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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数608件
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2003年度の直木賞受賞作。中学1年生から3年生になる直前までの男の子たちの成長物語を、いつもの石田衣良節で軽快に綴った8本の連作短編集。
東京の下町・月島の中学に通う同級生4人が、それぞれの危うい少年期を危ういまま乗り越えようとする友情と成長の物語は、どうということは無い物語だが、読後感は悪くない。男性の読者なら、きっと思い当たることが一つや二つはあるはずだ。女性の読者なら、馬鹿にして見ていた同級生の男子たちの顔を思い出すことだろう。そして、14歳のときからさほど成長していない自分を発見し、ほろ苦い思いに駆られることだろう。人間、14歳以上には成長できないのかもしれない、早老症のナオトを除いては。 |
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現代調査研究所・岡坂シリーズの一作。文庫700ページの大作である。
大手家電メーカーのオーディオ製品のイメージキャラクター探しに関わった岡坂は、無名の女性ギタリスト・香華ハルナを見出し、契約に成功する。しかし、重大な企業秘密であるはずのこの話が、なぜか業界紙に嗅ぎ付けられ、執拗に追いかけられることになる。契約から60日間、秘密を守り通さなければ契約破棄になってしまう。果たして岡坂は、業界紙ゴロ、怪しい調査員、ライバル広告会社の社員、社内にいるかもしれないスパイなど、周囲の不審な人物たちの手から香華ハルナを守りきれるのか? 著者のバックグラウンドである広告業界、クラシックギター、神保町界隈と、著者お得意の舞台装置で繰り広げられる企業&PIミステリーである。登場人物のキャラクターやエピソードは巧く描かれているし、ストーリー展開もテンポがいい。それでもやや不満が残るのは、ヒロイン・香華ハルナのイメージが途中から変化して平凡になってしまうことと、最後に明かされる悪役側の動機に疑問を感じることが原因である。 サスペンス作品というより、ピストルも殺しも出て来ない、日本のハードボイルドらしいエンターテイメント作品としてオススメする。 |
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スノーボードを舞台にした連作短編集。個々の作品がそれぞれに完結していながら、7つの作品がぐるっと一回りして衝撃的(笑劇的?)なオチにつながるという、にやりとさせられる仕掛けが、いかにも東野作品である。
ストーリー展開が早いし、登場人物のキャラクター設定も会話も巧いので、すいすい読める。 スノボファンでなくても面白く読める。暇つぶしにはもってこいである。 |
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1987年のオール読物推理小説新人賞を受賞した表題作を始め、5作品を納めた初期短編集。どれも荒削りながら、のちの宮部みゆき作品に通じる「芽」を感じる個性的な作品揃いである。
5本の中では、表題作の「我らが隣人の犯罪」がミステリーとしての完成度が一番高くて面白い。他の4作品も、それぞれにアイデアや構成の妙があり、新人離れした巧さを感じさせる作品ばかりである。 |
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本国ドイツはもちろん、日本でも人気が高いオリヴァー&ピアシリーズの第5作。日本では、これまで3、4、1、2の順で翻訳刊行されてきたのが、ようやく順番通りになった。
風力発電施設建設会社で夜警が侵入者に殺され、さらに、社長の机の上にハムスターの死骸が置かれているのが発見された。捜査に乗り出した警察に対し、会社の経営陣は非協力的で、何かを隠したがっているようだった。さらに、この会社が計画中の風力発電プロジェクトに対しては、地元で反対運動が繰り広げられていた。ところが、反対派の中も複雑で、仲間内での対立が起きていた。そんな中、プロジェクト予定地を所有する老人が殺害される事件が発生し、老人との喧嘩を目撃された市民運動家の男が犯人ではないかと目された。関係者の誰もが警察に非協力的で何かを隠している中、オリヴァーとピアは地道な聞き込みと心理を読む捜査でじりじりと真相に迫って行く・・・。 風力発電という巨大な利権に群がる政財界、官僚の汚職や陰謀、施設建設がもたらす巨額に目がくらむ関係者の欲望が重なりあい、事件を生み出して行く。という意味では社会派ミステリーだが、本作の力点は親子や家族、恋人関係の複雑さとどうしようもなさにおかれており、オーソドックスなヒューマンドラマである。中でも、捜査を指揮するはずのオリヴァーが女性関係の悩みからほとんど役立たずになって行くのが衝撃的で、事件捜査の展開より、そっちの方が気になった。 主要登場人物たちの変化が興味深く、シリーズ読者には絶対のオススメ。シリーズ未読の方には、ぜひ第1作から順に読むことをオススメする。 |
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スウェーデンのジャーナリストと服役囚支援者という異色コンビによる「エーヴェルト・グレーンス警部」シリーズの第2作。2005年に刊行され、日本では2009年に翻訳されたた作品が2017年に再文庫化された作品である。
ストックホルムの病院で、激しい暴行を受けて救急搬送されてきたリトアニア人娼婦・リディアが医師と学生を人質に遺体安置所に立てこもるという事件が起きた。別の殺人事件捜査で病院にいて事件に出くわし、現場を指揮することになったエーヴェルト警部は、リディアの要求で同僚のベングト刑事を交渉役として派遣した。ところが、リディアはベングトを射殺し、自らも拳銃自殺してしまう。リディアはなぜ、なんの勝算もない立てこもり事件を引き起こしたのか? 捜査を進めたエーヴェルト警部は衝撃的な事実に直面する・・・。 立てこもり事件と並行して、エーヴェルトの運命を決めることになった凶悪犯・ラングによる暴行殺人の捜査が展開され、二つが微妙に重なりあってエーヴェルトの苦悩は深まって行く。社会的正義とは何か、警察の役割りはどこにあるのか、エーヴェルトは厳しい決断を迫られることになる。 立てこもり事件の終結までの展開はサスペンスがあり、ラングを追い詰める捜査も真に迫ってはらはらさせる。だが、両方の事件が一定の結果を出してからのエーヴェルトの苦悩の部分になると「なんだかなぁ〜」と肩すかしをくらったような気分になった。前に読んだ同じコンビの作品「三秒間の死角」があまりにもレベルが高かったので、期待し過ぎたのかもしれない。 シリーズ作品ではあるが、シリーズとしての骨格がまだ決まっていない感じで、単独で読んでも何の支障もない。北欧警察小説、社会派ミステリーのファンにはオススメだ。 |
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1993年から94年にかけて新聞連載された長編ミステリー。93年の殺人事件捜査と69年の青春時代の懐古とが入り交じった、青春小説ミステリーである。
1993年、サンディエゴの公園で北海道余市で果樹園を営む男が射殺された。農業視察団の一行としてアメリカを訪れ、途中から単独行動でサンディエゴにに来たらしい彼は、なぜ人気のない夜の公園で殺されたのか。市警のマルチネス刑事が捜査を担当することになった。一方、被害者の側は、残された妻とアメリカ留学中だった娘だけでなく、高校時代からの親友という3人の男が日本から駆けつけてきた。マルチネス刑事は、被害者の関係者に聞き取りを始めたのだが、妻も友人たちも何かを隠しているようで、全面的に協力的な態度ではなかった。彼らが非協力的だった理由は、1969年のサイゴンでの日本人の爆死事件が絡む、彼らの青春の出来事にあった。 物語は、殺人事件の捜査と青春の懐古の二つの大きな流れで構成されており、それぞれに読みどころがあり、良くできた作品である。ただ、どちらも中途半端になってしまった感は否めない。それでもエンターテイメントとしては十分に成立しており、評価に値する作品である。 北海道の大地が生み出す開放感とベトナム戦争という時代が作った陰が、当時の若者たちに様々な影響を与えたことが窺える。 佐々木譲ファンであれば、失望することはない作品であり、ファンでなくても時代感覚が分かる50代以上の読者にはオススメできる。 |
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リンカーン・ライム・シリーズの第12作。現代社会の盲点を突いた犯罪の怖さを見せつけて日常生活に恐怖を覚えさせる、ある意味ホラーなサスペンス大作である。
NY市警のコンサルタントを辞めたライムのもとに持ち込まれたのは、ショッピングセンターでエスカレーター事故に巻き込まれた被害者遺族の損害賠償訴訟への協力だった。これは実は、殺人事件の犯人追跡中に事故現場に居合わせたアメリア・サックスからの依頼だった。安全なはずのエスカレーターで、なぜ予想もしない事故が起きたのか? ライムのチームが原因を探ってみると、これは事故ではなく、仕組まれたものではないか、殺人ではないかとの疑いが濃くなってきた。一方、事故現場で犯人を取り逃がしたサックスの捜査は行き詰まり、それをあざ笑うかのように、同じ犯人による殺人事件が引き起こされた。しかも、エスカレーターによる殺人も同一犯によるものではないかと思われた。日常生活に普通に使われている電子機器を凶器に変える犯行の動機は何か、犯人の意図するものは何か? 毎日使っている装置や道具に、こんな危険が潜んでいるのかと、読んでいる途中で怖くなる。まさに、作者の意図通りの反応をしてしまうサスペンスフルな作品で、いつも通りのどんでん返しもたっぷり仕掛けられており、ハラハラドキドキの度合いは期待通りと言える。ただ、今回は犯人の狂気というか、ねじれ具合がイマイチ。こういうサイコな作品は悪人次第という点から言うと、やや小粒な作品である。 いつものメンバーに、新たに魅力的なキャラクターの新人が加わったし、ライムとサックスの関係にも変化が訪れそうで、次作へ期待を持たせるのも、いつも通り。期待以上ではないが、期待通りに面白い、安定した作品である。シリーズのファンにも、単発で読む読者にもオススメできる。 |
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1966年に発表されたフランスの作品。自分が誰なのか分からなくなるという不条理系のストーリー展開ながら、最後には明確な答えが用意されているサスペンス・ミステリーである。
勤務先の社長から、新車のサンダーバードを空港から自宅まで回送するように依頼されたタイピストのダニーは、ふとした気まぐれから車を無断借用して地中海をめざすドライブに出た。白いスーツにサングラスで派手な車を乗り回しながらダニーは、女王様気分に浸っていた。ところが、理由も分からぬまま襲われて負傷し、さらに行く先々で「あなたを知っている」という人々に出会い、自分のアイデンティティに不安を覚えるのだった。しかも、サンダーバードのトランクに、見知らぬ男の死体が入っているのを発見した。何が起きたのか、自分は誰なのか? ダニーは迷路のような道を歩み、真相を発見しようとする・・・。 謎解きミステリーとしての構成がしっかりしているので、最後にはすべての真相が明らかにされる。明らか過ぎて、現代ミステリーを読み込んできた読者には物足りないだろうが、最後の謎解きまではサスペンスがあって楽しめる。良くも悪くも古典的名作ということである。 古典を古典として楽しめるミステリーファンにはオススメだ。 |
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アイスランドのアガサ・クリスティという異名を持つ作家の人気シリーズ「ダーク・アイスランド」シリーズの第一作。雪に閉ざされた地方都市での事件という、古典的な謎解きミステリーである。
アイスランド北部の小さな町で市民劇団の主宰者である老作家が、劇場の階段から転落して死亡した。新人警官アリ=ソウルは、事故死だという上司の判断に疑問を持ち、それとなく調査を進めるのだが、住人全員が顔なじみという小さな町では思うようには動けないでいた。そこに今度は、雪の中で重傷を負って倒れている半裸の若い女性が発見されるという事件が発生した。しかも、その女性は市民劇団員の同棲相手だった。老作家の死は事件なのか事故なのか、若い女性の事件と関連性があるのだろうか? 捜査が進むにつれ、人口1200人前後、警察官3人という寒村にも人間の闇が隠されていることが明らかになってきた・・・。 ストーリーの基本は「フーダニット」なのだが、ミステリーをある程度読み慣れた読者なら途中で犯人の想像が付くだろう。事件の背景の古臭さはクリスティ風ではあるが、謎解きの完成度としてはクリスティとは比べようも無い。それより、経済危機下にあるアイスランドの若者の生活信条や寂れ行く小都市の住民の生活の描写などの方に面白さがある。 あまりなじみが無い国の人々や生活を想像しながら読むのがお好きな方にオススメする。 |
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日本ではほとんど紹介されていないが、アメリカではベストセラーの常連という「D.Dウォレン」シリーズの一作。タフな女性刑事とタフな女性誘拐サバイバーが主役のサスペンスである。
暴行目的で女性を誘拐した男が、逆に女性に焼殺されるという衝撃的な事件が起きた。しかも、被害者となった女性フローラは7年前の誘拐監禁事件の被害者で、殺害した男は3か月前から行方不明になっている女子大生の誘拐犯ではないかと主張している。ボストン市警の刑事D.D.ウォレンたちは、男の自宅から過去の犯罪の証拠らしき物を発見し、捜査を進めようとしたのだが、その矢先にフローラが行方不明になってしまった。謎に包まれた事件の背景には、7年前の残忍な監禁事件が隠されていた・・・。 誘拐から生還したサバイバーが、なぜもう一度被害にあったのか? という謎解きがストーリーの中心で、「その女 アレックス」などに代表される誘拐監禁小説のジャンルに分類される作品である。監禁からの脱出劇のサスペンス、犯人のサイコパスぶり、警察小説ならではの仲間意識や人間関係の面白さなど、エンタメ要素はたっぷりなのだが、全体的にやや薄味なのが惜しい。ページは分厚いんだけど。 誘拐監禁もののサスペンスがお好きな方にはオススメできる。 |
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デンマーク生まれで、ヨーロッパで人気を呼んでいるという「捜査官ラウン」シリーズの第一作。ストーリーが明快で読みやすい、ハードボイルド風味のサスペンスである。
ある事情から無期限休職処分を受け、自己憐憫と酒に溺れる自堕落な日々を過ごしていたコペンハーゲン警察の刑事ラウンは、友人のバーテンダーから「二年前から行方不明になっている、リトアニア出身の若い女性マーシャを探してほしい」と頼まれた。気乗りしないラウルだったが、酒に釣られて依頼を引き受け調査を始めてみると、どうやらマーシャが売春組織によってスウェーデンに連れて行かれたらしいことを突き止める。スウェーデンに行って調査を進めようとするラウンの前には、凶悪な東欧マフィアが立ちふさがってきた。さらに、若い女性を狙った連続猟奇殺人の犯人がマーシャに接近してきていた。警察というバックを持たず、しかも外国で単身で活動するラウンがマーシャを助け出すことができるのだろうか・・・。 警察官が主人公ということで警察小説に分類されるのだろうが、休職処分の最中とあって、組織的な捜査ではなく個人として活動するしかないため、私立探偵的小説的な展開になっている点が、従来の北欧警察小説とは異なっている。さらに、東欧マフィアだけでなく連続猟奇殺人のサイコパスまで登場するサイコ・サスペンスの要素もあり、いろんな料理が盛り沢山のワンプレート・ランチの様相を呈している。それでもすいすい読めるのは、ドラマ脚本家としてキャリアを積んできた著者ならではだろう。主人公だけでなく、脇役にも個性的な人物を配しているので、シリーズ化されたときが楽しみである。 いわゆる北欧警察小説を期待すると肩透かしを食らうだろうが、私立探偵もののバリエーションとしては良くできたエンターテイメント作品であり、多くのミステリーファンにオススメできる。 |
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「作家生活30周年を迎える宮部みゆきの集大成的な作品」とか、「21世紀最強のサイコ&ミステリー」という売り文句が先行し過ぎた作品。
現代を代表するストーリーテラー宮部みゆきだけに、物語の展開や膨らみには文句はないのだが、ミステリーとしては犯行の動機や手段に無理があり過ぎる。もちろん、時代怪奇小説として割り切れば、とても面白い作品であることは間違いない。 宮部作品の中でも、時代もの、怪奇ものが好きな方にはオススメする。 |
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ハンドラーのスコット巡査&警察犬マギーのコンビがデビューした「容疑者」の続編という売りだが、正確には私立探偵コール&パイクシリーズ(未読)の16作目と言う方が当たっている。
メリル・ローレンスという女性から「行方不明になった同僚のエイミーを探してほしい」と依頼されたコールは、少ない手がかりを追って、ロスの小さな住宅を訪れたのだが、家は真っ暗だった。そのうち、警察のヘリコプターが周辺を照らし、パトカーも集まって逃亡者の追跡がはじまり、コールが訪ねた家から不審な男が逃げ出してきた。その男を捕まえようとしたコールは、逆に警察から事情聴取され、容疑者と見なされてしまった。時を同じくして、逃亡者を追って同じ家にたどり着いたスコットとマギーは、不審な男に遭遇したのだが疑問に思うことは無かった。ところが、すぐあとにマギーが、その家で逃亡者が殺害され、大量の爆発物が隠されていたのを発見した。 謎が多いエイミーを不審に思ったコールは、相棒のパイクとジョンに協力を求めて調査を進め、息子をテロで殺されたエイミーがある危険な計画を立てていることに気がついた。一方、不審な男の唯一の目撃者として捜査に協力していたスコットは、マギーともども不審な男から命を狙われるようになった。コールとスコットは、警察から不信感を持たれながらも、それぞれの思惑と使命感に駆られて事件の真相を究明しようとする・・・。 主役はあくまでもコール&パイクにジョンが加わった探偵側で、スコットとマギーは主要登場人物ではあるが、あくまで脇役であり、スコットとマギーの活躍を読みたいと思っていると肩透かしを喰らう。とはいえ、構成もストーリーも良くできた作品で、コール&パイクシリーズのファンにはもちろん、私立探偵小説ファンにはオススメだ。 |
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ドイツを含む北欧、東欧系のミステリーがいろいろ紹介されているが、本作品はなんとポーランド・ミステリーである。「ポーランドのルメートル」(訳者あとがき)と呼ばれる作者の本国では人気を博している「検察官テオドア・シャツキ」シリーズの第三作にしてシリーズ完結編が本邦初登場という、苦笑したくなるような事情を抱えてのデビューである(シリーズ第一作、第二作も近々刊行の予定とか)。
工事現場で白骨死体が見つかった。しょっちゅうドイツ占領時代の白骨が見つかっていたことから、事件性は無いと楽観視していたシャツキ検察官だったが、検死の結果、遺体は10日前まで生きていたことが判明し、さらに、白骨には複数の人間の骨が含まれていたことから、本格的な捜査を進めることになった。遺体の身元が判明し、白骨化した過程もほぼ明らかになったのだが、犯行の動機や犯人の手がかりがまったく見つからず、捜査は混迷を深めるばかりだった。さらに、家庭内暴力を訴えてきた女性をすげなく追い返したシャツキ検察官は、部下にその対応を批判され、心配になって女性の家を訪ねると彼女は暴力を受け瀕死の状態で横たわっていた。二つの事件の重圧に苦しむシャツキ検察官を、さらにとんでもない悲劇が襲ってきた・・・。 基本的には犯人探しミステリーだが、シリーズ作品らしく主人公や主要な登場人物のキャラクターにも重点が置かれ、さらに舞台となるポーランド北部の小都市の描写にも力が入れられている。「まさに面白さてんこ盛り」(訳者あとがき)なのだが、全方位に欲張り過ぎていて、イマイチ乗り切れない作品だった。犯行の残忍さはサスペンスフルだが、それに比べて捜査の展開がのんびりし過ぎていて、衝撃の結末を迎えても、まったくスリルとサスペンスが感じられなかった。さらに、主人公のユーモアがちょっとズレて(国民性の違いかも)いるのももどかしい。 北欧やドイツ系の警察ミステリーのファンにはかろうじて合格点だと思うが、ルメートル・クラスのサスペンス・ミステリーを期待したら肩すかしを喰うだろう。 |
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ドイツを代表する人気シリーズ「刑事オリヴァー&ピア」の第2作。日本では、3作目、4作目、1作目に続く4番目の刊行である。
田舎町の市会議員で高校教師の男性パウリーが、バラバラ死体で発見された。パウリーは環境保護活動に熱心で過激な言動を繰り返していたため、さまざまな立場の人たちと対立しており、直近では道路の建設を巡って地元の議会や市長、業界などから憎まれていた。オリヴァーたちのチームが捜査を進めると、パウリーを殺したいという動機を持つ人物が次々に登場してきた。さらに、パウリーに心酔する若者のグループやパウリーの家族関係でも不審な動きが見られるようになり、捜査は混迷を深めるばかりだった・・・。 物語全体の構成、伏線の張り方は実に見事で、犯人探しの面白さにどんどん引き込まれていく。また、シリーズ物の重要ポイントである主要な人物のキャラクターや関係性が作り上げられて行くプロセスという点でも、シリーズ読者には非常に興味深い。ただ、事件の背景や動機、捜査などの本筋以外の部分、特にキャラクターを表現した部分が、他の3作品より多少劣っている感じがした。 本シリーズの愛読者には絶対のオススメ。シリーズ未読の方には、第1作「悪女は自殺しない」から読むことをオススメする。 |
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1993年に刊行された折原一の代表作。ミステリーとホラーの構成要素を、これでもかと詰め込んだ重量級の作品である。
純文学と推理小説の新人賞を受賞したもののさっぱり芽が出ず、ゴーストライターとして生活していた島崎は、裕福な宝石商である母親から「息子の伝記を書いてほしい」と依頼された。高額な報酬に釣られて引受け、8歳で児童文学賞を受賞し神童と呼ばれながら作家として大成しなかった小松原淳の生涯を追い始めた島崎は、小松原淳の生涯につきまとう暗い陰に気付き、また不審な男の存在を感じた。さらに、何者かが島崎の仕事を妨害しようとしてきた。富士の樹海で行方不明になったと信じられてきた小松原淳は、本当に死んだのだろうか?・・・ 最初に書いたように、作者が持っている技巧とモチーフを全部ぶち込んだような、力業の作品である。メインストーリー自体は単純で、仕掛けの大筋も途中で分かってくるので、技巧の部分をのぞけば、ミステリーとしては物足りない。また、登場人物が類型化されているのにもやや不満が残る。 ミステリーはトリックが命、という読者にオススメする。 |
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1986年に制作されたフランス映画「ベティ・ブルー」の原作者による長編小説。2016年に公開されたフランス映画「エル ELLE」の原作で、フランスでは有名な文学賞を受賞した作品である。表4の説明文や映画の売り文句ではサスペンスとかサイコ・スリラーとか言われているが、ミステリー作品ではない。
番組制作会社の共同経営者として成功したミシェルは、一人暮らしの自宅で目出し帽の男に強姦された。事件から立ち直ろうとするミシェルだったが、犯人らしき男からはミシェルを監視しているようなメールが届き、ミシェルは自衛のために護身具を購入する。その一方、ミシェルの周辺では元夫、息子、母親らがさまざまなトラブルを引き起こし、ミシェル自身の不倫相手も無理難題を持ち込むなど、心理的に安泰な日々は失われるばかりだった。そんなとき、強姦犯人がまた彼女に襲いかかってきた・・・。 サスペンス、スリラーであれば、ミシェルが犯人を撃退するプロセスが中心になるはずだが(当然、そういう展開を期待して読み始めたのだが)、作品の主眼は犯人との対決ではなく、ミシェルの生き方に置かれている。その生き方というのが、まさに「こじらせ女」を地で行くもので、賛否両論(というか、読者レビューでは「否」がほとんどだが)を引き起こすやっかいものである。 ミステリーとしてではなく、フランスのアラフィフ女性の生き方を垣間みる作品として読むことをオススメする。 |
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おなじみ北海道警シリーズの第8作。人情もの+時刻表ミステリーっぽいところが、シリーズの中では新味さを感じさせる。
小島百合巡査部長は、工具類を万引きした小学生を補導し、大通警察署に連行しながら、署内から逃走されるという失態を犯した。責任を感じた小島が四苦八苦して連絡を取った少年の母親は半ば育児放棄状態で、小学生の行方は不明のままだった。同じ日、園芸店の侵入盗捜査に赴いた佐伯警部補は、盗まれたのが爆弾の原料になる硫安と分かり、緊張する。園芸店近くのコンビニの防犯カメラから目星をつけた車を洗って行くうちに、JR北海道の保線データ改ざん事件で解雇された男が浮上した。しかも、男はキャンピング用に改造した車で万引き小学生と一緒に移動しているらしいことが判明した。男の狙いは、何なのか? どこに爆弾を仕掛けようとしているのか? 佐伯、小島たちと機動捜査隊が必死に追いかけるのだが、男はすでに爆弾を仕掛けていた・・・。 安定した面白さではあるが、主犯の男の造形がいまいちのため、ぞくぞくするようなスリルに欠けるし、タイムリミットものには必須のサスペンスもやや物足りない。佐伯と小島の男女関係と同様に、やや緩くて緊張感が無いと言えば、言い過ぎだろうか。 シリーズファンにはもちろん、軽めの警察小説ファン、時刻表ミステリーファンにはオススメだ。 |
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シドニー州都警察殺人捜査課シリーズの第2作。フランクとエデンの2人の刑事が主役の警察小説であり、エデンの養父・ハデスの過去が明かされるノワール小説でもある。
シドニーで行方不明になった3人の若い女性。シドニー郊外にある、怪しいコミューンの農場にいたことがあるという共通点に着目した警察は潜入捜査をすることになり、エデンが潜り込み、フランクが監視チームを率いることになった。一方、闇の稼業からの引退を決意したハデスだったが、何者かに監視されていることに気付き、エデンを通してフランクに監視者を突き止めるように依頼した。 危険な任務を引受けたエデンは、無事に帰って来られるのか、エデンのサポートとハデスの依頼の2つの任務をこなさなければならなくなったフランクは、両方を同時にこなして行けるのか。現在の厳しい捜査の進展と並行して語られるのは、「冥界の王」ハデスの誕生までの暗くて凄惨な物語である。 全編、暗くて思い物語で、読み通すにはかなりの体力が必要だし、読後感も爽快さとはほど遠い。それを覚悟のうえで読むことをオススメする。 |
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