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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1136

全1136件 241~260 13/57ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.896:
(7pt)

諦めなければ夢は叶う。見事な青春小説(非ミステリー)

2005年に発表された書き下ろし長編。著者の青春三部作の第2作。仕方なく工業高校に進んで落ちこぼれていた主人公が、ひょんなことからロケット(正確にはキューブサット)打ち上げに挑戦することになり、個性的な落ちこぼれ仲間を集め、最後には成功するという、見事なまでの青春小説である。
同工異曲の作品は枚挙にいとまがないが、それでも読ませる力を持った作品であり、読後感が良い。
あれこれ考えず、素直に読み進めることをオススメする。
2005年のロケットボーイズ (双葉文庫)
五十嵐貴久2005年のロケットボーイズ についてのレビュー
No.895:
(7pt)

全ては運命なのか、意志なのか。

オウム真理教事件を思い起こさせる新興宗教の教祖と、それに関わったり巻き込まれたりした人々。その生き方はあらかじめ決められたものなのか、それとも自ら選び取ったものなのか、いつの時代にも人を悩ませてきた永遠のテーマを平成の日本社会に持ち込んだ社会派エンターテイメントである。
バラバラに展開しながらも強く連関を感じさせる4つの物語が新興宗教の凶行を軸に繋げられるのだが、繋げるものの正体が幻想的すぎて分かりにくい。というか、分からないから物語になるのだろうけど。読んでいて落ち着かないこと、この上ない。
コクーン (光文社文庫 は)
葉真中顕コクーン についてのレビュー
No.894: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

無罪ではない、無実を証明するためにハラー・ファミリーが大集結

ミッキー・ハラー・シリーズの第6作。殺人容疑で逮捕されたハラーの無実を証明するためにファミリーが集結し、拘置所のハラーを中心に必死の戦いを繰り広げる傑作法廷ミステリーである。
パトカーに停められたハラーのリンカーンのトランクから射殺体が発見され、さらにガレージからは銃弾が見つかったことでハラーは殺人容疑で拘置所に収監されてしまった。身に覚えがないハラーは誰かの陰謀、罠に嵌められてしまったことを証明するために、獄中からの本人訴訟を選ぶ。頑固な検察だけでなく、看守や収監者からも嫌がらせや脅迫を受け、さらに思い通りに動けないハンディを抱えるハラーだが、強力なファミリーが力を合わせることで壮絶な裁判闘争を戦い、潔白を証明するのだった…。
拘置所に収監されるという絶体絶命の危機をいかにして乗り越えるのか。ハラーの知識と知恵と度胸をかけた死に物狂いの法廷闘争が抜群に面白い。アメリカの裁判は裁判長を含めた関係者のキャラクターで全く展開が違ってくる、まさに法廷ドラマであることがよくわかる。殺人や暴力のシーンがなくてもサスペンスが盛り上がることを証明する作品だ。
ミッキー・ハラーのファンというかコナリーのファンには絶対のオススメ。法廷ミステリー・ファンにも強力にオススメしたい。
潔白の法則 リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)
No.893:
(7pt)

平凡すぎるストーリー、キャラは面白いのだが

コメディアンにしてミステリー作家というアイルランドの作家の初長編。誰にでも誰かに似ていると見られる青年・ポールが老ギャングの最後に立ち会ったことからギャングの秘密を知ったと疑われて命を狙われる、巻き込まれ型ユーモア・ミステリーである。
ホスピス慰問のボランティアをしているポールはある日、死期が迫った老人に知人の息子と間違えられて大騒動になった。老人が実は悪名高いギャング仲間で、ある有名な誘拐事件に関わっていたことがあり、最後に立ち会ったポールは事件の秘密を知ったのではないかと疑われ、爆弾で命を狙われることになる。たった一人で逃げ回る羽目になったポールに救いの手を差し伸べてくれたのが、ホスピスの看護師・ブリジットと子供時代からの恩人であり宿敵でもある中年刑事・バニーだった。訳も分からず逃げ回る三人だったが、追いかける組織と追いかける理由を知るために逃げながら探偵するという綱渡りを繰り広げることになった。
典型的な巻き込まれ型ドタバタ・ミステリーで、訳が分からないうちにどんどん話が進む。さらに登場人物がくせ者揃いで、至る所でユーモアたっぷりのエピソードが繰り広げられる。その割に事件の謎や犯人像が凡庸で、ミステリーとしてはイマイチ。2時間もののコメディにはなりそうだが、次作を期待するほどではない。
平凡すぎて殺される (創元推理文庫)
No.892: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

複雑怪奇な構成だが、動機は平凡かな?

ドイツ南部の田舎警察の妙ちきりんなコンビ「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズの第三弾。新たな殺人事件をきっかけに解決したはずの事件に隠されていた秘密を解明していく、警察ミステリーである。
今回も、遺体を発見したのはクロイトナー巡査だった。賭けをして一般道を時速150kmで競走していた友人・ラウベルトの配送車の荷室から女性の死体が出てきたのだ。ラウベルトは被害者女性との関係を否定するのだが、前日の夜に女性がラウベルトに何かを見せているのが防犯カメラに映っていた。休暇中だったのだが現場に居合わせてしまったヴァルナー警部が捜査に手を貸す(実際は自分から関わりたがって)ことになり被害者・ハナの家を調べると、パソコンが無くなっていた。さらに、有名女優・カタリーナの自宅や家族を隠し撮りした写真が大量に見つかったのだが、カタリーナは四ヶ月前に娘・レーニが殺害されるという悲劇に見舞われていたのだった。ハナはなぜ隠し撮りしていたのか、レーニの事件との関係はあるのだろうか? ハナの身辺を洗うことからハナとカタリーナには複雑な関係があることが分かり、さらに二人に共通する因縁があるルーマニア人の若い女性が行方不明になっていることも判明し、やがて捜査は解決したとされていたレーニ殺害の真相を暴くことになる。
犯罪の様態、真相解明のプロセスが複雑で、物語はあちらこちらに広がり二転三転するのだが、最後は平凡な動機で落着するので、ミステリーとしての面白さは期待ほどではない。むしろ、ヴァルナー&クロイトナーという異色コンビのチグハグさ、コミカルなキャラクターの面白さの方が印象に残る。ただそれも、ややマンネリ感が出てきたのが残念。
あと一歩の感を免れないが警察ミステリーとしては一定の完成度があり、読んで損はない。
聖週間 (小学館文庫 フ 8-3)
アンドレアス・フェーア聖週間 についてのレビュー
No.891: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

知らなかった中国系アメリカ人の歴史が面白い

N.Y.の私立探偵「リディア&ビル」シリーズの長編第12作。存在すら知らなかった親戚の冤罪を証明するために、ディープサウス・ミシシッピー州を舞台にヤンキー探偵二人が活躍するハードボイルド作品である。
N.Y.のチャイナタウンに住むリディアは突然母親に「ミシシッピーに行きなさい」と命じられた。リディアの父方の遠戚にあたる青年・ジェファーソンが父親殺しの容疑で逮捕されたので、現地で無実を証明し、青年を解放しろという。それまで存在すら知らなかった親戚だし、しかも一度も行ったことのない土地で満足な調査ができるか? 戸惑うばかりのリディアだったが母には逆らえず、相棒のビルと共にミシシッピーデルタの街に到着し、助けを求めてきたピートおじさんの家を拠点に調査を始めたのだが、大した手がかりが得られないうちにジェファーソンが拘置所から脱走し、事態はますます混沌としてくるのだった。
アメリカ南部特有の文化、風土、気質に加え、19世紀からの中国人移民の置かれた立場、中国人ならではの家族意識が複雑に絡み合い、物語は思いもよらない展開を見せる。それでも、ストーリーの骨格は揺るがず、最後には納得のいくエンディングを迎える。アメリカ南部の人種差別、民族対立、家族愛と、それに翻弄された人々の生きようがリアリティを持って迫ってくる。さらに中国系の若い女性・リディアとアイルランド系の中年男性・ビルのバディ物語も読ませる。
シリーズ作品とは言え、本作だけでも十分に楽しめるので、残酷ではないネオ・ハードボイルドのファンにオススメしたい。
南の子供たち (創元推理文庫)
S・J・ローザン南の子供たち についてのレビュー
No.890: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

物語の構成はいいのだが、語りが?

法廷ミステリーの巨匠(と言っていいだろう)グリシャムの史実に基づいた長編ミステリー。アメリカで冤罪死刑囚の解放に取り組む組織と弁護士の奮闘をリアルに描いた、問題提起リーガル・ミステリーである。
冤罪死刑囚の無実を証明し、刑務所から解放することを目的とする非営利団体「ガーディアン・ミニストリーズ」の弁護士・ポストは、強姦殺人で死刑を宣告されたラッセルの事件では、警察と検察の雑な捜査の瑕疵を突いて無実を証明した。次に取り組んだのが弁護士殺害で死刑宣告された黒人・クインシーの一件。無実を訴えながら22年間も服役させられているクインシーが有罪の決め手とされたのは目撃証言と、裁判前に消失したという血の付いた懐中電灯だった。証言者のあやふやさにも証拠品の消滅にも納得できないポストたちは、証言者の周辺を徹底的に洗い、偽証の可能性が高いことを確信する。さらに、消えた懐中電灯についても、捜査関係者の不正があった疑いを強めていく。しかし、無償で国中を走り回り、体を張って調査するポストたちに迫るのは、事件を作り出し、弁護士の命を奪うことも躊躇しない、極めて危険な連中だった…。
主人公とその組織には現存するモデルがあり、実話をベースにした物語ということでストーリー、人物、事件の背景などにリアリティがあり、アメリカ(に限らず、日本も同じだが)の司法システムの問題点を鋭く突いていて、読み応えがある。ただ、事実に縛られすぎたのか、ノンフィクション的な淡白さが強くて、エンターテイメントとしては完成度がイマイチなのが惜しい。
法廷ミステリーのファンにオススメする。
冤罪法廷(上) (新潮文庫)
ジョン・グリシャム冤罪法廷 についてのレビュー
No.889: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

なかなか読ませる、高齢者ミステリーの新パターン

ヤングアダルト小説をベースに活躍するアメリカの女性作家が73歳で発表した、長編ミステリー。裕福な退職者たちが暮らすシニアタウンで起きた殺人事件の犯人探しと、事件を発見してしまった女性が隠してきた秘密を明らかにするサスペンス・ミステリーである。
住民同士の交流が盛んなシニアタウンに暮らすヘレンが、いつも安否確認のためにメールを交換する隣人・ドムから連絡がなかったため、預かっている合鍵を使って隣家に入ってみると本人の姿が見えなかった。家の中を探し歩いているうちに、ガレージに奇妙なドアがあり、ドムのガレージが別の隣家・コブランド家に繋がっているのに気がついた。好奇心に駆られたヘレンが、いつも住人不在のコブランド家に入るとテーブルの上に美しいガラスパイプがあり、ヘレンは思わず携帯で写真を撮り、姪の子供たちに送信した。ところが、パイプはマリファナ吸引道具であり、麻薬密売に関わる品であることが分かった。当然、警察に通報すべきなのだが、実はヘレンには現在の名前は盗んだもので警察にバレると50年前の事件に関与していたことが明らかになってしまうという秘密があった。窮地を脱するためにヘレンは策を巡らすのだが上手く行かず、次々と難問に直面することになる…。
70代の女性が主役で最近目にすることが多い高齢者ミステリーの一つと言えるが、ヘレンの抱える過去が複雑でインパクトがあり、単なるお婆ちゃん探偵で終わっていないのがいい。作者自身が生きてきた60年代のアメリカの暗黒面と、現在のシニアタウンに暮らす高齢者たちの元気溌剌さが好対照を見せ、フーダニットの面白さと軽やかなユーモア小説の二面性が調和している。
謎解きサスペンスとして、また老人が主役のユーモアミステリーとして、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメしたい。
かくて彼女はヘレンとなった (HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 1)
No.888: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
【ネタバレかも!?】 (3件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

古臭い素材(交換殺人)に時代のスパイスを効かせて巧妙

マスカレード・シリーズの第4作。事件の舞台をホテルに置いて、客のプライバシー保護と捜査を対立させて、最後は真相を明らかにするという、いい意味でも悪い意味でもマンネリのストーリーだが、前作よりは読み応えがあるミステリーである。
同じような手口の殺人事件が短期間に発生し、警察は被害者の共通項を探るうちに組織的な連続報復殺人ではないかと疑問を持った。被害者の背景を調べると、いずれも殺人事件を起こした過去があり、しかも比較的軽い刑罰で社会に復帰していたのだ。そこで彼らが加害者となった事件の遺族のアリバイや関連性を探っていると、数人の遺族がクリスマスイブにホテルコルテシア東京を予約していることが判明した。次の事件はクリスマスイブに計画されていると確信した警察は三度となる潜入操作を、新田警部に命じるのだった…。
シリーズではお馴染みのホテル従業員・山岸尚美が登場して、新田とお馴染みの攻防を繰り返すし、事件の構造は交換殺人という使い古されたものなのだが、容疑者たちの繋がり、報復感情の持ち方などに今風の味付けがあり、新鮮な物語として読める。シリーズ3作目までは右肩下がりになっていくのかと危惧したが、本作でやや盛り返した印象だ。次作は、警察を辞めた新田がホテルの警備責任者になるということで、どういう展開を見せるのか楽しみにしたい。
シリーズ愛読者はもちろん、軽めの警察ミステリーのファンにオススメする。

マスカレード・ゲーム (集英社文庫)
東野圭吾マスカレード・ゲーム についてのレビュー
No.887: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

美し過ぎる悪女には、誰も逆らえない?

「そしてミランダを殺す」のスワンソンの第4長編。父親の事故死に疑問を抱いた息子・ハリーに対し美しい継母・アリスは話をはぐらかすばかりで、ハリーはアリスが関与しているのではないかと疑い、真相を探り出そうとするという心理サスペンス・ミステリーである。
父親が崖から転落死したという知らせを受けて実家に戻ったハリーは、警察から父親は転落する前に頭を殴られていたと知らされる。父に敵はいなかったのか、不審な出来事はなかったのかと、残された継母・アリスに聞きただすのだが、アリスは事件について話したがらなかった。美しいアリスについて父の再婚相手という以外、自分は何も知らないことに気がついたハリーだが、アリスの身辺からは父の死に関連するようなものは何も見つからなかった。しかし、葬儀に現れた謎の美女・グレイスが殺害されたことからハリーは、父とアリス、それぞれの隠された実像を暴いていくことになる…。
物語はハリーが父の死の真相を探る現在と、アリスの少女時代からの歩みを追う過去とが交互に描かれている。従って、父の事件の謎解きが進むにつれてアリスの人格形成の異常さが明らかになり、読者はアリスの言動にゾワゾワし、落ち着かなくなる。まさにスワンソンならではの心理サスペンスである。大筋、予想通りの展開の物語だが、最後の場面はなかなかのインパクトだった。
「そしてミランダを殺す」には及ばないものの、十分に楽しめる心理サスペンス・ミステリーとしてオススメできる。
アリスが語らないことは (創元推理文庫)
No.886: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

懸賞金ハンターというより敵討ち物語

懸賞金ハンター「コルター・ショウ」シリーズ三部作の完結編。前2作で仄めかされていた家族の秘密が明らかになると共に、父を殺した組織に復讐するアクション・サスペンスである。
サンフランシスコの父が残した隠れ家にコルターが戻ったのは、父の殺害理由を解明する手がかりとなる謎の文書「エンドゲーム・サンクション」を探すためだった。「エンドゲーム・サンクション」の行方を示唆するものは父が残した地図だけで、乏しい情報を元に動き出したコルターだったが、父を襲った企業「ブラックブリッジ」に執拗に命を狙われ、絶体絶命の窮地に追い込まれた。その時、助けの手を差し伸べてきたのは、思いもよらぬ人物だった…。
本来の仕事である懸賞金ハンターの要素も多少はあるのだが、あくまで添え物で、メインは父の復習のために大企業の陰謀を暴くというサスペンス・アクションである。そこに、謎に包まれていたショウ家族の物語が加えられている。もちろん、ディーヴァーお得意のどんでん返しはたっぷり、さらに意表をつく仕掛けも盛りだくさんで、ディーヴァー・ファンの期待を裏切らない。三部作で完結するはずが、好評につき?近々第4作が発表されるという。
ディーヴァー・ファンにはオススメです。
ファイナル・ツイスト
No.885: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ディーヴァーは短編の方が面白いかも?

米国では一冊で発刊されたディーヴァーの第三短編集「トラブル・イン・マインド」を分冊にしたうちの上巻。短編6本と著者まえがき付き。キャサリン・ダンス、リンカーン・ライムなどお馴染みの主人公ものから単独作品までヴァラエティ豊かで、どれもひとひねりがあって楽しめる。
分冊の上巻「死亡告示」のレビューでも書いたが、短編だとディーヴァー得意のどんでん返しが何度も繰り返されることがないのでうるさくなく、まさに「twisted」の魅力を楽しめる。ミステリーファンなら、好きなジャンルを問わずどなたにもオススメしたい。
フルスロットル トラブル・イン・マインドI (文春文庫)
No.884: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

日本のハードボイルドではトップレベル

著者が得意とする警察ハードボイルド「狩人」シリーズの第5作。ストーリー構成、アクション描写、キャラクター設定など全てにおいて日本のハードボイルドとしてはトップレベルのエンターテイメント作品である。
3年前に起きた未解決事件の重要参考人で行方をくらませていた阿部佳奈が捜査を担当する県警に連絡してきた。出頭して説明すると言うのだが、その条件として警視庁新宿署の佐江刑事の護衛を要求してきた。事件で殺害された弁護士の秘書で、まだ若い女性である阿部佳奈が、なぜ札付きのマル暴刑事を指名するのか? 疑問を持ちながらも県警は条件を飲み、新米刑事の川村に佐江と阿部の監視を命じた。休職中だった佐江は自分が指名された理由に全く覚えはないものの、否応なく事件捜査に絡んでいくことになる。
型破りのベテラン刑事と実直な新米刑事という、よくあるパターンのバディものだが、正体不明の重要参考人が複雑なスパイスを加え、スリリングなサスペンス・ミステリーとなっている。事件の背景となる企業の闇はどこかで読んだような中身なのだが、物語のメインは警察ハードボイルドだと考えれば、さほど気にはならない。本シリーズは初読だが、機会があればシリーズの前作も読んでみたいと思った。
日本のハードボイルドとしては秀作であり。多くの方にオススメしたい。
冬の狩人
大沢在昌冬の狩人 についてのレビュー
No.883: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

フロスト警部に近づいた? だんだん面白くなってきた第3作。

スウェーデンを代表するミステリー作家の「ベックストレーム警部」シリーズの第3作。全く関係がないような3つの事件が奇妙につながり、複雑に絡み合うのだが、ベックストレームが独自の勘と欲得とで事件を終わらせてしまう、ユーモア警察ミステリーである。
犯罪組織の弁護士として悪名高い男が鈍器で激しく殴られて死んでいるのが発見された。さらに飼い犬まで殺害されていたのだが、奇妙なことに、犬は主人が死んでから4時間ほど経ってから殺されたようだった。犯人はなぜわざわざ現場に戻ってきたのか? ベックストレームたち捜査部は頭を悩ませていたのだが、そこにさらに、老婦人がウサギを多頭飼育して放棄したとして告発された事件、王室に連なる男爵がオークション・カタログで殴られたという事件まで持ち込まれ、捜査陣はてんやわんやになってしまう。トラブルを避けることが信条のベックストレームはあれこれと言い訳を捻り出しては業務を部下に任せ、優雅なランチタイムと昼寝に精を出し、金の匂いがした時だけ真剣に頭を働かせるのだったが、なぜか事件の真相に辿り着くのだった。
シリーズも3作目になり脂が乗ってきたというか、話の展開、ベックストレームのキャラが切れ味良く、第1作のような凡庸でどんよりした雰囲気が無くなった。事件のミステリー要素も明確になり、ユーモアとミステリーのバランスが取れてきた。このジャンルの傑作「フロスト警部」シリーズにはまだ及ばないものの、満足できるレベルになっている。
ユーモアミステリー、ほら話的ミステリーが嫌いじゃなければ、オススメできる。
悪い弁護士は死んだ 下 (創元推理文庫)
No.882: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

犯人、動機の意外性はインパクト大

医学ミステリー作家として人気の著者が「完全犯罪」と家族のドラマに挑んだ長編作品。犯行の動機、手順、解明に医学的知見が重要な役割を果たしている、典型的な医療ミステリーである。
大学の教授選に候補者として名乗りを挙げていた父親が手術中に死亡した。簡単なはずの手術なのに、なぜ事故が起きたのか。手術に立ち会っていた息子で医師の裕也は、医学的な視点から真相を探ろうとする。すると、教授選で父のライバルだった医師が通り魔に襲われて死亡していた。さらに、何者かが裕也自身と妹の身辺を探っていたことも分かってきた。この不可解な事態の背景には何があるのか? 裕也の調査は、隠されていた悲劇を暴き出すことになる…。
事件の真相はかなりのインパクトがあり、医療ミステリーとしては成功している。本作のもう一つのテーマである家族のドラマの部分は平板でパターン化されており、やや物足りない。
医学ミステリーのファンにオススメする。
螺旋の手術室
No.881: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ビール好きのためのコージーミステリー

ビールで有名なワシントン州レブンワースを舞台にした「ビール職人」シリーズの第3作。選挙戦中に候補者が殺される事件が起き、クラフト・ビール職人が本業の片手間に次々に挙げられる容疑者候補の中から真犯人を探す、フーダニット・ミステリーである。
冬のイベント時期を控えたレブンワースで行われる選挙に、なんと禁酒政策を掲げて出馬していた候補者が殺害された。禁酒政策が当然のことながら街中の人々から反感を買っていただけに、犯人の候補は数えきれず、次々と怪しい人物が名指しされた。ビール職人のスローンは容疑者の一人であるエイプリルに頼まれ、警察署長と連携して街中で聞き込みをすることになった。
本筋は犯人探しなのだが、それはまあ舞台設定状の必要性にとどまり、話のメインはスローンが勤めるマイクロブリューワリーの新商品開発とプチホテル化のための改装、さらにスローンの生い立ちにまつわる謎の勃発である。さまざまなクラフトビールの開発、美味しそうな料理のレシピが本作の最大の魅力で、謎解きは言ってみれば付け合わせと言える。また、シリーズものの常として、主要人物たちの人間ドラマにも力が注がれている。
ミステリーというより、クラフトビーズ好きのためのガイドとしてオススメする。
ビール職人の秘密と推理 (創元推理文庫)
No.880: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

負のブラックホールみたいな人物ばかり・・・

ドイツの国民的人気ミステリー作家の2015年の作品。著者得意のイギリスを舞台にした、犯人探しの警察ミステリーである。
ロンドン警視庁の刑事ケイトが休暇をとって故郷に帰ったのは、分身のように敬愛する父親が惨殺された事件の真相を知るためだった。名警部だった父が殺されたのは、刑務所送りにした犯罪者の報復ではないかというのが、地元警察の読み筋だった。だが犯人探しは遅々として進まず、苛立ちを募らせたケイトは管轄外であることを承知の上で、自分でも捜査を進めようとし、地元警察と軋轢を生んでしまう。そんな中ケイトが、父親について話したいという女性から電話をもらい、自宅を訪ねたところ、その女性は無惨に殺害されていた。そのため、地元警察とケイトの関係はさらに悪化する。同じ頃、電話も通じない人里離れた農家で休暇を過ごしていたシナリオ作家の家族の元に、養子である5歳の息子の産みの母親が恋人という男と現われたのだが、その男は警察が必死に探している元犯罪者だった…。
父親と女性の連続殺人の犯人探しがメイン・ストーリーで、シナリオ作家家族と犯罪者たちの監禁事件が重要なサブ・ストーリーとして絡んでくる。さらに、二つの事件の意外な関係性が明らかになると、物語は一気に緊迫し、スリリングになる。ということで、謎解きミステリーとしては一級品と言える。だが、いかんせんケイトをはじめとする主要人物が負のオーラを纏ったキャラばかりで、物語全体がどんよりした空気のまま進み、真相が明らかになる最後に至ってもスッキリすることがないのが残念。まあ、それが好きという読者が多いのでベストセラーになっているのだろうが。
前作のレビューでも書いたが、湊かなえ作品がお好きな人にはオススメする。
裏切り 上 (創元推理文庫)
シャルロッテ・リンク裏切り についてのレビュー
No.879:
(8pt)

ネイトの分まで大暴れする、怒りのジョー・ピケット

ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの第15作。娘エイプリルを傷付けた犯人に報いを受けさせるため、ジョーがこれまでにはない実力行使を見せる、アクション・サスペンスである。
過去に少女暴行に関わった噂があるロディオ・カウボーイのダラスと駆け落ちしたエイプリルが頭を殴られ、意識不明の状態で側溝に捨てられているのが発見された。怒りに駆られたジョーはダラスを逮捕しようとするのだが、ダラスの両親から「息子はエイプリルとは別れていたし、ロディオで大怪我を負っていたので犯人であるわけがない」と言われる。さらに、エイプリルの持ち物が陰謀論者でとかくの噂がある男の住居で発見された。犯人はダラスではないのか、疑問を持ちながらジョーは真相解明のために調査を進めていた。その頃、FBIとの取引で釈放されたネイトは鷹匠のビジネスを始めたのだが、依頼主のところで襲撃され瀕死状態で病院に運ばれた。強力無比の相棒の助けが得られない中、ジョーは一人で戦いを進めることになった…。
いつもは暴力担当として危機を救ってくれるネイトがいないどころか、ネイトの恋人まで危機に陥り、ジョーが孤軍奮闘するのが、これまでのシリーズ作品にはない新鮮さである。さらに、常に事件の背景に社会的な問題を置いてきた本シリーズでは珍しく、個人的な報復感情が前面に出ているのも面白い。それでも、ジョーはあくまでも正義感と責任感の塊、融通が効かない男で、それを優しく包み込むファミリーの物語も心温まる。
シリーズ愛読者は文句なしに必読。シリーズ未読であっても、本書からジョーのファンになれること請け合いの傑作アクション・サスペンスとしてオススメする。
嵐の地平 (創元推理文庫)
C・J・ボックス嵐の地平 についてのレビュー
No.878: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

文句なしに面白い!

米国では一冊で発刊されたディーヴァーの第三短編集「トラブル・イン・マインド」を分冊にしたうちの下巻。なので、サブタイトルが「トラブル・イン・マインド Ⅱ」。収録された5本の短編と1本の中編は、どれも甲乙つけ難い傑作揃いである。
唯一の中編「永遠」は並の警察ミステリーなら一冊分の内容が詰まっており、他の短編もみんな起承転結がきちんとした構成で、最後にあっと言わせるのはさすが。というより、長編では鼻につくこともある「どんでん返しの魔術師」の技の連続がない分、どんでん返しを素直に楽しめた。
オススメです。
死亡告示 トラブル・イン・マインドII (文春文庫)
No.877: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

巨匠90歳での遺作は、実に見事なスパイ小説なり

言わずと知れたスパイ小説の巨匠の90歳での遺作。冷戦下から冷戦後もイギリス情報部のために働いたスパイと情報機関の重苦しい関係を描いた、従来とは異なるパターンの傑作である。
不機嫌な若い女性がイギリス情報機関の国内保安責任者に、「母からあなたに直接渡せと言われた」という手紙を渡すところから始まる物語は、イギリス情報機関内部の綻びを見せながら、スパイとなる人物たちの心の奥深くに分け入っていく。これまでのル・カレ作品の中心だった、非情で知性だけを頼りに生きている辣腕スパイたちが火花を散らす謀略戦とは異なり、一人のスパイが抱える心の闇と悲哀が切ない。それでも、ル・カレならではの純粋なスパイ小説であり、傑作と言える。
ル・カレの遺作という以上に良質なスパイ小説として、全てのスパイ小説ファンにオススメしたい。
シルバービュー荘にて (ハヤカワ文庫NV)
ジョン・ル・カレシルバービュー荘にて についてのレビュー