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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数620件
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本邦初訳となるオーストラリア作家の長編ミステリー。最近のミステリーが物足りなく、探偵小説黄金期の手法で現代ミステリーを書いたのが本書だという。前文に1930年の「ディテクション・クラブ会員宣誓」を、本文の前にわざわざ「ロナルド・ノックス『探偵小説十戒』(1928年)」を掲載してあることからも、その意気込みが分かる。
スキーシーズン真っ盛りのスキーリゾートに、カニンガム一家が顔を揃えることになった。主人公はミステリーの書き方ハウツー本を業とする作家アーニーで、殺人で服役していた兄のマイケルが3年ぶりに戻ってくるのを祝うためだった。ところが猛吹雪に襲われた翌朝、ゲレンデで見知らぬ男の死体が発見され、マイケルが地元警官に拘束されてしまった。カニンガム一家は35年前に父親が強盗事件で警官を射殺し、自分も殺されたのを筆頭に、交通事故で相手を殺してしまった叔母、外科手術で患者を死なせた義妹などメンバー全員が何らかのやましい過去や隠し事を持っていた。アーニーは身元不明死体の謎を解くべく調査を始めるのだが、すぐに第二の殺人が発生。さらに猛吹雪で全員がロッジに閉じ込められることになる。 外部から切り離された環境、怪しい動機を隠したメンバーが一人、また一人と消えていく。まさに古典的フーダニットの典型である。また、ノックスの十戒に忠実に謎解きの鍵は全て本文中に書かれていて、読者に名探偵になるチャンスを与えている。英国本格派謎解きミステリーのファンなら垂涎の作品だろうが、アーニーの謎解き大団円にちょっとした違和感があり、個人的には不満が残った。 本格フーダニットのファンにオススメする。 |
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2020年の江戸川乱歩賞受賞作家の受賞第一作。周囲から羨望の目で見られる高級住宅街で起きた一家失踪事件と幼児誘拐事件、二つの事件の背後にうずくまる忖度と同調圧力の「村八分」社会を暴いていく、社会派ミステリーである。
真崎が調査員を勤める法律事務所を訪ねて来た若い娘は望月麻希と名乗り、「所長の昔の友人・望月良子の娘」だと主張した。望月一家は19年前に失踪し、赤ん坊だった自分は捨てられ施設で育ったという。言ってることにはかなりの信ぴょう性があり、所長は真崎に経緯を調べてほしいと言う。現在の住まい、麻希が育てられた施設などを訪ね歩いた真崎は、一家が失踪当時に住んでいた町へ足を運んでみることにした。すると、町の住人は外部の人間にはまともに口を聞いてくれず、真崎は誰かから監視されている気配を強く感じるのだった…。 一家失踪の謎を探る調査が、その3年前に起きた幼児誘拐殺人に繋がり、町ぐるみでの隠蔽工作と対峙することになる調査員ものではよく目にするストーリーだが、町の住民たちの同調圧力の凄まじさが本作の読みどころ。日本中、どこにでも同じような町や村があるよなぁ〜と苦笑させられた。また、真崎をはじめとする調査側が無敵のヒーローではなく、それぞれに弱点を抱えた弱い人なのも感情移入を誘う。 謎解きと日本人ならではの人間ドラマが楽しめる作品としてオススメする。 |
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日本でも「破果」が大ヒットした韓国の女性作家の新作。「破果」のヒロインがいかにして作られたかをハードな文章で描いた、「破果」の外伝である。
わずか80ページほどの短編だが、二十歳前の少女が殺人マシーンになるための厳しい訓練がクールに濃密に描かれており、アメリカン・ハードボイルドの短編を読んでいるような味わいがある。さらに、女性の主人公ならではの脆さ、若い主人公ならではの未熟さもいいアクセントになっている。 「破果」を高評価した人はもちろん、未読の方も楽しめるエンターテイメント作品としてオススメする。 |
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「業火の市」、「陽炎の市」と続いた「ダニー・ライアン」三部作の完結編にして、ドン・ウィンズロウの最後の作品。ラスヴェガスでカジノホテル経営に成功したダニーが東海岸時代からの因縁に絡め取られ、再び地で血を洗う暴力抗争を繰り広げる壮大な物語である。
ラスヴェガスのホテル業界で覇権を争う実力者となったダニー。さらなる夢を求めて新たなホテルを構想した結果、最大のライヴァルであるワインガードと対立することになった。なんとか妥協点を見つけようとしたのだが、些細なことから両者の関係に亀裂が生じ、ダニーは争いに勝つために昔の恩人、イタリアン・マフィアの大物の力を借りた。当然、ワインガードが黙っているはずはなく、ビジネスと家庭だけに専念したいというダニーの願いも虚しく、古くからのアイルランド・マフィアの仲間とともに命をかけた戦いを余儀なくされた…。 後ろ暗いとことがあるビジネスの常として犯罪組織との関係が深く、個人の力ではどうしようもない状態になっているギャンブル業界の非常さ、冷酷さ、権謀術策が縦横に登場し、ビジネス小説でありなが濃密なノワールとなっている。また、家族の絆に対するダニーの熱い思いが迸るエピソードも多く、世代を超えた血の物語でもある。 三部作の完結編として壮大なロマンをまとめ上げようとしたためか、細部の描写、話の転換の機微がややおろそかな感を受けたのが、ちょっと残念。巨匠ウィンズロウも力を使い果たしたということか。 それでも、ウィンズロウ・ファンには必読の一冊であることは間違いない。 |
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「探偵・畝原シリーズ」の第5作。女子高校生の素行調査から殺人事件に巻き込まれていく畝原の冷静沈着な思考と熱い家族愛が融合したハードボイルド家族小説である。
高校生の娘の素行を案じる継母からの依頼を受けた畝原は、自分の思い込みを破壊する彼女たちの言動に驚愕した。あまりにも想像外のことに、大学生になった長女・真由に助けを求めて状況を理解しようとするのだが、その過程で地元不良グループが起こした事件に巻き込まれてしまった。さらに、地元名士から脅迫状について相談を受けて会いに行ったのだが、依頼者の駐車場に停めた自分の車のタイヤがパンクさせられ、しかも駐車場管理の老人二人が殺害された事件にも巻き込まれてしまった。事件は地元名士を狙ったものか、自分を狙ったのか。調査を進めると二つの事案に共通するものが見えてきた・・・。 いつも通りに事件を解決していく物語だが、今回は事件のスケールが小さく、背景となる社会病理もややあやふやでミステリー、サスペンスとしては小粒な印象。それよりは畝原家族を始め、事件関係者の家族関係の物語の方が数倍読み応えがある。特に、畝原との娘たちの関係性の変化、親としての心情の揺らぎが面白い。 安定した面白さが味わえる良作で、シリーズ愛読者はもちろんハートウォーミングなハードボイルドのファンにオススメしたい。 |
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コナリーの長編37作目、レネイ・バラード&ハリー・ボッシュ・シリーズの第4作。ロス市警に未解決事件班を復活させたバラードがボッシュを呼び戻し、二つの未解決事件に挑戦する警察ミステリーである。
班の責任者であるバラードは班の復活に尽力してくれた市会議員・パールマンが望んでいる30年前の事件(パールマンの妹が強姦殺害された)を最優先に取り組みたいのだが、ボッシュは自分が関与した一家殺害事件に取り憑かれており、相変わらずの独断専行で捜査を進めようとする。さらにボランティアで構成されたメンバーは統一感がなく、強すぎる癖でバラードを悩ませるのだった。それでも衝突と妥協を繰り返しながボッシュとバラードは新たな視点、証拠、科学捜査力を駆使して議員の妹殺害の容疑者を絞り込んでいく。さらにボッシュは独自の執拗な聞き取り調査で一家殺害の容疑者を特定し、犯人が潜伏するフロリダに単身で乗り込んで行く・・・。 初登場から30年以上が過ぎ、70代になった(はず)ボッシュだが正義を求める怒りの炎は消えることなく、というか肉体的衰えは隠せないものの精神的強靭さは一層高まってきている。よく言えば不滅の刑事魂だが、一歩間違えると独善的でゆとりがない老人が顔を見せている。作者、主人公が年相応に老いてきた証なのだろう。 なかなか意味深なエピローグもあり、ボッシュ・シリーズのファンには必読。正義感と銃で問題解決するアメリカン警察小説のファンにもオススメする。 |
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デビュー作ながら圧倒的な人気を博した「自由研究には向かない殺人」の続編。友人・コナーの兄・ジェイミーが失踪し、またまたピップがSNSを駆使して真相を探り出す謎解きミステリーである。
全体的な印象は前作を受け継いでおり、謎解きと青春物語がミックスされたオーソドックスなミステリーである。正統派イギリス・ミステリーらしく凄惨な暴力シーンはないのだが、ピップの正義感が暴走気味なのはちょっといただけない。また犯罪の動機や背景、関係者の言動にもイマイチ納得がいかず、途中で中だるみになる。結論としては「二匹目のドジョウはいなかった」。 前作を高評価した方は肩の力を抜いて読むことをオススメする。 |
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夕刊紙連載をベースにした6作品の連作長編。ホスピスに勤務する医師が苦痛を訴える患者とどう向き合うかを考え尽くす、医療ヒューマン・ドラマである。
ホスピスに勤務するベテラン医師が3件の安楽死で逮捕され、裁判に掛けられた。仕事熱心で患者思いの先生として慕われていたが、なぜ安楽死に関わってしまったのか。起訴された3件を含む6つのケースについて、そこに至る事情が医師の視点、終末期患者の視点、家族の視点から語られる。6作の通奏低音は安楽死の是非、医療と死の境界の曖昧さ、誰が決断するのか、決断の責任は誰にあるのかなど、極めて重く、明快な答えが得られていないテーマである。6つのケース、それぞれに事情がありドラマがあるが、解かれるべき謎はない。従って、ミステリーというよりヒューマンドラマとして読むのが正解だろう。 安楽死問題に関心がある方にオススメする。 |
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ワイオミング州猟区管理官「ジョー・ピケット」シリーズの第17作。ジョーに復讐を誓うダラス・ケイツ(15作目「嵐の地平」の悪役)が出所し、ジョーの家族に危機が迫ったためジョーが激しく容赦ない反撃を加えるアクション・サスペンスである。
本シリーズはアメリカ社会が招いてしまった様々な社会悪と、大自然に自分の根拠を置く正義感の塊・ジョーが否応なく対立してしまう、社会派ミステリーだったのだが、前々作あたりから悪と認定したものには容赦無く実力行使する、正義暴走型のアクションものに変わってきたようで、ランボー・シリーズを見ているような薄っぺらさが目立ってきた。 もちろん、ストーリー構成は堅実で、人物のキャラ、エピソードもしっかりしているので、アクション・サスペンスとして一級品であることは間違いない。 シリーズのファン、シンプルな勧善懲悪サスペンスのファンにオススメする。 |
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2000年代の最初の十年間に邦訳された本格ミステリーの頂点に選ばれたという、英国女性作家の1987年の作品。無実の殺人事件で16年の刑に服した男が復讐を誓い、真犯人を暴き出すフーダニットの傑作である。
1970年、イギリスの大企業役員のホルトが不倫相手の女性と現場を目撃したらしい私立探偵の2人を殺害したとして逮捕された。身に覚えがないホルトは無実を主張するが、数々の状況証拠によって有罪とされ、16年後に仮釈放されたホルトは同じ会社の役員の誰かが自分を罠に嵌めたと確信し、真犯人を暴き出し殺すために執拗に関係者を訪ね歩き、仮説を立て、検証し、さらに推理を重ねていく。全てを犠牲にして謎解きに邁進する「復讐の鬼」ホルトはついに真相を突き止めたのだが…。 事件発生時と現在を行き来する展開がやや分かりづらいし、16年も前の出来事を執拗に聞き出すプロセスも同じようなシーンの繰り返しで冗舌である。まあ、それが英国本格派といえば、それまでなのだが。 名探偵による最後の謎解きシーンが楽しみで、伏線や気になるヒントを探して前のページを繰るような本格謎解きマニアにオススメする。 |
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技巧を凝らした語りで「どんでん返しの女王」と呼ばれるフィーニーの第6作(邦訳は4作目)。10代、30代、50代、80代の4人の女性の複雑に絡んだ関係をあざといミスリードで幻惑し、意表を突くクライマックスで読者を楽しませるエンタメ作である。
娘のクリオにケアホームに入れられた80歳のエディスは、ホームの職員である18歳のペイシェンスとは馬が合い、その助けを借りて脱出を計画していた。ペイシェンスは事情があって本名を名乗れず、低賃金の不安定な仕事を我慢せざるを得ない状況だった。テムズ川に浮かぶボートで暮らす38歳のフランキーは一年前に家出した娘を探すために、現在の全てを捨てる覚悟で行動を開始した…。 エディスのホームからの脱走、それと時を同じくして起きたホーム施設長殺害事件、この2つを軸に4人の女性たちの交互に絡み合った事情が徐々に解き明かされていく。ミステリーとしては殺人事件が起きるのだが、それより4人の関係性の方がミステリアスで比重が重い。登場人物が全員、嘘をついているようで読者は常にセリフの裏を読みながら関係を探って行くことを強いられる。そこが本作の肝であり、物語の始まる前の一文「世の母親と娘たちへ…」が示すように母と娘の物語である。 前半はちょっと混乱するが4人の関係がぼんやり分かってくる途中からはリーダビリティも良くなり、最後にはそれなりのクライマックスが待っている。 あざといまでの技巧を凝らしたストーリーが違和感なく楽しめる方にオススメする。 |
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ノルウェーのトナカイ警察(本当に存在するらしい)の警官コンビが不可解な殺人事件を解明する、警察ミステリー。主人公も舞台もノルウェーであり、間違いなく北欧ミステリーなのだが、作者は20年以上に渡って「ル・モンド」紙の北欧特派員を勤めたフランス人でフランス語で書かれた作品である。本作はデビュー作にも関わらずフランスで数々のミステリー賞を受賞し、ドラマ化、漫画化された他、19ヶ国語で翻訳され、「トナカイ警官シリーズ」として大成功をおさめている。
トナカイ飼育者間のトラブル解決を主任務とするトナカイ警察のベテラン警官・クレメットと新人のニーナが勤務するラップランドの警察署に、全く日が差さない四十日間の極夜が明ける祝い事の日に苦情電話がかかってきた。トナカイ放牧者・マッティスのトナカイが境界線を越えて来たという隣人からの苦情である。同じ日、地元の博物館から先住民族サーミ人の神聖な太鼓が盗まれているのが発見された。さらに、訪問したばかりのマッティスが殺害され、両耳が切り取られているのが見つかった。トナカイの放牧を続けるサーミ人と開発・自然破壊を進める開拓者である北欧人の対立が激化したのか、サーミ人同士の争いか。 世界中どこにも見られる先住民に対する人種差別に加え、国境など関係ない生活を続けてきた人々とルールを強制るる現代社会との軋轢、厳し過ぎる環境を生き延びるための合理的とは言えない習慣や信条などが複雑に影響し合い、単なる殺人の謎解きでは終わらない長編物語である。見たことも、聞いたことも、想像することもなかった極北の先住民族サーミ人の暮らしが印象深い。 いわゆる北欧ミステリーとはちょっと違うテイストだが、警察ミステリーの基本はしっかり守られているので、北欧ミステリーのファンには安心してオススメしたい。 |
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東京で暮らすアラフォー独身のフリーカメラマンの葉子。バツイチで子無し、まずまずの仕事と腐れ縁のような不倫関係を軸に、それなりに穏やかで平凡な日々を送っていたのだが、離れて暮らす兄の息子が東京の塾の集中講座に参加するためにしばらく居候させて欲しいとやってきた。ひとりでの気ままな暮らしを邪魔されることを危惧した葉子だったが、誰かの世話をすることの充実感も味わった。塾の講座が終わり甥が帰り、心に空虚感を覚えていた葉子だったが、それからすぐ、今度は中学3年生の姪が家を飛び出し葉子を頼ってきた。甥と姪、二人の父親はガンで入院し、葉子の同級生でもある母親は看病に追われており、姪は自分の不安定さを持て余しているようだった。同じ頃、不倫相手である杉浦の妻が殺害される事件が起き、杉浦は容疑者と目された。次々に起きる問題に葉子は翻弄され、自らの心の中を行ったり来たり、自分の立つ位置が分からなくなってきた…。
故郷を捨てて生活を築き上げ、恋愛も理性的にコントロールし、自立した人間として誇りを持って生きてきたはずなのに、それが脆くも崩れていく。アラフォーの不安がメインテーマ。殺人事件も警察の捜査もあるが、ミステリーではない。 生きることの苦さを知る人にオススメする。 |
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タイトルからは一流ブランドに関するエッセイかショートストーリーかと思うが、中身は物質を契機とした人の心の動きを掬い上げるような文章群。エッセイ、小説、自伝などが入り混じっている。
吉田修一ファンならそれなりに楽しめるだろう。 |
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北アイルランドの刑事「ショーン・ダフィ」シリーズの第5弾で、エドガー賞最優秀ペーパーバック賞受賞作。完全な密室状態の古城の城塞から転落死した女性ジャーナリストの事件をきっかけに、熱血刑事が上流階級の傲慢を暴いていく、ハードボイルド警察小説である。
冬の早朝、夜には固く閉ざされる古城の中庭で女性の転落死体が発見された。完全な密室状態の城内に誰かが侵入した形跡はなく、当初は自殺と判断されたのだが、死体の状態に違和感を持ったショーンは他殺を疑った。そんな中、上司であるマクベイン警視正が車に仕掛けられた爆弾で殺害された。当時激化していたIRAによるテロと言われたのだが、これにもショーンは納得できなかった…。 古典的な密室殺人と思わせておきながら、北アイルランドの政治的混迷、さらには上流階級人種の腐敗まで、話はどんどん大きくなっていく。さらに、こじらせ警官であるショーンの私生活の激動まで加わり、話があっちこっちに飛び広がり過ぎるため、ハードボイルド、警察小説としてのまとまりが悪いのが残念。 シリーズ愛読者でなくても十分に楽しめる作品であり、ハードボイルド、警察小説のファンにオススメする。 |
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2023年の英国推理作家協会の最優秀翻訳小説賞を受賞した、スペイン製ミステリー。カタルーニャの鄙びた町で起きた残虐な富豪夫婦殺しを捜査する熱血刑事の戦いと苦悩を描いた警察ミステリーである。
着任早々に「退屈する時間はじゅうぶんにあるぞ。ここではなにも起こらないんだからな」と言われたテラ・アルタ署の刑事・メルチョールだったが、町の半分を所有すると言われる富豪夫妻が拷問され、殺害される事件に遭遇した。強盗かという見方もあったのだが、拷問の凄惨さに違和感を覚えたメルチョールは被害者の周辺に犯人がいると推測し、家族や会社関係に捜査の手を伸ばしていった。その結果・・・。 犯人探し、動機探しの警察ミステリーで、大筋の構成は平凡というか、ありきたりの感を否めない。だが主人公・メルチョール刑事の設定に、物語に奥行きを与え、読者を引き込んでいくパワーがある。娼婦の子として育ち、10代で投獄されたのだが、刑務所で囚人に「レ・ミゼラブル」を読むことを勧められ作品に魅了された。さらに、服役中に母が殺害されたことで犯罪から決別し、母親殺害犯に罪を償わさせるために警察官になることを決意した。見事に警察官になったメルチョールだったが、イスラム過激派のテロリスト4人を射殺したことから、過激派の報復を危惧する警察上層部によって田舎町のテラ・アルタに配属されたのだった。娼婦の息子の刑事と言えば「ハリー・ボッシュ」を筆頭に何人かを思い浮かべるが、いずれのヒーローも正義と不正義、悪との向き合い方に苦悩するのがお約束で、メルチョールも例外ではない。さらに、レ・ミゼラブルの深い影響という独創も加わり、極めて複雑なキャラクターである。 事件捜査を中心に据えた警察小説だが、謎解き部分は最後に薄味になり肩透かしを喰らう。ミステリーというよりヒューマンドラマ的な面白さが読みどころ。スペインの風土や歴史、社会を知ることができるのもオススメポイントと言える。 |
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自伝あり、エッセイあり、社会批評あり、風刺ありで48のエピソードが集められた、実に判断が難しい一冊である。
著者は本作を「観察」と称しているそうで、刑事弁護士で作家という位置から観察・思考した社会のありようを文学作品し仕立てたものか。丸ごと一冊、これがシーラッハだと思えば、それなりのまとまりがある。 シーラッハ・ファンなら、その味わいが深く感じられるだろう。 |
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大学で小説創作の教鞭を取る新人作家の長編デビュー作。6年前に自分の娘を溺れさせようとしたと思っている甥を引き取ることになった大学教授が、甥が邪悪な本性を隠していると疑心暗鬼になり、その本性を暴くことに取り憑かれていく心理サスペンスである。
不幸な事故で大金持ちの両親を亡くした17歳のマシューが、母親の遺言で後見人となった叔父・ギルの家にやってきた。N.Y.の豪邸で何不自由なく育ったマシューは学業成績も抜群で、知的な好青年に見えた。だが、6年前にギルの娘・イングリッドがプールで溺れかけたのはマシューの仕業だと信じるギルはそんな外見が信じられず、夫婦と娘二人のギル家族に災いをもたらすのではないかと不安を抱き、警戒心を募らせていた。そんなギルを嘲笑うかのようにマシューはギルが教える創作講座に参加し、ワークショップで短編小説を発表したのだが、その登場人物はギルの家族を想像させ、ストーリーは家族の死を描いたものだった・・・。 マシューは羊の皮を被ったサイコパスなのか、ギルの被害妄想が作り上げたモンスターなのか。真相追及のプロセスはギルの一人芝居の様相を呈し、ミイラ取りがミイラになるような心理サスペンスでちょっとイライラさせられる。金持ち過ぎるマシューと両親のライフスタイルもちょっと鼻白むのだが、それを補っているのが状況設定のユニークさで、なるほど、そう来たかと思わせる。謎解きミステリーとしては凡作だが、最後まで読者をイラつかせるイラミスとして評価できる。 ラストが不完全でも気にしない、心理サスペンス好きの方にオススメする。 |
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探偵・畝原シリーズの第7作。いつも通り、怪しげな依頼人、怪しげな組織、変わらぬ家族愛に満ちた大人ハードボイルドである。
畝原が依頼されたのはエスパーを自称する巽という男に惚れ込み、多額の投資に乗っかろうとしている父親の洗脳を解いて欲しいというものだった。畝原は父親の面前で男のインチキを暴き、撃退する。後日、その場に居合わせたミニコミ業者でキャバクラ嬢のコンテストを主催する彫谷からコンテスト出場者の素行調査を依頼されたのだが、その調査中に何者かに襲われた。辛くも撃退したものの背後関係が分からず、自分の身辺の警護を固めざるを得なくなった。さらに、巽たちの詐欺をテレビで証言した男が殺され、取材したディレクターが行方不明になる事件が発生。畝原は身の危険を感じながらジリジリと真相に近づいて行く。 詐欺商法、ミスコンに加えて、意図不明の依頼人からの浮気調査、父親としての自身の悩みが絡んできて話は長くなる一方。文庫で上下670ページほどの大作で、最後まで決着がつかないエピソードがあるのもご愛嬌。シリーズ愛読者なら許せる、いつもの畝原ワールドである。 畝原シリーズのファンにオススメする。 |
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1980年刊行の短編集。テーマや表現にいささか古さがあるものの、英国短編小説の魅力である鋭い人間観察、ややブラックなユーモア、味わい深いストーリー展開を備えた全12作品。アーチャーの長編のワクワク感、躍動するストーリーはないものの旅のお供、路辺の酒のアテにぴったりな読み物としてオススメする。
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