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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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第二次世界大戦後のフランス、ベトナムを舞台に繰り広げられる壮大な家族ドラマである。
ベイルートで石鹸工場を成功させたルイとアンジェエルのペルティエ夫妻はグズでダメ男の長男・ジャン、優等生の次男・フランソワ、同性愛者の三男・エティエンヌ、紅一点で末っ子のエレーヌの4人の子供を愛情いっぱいに育てていた。それぞれに個性的な4人だったが、成人するとみな、家を出るようになった。4人は兄妹として助け合う気持ちはあるものの、個性の違いからさまざまな波風は生じるのだが、ルイとアンジェル夫妻の大きな愛情に包まれて平穏な日々を送っていた。ところが、外人部隊員としてサイゴンで死亡した恋人を追憶してベトナムに移ったエティエンヌが、ある国家的スキャンダルに気が付いたことから、一家全員が驚くべき災難に巻き込まれてしまう…。 時代に翻弄される一族を描いたドラマであり、それほどの新奇さはないもののストーリー展開、キャラクター設定の面白さで800ページを超える大作もあっという間に読み終えた。 ミステリーや謎解きにこだわらず、大河ドラマとして読むことをオススメする。 |
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英国・米国では国際謀略系のベストセラーを連発している作家の本邦初訳(?)。N.Y.P.D.の内務局に勤める刑事が、自殺とされた妻の死に関する謎を一人で解明していくアクション・ミステリーである。
謹厳実直で同僚と言えども不正は許さない内務局の刑事・ジャックに、ワシントンD.C.で敏腕記者として活躍している妻・キャロラインの行方不明が告げられ、翌日、キャロラインの水死体が発見された。検死の結果、精神的に落ち込んでいたキャロラインの自殺と発表された。何事にも前向きで活発な妻の性格を知るジャックには自殺は信じ難く、さらに翌日、妻の弁護士から届けられた資料を見たジャックは「妻は何者かに殺害された」と確信し、真相を解明しようとする。だが、関連する捜査組織は動かず、逆に妨害され、さまざま脅迫を受けた。窮地に陥ったジャックは弟のピーターの助けを借り独自の調査を開始する…。 法に従う警察官としての義務と妻の復讐を果たしたい人情の間で葛藤する主人公だが、最後はやはり西部劇からのアメリカン・ルールで、銃での決着に至る。本作での悪役は政府情報機関と親密な民間諜報・暴力会社で、イラク、アフガン以来の悪しき側面が露骨に現れている。 理屈抜きに力は正義というアクションもののファンにオススメする。 |
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警察小説の巨匠・ウォーのデビュー作。1947年刊行で長く未訳だったものが78年ぶりに初邦訳されたという歴史的価値がある作品である。
N.Y.の私立探偵・シェリダンが美人妻・ダイアナと共に元大スターの富豪・ヴァレリーからの招待状を受け取り、郊外にある大邸宅を訪れた。著名な弁護士、産業界の大物、上流階級の子女、コラムニストなど招待客は揃ったのだが、肝心のホステスのヴァレリーが姿を現わさない。疑問に思ったシェリダンが邸宅の周囲を探ると、庭から続く森の中でヴァレリーが殺されていた。大勢の人を招きながら殺されたのは何故か? 招待客はもちろん執事夫婦にも怪しい動機が見え隠れする事態に巻き込まれ、シェリダンは地元警察署長のスローカムに協力し、事件の謎を解いていく…。 犯人探しの私立探偵もので、時代の流行に乗ったハードボイルド風味が強い。同時に、最後に全員を集めて探偵が犯人を名指しする古典的な探偵ミステリーでもある。後年のウォーの警察小説に比べれば未熟な部分も多いが、発表された年を考えれば傑作である。 歴史的価値を楽しめるミステリー愛好家にオススメする。 |
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アメリカの犯罪史上最も有名なシリアルキラー、テッド・バンディ事件をテーマにしたノワール・ノベル。何かと称賛される加害者に対し、現代の女性の視点から徹底的に叩きのめそうとする意欲作である。
1978年1月の深夜、フロリダ州立大学の女子寮に何者かが侵入し2人が殺され、2人が重傷を負った。寮を管理運営する支部長のパメラは犯人と鉢合わせ唯一の目撃者となったのだが、当初の供述が変遷したため保安官からは信頼されていなかった。そんなパメラに、わざわざシアトルから会いにきたティナという女性が4年前に友人のルースが行方不明になった事件と今回の事件は同一犯だと告げた。ティナが見せた指名手配写真を見たパメラは「この男だ」と確信し、保安官に知らせたのだが、二つの事件は無関係だと断定された。事件で亡くなった親友・デニースのために犯人を捕まえたいパメラはティナと協力して犯人を追う決意を固めた…。 性差別が罷り通っていた1970年代アメリカで当たり前のように流れた犯人の容姿や知性を讃え、英雄視する風潮に対する怒りが全編にみなぎっている。それは、被害者は無名のままに忘れられ、歪んだ加害者像が独り歩きすることへの全面的な拒否表明として、最後まで犯人の名前を書いていないことに象徴されている。その問題意識の鋭さ、意欲は買うのだが、事件発生時と現在を行き来する構成が効果を発揮せず、読みづらいのが難点。 忍耐強いノワール愛好家にオススメする。 |
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「56日間」で注目されたアイルランドの女性作家の邦訳第4作。妹が行方不明になったのは連続女性失踪事件の被害者だからと確信した姉が、自らを囮にして犯人に接近しようとするミステリー・サスペンスである。
一年ほど前、ルーシーの妹・ニッキが消息を絶ったのはアイルランドで相次ぐ若い女性の失踪事件に関係があるのではと疑ったルーシーだが、警察の捜査は停滞し、妹の情報もほとんど入ってこなかった。ニッキが複数の被害者のひとりに数えられ、世間の注目が薄れていると焦ったルーシーは自分だけでも妹を忘れないと、独自に情報発信し、さらには犯人に接触しようとする…。 失踪した妹を姉が探すシンプルな物語のようだが、途中に犯人の独白の章が挟まれることで様相が変化し、ストーリー構成が複雑で読み解きにくくなる。それが作者の狙いだろうが、その仕掛けは思うほどの効果を挙げていない。クライマックスのひとひねりは面白いんだけど。 技巧的な仕掛けがお好きな方にオススメする。 |
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2021年〜22年に新聞連載された長編小説。シングルマザーに置き去りにされた中学生の少女が母のホステス友だちに救われて同居し、スナックを共同経営し、カード詐欺に手を染め、ほとんど人格崩壊の憂き目に遭うノワールである。
出てくる登場人物が人格破綻や社会からドロップアウトした人間ばかりで、その中を必死で生き延びて行く少女の逞しさと脆さが、読者を不安に陥れる。悪いのは貧しさか欲望か、脱落者を生み出す社会構造か。階層分化が進む社会の一部分をリアルに描き出している。 ミステリー要素は期待せず、女性、特に若い女性の生きづらさが描かれたノワールとして読むことをオススメする。 |
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アメリカを代表する大家(日本ではそれほどの評価ではないが)の2024年度エドガー賞最優秀長編賞受賞作。1863年、南北戦争下のルイジアナ州を舞台にさまざまな立場で戦争に巻き込まれた人々の愛憎と倫理、信念を描いた一大戦争ヒューマン・ドラマである。
戦場で負傷し農園主である伯父の庇護下にあるウェイド、伯父が所有する奴隷ながら自立心堅固なハンナ、別の農園主殺害容疑でハンナを逮捕しようとするピエール巡査の三人の主要登場人物にピエールが心を寄せる解放奴隷のダーラ、北部から来た奴隷解放論者のフローレンス、ルイジアナに進駐してきた北軍のエンディコット大尉、脱走兵を組織して率いるヘイズ大佐などが絡んでくるストーリーは波乱万丈。単なる戦争の勝ち負けではなく、それぞれの信仰、愛、倫理、暴力がぶつかり合い、残酷であると同時に感動を呼ぶ。それにしてもつくづく、アメリカは暴力と信仰でスタートし、今もなお変わらない国なのだと痛感させられた。 ミステリー要素は今ひとつだが歴史、戦争、人間ドラマとしては傑作。オススメです。 |
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ラーソン亡き後も書き継がれてきたミレニアム・シリーズ。ラーゲルクランツの三部作が終了し、本作から作家がカーリン・スミルノフに変更になった新三部作である。
これまでのシリーズの骨格は受け継ぎながらも、ストーリー、キャラクターはかなり変化した。特に主役の二人、リスベットとミカエルに人間味が出てきたのが目を引く。この辺りは好き嫌いが分かれそうだが、個人的には好ましく感じた。全体的にアドヴェンチャー・ゲームのテイストで、現実感は乏しい。 突然登場したリスベットの姪・スヴァラはまるでリスベットの縮小コピー。言動も頭の働きも大人を凌駕する勢いで先行きが楽しみ。次作からは主人公になるのかな? これまでの6作品とは異なるエンタメ性の強い新ミレニアムとして楽しむことをオススメする。 |
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2021〜22年オンラインメディアに連載され、23年に日本推理作家協会賞を受賞、25年秋には連続ドラマになるという、傑作サスペンス。殺人犯が逃亡したのは何故か、犯人を匿った女は何を望んでいたのか、父親に虐待されている少年は救われるのか。それら全ての裏にある、時代と社会が作り出した闇の深さに逃げ道はあるのか。どれも心を重くするテーマばかりだが、見事なストーリー展開で読み応えあるエンタメに昇華されている。
1996年、横浜で塾経営者・戸川が殺害された事件は重要容疑者である元教え子・阿久津が姿を消して二年、捜査の行き詰まりから陣容が縮小され今では窓際族の刑事・平良が担当していた。生徒や親からも信頼が厚かった戸川には殺されるような背景は見つからなかったが、平良は上司から嫌味を言われながら地道に再捜査を進めていた。実は二年間、阿久津は中学の同級生だった長尾豊子宅の地下室に匿われていたのだった。天窓で外に繋がる地下室にいる阿久津を偶然見つけたのが中学生の波瑠で、父親のネグレクトで飢餓状態になっていた波瑠は阿久津が野良猫のために用意した食べ物を食べてしまったのだった。以来、阿久津が食べ物を用意し、波瑠が貰いに来るという奇妙な関係が出来上がった。長身でバスケットボールが得意な波瑠だったが働かない父親に当たり屋をやらされていた。殺人犯、匿う女、追う刑事、孤独な少年がそれぞれ歩む道が交差した時、言葉にならない悲劇が判明したのだった。 途中、やや中弛み、余計なエピソードもあるのだが、全体を通して盛り上がるサスペンスは読み応えがある。ミステリーファンに限らず、現代社会の問題を提起する作品のファンにオススメする。 |
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2014年〜15年に文芸誌に連載された長編小説。生まれたばかりの子を養子として里親に紹介する特別養子縁組で繋がった二組の家族、それぞれの葛藤を描いたヒューマン・サスペンスである。
武蔵小杉のタワマンで暮らす栗原家に突然かかってきた電話は「子供を返して欲しいんです」という。返せないなら金を払えと脅迫してきた。電話してきた女が名乗った「片倉ひかり」は確かに栗原家の6歳の息子・朝斗の生みの親の名前だった。 子供が欲しくてもできなくて養子斡旋団体を頼った40代の夫婦、欲しくはなかった子供ができてしまった中学生。広島の養子斡旋団体の施設で二つの家族が出会うまでの背景が物語の中心で、誰がいいとも悪いとも、誰の罪とも言い難いシリアスなエピソードが延々と続き、かなり重い読書感である。誰も悪い人はいないようなお話になっているが、やはり一番は子供を養子に出す決断を下した片倉ひかりがあまりにも常識にかけ、脆いこと。これ、育てた親の責任なのか? 物語としては面白いが、オススメ作品というには躊躇ってしまう。 |
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雑誌掲載の3作品に書き下ろし3作を加えた、ブラック・ショーマン・シリーズの第二作。どの作品も一捻りがあり、それなりに楽しめる。
ただ、東野圭吾作品としてはどれも小粒で物足りない。 |
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アメリカ生まれ中国系移民二世の女性作家の長編第二作。オハイオ州の裕福な街に紛れ込んだボヘミアンな親娘が特権階級の家族に馴染み、親密になるのだが、あまりにも親密過ぎて破綻に至る文芸ミステリーである。
クリーブランド郊外の計画都市・シェイカー・ハイツに住むリチャードソン家の貸家に芸術家を名乗るミアと15歳の娘のパールが移ってきた。パールはリチャードソン家の4人の子供と親しくなり、豪勢な暮らしに魅了されリチャードソン家に入り浸るようになる。郊外特権階級の倫理とプライドを体現する母親・エレナの采配で絵に描いたような家族を作っているリチャードソン家の異端児・末っ子のイジーは逆に自由奔放なミアに惹きつけられ、ミアの芸術活動を手伝うようになる。お互いに良い関係を築いた二家族だったが、子供たちの関係が恋愛感情でギクシャクし始めるとともに、誤解が誤解を招き、とうとうイジーが寝室6つの全てにガソリンを撒いて放火し、自分は家出してしまった。悲惨な結末に至るまでの道筋は…。 一見、豊かにあるいは自由奔放に暮らしている人々が抱える苦悩や苦い歴史、揺れる道徳感を丁寧に、情感豊かに描写し、多種多様な読み方ができる文芸作である。さらに親子、異人種間の避けられないズレをリアルに落ち着いて表現しているのも好感度が高い。 倒叙形ミステリーとしてはもちろん、現代アメリカ社会の病巣を見つめた社会派作品としてもオススメだ。 |
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「われら闇より天を見る」で話題を呼んだ著者の邦訳第二弾、作品としては前作の前の第2作。信仰厚い閉鎖的な田舎町で起きた15歳の少女失踪事件をメインにアメリカの宗教、倫理、抑圧、暴力の絡み合いを描き出す社会派ミステリーである。
1995年のアラバマ州の小さな町で「ごめんなさい」とだけ書き残して15歳の美少女・サマーが失踪した。警察は家出事案として取り扱うのだが、サマーの双子の妹・レインは同級生で遊び仲間のノア、パーブとともに姉を探そうとする。というのも、数年前に連続少女誘拐事件があり、犯人「鳥男」が目撃されたものの逃亡し、未解決のままだったのだ。当時から捜査にあたったブラック署長はその事件を機にアルコール依存になり、町民からは必要最低限の努力しかしないと目されていた。一方、サマーとレインの父親で暴力的なジョーは弟のトミーや仲間を集めて捜索隊を指揮し、結果を得られない日々に不満を募らせていた。そんな一触触発の町の上空に巨大な嵐雲が居座り、住民は不安と恐怖に怯え切っていた…。 行方不明の姉を探すレインと仲間たち、平穏に問題解決したいブラック署長の視点でのエピソードが交互に繰り返され、そこにサマーの独白が挿入される。そこで明らかになるのはいまだに尾を引く「鳥男」であり、抑圧的な宗教の呪縛であり、陰謀論的な悪魔騒ぎで、アメリカの宗教ベルト地帯におけるキリスト教の功罪が露わにされる。物語の展開スピードが遅く、最初は人間関係やキャラの把握に時間を要するが中途からは分かりやすくなる。 前作「われら闇より天を見る」を想定すると期待外れだが、アメリカ人の宗教と人間の理解を知るミステリーとして、一読の価値あり。 |
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好評のうちに終えた「ジミー・ペレス警部」シリーズに続く警察小説「マシュー・ヴェン警部」シリーズの第2作。本作もマシューの関係者が濃厚な関わりを持つ人物が被害者・容疑者になる地元ミステリーである。
裕福なオーナーが所有する農園の一角を借りている吹きガラス職人・イヴが自分の部屋で父親・ナイジェルが殺されているのを発見した。致命傷を負わせた凶器はイヴが作ったガラス花瓶の破片だった。ナイジェルは病院と患者のトラブル解決をサポートする組織の中心人物で、事件当時は精神が不安定な息子が自殺したのは適切な処置を怠り、早期に退院させられたからだと訴える家族の依頼で動いていたという。マシュー、ジェン、ロスのチームは明確な動機や証拠が見つからず、ひたすら関係者への聞き込みで捜査を進め、やがて自殺した青年が自殺を唆すサイトにアクセスしていたことを突き止める。そんな中、第二、第三の殺人が起き、警察も地元関係者も神経をすり減らすことになる…。 事件の動機や様態がいつ明らかにされるのか、あまりにもスローペースな展開で前半はかなり退屈。最後の謎解き、真犯人の告白もなんだか生ぬるい。580ページを越えるボリュームだがミステリー部分が三分の一、マシューをコアとする人間ドラマが三分の二だろうか。シリーズ2作目とあって、登場人物たちのキャラがよりくっきりし、人間味が感じられるようになったが読みどころか。前作と変わらず同性婚のマシューとジョナサン、どちらも「夫」となっているのには違和感を感じて読みづらい。「パートナー」とでも表現してくれればいいのにと思う。 シリーズ第一作「哀惜」から読み始めることを強くオススメする。 |
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温くて、渋くて、味わい深い。東京の下町暮らしと国文古書趣味が融合した、好きな人にはたまらないだろうテイストの連作短編集。
国文科院生の女子大生・美希喜は大叔父が急逝したため、大叔父が神保町で営んでいた古書店を手伝うことになる。大叔父の妹で店を継いだ珊瑚さん、近所の人、常連客とのほのぼのとした交流録に、神保町のちょっとした食の話をプラス。すっきりした後味も渋茶のよう。 |
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2020〜21年に雑誌連載された長編ミステリー。警察による首なし死体事件捜査と不器用な元キックボクサーの純愛を中心に新興宗教の闇を描いた、なかなかバイオレンスなエンタメ作品である。
多摩の山中で首がない男性が発見された。死体は一刀両断、まるで斬首のように斬られており、死後運ばれて来たようだった。現場に最初に駆け付けた所轄署の鵜飼警部補は捜査本部に組み込まれ地取り捜査を担当する。町で出会った老人に誘われて餡子工場で働いていた元キックボクサー、今フリーターの潤平は新入社員の美祈に一目惚れし、付きまとううちに美祈が新興宗教「サダイの家」で集団生活をしていることを知った。被害者の身元調査からスタートした鵜飼たち警察の捜査が実を結び、首なし死体が「サダイの家」信者の脱退を助けていた弁護士であることが判明。警察と教団、元キックボクサーが絡みあう激しい闘いが始まった…。 新興宗教を巡るあれこれが想起される、面倒くさそうな物語だが、警察捜査のプロセス、恋に不器用な男の言動がしっかり抑えられているので、ちゃんとエンターテイメントとして成立している。バイオレンスとミステリーのバランスが良い作品であり、どなたにもオススメできる。 |
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初読の作家で、先入観なしに読んだ。家族とは何か、どうあるべきか。家族とはゴールなのか、どん詰まりなのか。最後の決断まで引っ張っていく物語構成は上手いと思うが、読後感はもやもやしてしまう。まあ、それが家族というものなのだろう。
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2019年の翻訳ミステリー大賞を受賞した「11月に去りし者」から5年ぶりの新刊。最低賃金の仕事でダラダラ暮らしている若者が、ふと見かけた虐待の跡が残る幼い姉弟を救うために奮闘する青春ハードボイルドである。
ディズニーのまがいものの遊園地で最低賃金の仕事に就き、友人とマリファナを吸って日々を過ごしている23歳の負け犬・ハードリーは、市役所の窓口で並んでいる時に、足にタバコの火傷の痕が残る幼い姉と弟を見かけた。気になったハードリーは児童保護サービスに伝えるのだが、彼らの反応は鈍く、ほとんど動こうとしない。役人の怠慢にうんざりしたものの、そのまま見過ごせないと思ったハードリーは自分で調査を開始する。姉弟の母親の名前を探り出し、高級住宅地にある家を突き止め、弁護士である父親がDVを行っているのではないかと結論つけた…。 落ちこぼれの23歳の若者が不幸な親子を助け出すヒーローに成長する素人探偵ストーリーだが、王道のP.I.ものとは異なって、主役が頼りないのが読みどころ。さらに主人公を助ける周囲の人物たちがそれぞれに個性的で魅力的。特に前半はコミカルなエピソード続きでユーモア小説風なのだが、終盤になると一気にサスペンスフルになる展開の妙が上手い。物語の幕引きはやや唐突で、賛否両論あるだろうがインパクト大である。 現代を感じさせる、軽めのハードボイルド好きの方にオススメする。 |
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2023年〜24年の文芸誌連載の加筆、改題作品。幻の作品と思われた映画のフィルムが発見されたのきっかけに、定年退職した老人が自分も関わった50年前のベルリン映画祭での出来事を回顧し、人探しをするノスタルジックな人探しドラマである。
大前提として映画好きであること、時代に翻弄される人生に共感できることが、本作を楽しむ条件となる。突然現れた若い女性から「あなたは、わたしの祖父ですか?」と始まる、現代での人探しと、それをきっかけに1976年のベルリンでの人間模様を紐解いていく過去のヒューマンドラマが交互に語られていく構成で、ミステリー的要素は最後の種明かし部分だけ。 ミステリーを期待すると肩透かしだが、主人公と同年代で歴史的背景をすんなり理解できる人には、ノスタルジックな青春物語としておススメできる。 |
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AA(アルコホーリック・アノニマス)ならぬAA(アサシンズ・アノニマス」に通い、不殺の誓いを立てた世界最高の暗殺者が命を狙われ、ニューヨーク、シンガポール、ロンドンと逃げ回りながら襲撃をかわして行く、なんとも不思議でもどかしい設定のアクション・サスペンスである。
オーソドックスな暗殺者ものであれば、いかに鮮やかなテクニックを駆使してターゲットに接近し目的を遂げるか、あるいは襲い来る敵に反撃するかが読みどころだが、本作は「絶対に相手を殺さない」誓いという手枷足枷があるため、殺意を持って襲ってきた敵を殺さないで倒すという、不可能に近いアクションが最大のポイント。しかも、世界一の暗殺者として成功してきたため殺すことの快感を知っており、本能的な殺害衝動が身に付いているという厄介なキャラクター設定で、読む側の予測を裏切り続ける展開が連続する。なかなかスムーズに読み進められない奇想天外な構想で、読者を翻弄するのが読みどころではある。 色々ひねり過ぎの感もあるが、これまでにないユニークな暗殺者ものとして一読の価値ありと、おススメする。 |
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