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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数210件
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ニューヨークで古本屋を構えるが、実は泥棒稼業にも精を出すというバーニイ・ロ―デンバーを主人公にしたもの。
舞台が大都会で暮らす人たちなのでクセのある人物が登場する。友人のキャロリンやマーティンといった一癖も二癖もある人物たちがバーニイに絡む。 個性が際立っているが、その人なりの人生観や正義感でバーニイとあれこれ会話をするところがこういった都会派小説のひとつのお約束。 いろんな喩えや比喩でもって長々と会話のキャッチボールを繰り広げて都会に住む者たちの哀愁みたいにものを表現したりする。 映画で云えば「プラダを着た悪魔」みたいな、良く考えればどうってことのない問題を取り上げて右往左往する人たちを描いた内容が 都会派コメディなんですというようなもので、 こういったセンスが好きだという人には楽しめるだろう。 会話がメインでもミステリの内容が濃ければ私的にはOKなんですが、他のシリーズ作品は知りませんが今作はどうも今一つの感が拭えません。 なぜなら事件の顛末がちょっと上手く転がり過ぎるということです。AからB、BからCへとそう上手く繋がりますかと危惧します。 バーニイの泥棒としての矜持もキチンと話していますが、周りにいる人たちの彼という人物に対する捉え方はしょせん明るく楽しいドタバタ路線のノリです。 主人公のカッコよさだけを前面に出したための結果でしょう。 赤川次郎の夫は泥棒妻は刑事、みたいなもんです。 軽妙と取るか軽薄と取るか紙一重じゃないですかね。 いろんな分野のウンチクや深い話が散りばめられた会話を楽しみミステリに酔うというスタイルはアリでしょう。 個人的には全体の世界観がイマイチはまり込めませんでした。 |
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生まれも育ちも選べない。何があっても、どんなに世間を斜めに見ようとも、歳がいけばきっかけとなる出来事があれば人は再生するということでしょう
ソニーピクチャーズが映画化権を手に入れているとあったがもう映画化されたのかな? 日本で公開された? プライベートジェット機が離陸後18分して墜落した。 暗い海から行きずりの客だった主人公が奇跡的に生還する。乗客だったジェット機のオーナー一家の四歳の息子を助けて。 一躍ヒーローとなった彼。しかし、犠牲となったジェット機のオーナーはケーブルテレビのニュース専門チャンネルALCニュースの代表だった。 他に銀行家の夫妻が乗っており男の方は財務省外国資産管理局調査官から目を付けられていた。 事故かテロか国家運輸安全委員会とFBIが調査に乗り出す。 主要人物の人となりや生い立ちなどのエピソードを個人個人にページを割いて紹介している。 しかし、この人物像を描くところがちょっと長い。 そのせいもあり本の厚みもある。 こちらは我慢できずに読み飛ばしてしまった。 墜落原因が不明なことに世間の思惑をリードするマスコミ、ALCのメインキャスターは暴走を始める。 必死に暗い海を泳ぎ助かった四歳の男の子と主人公。 莫大な遺産を相続する四歳の息子と後見人となる妹夫婦。 生の人間模様が描かれるが読んでいて不快感は無い。 捜査の過程や暴走するキャスターの対比が上手く書かれているので先への興味が尽きない。 やがてボイスレコーダーが発見され修復されて事実が明らかになっていく。 ミステリとは違うしサスペンスというほどではないしスリラーとも違うがキメ細かく書かれているので面白く読める物語というのは当たっていると思う。 だた、ちょっと長い。もう少しまとめればサスペンス感も上がったと思うのですが。 |
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状況が状況だけにそりゃあ皆パニックになるよ。おまけに問題発言した当の本人が死亡すればなおさらだ。
無人島に取り残された男女十五人。 さあミステリ劇場の開幕です。( ´艸`) ところがバークリーです真っ正直なミステリというわけにはいきません。 群像劇かな? 人々の心理面の変化や自身の尊厳を保とうとする人達の言動を細かく綴りますが、この辺の人間観察といったところは見事です。 十五人の根底にあるのはガイ・ピジョンの死は事故か他殺かという問題です。しかも当の本人はこの中に殺人者がいると物騒なことを言っていました。 それぞれの個性が表面に浮き上がってきます。怒るもの、利己的になるもの、弱りふさぎ込むもの、様々な人間らしさを見せますが疑心暗鬼は変わりません。 犯人捜しは是か非か紛糾します。時間が過ぎるごとに集団ヒステリーは広がっていくのですがシュリンガムは皆をまとめるのに必死です。 この物語のオチはどうなっているんだろうと気にしつつも読み進みます。 バークリーの作品としては評価が真っ二つに分かれたとの解説がありますが、アンチ・ミステリと見れば これはこれで面白いと自分などは思います。 肩透かしじゃないかとケチを付けられる人もいるでしょうが、ラストのエピソードがこの物語を端的に表していることを考えれば 少なくとも失敗作とみることはありません。 バークリーの考察には読んでなければいけない一冊ではないでしょうか。 |
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拝啓米澤穂信様『古典部シリーズ』も第一作の『氷菓』から数えて早や六冊目ですね。
古典部の面々もありふれた日常の中で、ちょっとした謎解きを必要とする出来事があったりと、人生の中で光煌めく季節を謳歌しているように見えますね。 収められている六編はホータローや里志、伊原摩耶花、千反田える達お馴染みの登場人物が日々の生活の中での想いや悩みと絡ませて書かれている青春ミステリでこれまでと同じタッチで書かれています。 「箱の中の欠落」はハウダニットであり、 「鏡には映らない」はホワイダニットだ。 「連峰は晴れているか」はロジックパズルであり、 「わたしたちの伝説の一冊」はメタミステリ云える。 「長い休日」は倒叙ミステリで、 「いまさら翼といわれても」はリドルストーリーとなっている。 このように趣向を凝らしてあるが、ホータローなども「やらなくてはいけないことなら手短に」とはいっていても心の変化はあって当然でこれまでとは違ってくるのはあたりまえですね。 古典部の面々がこの先も少しずつ大人になっていく過程が描かれるとしたら楽しみに付き合っていきたいと思ます。 想像するのは、この先大学生となっている彼らの生活の様子と、変わらない友情のなかで出会う考えるべき問題にホータローがどのように対処していくのか見てみたいと思います。 米澤穂信様、期待していますのでぜひとも彼たちの今後も書き続けてくださいますように。 敬具 |
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警察小説プラス社会性といったティストで書くのがこの作家の持ち味。主人公の刑事に正対する悪が個人というよりも社会悪、そういった図式で書くスタイル。
前回は食の安全に注意と喚起を促す内容を込めた事件捜査を描いたもの。 今回はエコの言葉に惑わされ本質を見失う世間と、派遣法の改正によって労働者が悲惨な状況に陥っている 現状を絡ませた殺人事件を描いたもの。 見方が偏り過ぎるといった批判が当然出るだろうが、そこは物語を動かしていく意味で必要なプロセスだから黙って受け入れるべきだ。 田川刑事が自殺として処理され身元不明者のリストに埋もれていた案件を見つけ出す部分はとても自然な動きで無理が無い。この辺はこの作家はしっかりとした計算の上で進めていくので 読んでいて気持ちが良い。都合よく作家の思惑で主人公を動かさないということだ。殺人事件を自殺として処理された経緯も十分納得がいく。このへんを適当に書かれたらそれだけで 読む気が無くなる。例によって地取りの鬼と言われる田川刑事が丹念に死者の身元を洗い出し一人一人関係者を探して訪ね歩く。急がず慌てず地道に聞き取りに歩く様子が今回も描かれる。 相棒となる鑑識課の刑事と業過、業務上過失致死案件を捜査する刑事が登場する。それぞれの人物が良く立っているのがこのシリーズの特徴ともいえる。 捜査を妨害する敵もいるが、被害者側の友人知人たちが殺された人の人徳で刑事たちの聞き込みに応えるところなどは読ませどころだ。 そういった人たちの何気ないひと言で、少しづつではあるが捜査が進展していく過程が田川刑事の人間らしい行動と重なって気持ちがいい。 殺された沖縄出身の青年が哀れを誘う社会派ミステリだ。 |
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メモ魔の異名をとる刑事を主人公にした警察小説。こつこつ丹念に関係者を訪ねて証言を掘り起こしていく主人公が良く描かれている。
初動捜査で筋読みしたように、当時盛んに起きていた不良外国人による荒っぽい強奪事件だと思われた。しかし、捜査は行き詰まり二年が経過したが解決には至っていない。 そんな事件に継続捜査班にいた田川刑事に再捜査の指示が下される。縦社会の組織の中でキャリア組の思惑が絡むなか、田川は先輩の教えどおりに聞いた話のメモを手帳に増やしていく。 丹念な地取りで監を繋げていく過程が読ませる内容だ。意外な方向に流れていき事件の真相が徐々に明らかになっていくところが、急でもなく都合よく運ばないところが良い。 大人な人間たちの行動と会話が描かれていて社会性もそれによってしっかりとした内容になっている。 誇張が大袈裟過ぎるといった批判が出そうだがエンターティメントに徹するにはこれぐらいが丁度よい。 田川刑事というキャラクターがとてもよく出来ているので、他にも作品があるようだから読んでみようと思う。 初の作家だけれど、いろいろある警察小説のなかでもこれはこれで良く書かれている。 もう少し早く読んでも良かったと反省した。 |
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悪夢を物語にした本です。正体不明の男たちに追われ、逃げきれずに捕まり深夜山の中で穴を掘らされます。何の穴か考えるまでもありません。
昔、大藪春彦という作家がいました。彼の作品は主人公が拳銃、車、ファッション、料理などに拘り、鍛え上げた肉体を駆使して敵に立ち向かうという物語が殆どでした。 『汚れた英雄』、『野獣死すべし』、『蘇る金狼』といった作品が有名です。カーマニアがよだれを垂らすような車に関しての話しや武器としての拳銃の詳しさなどに驚いたものです。 ダークヒーローは読む者の分身で平凡な日常を忘れさせてくれました。 この本もそんな容赦ない血と暴力の世界に落とし込まれた女性が主人公になっています。 日々、命の危険に会うような異常な人間たちが食事に来るダイナー(定食屋)でウエイトレスとして働くことになります。 もっとも山の中で生き埋めにされるところを、料理が出来ると利用価値があると訴えてこのダイナーに売られたからでした。でなければ生き埋めにされ人生は終わっていたでしょう。 次々にイカレタ男たちが店にやって来ます。店を切り盛りする男の手伝いをしながらも散々な目にあいます。異常としか言いようのない男たちの殺しのテクニックや武器が見せられ 店のなかは血と肉片だらけです。 やって来る殺し屋たちと組織に起きている裏切り者探しの問題を絡ませてストーリーは進みます。 ハッキリ言ってお嬢さんの読む本ではありません。 タフな男たちとタフな女の物語です。 でも、ただの殺戮の物語とはなっていないのでそこは強調しておきます。 しかし、グロさは否めません。 そこを理解して読んでいくと一つのサバイバル物と見えるかも知れません。 ラストのロマンチックな甘さも口直し的な要素を担っているのかもです。本のカバーの意味は読んでいると分かります。 店の男が作るハンバーガーはよだれが出るほどの絶品です。 こんなバーガーを食ってみたい! |
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ミステリとは何ですか? という問いにこのようなものですよ、と教えてくれるひとつのハウツー本です。
ミステリ作家が読者を騙すためにいろいろ仕掛けるトリックや手法を教えてくれます。 そしてミステリにおけるお約束とか歴史、有名作品なども知ることが出来ます。 作者と読者の知恵比べというふうに捉えられますが、この本を読んだ後に別のミステリを読むとき、あなたにとっては幸せか不幸な事か微妙でしょう。 私の場合はメモを取りながら鵜の目鷹の目で読むということはしません。 純粋に騙されることを楽しみに読むからです。 ラストのカタルシスが大きいほど喜びは増加します。 テレビ番組という設定で、あみだくじのように回答者の推理をことごとく外していく展開は面白いです。 よくまあ考えたなぁと思います。それほどテキストはどう転ぶか分からない内容なんですが、事実を小出しにして各回答者の推理を読者に示していく過程は読み物として満点です。 裏にある思惑はまだ早いだろうと思われるところで読者に推理させます。その早いだろうというところがミソで、さらに捻りがあるという趣向です。 ま、この辺は読めますけれどね。 感じでは芦辺拓が書いた本かと思ったほどミステリに特化した楽屋落ちのようなものでした。 この複雑な筋を祖語なく書かれていることに拍手を送りたいと思います。 真実は必ず一つとは限らないのだよワトソン君。 !(^^)! 回答者が1、2、3、4、5と・・・・・・。 3のところで気付きました !(^^)! このあたりが弊害ともとれるところで、こういった本を読み込むのも痛し痒しです。( ´艸`) |
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過去に起きた誘拐事件の殺害された子供の父親が殺される事件が起きる。高速道路バス停付近で見つかった男の死体。その場所は過去に起きた誘拐事件の身代金受け渡しの場所だった。
殺害された男の身元が分かった時点で過去の誘拐事件との接点に気付く捜査陣。 このような出だしの物語。 初めて読む作家の本。いつ頃からかは分からないが警察小説というジャンルが あって、その中で警察組織内での生臭い人間関係を描くというパターンが定着している。妬みや嫉み、そりが合わないことを隠しもしない態度で本音をぶつけあう警察官たちの人間模様や、 縦社会でのキャリア組とノンキャリア組との軋轢を描くといったものだ。自我を丸出しにして本音をぶつけ合う様子を描くことでリアルさを表す描写。 この本もそんなふうに書かれている。だがこのような書き方をする以上は警察組織の内部事情をキッチリ把握しておかなくてはならないと思う。その点この本はしっかり出来ているようだ。 さて、過去に起きた誘拐事件は未解決で終わっている。さらにあと一年で時効が迫った時期に県警のトップが自身のキャリアに傷が付くのを恐れ専従捜査班を作り再捜査を命じる。 現在の殺人事件と過去の再捜査班との動きを二軸に物語は進むという展開だ。ここで思うのは過去の再捜査班の動きをどうするのかということ。 未解決とはいえプロの捜査陣が徹底的に調べ上げた事件の資料をもう一度洗い直せという命令で再捜査班が動き出すという設定は書く作家自らがハードルを上げることに他ならない。 だってそうでしょう、シロウト探偵じゃあないんですから、全力で捜査に当たった誘拐事件ですよ。まったくのポカや見落としなんてあるわけがない。リアルな警察組織として書かれているのですから そこはなおさらです。さて、そこのところをどうするのかがポイントでしょう。 違う視点で資料を見ろと再捜査のトップは言います。そして、小さなとっかかりを見つけて動き出します。 この辺は無理がないと思います。どう転ぶか分からない些細な点です。そういったところを丹念に洗い直すという動きです。この丹念な動きを追っていくのがメインとして描かれています。 結局はあるアクシデントで再捜査も失敗に終わります。現在の殺人事件の捜査にあたる刑事二人が、引退した再捜査班のトップだった男を訪ね当時の話しを聞くという形でこの動きが 語られるところは読ませます。 再捜査が突然終わりを迎えた事情も納得です。そして、その出来事を掘り下げていき、それが現在の事件の捜査に進展をもたらすというところは読ませどころです。 日本坂パーキングとかベンツを尾行するシーンでは、当然無線で本部とやり取りしながらの追跡です。ここで相手に撒かれそうになるところはどうなんでしょうか。 本部は追跡班に指示を出すお偉方ですから、普通に考えればパーキングの特徴などを把握して細かく部下に指示をするでしょう。ところが肝心の刑事はそのパーキングの特徴を失念していた という有様です。緊迫したシーンを作るためだと思いますが、この辺がリアルな警察の捜査ということを描く上では甘さを感じてしまいます。 しっかり先読みをして回り込んだとした方が良いはずです。こういった少し甘い動きや再捜査班が気付くところがある証言などハードルを上げた分ちょっと苦しいかなと思います。 それでもかなり複雑なプロットで誘拐事件という一本の線ですべてがまとまり終わりを告げるというこの物語は読みごたえがありました。 |
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「おれはお前が好きじゃない」が口癖の元刑事バック・シャッツ。前作で撃たれて今は介護付き施設に入っており、妻のローズは住み慣れた家を売らなくてはいけなくなって真剣に怒っている。
厳しいリハビリを重ねてやっと歩行器を使って歩けるまでになったバック。前作ではミステリとしてアウシュヴィッツの亡霊と金塊を追い、殺人犯を探すというストーリーだった。 そのストーリーに無理なく入れるように主人公をユダヤ人という設定なのかと思っていたがどうやら違うようだ。根本にあるのは、作中に書かれているようにどんな時代でも ユダヤ人たちはアメリカ社会では不安定な立場だということにメッセージがあるようだ。この辺は島国の中でノー天気に暮らす黄色い猿には理解が足りない部分なんだろう。 医者や弁護士といった上流社会にあっても、認めるが信用はしないといったことがあるのかも知れない。現にKKKなんてのも実際あるわけだし。 1965年と2009年が交互に描かれる。1965年のバックはまるでダーティ・ハリーだ。贅沢に金のかかった家具調度品とフカフカのジュータンが敷かれた部屋でも平気で 煙草の灰を落とし、わざとコーヒーをこぼす。セリフでは前作ほどクスクス笑いは出ない。それほど今回はシリアスというかハードボイルド感が強い。強烈な敵役のイライジャのせいだろう。 因縁の相手イライジャ。ここにユダヤ人としての宗教感みたいな物も入って来る。息子のブライアンの死に関することは少しは触れられているが、亡くなった様子などはまだ語られない。 一行、二行の書き方でそれに触れるということは考えていないようだ。そういったエピソードを絡めて一つのストーリーが予定されているのかも知れない。最後の解説のところに第三作、 第四作が2016年、2017年に刊行が決定しているとある。出るんでしょうね東京創元社さん (笑) 警報が鳴るとロックがかかり三時間は誰も開けることが出来ない銀行の大金庫。しかし、中にあった17万ドルが消えた。イライジャはどうやったのか。一人で捜査していたバックは 孤立無援だ。1965年の事件と2009年の今接触して来たイライジャの思惑とは? 口だけは達者な88歳の元刑事バックと78歳の元銀行強盗イライジャ。二人の因縁が疾走するハードなストーリー。 けっこう深い芯の部分があって、ありきたりのミステリ本とは違うといった印象だ。それは著者自身が語るように祖父がバック・シャッツのモデルだということだからだろう。 |
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オモシロい。一言一句目を通してしっかりと読んだ。ここのところ手にした本があまり面白くなく飛ばし読みばかりだったがこれはキッチリと読んだ。
時代に合った等身大ヒーローがまず良い。そして彼の皮肉ぶりが笑える。クスクス笑いながら読むのは久しぶりで気分がとてもよくなった。 高齢ゆえ活発には動けず、当節のIT端末なども使えない。携帯電話が使える程度だ。そんな元刑事が孫の手を借りて昔散々な目にあわされた元ナチスの男を追うと 身の回りで殺人が起き彼も事件に巻き込まれていく。そんな流れのストーリーだけれど、物語のとっかかりに対しての無理のなさを見せるためか主人公の元刑事は ユダヤ人という設定になっている。そして息子がいたが何か不幸な出来事があったようで息子は亡くなっている。その子供、彼にとっては孫だがその孫と一緒に60年も 前にドイツから偽の身分証を持って逃げだした男の行方を探そうとする。男は金塊を持ち出していたと古い友人の話しだった。プロローグとしてはこんな感じで少し非現実感は あるけれどそれはこっちが日本人だからかも知れない。主人公のキャラクターと妻のキャラクターがいいなあと思う。特に妻のキャラクターが良い。彼に対するセリフが秀逸だ。 調査の過程で孫が暴走して主人公も窮地に立たされることになる。暴走の一因は主人公にとって息子、孫の父親が亡くなる出来事に関して何かあったようだが詳しくは 書かれていない。元刑事といってもスラスラ情報が手に入ったりして楽に調査が進むようにはなっていないところが良い。良くあるパターンで警察関係者が捜査上の秘密を やすやすと話す場面の多い物語があるがまったく勘弁してくれよと言いたい。その点これはそんなことはなくピースを繋ぎ合わせて調べていく様子がまっとうに見える。 最初から最後まで楽しめたので二冊目があるようだからそっちも読んでみよう。 |
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ある日目覚めると、庭には昨日までなかった一本の木が植えられていた。引退したソプラノ歌手ソフィアはその木を見て怯える。隣家のボロ館に住む三人の若き学者たちに
ソフィアは木の下を掘ってみてくれと頼む。貧乏学者の三人は報酬につられ掘り返す。しかし、何も出てこない。そして穴を掘った16日目にソフィアは失踪する。 物語の出だしとして風変わりな謎を見せられると、もうこれは読んでみようと思うのです。( ´艸`) 思う壺に嵌まるわけですが、意味の分からない言葉を残して消えたとかそんなパターンよりかは何故か庭に樹が一本植えられていた、といった不可思議さを 強調された謎の出し方をされた方が面白いと感じるのです。 ポロ館に住む三人とは中世専門の歴史学者マルクと先史時代専門の歴史学者マティアスと第一次大戦専門の歴史学者リシュアン。この三人のキャラクターも面白く馴染みやすいように 書かれているのですぐに物語に溶け込むことが出来る。さらにもう一人マルクの伯父ヴァンドスレールという元刑事がこのボロ館に紛れ込んで住んでいるという設定。 歴史学者の三人ということから会話は比喩が多いですがユーモアに溢れていますから読みづらくはないでしょう。むしろエスプリに富んだ会話が楽しめるとした方が良いと思います。 ちゃんとアチコチに伏線が張られていますが、始めの方はストーリーの方向が読めないので伏線だとは気づきません。( ´艸`) 真相解明まで二転三転しますから最後まで楽しめます。ただ一点、何もしない人物がいるのが気になります。もっとも何もしないことが容疑者として捉えられるので、ミスリードの 役割を与えられた人物と思えますがそこは割り引いてもちょっと気になります。その他はまとまった内容で本格的な謎解きに挑戦する三人の若き学者たちの活躍を楽しみましょう。 この三人を登場させるミステリは他に三冊あるとの事なので機会があれば他の物も読んでみようかと思います。 最後に著者のフレッド・ヴァルガスは男性ではなく女性だとの事です。本名のフレデリックという名前は男女どちらでも付けられるそうで、縮めてフレッドとしているそうです。 ま、どうでも良い情報でした。 |
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重犯罪じゃなくても法に背き悪事を重ねる男っているよね。
大抵は深く考えずにその場での思いつきといった短絡的な思考の末の犯罪ってことになるんだろうけど。 しかし、生まれ育った過去と現状を考えたら、この先自分にはいったい何が待っているのだろうと、鬱屈した気分でその日その日を過ごすのは間違いないところである。 主人公はそんな男。訪問販売で稼ぐしか今のところ他にやれることもない。売り上げの伝票を操作して金をごまかしては酒を飲むしか楽しみは無い。 しかし、彼の上司はなかなかキレル男。やっていることを見透かしたように嫌味をいう。そんな時一軒の家で老婆に品物を売りつけていると奥に若い女がいて老婆が妙なことを言いだした。 主人公のドリーは一目見てこの女モナに心を奪われる。それほどいい女だった。 ここからドリーは少しづつ道を踏み外していく。そこが面白い。だれだって男であればその辺は分かる。そこを大げさにではなくむしろ冷静に書いていく。 女には秘密があった。ドリーとモナ。破滅の物語だけれど共感する部分は多い。淡々と手を悪事に染めていくドリー。それもみんなモナのためだった。 死ぬほどいい女。それがモナ。無計画で行き当たりばったりの犯罪と言えば『復讐するは我にあり』がインパクトが強烈で今でも思い出すが、この本のラストはジム・トンプソンとしても ただの安っぽいペーパーバックに小説を書きなぐっている作家じゃないぞと言っているような洒落て深いラストにしています。 ジム・トンプソンの作品の中では評価が高く知られた作品ですから読んでおいて損はないでしょう。 |
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法廷サスペンス、犯人捜し、陰謀に嵌まり窮地に立つ主人公の判事。そして、弁護士である妻との夫婦間のギクシャクとした問題。
これらをよどみのない文章で読ませるミステリです。逮捕起訴された上院議員の妻ははたして夫殺害の犯人なのか。高潔な判事はどう裁くのか。 敵対する上院議員の思惑は。飛行機で隣り合わせた女はいったい誰か。鑑識捜査で浮かびあがった現場の血痕の意味。中々飽きさせない展開が続きます。 そして何よりも最後の一ページ。ま、やってくれましたねと褒めておきましょう。物語の余韻に浸るには最高のエピローグでしょう。 二転三転する犯人捜しも辻褄があっており、刑事たちも良い仕事をしています。動機の面で少し弱いかなと思いますが犯人の性格がそういった気性であるとちゃんと書かれているので ここは納得するしかないでしょう。サスペンスと謎解きとロマンスと言った豪華な内容の物語で、この時代のニューヨークあたりの知識人層には受ける要素をしっかりと 詰め込んだミステリということなんでしょう。でも今読んでも楽しめますから出来とすれば良い方だと思います。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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意外な犯人を成立させるために周りの人物を特異な設定にして、ひとつひとつ積み上げていく物語の作り方は当時とすれば驚嘆に値すると思います。それこそ誰も書かなかったミステリと言えるでしょう。
当時の社会から見れば差別にあたる物言いや捉え方はそう問題とは認識していなかったのでしょうが、現代にこれを読むとやや心苦しい点があります。それはさて置いて、血脈というものに焦点を当てて大げさな問題として 事件の中に溶け込ませるこの手はクイーンが最初なんでしょうか。足跡、凶器、毒薬の存在、といろいろな謎を絡ませていながら大きなミスリードを誘う前半の事件が最大限の効果を発揮するところがこのミステリの胆です。 ここを書きながらダネイとリーはほくそ笑んだことでしよう。犯行や動機については一見無理筋のように思いますが、とにかく意外な犯人を作り上げるには致し方ないのかも知れません。 半分ほど読み終えてドルリ―・レーンに先駆けて犯人を指摘した人はどれほどいたのでしょうか。ホワイ、ダニットがこれほど悩ませるのも特筆です。 やはりエラリー・クイーンはミステリの神様です。 |
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「消失グラデーション」以降、何冊か読んでいる作家さんですが、キャリアを生かした映像についての拘りめいたものを入れつつ、その作業に従事する人物やアイテムとして使うシチュエーションを
設定した物語が個人的には好きでした。 この本はこれまでとはガラリと作風の異なる非常にドライな文章で書かれており、驚きつつもその新鮮さにすっかり参ってしまいました。 これまでの若い人たちをメインに据えたミステリではなく、警察組織の中で苦闘しながらも事件捜査に当たる主人公が非常に際立っており、そのクールな描写はストーリーにも疾走感を持たせています。 現代的な機器や装置を使う今の捜査機関の様子や刑事たちの言動にとてもリアルさを感じます。樋口真由も好きなんですがこの本に出てくる大人な人物たちもみんな好きですね。 都下で起きる連続放火事件と埼玉県で起きる連続ひったくり事件。交差していく二つの事件とその背景にあるもの。事件現場の生中継という前代未聞のあり得ない展開。 この作家さんの新境地として評価したいと思います。 |
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落雷という自然と偶然の産物が閉鎖空間を作り出し、その狭い空間で発見された死体。右手首が切り取られていたという猟奇さ。さて、犯人は誰でしょう?
その狭い空間にはわずかな人物しかいない。非常に危険な舞台設定。時間軸で証言の検証をしていけばあっさりと犯人が分かるのではと誰もが思うところ。 まるで短編小説のようなプロット。 ところが論理の展開においてもそう簡単には犯人にはたどり着けない。これが有栖川有栖のミステリ。 様々なガジェットが用意され、上手く機能し名探偵の眼を曇らせる。最後には名探偵が勝利するのは当然。しかし、それまでのプロセスをいかに楽しく読ませるかがミステリ作家の力量。 個人的にはこの火村という人物は好きではない。江神のほうが好みなキャラクターなのですが、そこは割り引いてもこういった長編を書きあげ我々を楽しませてくれる有栖川有栖という 作家に拍手を送りたい。 |
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海外ミステリの一つのお約束のように、本書の女性ライターという主人公も辛い不幸な過去をもっているという設定。良くあるパターンなんだけれどこれはどうしてなんだろう。不幸を背負っている人物の方が読者に受け入れられ易いと考えるのか、
書く側にとってのひとつのステレオタイプなんでしょうか。それはともかく親友でもあるエージェントから、出版元はあなたを見限ろうとしている、すぐにでも書く案を示しなさいと言われる。そして話題になった事件の主に会って彼女を主人公にした 小説を書くようにと勧められる。気乗りがしないまま収容されている刑務所に面会に行くことになる主人公。妹と母親を殺害しバラバラにしていた女。身体が大きく太っており威圧感のある女。内心の恐れを隠しインタビューする主人公。 事件そのものは現場にいた彼女がその後すぐに犯行を自白して逮捕され、たいした捜査もせずに起訴、有罪となり事件は終わっていた。風貌と体つきなどの理由により彼女は嫌われていた。反対に妹は愛らしく皆から愛されていた。 近所の者、学校の関係者、皆が納得して何の疑問も持つことなく裁判は終わっていた事件。主人公は一つだけ疑問に思う。猟奇的な事件なのに彼女を鑑定した結果は正常。しかも知能は高い。彼女も面会の時、事件については喋らないが他の事には 主人公に心を開いたかのようにいろいろと話す。調べ始める主人公。別に目新しさも感じない内容と言える。結局クロかシロかということになるが、この物語の怖さは人の心にあるということ。評判は悪く嫌われ者。しかし、それは隠された意図があることを 誰も気付かずにいたからだとしたらどうか。怖がられるのは良い、だけど笑われるのは嫌と彼女は言う。事件の真相は? 大方の予想通りになっていくが彼女が浮かべる笑みは何を意味するのか。そして主人公の理解者であり彼女の恩師であるシスターの言葉「あなたは選ばれたのよ」。本音を隠し世間体を取りつくる人々。本当のところやはり彼女の犯行ではと揺れ動く主人公。最後まで読ませる筆力とプロットの良さは認めます。 |
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『羊たちの沈黙』をディズニー映画にしてしまった、との過激なキャプションがつけられた本書。要するにこの本に比べればあちらはお子様向けの物語ですよといっているんですね。
ツッコミどころはあるんですが、全般的には良く出来ているとは思います。1993年の作品ですからしょうがないんですが、今ではこういったモノは多々あるので少し影が薄くなっているところは否めません。 サイコパスによる連続殺人、弁護士、検事、迷走する法廷。主人公は夫と別居中の女弁護士とウケる要素をしっかり詰め込んだサスペンスミステリです。テンポ良く進むので読みやすくはあります。こういったものは 徹夜本と言われて読みだしたら止められない類のものであるそうで、確かに猟奇殺人の捜査に明け暮れる刑事たちを描きつつ多彩な人物が動き回る展開は中々読ませます。 最後の数ページになっても容疑者となりうるのは二名いるので、さてどっちが真犯人なのかとギリギリまで解らなくしています。登場人物もそれぞれ立っており物語に深みを与えています。 ある地方で猟奇的な連続殺人の事件があり、その10年後違う地方で同じく猟奇的な殺人が起きるのは何故か? 公表していない事実、現場には黒い薔薇とある言葉が書かれた紙が一枚。 共通するこの事実は犯人は同一人物だということか? こういった謎を芯に展開するストーリーです。こう書くとよくあるパターンのミステリだとトリックなどあれこれ想像しますが、この本のパターンはこれまで読んだ中には 無かったものでその意味でも面白いと思いました。本職も弁護士とのこの著者。法廷でのシーンの巧みさは経験からのモノなんですね。 |
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ドキュメンタリー風に書かれている。どこまでが現実の出来事として読めばいいのかちょっとわからないけれど、当時の報道を少し思い出したりした。現実に今同じ和歌山で資産家が覚せい剤で急死する事件が起きている。この本に
書かれているように和歌山県警は再び大変な苦労をしょい込んだことになる。この本で犯人とされる女性はカレー事件が起こる10年以上も前から犯罪を重ねていた。夫が営むシロアリ駆除の会社で使っていた人間を借金を餌に保険を 掛け捲りヒ素や睡眠薬を飲ませていた。ぞっとする女である。密かに和歌山県警の依頼を受けた医師が犯人の会社で働いていた人物を診察し、警察が執念で集めた古いカルテなどを分析してヒ素を体内に取り込んでいる事実を解明していく。 本筋のカレー事件を追うのではなく、従業員が何人もヒ素や睡眠薬を飲まされ入院したことで、何社にも掛けた保険から驚くほどの金額の入院給付金を受け取っていたり、死亡した人もいて億の単位の保険金を手に入れていた事実を解明していく。 当時社会的にヒ素についてのモノを言える人物はいなかった。医師であり大学教授のこの人物が数少ないヒ素や毒物についての研究をしている人だったことで警察の依頼を受けた。当然従業員が診察をうけた医師なども症状からヒ素が関係している 等とは誰も気づかない。膨大なカルテを当たり証拠として採用される意見書を作成していく医師の苦労が始めから最後まで描かれている。合間に毒物についての人間の歴史とそれを使った遥かな昔の毒殺事件が書かれているのも興味深く読める。 淡々とした文章に見えるが怖い話でその浸透力は半端ない。 |
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