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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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エスケンスの邦訳第4弾。ボーディ・サンデンが主役となる作品では2作目で、ボーディという人格が形成される高校生時代を描いた青春ミステリーである。
1976年、ミズーリ州の田舎町で母と二人で暮らす15歳の高校生のボーディ。通い始めた高校には馴染めず、親しい友達もなく、16歳になったらこの町から脱出するという夢だけが頼りという日々だった。ある日、上級生のジャーヴィスたちが学校で唯一の黒人生徒であるダイアナに嫌がらせをしようとしたのを阻止したことから、ボーディはジャーヴィスたちに目をつけられてしまった。ジャーヴィスたちの襲撃を何とか逃げ切って帰宅したボーディが信頼する隣人・ホークを訪ねると、そこに保安官がやって来た。二週間ほど前に失踪した黒人女性の捜査の一環で、かつてホークはその女性を雇っていたことがあるのだという。町を騒がせす事件にホークが関わっているのだろうか? さらに、近所に引っ越してきた黒人一家の少年・トーマスのことも気掛かりで、ボーディの日常はにわかに騒がしくなった…。 当たり前のように人種差別が横行する田舎町で育ちながら偏見を持たないボーディだったが、ホークやトーマスと関わることで、自らの内にある意識しない差別感情に気付かされる。さらに、外見からは窺えない人々の悩みや秘密を知り、のほほんとした少年から成熟した大人へと成長していく。ミステリーとしての構成は平凡だが、実に味わい深い成長物語として読み応えがある。 謎解きやサスペンスを求めず、正義の人の誕生物語として読むことをオススメする。 |
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J.アーチャーの長編第二作。アメリカ大統領暗殺をテーマにした政治サスペンス小説で、大統領をエドワード・ケネディからフロレンティナ・ケイン(「ロマノフスキ家の娘」のヒロイン)に変更した改訂新版である。(1977年の作品だが、物語は初の女性である第43代大統領が活躍する1980年代半ばという設定)
大統領暗殺計画の情報を得たFBIワシントン支局は黒幕を含めて一網打尽で現行犯逮捕するために、極秘の捜査を開始する。ところが捜査開始早々に支局長と中堅捜査員が死亡し、情報提供者も殺されてしまい、新米捜査官が直接、FBI長官の指示で動くことになった。暗殺実行日まで一週間しか残されていない上に、さまざまな組織や人物が容疑者として浮上し、捜査は一向に進展しなかった…。 政治謀略小説としてはよく出来ているが、暗殺者側の動きの描写が薄いため、いわゆる暗殺ものならではのピリピリしたサスペンスはやや弱い。ところどころに挿入されたユーモラスなエピソードが効いた軽い読み味のエンタメ作品としてオススメする。 |
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1935年に発表されたマッコイのデビュー長編。大恐慌時代のハリウッドでわずかなチャンスに命をかけた男女の熱と虚無を描いた、ハードボイルドな青春ドラマである。
ハリウッドでエキストラに応募したものの外れてしまった男と女が1,000ドルの賞金を目当てにマラソン・ダンス大会にエントリーする。この大会は154組のペアが1時間50分踊って10分休憩というパターンで踊り続け、最後の1組になれば賞金という過酷なコンテストというか見せ物である。何日も何週間も踊り続けてクタクタになり、ついには精神に異常を来たす出場者たちの奇態を見るために入場料を払って観客が集まったという、1920〜30年代の狂瀾のアメリカを象徴するエンターテイメントが若く夢があった二人を飲み込んでいく様が凄まじい。戦後すぐの実存主義が流行り始めたフランスで高く評価され、その人気がアメリカに逆輸入されてヒットしたというのもうなづける、虚無と空虚の物語である。 その意味では、今の時代でも再評価される作品とも言える。が、読者を選ぶ作品であることは間違いない。 |
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2023年度MWA賞のYA部門最終候補となった若き黒人女性作家のデビュー作。シカゴの黒人居住地域に住む16歳の少女が、大好きな姉が警官に射殺されたのをきっかけに社会の理不尽に立ち向かい、無力さを感じながらも生きる希望を見つけ出そうとする一種の成長物語である。
シカゴに暮らす16歳の黒人女子高校生・ボーは美術系の授業が得意で、絵の才能を生かして貧しくて物騒な街から脱出することを夢見ていたのだが、大好きな姉が不法侵入者として白人警官に射殺されるという悲劇に遭遇した。姉が不法侵入したとは信じられないボーは、姉の恋人で現場に一緒にいながら姿をくらませたジョーダンの行方を探し、真相をはっきりさせようと決意する。警察は当てにならず、同級生や姉の知り合いが頼りの調査は遅々として進まず、至る所に根深い人種差別の壁が立ちはだかり、ボーは途方に暮れることの方が多かった。それでもボーはひたすら自分の信じる道を突っ走るのだった…。 事件の真相を探るという意味ではミステリーなのだが、本作の主眼は今なお変わることなく続く人種差別、黒人差別への抗議である。さらに、ヒロイン・ボーのキャラクターがよくできており、現代の女子高校生の日常、非日常を活写した青春小説としても秀逸。というか、若き黒人女性の成長物語として読んだ方がしっくり来る。 |
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2020年スウェーデン推理作家アカデミー最優秀長編賞、2021年ガラスの鍵賞をダブル受賞した、スウェーデン女性作家の長編ミステリー。14歳で殺人犯として収容され、23年後に帰郷した男が今度は父親殺害容疑で逮捕されるという、現在と過去の二つの事件の真相を探る女性刑事の苦悩を描いた、暗くて重い、本格北欧警察ミステリーである。
23年前、少女殺害容疑で逮捕され、レイプと殺人を自白したのだが死体が見つからず、未成年だったため施設に収容されていたウーロフが23年ぶりに帰宅すると、父親が殺害されていた。第一発見者であり、動機もあることからウーロフは父親殺人犯として逮捕された。事件を担当する警部補エイラは決定的な証拠を見つけられないばかりか、調べれば調べるほど、細かな違和感が湧き上がり困惑する。さらに、解決したはずの23年前の事件にも疑問が生じ、周りの反対を押し切って独自に再捜査し始めた。すると、片田舎の閉鎖的な社会ならではの人間関係の闇が浮かび上がり、エイラは切なく悲しい物語に巻き込まれていくのだった…。 現在と過去、二つの事件の繋げ方が見事で、犯人探し、動機探しミステリーとして良く出来ている。またヒロインの家庭環境、立ち位置、思考方法などキャラクター設定も的確で、人間ドラマとしての完成度も高い。ただ警察捜査のプロセスが入り組みすぎてリーダビリティを阻害しているのが残念だ。 人間が中心になる北欧警察ミステリーのファンにオススメする。 |
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「弁護士ボー・ヘインズ」シリーズの第2作(プロフェッサーからのシリーズとしては第6作)でシリーズ完結編。地元高校のフットボールのスター選手が街の人気者の少女殺害容疑で逮捕された事件をめぐる法廷ミステリーである。
ライバル高校との試合で華麗なプレーを決めて勝利に導いたオデルが翌日、地元の人気バンドのボーカル・ブリタニー殺害の容疑で逮捕された。二人は恋人同士だったのだがブリタニーはレコード会社とソロデビューの契約を結び、その試合後に別れの手紙を残して街を出て行く決意をしていた。突然に一方的な別れを告げられたオデルは試合後のパーティーで荒れ狂い、「償いをさせてやる」などと不穏な言葉を口走っていたという。しかも、オデルはブリタニーの死体が発見された現場近くで眠り込んでいて、近くには凶器と思われるビール瓶が落ちていた。次々と積み重なっていく証拠はオデルに不利なものばかりで、街はオデルに厳罰を求める声に満ちていたのだが、オデルは無実を主張し、ボーに弁護を依頼してきた。不幸な育ち方をして問題を抱えていたオデルを立ち直させるために農場の仕事を手伝わせ、息子同然に可愛がってきたボーだったが、即座に弁護を引き受けるとは言えなかった。どこから見てもオデルが無実とは思えず、弁護を引き受けるなら街の住人のほとんどを敵に回すことになり、子供たちとの平穏な暮らしが失われることは目に見えていたからだった。八方塞がりの中、正義とは何か、正しい側とは何か、ボーは迷いに迷うのだった…。 フットボールのスター選手と人気バンドのボーカルという輝かしい若者が犯人と被害者になった事件、圧倒的に不利な状況からの法廷逆転劇という理解しやすい物語である。それだけに、本シリーズ(プロフェッサー・シリーズを含めて)の特徴である胸熱、正義を求める人々のヒリヒリする熱気はやや下がったと言わざるを得ない。それでも、第一級の法廷エンタメであることは間違いない。 シリーズ愛読者はもちろん、法廷もの、現代社会の諸問題をテーマとしたミステリーがお好きな方に自信を持ってオススメしたい。 |
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1937年に発表され、2024年に初めて邦訳されたホレス・マッコイの長編第二作。1930年代、アメリカの地方都市でジャーナリストとしての筋を通し、社会の不正を告発する記者の激情に溢れた生活を描く幻のハードボイルド小説である(著者はハードボイルドに分類されるのを嫌っていたようだが)。
地方紙の人気記者だったマイク・ドーランは社会の不正を暴く記事を書き続けるのだが、広告収入の減少や有力者からのクレームを恐れる上層部によって記事をボツにされ続けるのにうんざりして、自ら週刊紙を創刊する。何ものをも恐れず、タブーがない告発記事は読者の支持を集めるのだが、それを快く思わない地方都市のお偉方からさまざまな圧力を受ける。それでもマイクは報道の信義、ジャーナリストの使命だけを頼りに、正面から戦いを挑んで行く。 自分が信じる記者の使命に命をかけるマイクの生き方はハードボイルドそのもの。名声や利益は求めず、ひたすら信じる道を追求するパッションが共感を呼ぶ。80年以上前の作品だが、作者が伝えたかったことは今でも古びることなく、読者の感性にストレートに響いてくる。傑作だ。 ハードボイルドの古典的名作として一読をオススメする。 |
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1915年(大正4年)に刊行された、英国冒険スパイ小説の名作。第一次対戦前のイギリスで、ドイツのスパイを暴き出す若者の冒険サスペンスである。
自宅に帰宅したときに突然声をかけてきた男・スカッダーからイギリスの運命を左右する秘密を知らされたハネーは、その情報を政府高官に伝える決心をする。ところが翌日、自宅でスカッダーが殺されているのを発見し、さらに外を不審な男たちがうろついているのを見てハネーは即座に自宅を離れ、スコットランドに向かった。スカッダーを殺した犯人たちばかりか、殺人犯として警察にも追われる身となったハネーだったが、巧みな変装や親切な住民のおかげでスコットランドの荒野を逃げ切り、政府高官と接触することに成功した…。 スパイ、殺人、逃亡、アクション、暗号など冒険スパイ小説に必要なアイテムはもれなく盛り込まれ、話の展開もスピーディーでまさに古典、名作である。ただ、大正時代の作品だけに物語の転換点、キーポイントが、現在の読者から見るとご都合主義なのはご愛嬌。形容矛盾ではあるが、牧歌的なサスペンスと言える。 英国冒険スパイ小説の源流のひとつとして、読んで損はないとオススメする。 |
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文芸誌に連載された7本を収録した連作短編集。少年事件を担当する家裁調査官の日常を描く、現代社会を反映した人情物語である。
事件を起こした少年少女たちはもちろん、背景となる家族が抱える問題に真剣に向き合い、可能な限り柔らかな解決策を模索する主人公の言動が爽やかで、読後感がいい作品である。 残酷で非情なサイコ・サスペンスなどを読んだ後のお口直し、清涼剤としてオススメする。 |
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2020年の吉川英治文学新人賞、日本推理協会を受賞した長編小説。大型ショッピングモールで起きた無差別銃撃事件をめぐり、事件関係者が現場で起きた謎の解明を強制されるという、特異なシチュエーションの心理ミステリーである。
日曜の大型ショッピングモールに二人の男が侵入し、手製の銃と日本刀で死者21名、負傷者17名を出すという無差別殺人事件が発生した。犯人二人は自害し、警察の捜査は終わったのだが、後日、事件で母親を亡くした男性が「母の死の真相を知りたい」との意図で奇妙な「お茶会」を開いた。会を仕切るのは男性から依頼された弁護士で、招待されたのは全員現場にいた5人の男女だった。そこでは「真相解明」のために5人の行動が付き合わされ、比較対照され、それぞれの記憶の矛盾や間違いが容赦なく指摘されていった…。 前半は事件の様相、犯人たちの短絡的な行動が解明され、中盤では被害者でありながら「保身のために他の被害者を見捨てた」とバッシングされている16歳の高校生女子を中心にした「お茶会」の心理劇が展開され、終盤では突然の悪夢に巻き込まれたとき人は果たして正解の行動を取れるだろうかという答えのない難問に直面する。無差別事件そのものの解明より、人間は自分を守るためのストーリー、物語を作りながら生きるのではないかという、事件後の物語がメインテーマである。 犯人探しや謎解きではないが、心理ミステリーの傑作としてオススメする。 |
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2021年のエドガー賞の最優秀新人賞にノミネートされた、女性新人作家のデビュー作。愛する息子を殺害されたクエーカー教徒の中年男と突然現れた身寄りのない16歳の妊婦である少女が奇妙な共同生活を通して宗教的な救済と魂の浄化を得ていく、スピリチュアルな物語である。
一人息子のダニエルを、息子の親友として息子同然に可愛がっていた隣家の長男・ジョナに殺害された高校教師のアイザックは世間との付き合いを避けるようになり、老犬との侘しい生活を送っていた。そんなアイザックの屋敷にある夜、エヴァンジェリンと名乗る16歳の少女が現れた。帰る家もなく、行くあてもないというエヴァンジェリンに同情したアイザックが彼女を招き入れると、エヴァンジェリンは老犬・ルーファスともすぐに仲良くなり、アイザックは彼女を自分の家に住まわせることにした。こうして始まった二人の奇妙な共同生活だが、崩壊家庭に育ちさまざま秘密を抱えているエヴァンジェリンと規律を重んじるクエーカー教徒であるアイザックはことあるごとに衝突し、互いを必要としながらも心から打ち解けることはなかった。特に、エヴァンジェリンが隠そうとする妊娠、生まれてくる子供の父親は誰かを巡ってはお互いに疑心暗鬼になり、それぞれに孤独感を深めていた。それでも妊娠期間は過ぎて行き、お腹の子供は容赦無く育っていた…。 息子が殺害され、犯人は隣家の幼なじみと分かり、苦しむアイザック、路上生活を余儀なくされ、妊娠までしてしまったエヴァンジェリン、さらに殺人者となり、遺書を残して自殺したジョナの三者三様の心の闇、魂の救済を求める葛藤が延々と繰り返される物語は、正直、読み疲れる。同じような心理描写が何度も何度も繰り返され、ただただ救いのなさだけが残る。680ページを越える物語だが、500ページぐらいにまとまっていれば、もっと読みやすく、インパクトがあったのではないかと惜しまれる。 ミステリーを期待すると裏切られる作品であり、魂の救済、再生の物語として読むことをオススメする。 |
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三部作で終わるはずだった懸賞金ハンター「コルター・ショウ」シリーズの第4弾。人探しが仕事のショウが命を狙われた母娘を追いかけ、安全を守りながら逃亡を助けるという、前3作とは異なる役割を果たすアクション・サスペンスである。
原子力関係の優秀な技術者・アリソンはDVに耐えかねて告発して刑務所に送り込んだ元夫のジョンが早期釈放され、復讐のために自分の命を狙っていると知り、娘・ハンナと一緒に姿を消した。元刑事だったジョンが自分の捜査技術やコネを駆使して追いかけているのを憂慮したアリソンの雇い主はショウに、母娘の行方を探し、保護してほしいと依頼してきた。しかし、頭脳明晰なアリソンは逃亡者としても優秀で、ショウは容易には追い付けなかった。さらに、ジョンが関係する犯罪組織からも二人組の殺し屋が派遣され、アリソン母娘の逃避行は追いつ追われつの厳しいものとなる…。 帯に「ドンデン返し20回超え。すべては見かけどおりではないのだ」とある通り、読者を欺き、驚かせようというディーヴァーの意欲、熱量は半端ではない。とはいえ、この程度のドンデン返しはディーヴァーのファンなら想定内ではあるのだが。物語の最後の大逆転も、どこかで読んだことがあるレベルで強烈なインパクトは無い。ただ、クライマックスに至るストーリーはこれまでのシリーズ三部作より面白い。 ディーヴァーのファンはもちろん、ディーヴァーは初めてという方にもオススメできる、よく出来たエンタメ作品である。 |
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3作連続直木賞候補という、今脂が乗っている作家の書き下ろし長編。手持ちで読むのが辛いほど分厚く、中身もかなりハードなノワール系エンタメ作品である。
どうしようもなく閉塞したコロナ禍の日本社会を打ち破るべく、天才ダンサーをカリスマとして売り出そうとする人々と、複雑な事情を抱えた天才ダンサーの家族が織りなす人間ドラマがメインの物語であり、ミステリー、ノワールの要素は不可欠ではあるがあくまで舞台装置でしかない。母親違いの三姉弟「ロク」、「ハチ」、「キュウ」の関係が分かるまでちょっと読みづらいし、三人の関係性が分かってからも父親を始めとする家族や、「キュウ」を売り出すプロデューサーや関係者がみな常識外で怪しく、何度も立ち止まらないとストーリーが理解できなかった。 663ページという大部作だし、難解ではないが癖のある話の展開なので、読み終えた時に満足するか徒労を覚えるか、読者を選ぶ作品と言える。 |
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日本のバブル経済を象徴する女性として有名だった「尾上縫」の生き方を主題にした長編小説。関係者へのインタビューを中心にしたルポルタージュ的手法で書かれた物語だが、伝記でも人物記でもなく、時代に規定されて生きざるを得ない人間を描いた社会派ヒューマン・ドラマである。
大阪の料亭の女将ながらしばしば「神のお告げ」が的中したことにより多くの金融・投資関係者を魅了し、「北浜の天才相場師」と呼ばれた朝比奈ハル。バブルが崩壊すると破産、さらに詐欺罪で刑を受け獄中で死亡した。その服役中に同房になり、彼女の世話をしていた殺人犯・宇佐原陽菜が出所後、ハルから聞いた話と関係者へのインタビューで小説を書こうとするという証言小説の構成で綴られる物語は、ハルの人生が波瀾万丈、印象的なエピソードに彩られているため、それだけで面白い。しかし本作は、単なる正しい伝記を目的にしたものではなく、宇佐原陽菜がハルの生き方に自分を重ねてゆくことで「奴隷の自由か、自由人のろくでもない現実か」を追求する実験作でもある。 最後の方で謎解き、意外な真相が出てくるもののミステリーとしては平凡。バブル経済の時代とコロナ禍の時代を重ね合わせ、個人が自由であることとは何かを考えながら読むことが、本作の楽しみ方である。 |
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2021年英国推理作家協会のゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)最終候補作品。過去のミステリーや映画、文学の蘊蓄と英国コージーミステリーのエッセンスが散りばめられた犯人探しミステリーである。
英国南部の高齢者施設に住むペギーが心臓発作で死亡しているのを、訪れた介護士・ナタルカが発見した。検視では自然死とされたのだが、不信を抱いたナタルカは警察に相談するとともに、友人二人と一緒に真相を探ろうとする。すると、ペギーの部屋を調べていたナタルカたちの前に拳銃を持った覆面の人物が現れ、一冊の推理小説を奪って行った。誰が、何のために小説を奪ったのか? 実はペギーは「殺人コンサルタント」を自称し、多くのミステリー作家に協力していたという。推理作家が絡んだ事件ではないかと推測した3人は真相を求めて、ミステリ・ブックフェアが開かれたスコットランドへ赴くことになった…。 本筋は老婦人殺しの犯人探しだが、事件の背景、真相解明のプロセスの至る所にさまざまな作品の引用がまぶされたビブリオ・ミステリーである。従って、英国ミステリーに興味や素養がないと十分には楽しめない。また、巻末の解説によると英語表現にまつわるトリビアも多用されているようで、さらに読者は限定されるだろう。 イギリス好き、コージー・ミステリー好きの方以外にはオススメしない。 |
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2022年、デビュー作である本作がニューヨーク・タイムズのベストセラーで2位に登場したという新人女性作家の長編ミステリー。因縁がある連続殺人犯から挑戦された監察医が謎を解いていくサイコ・サスペンスである。
ルイジアナ州のバイユーで発見された女性の惨殺死体。身元が分かる物はなく、凶器も見つからなかったのだが、検死を担当した監察医・レンは死体が冷凍されていたと推測し、それを聞いたニューオリンズ市警の刑事・ルルーは2週間前に同じくバイユーで発見された女性の死体との関連性に気付いた。さらに、現場には2つの事件のつながりを示唆する犯人からのメッセージが残されており、連続殺人犯がさらなる犯行を目論んでいる可能性が高まった。集まった証拠品の中に、自分の記憶を刺激するものがあることに気付いたレンは、一連の犯行は自分に向けられた挑戦ではないかと直感する。一方、バイユー内の広大な敷地に住む連続殺人犯・ジェレミーは拉致してきた「客」を敷地内に放ち、追い詰めて殺すという「人間狩り」に耽っていた…。 ストーリーは探偵役となるレンと殺人犯・ジェレミーがそれぞれの視点で語る章が交互に繰り返されて進み、最初から犯人は分かっている。従って物語のポイントは犯人探しや動機の解明より、サイコパスと病理学者の知恵比べ、互いが命をかけて追い詰め合うサスペンスにある。そして迎えるクライマックスには、思いがけない仕掛けが隠されていた。この仕掛けをどう捉えるか、好きか嫌いかで評価が大きく異なる作品である。 サイコ・サスペンス好きならまずまず楽しめるが、謎解き、心理サスペンスが好きな人にはやや物足りない。読者を選ぶ作品である。 |
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人気の「殺し屋シリーズ」の第4作。書き下ろし長編小説である。
今回の舞台は東京の高級ホテル。これまでの作品に出てきたキャラクターももちろん活躍するのだが、それ以上にユニークな新人たちが参戦し、超高速でドタバタ・アクション・サスペンスが繰り広げられる。ホテルという限られた空間で数時間のうちに終わってしまう物語だが、人物キャラクターや人間関係、事件の背景、殺人手段など構成要素が複雑かつ奇想天外で、あっという間に伊坂ワールドを堪能し、放り出された気分になる。もっと読み続けたいと思うものの、この中身の濃さを考えると、ちょうどいいボリュームと言える。日本の小説には珍しくどんどん人が殺されていくのだが、全く悲惨さがなく、笑って読めるのが楽しい。 殺し屋シリーズのファンはもちろん、伊坂幸太郎のファン、ドライなユーモアがあるノワールのファンにオススメする。 |
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アガサ・クリスティ賞、本屋大賞を受賞したデビュー作「同志少女よ、敵を撃て」に続く、第二次世界大戦期を舞台にした少年・少女の成長物語。史実とフィクションが入り混じっているのだろうが、作者が現時点から俯瞰的に見ていることが随所に表れていて、リアリティが薄い。表紙からも推測できるように、中高生にならインパクトがあり、共感されるだろう。
現在の世界情勢、世の中の不安定さを考えると強く訴えるところがある作品だが、ちょっと期待外れだった。 |
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花咲舞シリーズの第一弾。2003年から4年にかけて雑誌掲載された8作品を収めた連作短編集である。
すでにドラマが人気シリーズになっており、内容は紹介するまでもないが、銀行(仕事)を愛する直情型の若きヒロインが、落ちこぼれだが懐のふかい上司と組んで銀行の不正や不合理を糺していくビジネス・エンターテイメントである。主人公はまさにテレビ受けするキラキラ・キャラだが物語の背景、銀行業務の内実などはリアリティがあり漫画チックではない。 半沢直樹のファン、池井戸潤のファンには文句なしのオススメだ。 |
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デビューからの3作品が次々にドイツ・ミステリー大賞を受賞したという実力派の本邦初訳作品。不法残留者であるアフリカ系黒人青年が、殺人を目撃したことからベルリンの街中を逃げ回る逃走と追跡のサスペンスである。
ガーナ出身のコージョは失職したため不法残留者となり、日々、当局の摘発を恐れながらトルコ人街のカフェで働き、愛人のドイツ人女性が管理する空きビルで寝泊まりしていた。ある夜、ねぐらの向かいのアパートに住む娼婦が殺害されるのを目撃したコージョは現場を見に行き、犯人がアパートから出るのに遭遇し、さらに住人に目撃されてしまう。目撃証言から警察は黒人青年を容疑者として探し始めた。強制送還を恐れて、無実を訴えて警察に出頭することもできないコージョは自力で犯人を探そうとするのだが、逆に真犯人からも追われることとなる…。 とにかく逃げて、逃げて、逃げ回るコージョがあまりにも悲惨で同情を禁じ得ない。普通に暮らしているだけでも、周りのドイツ人だけでなく警察にも常に疑惑の目で見つめられるストレスは想像を絶するものがある。移民、難民に寛容な国というドイツのイメージが覆されることは間違いない。アフリカ系移民の生きづらさという社会派のテーマだが、物語はスピーディーなサスペンス作品に仕上がっている。 平穏な日常に隠された社会病理を描くミステリーが好きな方にオススメする。 |
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