に刺された傷がもとで左足が不自由になり、無気力な生活を送っていた堀内に,元相棒の伊達から「脅迫されているパチンコ店オーナーのトラブル解決」の仕事を一緒にやらないかと声がかかった。脅迫して来たゴト師を脅して決着をつければ終わるはずの仕事だったのだが,依頼して来たオーナー側も何やら隠しているようで,二人がマル暴デカのテクニックを使って探って行くと、思いも寄らぬ大金につながるネタが手に入った。そのネタをもとにパチンコ業界の暗闇に切り込んで行った二人を待っていたのは・・・。 いや〜、疫病神シリーズに負けず劣らずの痛快悪漢小説である。とにかく、パチンコ業者,暴力団,警察、出てくる人物全員が悪人で、一癖も二癖もあるやつばかり。欲にまみれた騙し合いと暴力で、最初から最後まで気が抜けない。ストーリー展開も会話も歯切れがよく,徹頭徹尾楽しませてくれる。 黒川博行ファンはもちろん,クライムもの、犯罪アクションもの好きの方には絶対のオススメだ。 |
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スウェーデンを始めヨーロッパで人気の「エーランド島四部作」の第2作。厳しい冬のエーランド島を舞台に展開される、幽霊がらみのゴシックなミステリーである。
双子の灯台が建つ「うなぎ岬」の古い屋敷にストックホルムから移住して来たヨアキム夫妻は、趣味である屋敷の改造に精を出していたのだが、ある日,妻が溺死体で発見された。警察は事故として処理したのだが,納得しきれない女性新人警官ティルダは独自に調査を進めることにした。そのころ、冬場は人がいなくなる別荘を狙った空き巣が頻発し,警察は犯人を追い詰めて行く。そして、死者が戻ってくるというクリスマスの夜,激しいブリザードの中で激烈な戦いが繰り広げられることになった。 二つの事件が並行して展開され,最後には一つの大きなクライマックスを迎えるというのは、よくある手法だが、本作品でも好結果に結びついている。前半は幽霊話かと思わせてちょっと戸惑うが,中盤からはミステリーとして面白く読むことができた。 北欧ミステリーファンにはオススメだ。 |
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エーランド島四部作の第3作。3作品の中では最もファンタジー要素が強いミステリーである。
離婚後,エーランド島に引っ越して来て一人で暮らしているペールのもとに、性格が合わなくて疎遠になっていた父親から「迎えに来てくれ」と電話があった。認知症気味の様子に心配になって行ってみると、自分が経営する映画スタジオで腹に刺し傷を負っている父を発見。さらに、スタジオが放火で焼け,焼け跡から二つの焼死体が見つかった。派手好きの父は、ポルノ業界で成功し,悪名高かったのだが、その過去が引き起こした事件なのだろうか? 双子の子供の一人である娘が難病に苦しむ状況に父親として辛い思いをしながらも,警察の捜査とは別に、ペールが調べ始めると、忌まわしい過去が影を落としていた。 ペールのコテージの隣に豪華な別荘を建てて、流行作家の夫と遊びに来たヴェンデラはエーランド島出身で、島にはあまりよい思い出がなかった。かんしゃく持ちの夫との中は悪くなる一方で、ひっそりとエルフ(島に伝わる妖精)に様々な願いをかけるような日々だった。 あまり幸せな状態にはない二人の日常が重なり、島の民話の主役エルフとトロール(島に伝わる小鬼)が動き始めたとき,隠されていた過去が姿を現し,悲しい現実が明らかになる。 エルフやトロールなどの伝説の存在が現実に影響を及ぼすという点で、ファンタジー好きか嫌いかで評価が分かれる作品である(エルフやトロールがやったことも、実際には人間がやっていたのだが)。犯罪の動機などもいまいち納得しきれなくて,ミステリーとしては前2作品より低く評価するしかないが、シリーズとしてはぎりぎり合格点だろう。 |
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1990年に発表された、宮部みゆきの第4長編ミステリー。文庫本で777ページという大作である。
謎の男がある使命を確認するハードボイルド風のプロローグから始まって、記憶を失った若い男女が同じ部屋で目覚め、自分たちが何者なのかを追求するストーリーと、失踪した女子高校生の行方を捜すストーリーが並行して進んで行く。やがて「レベル7」というキーワードとある男を媒介にして、二つのストーリーが合わさり、巨悪を倒すことになる。 全体の構成は良くできていて、謎が多い前半は非常にサスペンスが盛り上がる。しかし、時間にして4日間の物語を700ページを越える作品にしたせいもあるかもしれないが、中盤から後半は中だるみで、終盤は読者レビューにあるように「2時間ドラマ」的な平板さで、一気に盛り下がってしまう。事件の背景や犯罪動機も物足りない。それでも最後まで読み通せたのは、作中に生き生きしたエピソードをからめられる文章力が抜群だからと言える。 宮部みゆき作品としては物足りないが、それなりに楽しめる作品であることは間違いない。 |
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人気の連作短編「精神科医・伊良部」シリーズの第2弾。雑誌連載の5本を収めている。
今回の登場人物たちの悩みは、第1作より現実的で深刻なのだが、それだけに読者にとっては面白みが増している。ノーテンキなデブの精神科医、絶好調だ。 主人公のキャラクターが重要なので、第1作から読み進めることをオススメする。 |
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奥田英朗の人気短編連作「精神科医・伊良部」シリーズの5作を収めた、三部作の第一弾。鋭い観察眼で人間のおかしみを掬いとった、珠玉の短編集である。
立派な建物を持った伊良部総合病院の地下一階、見捨てられたような環境に診察室を構える精神科医・伊良部の下には、さまざまな患者が訪れる。それぞれに抱える病状は深刻なものの、訴えかける悩みはどこかユーモラスであり、それに輪をかけて、伊良部の対応が常識破りで驚かせ、笑わせる。果たしてこれで、大丈夫かと読者は心配になるのだが、それでもいつしか、患者たちは将来への希望を抱くようになる。 とにかく面白い。患者がそれぞれ、真剣で生真面目であるほど、世間からズレて行く様子がたまらなくユーモラスである。 ミステリーファンではなく、面白い小説、ユーモアのある話を読みたいという読者には文句無しにオススメだ。 |
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いきなりスウェーデンと英国で新人賞を受賞したという、スウェーデンの人気作家のデビュー作。秋、冬、春、夏と続く「エーランド島四部作」の第一作でもある。
濃霧に包まれたエーランド島で幼い少年が行方不明になってから二十数年後、夫とも別れ都会で一人暮らしをしていた少年の母親ユリアに、島の介護施設で暮らす少年の祖父から「あの子のサンダルが届けられた」という電話が来た。誰にも心を開かない生活を送っていたユリアだったが、勇気を振り絞って島に帰り、祖父と一緒に少年の失踪の謎を解こうとする。体力も金もコネも無い二人だったが、古くからの友人たちに助けられながら調査を進め、やがて第二次世界大戦直後の事件に起因する暗く、陰鬱な真実に向き合うことになった。 物語のスパンが少年の失踪から20年、その遠因となる事件から約50年という長さで、しかも探偵役が介護施設にいるリューマチに悩む老人とほとんど鬱状態の中年女性ということで、ストーリー展開は超スローペース。舞台となっているのも、夏のバカンスシーズンを除けばほとんど人の姿を見ない寂れた島の寒村ということで、とにかく暗くて重く、最初は読み続けるのがしんどい作品である。がしかし、その分だけ人物や情景の描写が丁寧で、事件の背景が判明してくる中盤以降は謎解きと濃厚な人間ドラマにぐいぐい引き込まれていく。最後のどんでん返しも、派手ではないが説得力があり、ミステリーとしての完成度を高めている。 北欧ミステリーファンはもとより、人間ドラマを重視したミステリーが好きな人にはオススメだ。 |
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作者のデビュー作で、2005年の江戸川乱歩賞受賞作。選考委員全員一致で選出されたというだけのことはある、レベルの高い社会派エンターテイメントである。
4年前、赤ん坊だった娘の目前で3人の少年に妻が刺殺された桧山は、娘を保育園に通わせながらカフェを営み、平穏に暮らしていたのだが、店の近くで殺人事件があり刑事が訪ねてきた。殺人事件の被害者は、妻を殺した3人のうちの1人だという。事件を起こしたとき少年らが13歳だったため、逮捕もされず、補導と更生施設送りだけで済まされたことに憤慨し、テレビの前で「彼らを殺したい」と叫んだ桧山だったが、少年を殺してはいない。更生施設を出た彼らは、本当に更生したのか、何を考え、どう行動しているのかを知りたくなった桧山は、一人で関係者を訪ね歩くことにした。そこで出会った少年と被害者である妻を巡る真相は、思いも掛けないものだった・・・。 裁判では裁かれない少年犯罪の罪と罰というテーマは珍しくなく、ややもすると平板で理屈っぽくて退屈な物語になりがちだが、本作は読み応えのあるミステリーに仕上がっている。特に、終盤に掛けての展開の意外性と伏線の張り方の上手さは抜群で、この構成力の高さはとても新人作家とは思えない。この作品を書くきっかけになったのが、高野和明の「13階段」だったというエピソードがあるが、「13階段」の社会性にミステリーとしての面白さが加わった、第一級のエンターテイメント作品である。 社会派ミステリーファンにはオススメだ。 |
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2003年に発表された長編小説。表4の紹介文には「痛快クライム・ノベルの傑作」とあるが、「クライム・ノベル」というより「アクション・コメディ」の方がしっくりくる、痛快なエンターテイメント作品である。
出会い系パーティーを主催するヨコケン、一流商社のダメ社員ミタゾウが、ヤクザの賭場から現金を盗もうとして、それを阻止した謎の美女クロチェと出会う。奇妙な関係に陥った三人だったが、クロチェの父親が企む美術品詐欺で集まる10億円を一緒に横取りする計画を立てた。クロチェの父親の詐欺師、賭場を開いているヤクザ、賭場の客の中国人二人組など、悪過ぎる奴らを相手に、三人の完全犯罪計画は成功するのだろうか? 二十代半ばの三人とドーベルマン1頭が、若さと気合いとちょっぴりの頭脳を武器に大胆な犯罪を実行する痛快なアクション小説である。さらに、ところどころにちりばめられたユーモアと三人の友情物語がスパイスとなり、甘酸っぱい青春小説にもなっている。殺しや残忍なシーンも無く、爽やかな読後感で、青年漫画の原作にぴったりな作品である。 コアなクライムノベルのファンには物足りないだろうが、アクション・エンターテイメントのファンにはオススメだ。 |
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御茶ノ水警察署保安係シリーズの第二弾。シリーズ愛好者には説明の要が無い、斉木と梢田のコンビに、今回は女性の五本松巡査部長が加わった三人組の緩くてユーモラスで、ちょっぴり人情的な捕物帳が展開される6本の連作短編集である。
警察とは言え、保安係(生活安全課)が舞台なので捜査そのものは付属的で、斉木と梢田を中心にした署内の人間関係、とぼけた会話、御茶ノ水、神保町界隈の街並や蘊蓄のお話がメインテーマである。同じ作者の警察小説では、これまた人気が高い「禿鷹」シリーズがあるが、それとは好対照。逢坂剛のサービス精神が溢れるコメディとして楽しむことをオススメする。 |
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