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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 121~140 7/31ページ

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No.497: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

医療と命の本質を問う物語だが、予定調和で終わってしまった(非ミステリー)

2020年から21年に週刊文春に連載された、長編小説。手術支援ロボットか、従来の手術かで対立する医師たちの葛藤を描いた医療小説だが、ミステリーではない。
ポイントは「ロボットの欠陥を知った時、それでも手術で救える命があれば使用すべき」なのか、「万が一を考えれば、欠陥を公表すべき」なのかで悩む、ロボット支援手術のカリスマ医師の葛藤。対立する従来手術の天才がいい味を出していて、これは面白そうと思ったところで、まあ現状では誰もが容認する予定調和なエピローグになり、ちょっと肩透かし。ただ、筆者の筆力が抜群なので、ミステリーとしては物足りないが最後まで面白く読めることは間違いない。
医療ミステリー、医療小説のファンにオススメする。
ミカエルの鼓動 (文春文庫)
柚月裕子ミカエルの鼓動 についてのレビュー
No.496: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

はい、騙されました!

フランスの人気作家・ビュッシが「そして誰もいなくなった」に挑戦した作品。隔絶されてはいないけど連絡が取りにくい島に集まったグループのメンバーが次々に犠牲になるという、クラシックな趣向の謎解きミステリーである。
女性に大人気の作家が主宰する「創作アトリエ」がゴーギャンが愛した島で開催され、五人の作家志望の女性が集まった。ところが作家は、「死ぬまでに私がしたいのは」と「海に流す私の瓶」という課題を出したのち、行方をくらませてしまう。さらに一人、また一人と参加者が殺害され、現場には怪しいメッセージが残された。次の被害者は誰か、誰が犯人なのか、五人は互いに疑心暗鬼に陥って行った。
参加者の娘と、同じく参加者の夫である憲兵隊長が探偵役となり、五人が書いた課題作を手掛かりに謎を解いていくのだが、そのプロセスで明らかになるのは「信頼できない語り手」ばかりで、ミステリーにミステリーを重ねた物語である。そこに作者の超絶技巧が凝らされており、見事に騙された。
クリスティーへのオマージュというより、いかにして読者を幻惑するかが主眼の作品として、作者との知恵比べが好きな方にオススメする。
恐るべき太陽 (集英社文庫)
ミシェル・ビュッシ恐るべき太陽 についてのレビュー
No.495:
(7pt)

騙しのプロ5人が入り乱れる、究極のコンゲーム

クライムノベルの巨匠・ロス・トーマスの1987年の作品。フィリピンの反政府組織指導者を500万ドルで亡命させる仕事を請け負ったテロ専門家が海千山千の曲者たちを集め、虚々実々の駆け引きを繰り返す、複雑で精緻なコンゲーム・サスペンスである。
テロ専門家・ブースは仕事先をクビになったのだが、それを待っていたかのように「フィリピンの反政府組織NPAの指導者・エスピリトに500万ドルを渡して香港に亡命させる」という仕事が飛び込んできた。ブースの報酬は50万ドルだという。ブースとエスピリトには第二次大戦時、一緒に日本軍と戦った経緯があり、エスピリトが取引き相手としてブースを指名したのだという。訳ありの胡散臭い仕事だったが、高額の報酬に釣られてブースは引き受け、フィリピン事情に通じた4人のプロをマニラに集め作戦を開始する。ところが、一癖も二癖もある曲者揃いのメンバーは「50万ドルの報酬の山分けではなく、500万ドルを全部もらってしまえ」という結論に達した…。
500万ドルを出す黒幕はもちろん、仲介者、反政府組織を騙すのは当然として、さらにメンバー内でも様々な思惑が絡み合い、誰もが誰も信用できないカオスなコンゲームが繰り広げられるのが痛快。ストーリーは複雑怪奇だが、5人のメンバーの個性がクリアに描かれているので物語を理解するのは難しくない。メンバーがそれぞれの得意技で仕掛ける騙しが全て「最後は金」という一点で集約されており、これぞ究極のコンゲームである。
コンゲーム、ノワール・サスペンスのファンには絶対のオススメだ。
五百万ドルの迷宮 (ミステリアス・プレス文庫)
ロス・トーマス五百万ドルの迷宮 についてのレビュー
No.494: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

見えない脅迫者に追い詰められる心理サスペンス

2021年のNYT紙「注目の一冊」に選出された長編ミステリー。落ち目の作家が他人のプロットを使ってベストセラーを書き、再び栄光を得たのだが、「おまえは盗人だ」という脅迫が届き追い詰められていく心理サスペンスである。
デビュー作が評論家から高く評価されたジェイコブだったが2作目以降は鳴かず飛ばずですっかり落ちぶれ、地方大学の短期創作講座の臨時講師などで食いつないでいた。箸にも棒にもかからない受講生たちにうんざりする日々の中でも態度が傲慢なエヴァンは最悪だった。だが、ある日、個人面談でエヴァンが語ったプロットは最高で、素晴らしい小説になると予感した。それから3年、ふとしたことからエヴァンが死んだことを知り、しかもエヴァンが語ったプロットが作品になっていないことを確信したジェイコブは、そのプロットを小説に仕上げることにした。作品「クリブ」は大ヒットし、ジェイコブは再び脚光を浴びたのだが、一通のメールから地獄の日々に引き摺り込まれることになった…。
死んだエヴァンの頭の中にしかなかったはずのプロットの存在を知っていたのは、誰か? 脅迫者の目的は何か? 犯人探しがメインで、サブとして物語の骨格を借りることと盗用との違い、同業者に対する妬みやライバル意識など、職業作家の頭の中がリアルに描かれている。犯人探しミステリーとしては、それほど捻りがある作品ではないが、起承転結のメリハリが効いていて読みやすい。
大人の緑陰図書として、ミステリーファンならどなたにもオススメできる良作である。
盗作小説 (ハヤカワ・ミステリ)
ジーン・ハンフ・コレリッツ盗作小説 についてのレビュー
No.493:
(7pt)

信頼できない目撃者、被害者、犯人・・・ねじれすぎて疲れた

ピーター・スワンソンの長編第5作。躁うつ病で問題を起こした過去がある女性が隣人を連続殺人犯と見破り、犯行を証明しようとする心理サスペンスである。
版画家のヘンは引っ越し先で隣家の夫婦から親交を深めるディナーに招待されて家の中を見せてもらった時、隣家の夫・マシューの書斎で目にしたものに衝撃を受ける。そのフェンシングのトロフィーは2年半前に起きて未解決になっている殺人の被害者・ダスティンの部屋から犯人が持ち去ったものに見えた。マシューは殺人犯ではないかと疑ったヘンは、その証拠を求めてマシューを調べようとする。一方のマシューはヘンが疑い始めたことに気づき、トロフィーを隠してしまう。ヘンは警察や夫のロイドにマシューの犯行を告げるのだが、確たる証拠がなく、推測だけでは説得できなかった。さらに、ヘンには学生時代に躁鬱病で同級生を殺人犯と決め付けて襲撃した過去があったため周囲に信頼されておらず、ヘンがマシューを追い詰めようとすればするほど、ヘン自身が追い詰められるのだった…。
物語はヘンの視点とマシューの視点で交互に進められ、複雑な背景や動機、もつれ合う人間関係が徐々に明らかになるのだが、登場人物が全員、信頼できない部分を持っているため、物語が進むほど謎が深まってくる。最後に謎が解き明かされるのだが、その仕掛けには正直言ってちょっとがっかり。物語を捻りすぎて収拾がつかなくなったような物足りなさがあった。
「そしてミランダを殺す」ほどの完成度ではないが、読んで損はない心理サスペンスとしてオススメする。
だからダスティンは死んだ (創元推理文庫)
No.492:
(7pt)

日常に非日常が紛れ込んだとき(非ミステリー)

意図することなく拳銃を手に入れることになったとき、人はどう変わっていくのだろうかという、実験的5作品を収めた短編集。
家出少女に一万円をあげたお礼に貰った紙袋から拳銃が出てきた平凡な主婦の第一話から始まって、その拳銃の履歴を遡っていくという構成、さらに各話の主人公が主婦、家出少女、新入社員、退職警官、婚約中の若い娘とバラバラであるところも意欲的である。短編だけに起承転結がはっきりしていて読みやすい。
旅のお供というか、気軽な読み物としてオススメする。
冷たい誘惑 (文春文庫)
乃南アサ冷たい誘惑 についてのレビュー
No.491: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

誰が書いても難しいジャンルだと、再認識。最後はちょっとキレがある。

「その手を離すのは、私」でデビューしたイギリス女性作家の第2作。娘の命と引き換えにハイジャックに協力することを強制されたCAの苦悩と恐怖、決断を描いたタイムリミット・サスペンスである。
歴史的なロンドン・シドニー直行便の初フライトにCAのミアが搭乗したのは、夫・アダムから離れていたいからだった。養女のソフィアを中心に幸せな家族だと思っていたのだが、アダムの浮気疑惑をきっかけに夫婦仲がギクシャクしたため冷却期間を置きたいとの思いでミアが志願し、ソフィアは別居中のアダムが預かることになっていた。353人の乗客とともに順調にフライトしていた機内だったが、ミアの手元に「以下の指示に従えば、娘の命は助かる」とのメッセージが届き、ハイジャックに協力せよと脅迫された…。
ハイジャックものではよくあるパターンの話だが、物語の構成が巧みで読み応えがある。航空機内での攻防、アダムとソフィアが閉じ込められた地下室という対照的な場所でのサスペンス、ミアとアダムの夫婦それぞれが抱える秘密、娘・ソフィアの聡明さなど、各構成要素がしっかりしていて、物語の展開から目を離せない。愛する者の命か飛行機の安全かという決断不可能な選択は、結局、誰が書いても想定内の結末に終わらざるを得ないのだと納得した。それでも、最後の最後にクレア・マッキントッシュの毒が見られたのは収穫だった。
ハイジャック、タイムリミット・サスペンスのファンにオススメする。
ホステージ 人質
No.490: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

背景は重いが、ストーリー展開は軽快

パキスタン系英国人作家のデビュー作。MWA賞やCWA賞にノミネートされるなど、英語圏では高く評価された社会性・時代性を色濃く反映したエンターテイメント・サスペンスである。
ロンドンのムスリム・コミュニティーで育ったジェイは酒も肉食もギャンブルもやり、小遣い稼ぎにドラッグの売人もやるという、ヤンチャな若者だった。それでもムスリムのアイデンティティはあり、自分が通うモスクが差別主義者に荒らされると、報復として白人たちを襲撃したのだが、その襲撃のどさくさに紛れ、ドラッグと売上金を積んだ愛車を盗まれ、さらに、ドラッグ密売容疑で逮捕された。窮地に陥ったジェイの前に現れたのがMI5の局員で、MI5のエージェントになりイスラム過激組織の動向を探れば、司法取引で無罪にしてやるという。他の選択肢がないジェイは申し出を受け、ムスリム・コミュニティーに潜むテロ組織に接近していく…。
イギリスの移民社会の閉塞感、ムスリムに対する偏見、ホームグローン・テロ対策の難しさなど、極めて現代的で重いバックグラウンドを持つ作品だが、主人公のキャラをはじめ、周囲の人物やエピソードが明るく、軽やかで、物語全体のテイストはユーモラスである。ポリティカル・サスペンスというより、アクション・コメディかつチャラい若者の成長物語である。
イギリス社会の現状を描いたエンターテイメント作品として、幅広いジャンルの読者にオススメしたい。
ロスト・アイデンティティ (ハーパーBOOKS)
No.489:
(7pt)

焼け跡・闇市を生き抜く13歳は、否応なく諦観、達観する

老いぼれ犬こと高樹良文刑事が主役の「老犬シリーズ」の第1作。13歳の高樹良文少年が暴力と悪意に支配された焼け跡・闇市を生き抜いていく、ノワール成長物語である。
浮浪児狩りを避けながら二人だけで生きていこうとする13歳の良文と幸太は、良文の知恵と幸太の腕力を頼りに闇市でタバコやウィスキーを売って日銭を稼ぎ、焼け跡を不法占拠した「城」で暮らしていた。関係するヤクザに脅され、騙されながらも、他の浮浪児を集めて買出しに手を広げ、仲間や手持ちの物資、金を増やしていった。しかし、大人たちの圧倒的な暴力や悪知恵、仲間の裏切りに遭い心をズタズタにされる。それでも自分の生き方を貫こうとする良文は命をかけた状況に向かって行く…。
シリーズ読者には、主人公の少年時代を知る作品として必読。シリーズ未読でも、戦後の混乱期を生きた少年たちの冒険・成長物語として楽しめる傑作としてオススメする。
傷痕 (集英社文庫―老犬シリーズ)
北方謙三傷痕 についてのレビュー
No.488:
(7pt)

物語は平凡だが、仕掛けが秀逸

2018年に雑誌連載された長編ミステリー。莫大な遺産の相続を目前にした三人の相続人が、遺産を残してくれる父親の策謀に翻弄される、アイデアが秀逸なワイダニット、ハウダニット作品である。
「親父が死んでくれるまであと一時間半ーー」という冒頭の一文が不気味かつパワフルで、読者はいきなり謎の渦に引き込まれる。主人公が親父を殺すのか、誰かに殺害を依頼しているのか、一時間半という時間設定の意味はすぐに明らかにされるのだが、そこに「親父が生きている」という衝撃の情報がネット経由でもたらされる。死んでもらわなければ遺産を受け取れない三人は、父親が生きてはいない証拠を探すとともに、少しでも多くの取り分を確保しようと協力しあい、いがみ合い、不毛なコンゲームを繰り広げることになる…。
棚から牡丹餅、濡れ手で粟がいかに人間の醜さを露わにするかを嫌というほど見せつける家族ドラマ、ヒューマンドラマだが、仕掛けの上手さ、ストーリーテリングの巧みさで意外なほど読後感が悪くない。犯人探し、謎解きより、作者の技巧を楽しむエンターテイメント作品としておススメする。
絶声 (集英社文庫)
下村敦史絶声 についてのレビュー
No.487:
(7pt)

オチのブラック・ユーモアが楽しい

フランスの人気作家の1957年と59年の2作を収録した中編集の改訳版(1979年)。
表題作「殺人交差点」は解決したはずの10年前の殺人事件が蘇り、関係者を振り回すフーダニット。もう一作「連鎖反応」は平凡な会社員が抱いた邪な願望が、思いもよらぬ形で事件を巻き起こしていくハウダニット。どちらもオチの意外さと皮肉さで楽しませる、一級品のブラックユーモア・ミステリーである。
いかんせん50年代の作品とあって、現代の読者からすれば意外性に乏しいと思われるだろうが、じっくり読めば味わい深い作品で、読んで損はないとおススメする。
殺人交叉点 (創元推理文庫)
フレッド・カサック殺人交叉点 についてのレビュー
No.486: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

工夫はあるけど、ややマンネリ気味

ドイツでは大人気の「ヴァルナー&クロイトナー」シリーズの第四作。今回はクロイトナーの警察官らしき行動が鍵となるフーダニット、ワイダニット作品である。
いつも通り「死体に好かれる」男・クロイトナーが雪山で、ベンチに座って雪だるまとなっている死体を発見したのだが、そこには偶然、被害者の妹が居合わせていた。自殺かと思われたのだが、被害者・ゾフィーが持っていた奇妙な写真と妹・ダニエラの証言から他殺の疑いが濃くなった。ゾフィーの人間関係を中心に捜査進めた捜査陣がさしたる成果をあげられずにいるうちにクロイトナーが同じように演出された新たな死体に遭遇し、事件は連続殺人事件の様相を呈してきた。担当者ではないが興味津々のクロイトナーは、何か利益がありそうな予感に誘われたこともあり、勝手に捜査を始め、ヴァルナーたちとは異なる事件の背景を掴み…。
本作の主役はクロイトナーで、ヴァルナーたちのオーソドックスな捜査では考えられない破天荒な手段で謎を解いていく。事件の背景、構図などはちゃんとしたミステリーになっているのだが、捜査プロセスはかなり型破りでご都合主義的。事件の謎解きよりも落ちこぼれ警官・クロイトナーの魅力が読みどころとなっている。
登場人物のキャラクターが主要な役割を果たしているので、ぜひ、シリーズ第1作から順に読むことをおススメする。
急斜面
アンドレアス・フェーア急斜面 についてのレビュー
No.485: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

38年前と現在の2つの事件を同時に捜査する新米保安官補、荷が重過ぎた?

傷付いた女性たちの再生をテーマにヒット作を連発しているカリン・スローターの2022年の作品。34歳の新人保安官補が現在の任務と並行して迷宮入りした38年前の事件の真相を解明する刑事ミステリーである。
新人保安官補のアンドレアが最初に命じられた任務は、脅迫を受けている女性判事エスターの身辺警護だったのだが、エスターは38年前に一人娘のエミリーを殺害されており、事件は未解決のままだった。人気者で優等生だった18歳のエミリーは当時、妊娠七ヶ月で、ドラッグで意識がない時にレイプされたと主張し犯人を探していたため、口封じのために殺されたのではないかと思われた。事件は迷宮入りしたのだが、容疑者と目されたエミリーの周辺人物にアンドレアの実父・クレイが含まれていたことから、アンドレアは判事の警護とともにエミリー事件の真相を突き止めようとする。
アンドレアが事件捜査する現在のパートとエミリー視点での過去のパートが交互に進行し、やがて二つの事件が繋がって38年前からの因縁が明らかにされるプロセスはそれなりに緊迫感があるのだが、隠された真相の深さとアンドレアの捜査手腕が上手くマッチしていない。捜査の流れが途中で切れたり、思わぬところで繋がったりで、物語世界にすんなりと入っていけないのが惜しい。
ヒット作「彼女のかけら」の関連作品だが、スタンドアロンとして成立しているので「彼女のかけら」が未読でも問題ない。刑事ミステリーのファン、スローターのファンにオススメする。
忘れられた少女 上 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター忘れられた少女 についてのレビュー
No.484: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

賛否が分かれるのは仕方がない、これぞ怪作!

フランスの新進作家の本邦初訳作品。フランスではいくつもの賞を受賞し高く評価されているサイコ・ミステリーである。
新聞記者のサンドリーヌは長く音信不通だった祖母の訃報と共に、遺品整理のために来て欲しいという連絡を受けた。サンドリーヌの母と折り合いが悪く、生まれてから会ったこともなかった祖母だったが他に身寄りもないため仕方なく、祖母や四人の老人が社会的に隔絶されて暮らしている孤島に渡った。かつてここには子供のキャンプ施設があったのだが、連絡船の事故で子供十人が全員死亡するという不幸により施設は廃止になったという。不吉な運命に見舞われた島に渡ったサンドリーヌは謎めいた住人や不気味な雰囲気に圧倒され、逃げ出そうとするのだが、本土との連絡手段が壊されて島に閉じ込められてしまった…。
サイコキラーと島の歴史に関わる謎を解いていくのが本筋なのだが、ストーリーにさまざまな仕掛け、二重三重の罠が隠されており、一筋縄では読み進めることができない。訳者あとがきにあるように、何を書いてもネタバレになりそうで、これ以上の説明は不可能。というか、これ以上の先入観は持たないで読んだ方が面白いと言える。
サイコ・サスペンスのファン、唖然とするような作者の仕掛けを知っても腹を立てずに楽しめる方にオススメする。
魔王の島 (文春文庫 ル 8-1)
ジェローム・ルブリ魔王の島 についてのレビュー
No.483: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

読みやすくなり、毒が薄められてきた桐野作品(非ミステリー)

2021〜22年の週刊誌連載を加筆・修正した長編小説。日本中がマネーゲームに熱中した時代の波に乗り、狂騒の中を駆け上ろうとした若者たちのドラマである。
バブルが膨らみ続けていた1986年、大手証券会社福岡支店に入った三人の若者。母子家庭で進学を諦め、事務職で採用された18歳の水矢子、福岡の田舎の短大卒ながら証券販売のプロを目指す20歳の佳奈、無名の私大卒で風采が上がらない男だが野心だけは巨大な22歳の営業職の望月。三人はそれぞれの事情から「金を貯め、2年後には東京に出ていく」との夢を持っていた。しかし厳しい現実に押し潰されて悪戦苦闘していたのだが、ある出来事をきっかけに証券業界のマネーゲームに乗っかって突っ走り、2年を待たずに夢に手が届くところまで来た。そしてバブルは崩壊した。
バブル経済とは何だったのか? 日本人はなぜバブルに熱狂したのか? 今の時点で振り返れば呆れるほどの単純さだが、同時代を必死で生きた若者たちはおそらくこうだったのだろうというのが、よく分かる。分かり過ぎるぐらい、よく分かる作品である。つまりとても理解しやすい論理立てだし、かなりパターン化されたキャラクター作りだし、とても読みやすい。その分、初期の桐野作品に埋め込まれていた毒が薄めれていて、古くからのファンとしてはちょっと物足りない。
ミステリーではない、軽めの社会派エンタメ作品としてオススメする。
真珠とダイヤモンド 上
桐野夏生真珠とダイヤモンド についてのレビュー
No.482: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

大日本帝国の侵略に抵抗する大韓帝国の暗闘を舞台にした歴史ミステリー

1907年のハーグ平和会議に参加するために大韓帝国から3名の特使が派遣された史実、「ハーグ密使事件」を歴史ミステリーに仕立てた異色の韓国小説である。
日本から属国化の圧力を受けていた1907年の大韓帝国の首都ソウルで、ロシア系女性が経営するソンタクホテルにボーイとして就職した16歳の正根は、ソンタク女史が失踪するという事件に巻き込まれた。経営者の失踪に動揺するボーイたちの中にあって正根は気丈に、失踪の真相を探り出そうとする。ソウルの外国人ネットワークを手繰って調べを進めた正根は事件の背後に、独立を守るために大韓帝国皇帝が命じた重大な使命が絡んでいることを知った…。
巻末の作品解説によると、大多数の日本人にとっては曖昧な知識しかない当時の状況、事実をかなり正確に反映しているという。その意味では、日韓関係史を考えるときに新たな視点を与えてくれる教養小説である。もちろんエンタメ作品なのでミステリー、冒険小説の面白さも備えている。だが全体的にストーリーはそれなりに面白いのだが、エピソードや会話などがエンタメ作品としてはイマイチ。
珍しいバックグラウンドのミステリーが好きな方、日本による韓国の植民地支配に関心のある方にオススメする。
消えたソンタクホテルの支配人 (YA! STAND UP)
No.481: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

故郷喪失者は故郷を憎み、故郷に執着する

2020年から21年に雑誌連載されたものを加筆改稿した長編小説。実際に起きた幼児連続殺人事件を下敷きに、犯人女性の動機、背景を解明しようとした心理ノワールである。
自分の娘と近所の子供の二人を殺害した死刑囚・三原響子の刑が執行された。遠縁にあたる吉沢香純は響子に近親がおらず、さらに香純の母が身元引受人にされていたため遺骨の引き取りに行き、そこで響子の最後の言葉が「約束は守ったよ。褒めて」だったと知らされた。香純が三原家の本家に納骨を依頼すると断固として断られ、一切連絡をするなという。さらに菩提寺に無縁仏として収めることも住職に拒否された。殺人犯と関わりになることを嫌がるのは分かるが、ここまで拒否されるのは何故か。また響子は誰と、どんな約束をしていたのか? 解明しきれない謎を抱えた香純は響子の故郷である青森へ向かった…。
事件の関係者、犯行様態は分かっており、謎は動機の解明だけというシンプルな設定だが、誰もが少しずつ自分の思いとズレて行動することから生まれる悲劇を盛り込んで、読み応えがある心理ノワールに仕上げられている。どんな理由があれ殺人は大罪だが、犯人を責め、刑を執行するだけで解決できるものではない。「検事の本懐」など佐方貞人シリーズを重くしたような作品と言えば、本作の持ち味が伝わるだろうか。
社会派ミステリー、心理ミステリーのファンにオススメする。
教誨
柚月裕子教誨 についてのレビュー
No.480: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

寒村の人間関係が絡む粘ついたミステリー、北欧の湊かなえ?

英国推理作家協会新人賞を受賞した、北欧の新星のデビュー作。アイスランドの小さな漁港の町の女性刑事が古くからの人間関係と因縁が絡む殺人事件に挑む、警察ミステリーである。
長年の恋人との別れを機にレイキャヴィーク警察を辞職して故郷・アークラネスに戻り、警察に職を得たエルマ。誰もが顔見知りで事件・事故といえば酔っ払いか交通事故しかないような田舎のはずが、町外れの海岸で身元不明の女性の死体が発見され、エルマは首都警察でのキャリアの真価を問われることになった。被害者は子供時代をアークラネスで過ごし、今は近郊に住む主婦のエリーサベトと判明するのだが、夫によると「妻はあの町に行くのを嫌がっていた。憎んでいたと言ってもいい」という。エリーサベトはなぜ、30年も近寄らなかった町に来たのか、殺されなければならなかったのか? エルマは田舎町の濃密な人間関係の闇に分け入り、埋もれていた事件の真相を解き明かそうとする。
一つの殺人事件の真相を明かしていく、正統派の犯人探しミステリー。事件の背景や動機も目新しくはないのだが、ポイントとなる人間関係の組み立てが複雑かつ巧妙で読ませる。欲を言えば、エルマのキャラがやや平凡なのが惜しいが、すでに2作目、3作目が発売され好評を得ているというので今後の展開に期待したい。
北欧ミステリーファンには間違いなくオススメ作である。
軋み (小学館文庫 あ 7-1)
No.479: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ひと捻りが入った模倣犯もの

アメリカの新人作家のデビュー作。二十年前に自分の父親が起こした事件を模倣した連続殺人に巻き込まれた女性臨床心理士が事件の真相を求めて苦闘する、重苦しい心理ミステリーである。
12歳の夏に父親が6人の少女を殺して埋めた連続殺人犯として逮捕されてから20年、臨床心理士として独立し結婚を間近に控えていたクロエだったが、またしても彼女の周りで少女が殺される事件が連続した。しかも、犯行の手口はまるで父親の事件を真似したようで、クロエは過去の心の傷がフラッシュバックし、自分自身も含めてあらゆるものが信じられなくなった。疑心暗鬼に陥ったクロエは最大の理解者である婚約者・ダニエルまでもを疑い、どんどん負のスパイラルに落ち込んでしまう…。
昔の事件のコピーキャットもののセオリー通り、主人公の関係者に次々と疑惑が持ち上がり、読者を惑わせていく。読者の予想を裏切りながらストーリーが展開していくところは、ミステリーとしてよく出来ている。が、心理ミステリーとしては、やや深みや叙情に欠ける。
イヤミスというほどの読後感の悪さはなく、多くのミステリーファンにオススメしたい。
すべての罪は沼地に眠る (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.478:
(7pt)

趣味は暴力とセックスだが、他人の暴力は許さない。ふむ!

アメリカで大人気の「マイロン・ボライター」シリーズのスピンオフ作品。マイロンを助ける立場だったウィンが主役になり、自身の一族と関わりがある難事件を自分の価値基準で解決していくミステリー・アクションである。
N.Y.の超高級アパートメントで世捨て人の暮らしをしていた身元不明の男が殺害されたのだが、その部屋にはウィンの一族が所有し、過去に盗難に遭って行方が分からなくなっていたフェルメールの名画が残されていた。しかも、現場に一族の紋章とウィンのイニシャルが入ったスーツケースがあったことから、FBIはウィンに疑いの目を向けてきた。スーツケースはかつて従姉妹のパトリシアに譲った物であり、このままではウィンとパトリシアが容疑者にされてしまう。パトリシアに確認するとスーツケースは、18歳の時にパトリシアの父と自身が遭遇した事件の時に犯人側に渡ったのだという。さらに、殺害された人物の驚愕の身元が判明し、ウィンはFBI時代の恩師から「法の枠外」での非公式の調査を依頼される。莫大すぎる資産、並外れた容姿と頭脳、圧倒的な武術を持ち、セックスと暴力が趣味というウィンは、50年以上前からつながっていた難事件を彼独特の倫理に基づいて解決していくのだった…。
まるで神話の英雄のような主人公が大活躍する物語だが、思うほどファンタジックではなく、事態の背景、捜査プロセスなどは地に足が着いている。時代を超えた複数の事件のつながりも展開に無理がなく、謎解きとしてもよくできていて、完璧すぎるヒーローに鼻白むかもしれないが、読んで損はないエンターテイメント作品と言える。
シリーズを読んでいなくても何の問題もない、現代風ミステリー・アクションであり、多くの方にオススメしたい。
WIN (小学館文庫 コ 3-4)
ハーラン・コーベンWIN についてのレビュー