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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数210件
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初めて読む人です。コバヤシタイゾウと思っていたらコバヤシヤスミだそうです。ビックリ。
この本は賛否が分かれる本だろうと思います。と云うよりも最後までガマンして読んでくれる人がどれほどいるか、そこで意見が分かれるでしょう。ほぼ、会話のみで物語が進行します。その会話も少しくどくてイライラします。でも私の場合ガマンして最後まで読みました。そこで気がつきます。しつこい会話も作者のワナです。伏線を悟られないようにしている策略でした。結果まんまと騙されました。異世界とこの世界で起きる殺人。人物はどうやらリンクしている模様です。特殊な世界観を設定していますが中味は本格ミステリのガジェットを使ったもので、会話のみで進む内容もその世界観に合わせたものです。中盤で「犯人しか知らない事実をペラペラ喋った人物がいる」と云うものがいますが、何のことかまるで分りませんでした。すっかりやられました。私的にはこのスタイルはアリと思います。最後まで読めばこの本の面白さが解ります。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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横山秀夫氏の幻のデビュー作が2005年にカッパノベルスとして出版されたもの。加筆訂正をしたとあるが、警察内部の各部署の動きや本庁、所轄の軋轢とか叩き上げ組み、キャリア組みといった人事面や人間臭い刑事たちの描写が
このころから書かれていて興味深い。時効というタイムリミットを設け自殺として処理された案件を白紙の状態から洗いなおす刑事達の活躍や、ルパン作戦に係わった三人の調書から推理していく過程が中々読ませる。 硬派な警察小説という雰囲気がすでににじみ出ている文体と、男臭い主人公たちの事件解明に賭ける一直線な気持ちがよく表わされている文章がストーリーとマッチしており時間を忘れて読んでしまった。 登場人物も多彩で殺人事件に3億円事件が絡んでくるところも着想の面白さを感じる。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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先に「桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」を読んでいる。こちらは爆笑ミステリだったが、このモーダルな事象は、また違った色合いのミステリだった。クワコーの脱線ぶりは同じだけれど、起きる事件は本格ミステリのように
謎めいている。そして探偵として活躍する北川アキと元夫の諸橋倫敦のコンビが動き出す、第二章のミステリーへの実践的アプローチから二人の謎への挑戦を読者も一緒に追うことになる。この二人の行動がいろいろ調べまわる合間に飲んだり 食ったりするわけだけれど、その辺の描写というか書き方が、さすが芥川賞作家だけあって上手い。下手なグルメレポーターのコメントよりよほど伝わる。読んでいて咽喉が渇いたり腹がへって何かつまみたくなってしまう。飲み食いしながらの推理と閃きなどが二人を突き動かし真相へと導くわけだけれど、合間に入るクワコーの行動と妄想じみた話の流れが実は最後の方で交差する仕掛けになっている。文章は確かに深い語彙をさらりと使って上品な感じで読ませるが、くだけたクワコーの 生活の様子や下品なところも適切な言葉で笑いを誘うなどその筆力は本物で、かなりの長編であるが読み疲れなどは感じない。ミステリ部分は結局人の繋がりで、この部分を解していけば真相に至るわけだ。事件はやはり痴情のもつれ、怨恨、物取りなんだね。100%通り魔の犯行ならば探偵の出る幕はないわけだ。手にしたとき予想外の厚さで驚いたが、そう時間もとらずに読み終えた。もと夫婦の探偵コンビが面白かった所為でしょう。本文の一節に、なるほどと、クワコーは頷き、いわゆるマルチというやつですねと、余計な世辞を口にすると、女と新城が声を合わせて笑い出したのは、マルチなる言葉の時代遅れ感に反応したからだったが、クワコーは笑いの意味がよく分からず、特に悪い気もしなかったので、一緒になって笑った。〔なるほどと〕以下はクワコー視点寄りの記述ですが、そこに〔余計な〕といういわば神の視点からの形容詞がはいり、続いて〔マルチなる言葉の時代遅れ感に反応した〕は女と新城の視点、続いて〔笑いの意味がよく分からず、特に悪い気もしなかった〕はまたクワコー視点、というふうに一文で目まぐるしく焦点化のピント合わせがやり直されます。等筆者の解説がありますが、これは読ませる側が意図して書くテクニックでしょうが、読む側はなんの違和感もなく読み進むので、これは読ませる側と読む側がシンクロしているといえると思います。本を読むという行為はこういったことなのだと今さらながら感じました。このあたりがすれ違うと苦手な作家という認識になるのでしょう。 |
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イコロジー(図像解釈学)とイコノグラフィー(図像学)を使って絵画に秘められている真実に迫る。そんな手法が新鮮で面白かった。わずか数年の製作期間に絵を描き自殺した地方の名もなき画家。東条寺桂という人物の足跡を追う美術館の
学芸員の様子が雰囲気ある文章で書かれていてこの部分がとても良い。彼、東条寺桂の心情にはとても共感できる。無骨な男の心情が素直にこちらの胸に沁みる。発見した彼の手記からクリスマス・イブの夜に起きた惨劇の様子が明らかになる 展開だけれど、後半の一転したミステリとしての部分は先にさりげなく張られた伏線なども有効に作用して中々考えられている。ふたつの密室殺人はトリックとしては古典作品からの流用だけれど、刑事たちの密室談義や一見正解のような解釈を 見せた後、さらに東条寺桂と従兄の河野との推理をみせるのだが・・・。これらすべてを覆す真実が最後の最後に明らかになる展開は良く考えられており、手記を使ったトリックはよくあるパターンとは云えこの場合有効で上手く犯人を隠すことになっている。しかし、ミステリ部分よりも自分は彼、東条寺桂の無骨な生き方に感情移入してしまい何だかやるせない気分になってしまった。前半と後半がまるで違う雰囲気で手記を紐解くところから俄然ミステリになる構成が面白かった。 |
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相変わらずの十和田只人が高等数学の学問的なあれこれを長々と語るシーンが多く、いったいこの本は誰に向けて書かれたものかと首を傾げる思いです。単にページ数を増やすだけで原稿料の水増し請求じゃないのかと勘繰ってしまいます。トリックはネタばれのところで書くとして、前作はオーソドックスな書き方でしたが、今回は十和田只人が犯人として初めに逮捕されます。つまり、彼はアームチェア・ディテクティブの立場になるのです。東京から来た警視が動き回り調べた結果を彼に聞かせ、情報を組み立てた彼が犯人を指摘すると云う展開になっています。前作はハウダニットがメインでしたが今回はフーダニットです。トリックは単純ですが、ストーリーは良く組み立ててあります。彼女はどうやら魔賀田四季博士のような存在に見えます。このあとは主人公の十和田只人をもう少し魅力的な人物にしていくことでしょう。小難しい話ばかり喋る変人のようではついていけません。次回作に期待しましよう。
▼以下、ネタバレ感想 |
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ジッチャンの名にかけて、の金田一一のノベルス版ですが、ミステリのガジェットをいくつも使った本格ものでけっこう楽しめました。雪で閉ざされた山荘を舞台にしたクローズド・サークルものですが、集まった七人はチャットでミステリ談義に盛り上がる仲間のオフライン・パーティという設定です。この設定で思い起こすのは歌野晶午の「密室殺人ゲーム王手飛車取り」でしょう。しかし、こちらは1996年4月。歌野晶午のは2007年1月でアイデアとしてはこちらが先といえます。ハンドル・ネームを使い、本名も素性も明かさない七人。何者かに次々と犠牲になる七人。動機は読む者に入り込みやすい良く考えた設定で、被害者となる人物を上手く動かす犯人のアリバイ・トリック。ハンドル・ネームだけの事実誤認などが読者を迷わせるトリックとして有効に使われています。一の邪な計画で美雪と二人が偶然辿り着いた吹雪の山荘で遭遇する連続殺人事件。ミステリの王道ですがプロットがしっかりしているので犯人が簡単には読めません。そこを金田一一が推理で追い込んでいくところは楽しめます。
▼以下、ネタバレ感想 |
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始めに山田正紀氏の作品を読むのはこれが最初です。これまで読んだことがありません。個人的にミステリ作家と認識していなかったせいですが。ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」をリスペクトした作品として気になっていました。
ようやく読む機会を得ました。ファイロ・ヴァンスが解決したあの「僧正殺人事件」が実は未解決だった。真犯人は別にいた。その辺のところを氏は上手く突っ込みながら物語を再構築しています。そして、僧正殺人事件2を解決するのが当事 サンフランシスコに滞在していた若き金田一耕助とくれば、もうわくわくのシチュエーションです。しかし、どうも物語世界に馴染みません。第一部から第四部まであります。しかし、物語が動き出すのが第三部からです。それまでは当事の 世相背景やら社会情勢などが繰り返し語られ、僧正殺人事件のあの雰囲気がまるで感じられません。その金田一耕助にしても違った印象で人懐っこさはそうでも、観察力洞察力の凄さが欠片も見せず単なる好青年のように写ります。 もっと、もっともらしく描いて欲しかったと思います。犯人もその背景も物語世界での辻褄はあっていますがさほど感銘は受けません。もっと金田一耕助を活躍させて、めくるめく謎の解明に挑む、そんなストーリーにして欲しかったと思います。 少しあっさり感が強い印象でした。ただ単にこちらが期待していた内容と違っただけかも知れませんが・・・。 |
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下巻を読み終えました。少し時間を置いて読んだせいか興奮も醒めフラットな気分で読みました。思うのは上巻が「動」なら下巻は「静」と云った印象です。逮捕された二人の取調べでの供述の裏付け捜査の様子や、地検とのあれこれ。そして調書を読む合田を通して、二人の生い立ちやこれまでの人生が浮き彫りになるが、何故一家四人を殺害したのかがハッキリしない。二人の行動の元になったものとはいったいなんだったのか。金が目的だった訳でもなく、ケータイサイトで知り合った二人が郵便局のATMを襲い失敗したあとも、別れるでもなくずるずると16号線を流れて赤羽まで行き四人を殺害した。混迷する合田雄一郎。そういった様子が長々と続きます。二人の行動を描写するところはその確かな筆力で読み応えがあります。生まれも育った環境もまるで違う二人。その二人の内面は調書を読む合田にはどれほど理解できたのかと思います。でも、こういった系統のものは久しぶりに読んだので面白かったです。佐木隆三の「復讐するは我にあり」や西村望の「丑三つの村」、宮部みゆきの「火車」などを読んで面白いと感じた人にはおススメできます。
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あの坂口安吾が探偵となって、造り酒屋で起きた密室殺人事件を解決する物語。昭和の始めを舞台に京都伏見の下宿屋に居候する安吾が、ワトソン役の鉄管小僧と碁仲間の刑事からの問わず語りの情報と、関係者に会い証言を取っていく様子が読んでいるこちらにそのまま情報として示される。しかし、一筋縄ではいかない謎に包まれた家族。雪が止んだ後の現場では行ったきりの足跡。線盤時計や蝋燭時計が示す犯行時間。誰かがウソを吐いている。時代にあった人物などがさりげなく登場して物語に花を添える。造り酒屋としての、日本酒を造るという作業の難しさや理にかなった作法などもウンチクめいて描かれていて、本格的なミステリのスタイルに則ったストーリーは楽しめる。時間トリック、毒殺トリック、そして帰りの足跡がない密室トリック。さあ安吾とともに探偵をしよう。
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眼球堂と呼ばれる館に招待された六人と一人。二日目の朝、死体が発見される。館の主人驫木煬が無残な姿で。その後次々に四人が。天才数学者、十和田只人が一連の事件の真実を証明する。そんなストーリーです。この手の館物は以前に読んだことがありますが、そっちはまぁ良いでしょう。しかし、天才と呼ばれる人間の思慮と云え凡人にはとても理解出来ない行動原理です。犯意がまるでわからず、そこはちょっと付いて行けません。フーとホワイとハウがそろう殺人現場。その胡散臭さはミステリの彩りとして有効です。ただ、やはり一人の登場人物が最後まで現れませんでした。そのために最後のドンデン返しが読まれてしまいます。ここはもう少し考えて欲しかったと思います。しかし、放浪の天才数学者というキャラクターは面白くこの後の活躍に期待したいです。
▼以下、ネタバレ感想 |
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呪術は心理戦という文化人類学者の主人公仲澤大輔と砂倉真由のコンビが、文献にも出ない隠れた呪術師たちを追って四国や東北を旅し、その土地の念仏を探っていく物語である。何者かに祖父を殺された真由が家の軒下から見つけた呪術符。それは50年も前のもので、強力な呪いを込められた本物の札であった。殺された祖父の過去と影の陰陽師たちとの係わり合いはどの様なものだったのか。謎を追ってわずかな手がかりから真相に迫っていく二人の行動が、犠牲祭祀や陰陽道に関するウンチクを絡ませながら描かれていて興味深く読み進む。かなりマイナーな事柄であると思う呪術についても、昔の人々の暮らしの中で根付いていた理由とかその役割なども解かりやすく主人公の口から語られていて新鮮であった。クライマックスの緊迫した事態も中々迫力ある描写で読ませる力があり、刑事コンビや関係者の動きなども無駄が無く展開を変えていくホンの小さな発見などが上手く描かれ、始めから最後までテンポ良く進むストーリーは読みやすく楽しめる。
この後もどんな作品を見せてくれるのか興味ある人である。同時受賞の完盗オンサイトとはまったく違った毛色の物語だけれど個人的にはこちらの方が断然面白いと言える。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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ひとつのトリックと云うか仕掛けで固められたミステリと言えます。作者の徹底したミスリードにより読者は真相に気付くことなくラストに至ります。四つの時間軸でストーリーが語られます。それぞれのエピソードの中で沙保里の話しに重点が置かれていますが、この女性の生活観と言うか生き様に余り共感出来ず、子供を怖がる理由もイマイチ不明で意味が良く解かりません。駿のエピソードはどうも読んでいて不快で気分のよいものではないのが難点です。と云うか全体的にどんよりとした暗いイメージで彩られているストーリー構成です。殺人事件の真犯人に迫る役割の人物にしてもあまり好感の持てる人物ではなく、本当のラストの様子もどうも違和感を覚えます。両者の気持ちのすれ違いといったところなんでしょうが、だからといってあのラストはどうなんでしょうか、まるでホラー小説的なオチに感じます。でも時代背景に合ったエピソードを使っているところは面白く感じました。ビデオ屋で借りるツイン・ピークスの話とか、灰とダイアモンドとかローズマリーの赤ちゃんや羊たちの沈黙の話などが出てくるところはニヤリとしました。まぁ、さらりと読める内容ですのでボンヤリ読み進み最後の意外さを楽しむのも良いでしょう。
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ストーリーは展開も上手く読ませる。特に後半はページを捲る手が止まらない。サイコ・サスペンス的な要素のあるストーリーだが、梶間勲の人生の皮肉さもひとつの問題提起を表わしており多様な見方の出来る物語といえる。雪見の活躍が手に汗握るところで、作者の人物の動かし方の上手さが良く観れるところでもある。俊郎のノー天気さは読んでいてイライラするが、大半の人はこの様な反応と見方で隣近所との付き合いを考えているんだろうなと思ってしまった。というか一歩離れたところで実情を知らないものにはこの様な反応しか出来ないものだと納得する。そういった気持ちのすれ違いがいろいろな問題を生み出していく訳で、人の世はすべからずそう出来ているのだと今さらながら気付いた。武内真伍はかなりデフォルメされた異常さを持った人間に描かれているが、程度の差こそあれこういった人物は居る。実社会に確実にいる。それが世間の荒波のひとつであるわけだ。自分ならどうするか、深く考えさせる物語だった。エンターティメントとしても面白い読み物だった。
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カッパノベルス版で読んだので、著者名はクィーン兄弟となっており、真の著者を当てるクイズになっていた。文体だけで著者を当てるのは至難の業と思うけれど、解る人っているのだろうか。
さて、ミステリのガジェットをふんだんに使ったこの作品。猛吹雪に閉ざされた山荘が舞台で、このシチュエーションにチャレンジする精神にとりあえず敬意を表したい。おかしな招待状で集められた六人。山荘の主は高校の恩師で事故に会い車いすに乗っている。導入部分は興味津々で、並行して謎の突き落とし魔の事件を調べる刑事の様子が描かれている。新進推理作家の本郷の視点で語られ、彼が山荘の出来事を記録した日記を読む形になっている。つまり倒叙形式になっているのだが微妙な部分もありそう簡単には真相に近づけない。捻りのきいたストーリーだが、唯一地下二階はいただけない。最後に山荘に現れる人物との本郷との対決は読ませるところで、伏線の回収もここで行われるが本当のラストはさらに読み手の想像を裏切る形になっている。クローズド・サークルものとしては及第点の出来栄えではないかと思う。自分としてはこういったものは好きで楽しく読めた。こういった閉ざされた館ものは現代ではある一点が問題になる。それは携帯電話。外部と連絡が取れない状況が、より緊迫感を生むわけだが携帯電話というツールがある現代に於いてこれをどう処理するかがネックであるわけです。でもこの作品はそこの部分も上手く処理しているので、従来の閉じ込められた山荘ものとしての面白さが充分楽しめる内容でした。 |
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売れない作家に、収監されている死刑囚から告白本の執筆を依頼される。もし実現すればベストセラー間違いなし。ハリーは現在の生活から脱却できると死刑囚ダリアン・クレイがいるシンシン刑務所に向かう。しかし、このあとハリーはアクション映画の主人公さながらの災難と活躍をみせることになる。次々と若い女性を殺害し、バラバラに切り刻んだ後にゴミ箱等に捨てた殺人鬼。しかし、頭部だけは見つからない。そんな猟奇的な事件の犯人ダリアン・クレイ。彼の執筆依頼の条件はファンレターを寄越した女たちに会ってポルノ小説を書けというもの。彼に手紙を寄越した女たち三人に会っていくと、その女たちが次々に殺されていく。前の事件そっくりの殺害方法で。FBIのダリアン事件担当のタウンズ特別捜査官はハリーを疑い彼にまとわりつく。こういった流れでストーリーは進むが、間に彼ハリーがペンネームを使用して書いた、ヴァンパイア小説やらSFものなどが挿入されている趣向で作者の遊び心が見える。ただ、こういったサイドストーリーも本筋のストーリーにも、とてもオープンに書かれている部分が目に付き、かなり大人向きの内容ではないかと思う。少なくても高校生諸君には読ませられない内容と思う。ダリアンが犯人とされる事件とこの三人を殺害した犯人はどう繋がるのか。ダリアンは真犯人なのか。興味を引っ張りながらドンデン返しの結末に至る。さらにその後の真実に気付かされる訳だが、個人的にはそうワクワクしながら読み進んだとは言えないのが実情で、それは何故か考えるとミステリーとして、プロットは面白いが謎解きの要素が少し甘いということだと思う。しかし、翻訳の文の良さもあり物語世界にはすんなりと入りストーリーは楽しめたと思う。ハリーのモノローグや登場人物の造形も上手く文章はこなれている印象だった。
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カーの作品の中ではこれが一番とされているのが通説です。当事にはこういったオカルト的な要素は違和感なく、また新鮮でもあったのでしょう。埋められた死体が消えた謎。覗き見た部屋のなかには古めかしい洋服を着た女がいて埋められた壁のドアから出て行き部屋から消えた。このふたつの謎がメインのストーリーです。そしてこれだけではなく、マークの友人エドワードの妻マリーにそっくりな女性の写真が預かった原稿の中にあったが、写真の女性マリー・ドブレーは1861年殺人罪によりギロチン刑に処されている。しかし、その写真はどうみても妻マリーに見える。こういった不思議な話を織り交ぜて死んだ当主マーク・マイルズの甥マーク・デスパードが、その友人エドワード、トムたちと事件解決に動き回る様子が描かれている。しかし、話を膨らませているのは登場人物たちの多彩な個性とその役割です。謎解きの部分を忘れるほど個性的な人たちの様子が上手く描かれています。けっこうストーリーテラーとしての一面もカーには感じます。読んでいて気付いたのは島田荘司です。彼の原点はこれだなと思いました。さて、肝心のメイン・トリックふたつですが、いまどきのミステリを数多く読んでいる身としては「フーン」としか云えません。これは残念なことですが古典の宿命でしょう。当事の人たちはどうだったのでしょうか、アッと驚くトリックだったのでしょうか。それにしても解決後のエピローグはどうなのでしょう。「火刑法廷」という本のタイトルはその意味だったのでしょうか。自分的にはオカルト的な要素が入った内容のものは余り好みではないので、残念ながらとても面白かったとはいえない気分です。
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初めて読む作家の本で、たまたま手にしたものです。云ってみればコージー・ミステリーですが、ちょっと異質で変わった視点から捉えた物語となっています。六つの連作短編集ですが、主人公の語るウンチクが小難しくて硬い文章ばかりが目につきます。その辺で多分に損をする作品と云えるのではないかと思います。ポォの作品を下敷きにした物語を見せますが、ポォ自体を読んでいない人には楽しめるのか否かちょっと疑問に感じます。謎解きの部分も多少読者にとってアンフェアなところがあり、主人公の推理にも素直に感心できません。「主人公」と語り手の「私」のコンビはいろいろ意見があるでしょうが、書く側から見れば他とは差別化を図る意味で苦心の設定ともいえます。そう云った点で良しとしましょう。ポォから離れたらこのコンビはどのような事件と遭遇し、どのように謎を解き明かすのか興味があります。これ一冊しか読んでいないので機会があれば他の作品も読んでみます。 文章に多少キザっぽさを感じますが情景や心情などは上手く表現されていると思います。この後もあっと言わせる作品をぜひ見せてもらいたいものです。
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乱歩が評した無邪気な悪人が、伯母を殺害し父母の遺産を手にして彼の云うぞっとする土地を離れるため、あれこれと書き留めている彼の日記を読むという形式の倒叙ミステリーである。エドワードとミルドレッド伯母さん
の確執の部分は彼の日記に書かれているところは多分に彼の主観によるもので鵜呑みにするのはどんなものか、と少し身構えながら読み進めたがそれでも彼エドワードの言い分は面白くもあり、その対立の構図がユーモラスなところもあって 彼の意図する完全犯罪がはたして成功するのか先を読み進むのが楽しみであった。クルマの事故と発火装置による殺害が失敗に終わるが、その後の毒殺を考えるあたりからエドワードとミルドレッド伯母さんの対立が緊張を増していく様子を見せ始め最後の意外な結末へと結ぶわけである。全体にやんわりとした感じの文章と言葉で表わされているのでユーモア感さえ伺える。ミステリーらしからぬミステリーとして面白い内容で忘れ去られるのはもったいない本といえるのではないのかな。 |
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バンデミックが主題のストーリーで、この系統はそれならばどれほどリアリティが出せるかが勝負でしよう。
その辺のところは良く描けていると思います。次にどれほど魅力的な主人公を創造できるか、そしてどのように活躍させるかが大事だと思います。陸上自衛隊の三佐を主人公に感染学者、昆虫学者などが主な登場人物ですが、残念ながらある程度読書量を誇る人にはどれも画一的に見えます。政府の対応や高官、総理などもお約束どうり無能ぶりをさらけ出し右往左往する様子しか見せません。この辺はよくあるパターンで新鮮味がありません。 次にどのように終息させるがが大事ですが、この辺もまぁ及第点と云えましょう。やたら難しい言葉の羅列と漢字の多いページばかりですがそれほど読みづらくはありません。「ジェノサイド」的な内容と思ってしまう人もいるかも知れませんが、むしろ西村寿行のパニック小説的な雰囲気と内容に感じました。かなり文献をあたって勉強したようでけっこうキッチリ書かれていると思います。 面白かったか、否か。好みの問題でしょうが私にはイマイチで斜め読みしました。 |
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