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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数210件
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【ネタバレかも!?】
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ある女性が書いた殺人鬼フジコについての記録小説。これを読み進む形で物語りは始まる。小学生の頃からの生活の様子からスタートするが、思ったことを口に出せずクラスメイトに引きずられるネガティブな性格などが表わされている。一人の男子にいじめられる標的になるが何も抵抗できない。家庭は最悪の状態で家族と呼べる状態ではなかった。そして、踏み切りでの出来事。いじめっ子Kに追いかけられたフジコは・・・。
フジコの視点で書かれている小説を最後まで読んでいくと、この小説を持っているひとりの女性の「あとがき」がある。そこには書かれていた事以外の隠された真実が資料と仮説によって示されている。それを確かめるべくある人物に会うことにしたことを記して「あとがき」は終わっている。次のページには新聞記事の小さな切り抜きがある。その記事は「ある人物」に会おうとした女性の遺体の一部が発見されたとの報だった。 と、こういった仕掛けの凝った物語だけれど、どうも内容が暗く重苦しい雰囲気で読んでいて楽しい気分にはなり得ない。その辺で読者はどうするか、最後まで読み進めるか本を閉じるか分かれることだろう。 でも、私自身はこういった仕掛けのある話は好きなのでラストでの意外性も楽しめた。 本当に悪いやつは影に隠れている。 |
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まぁ、次々と殺されますね。探偵どもしっかりしろよと云いたいですが・・・。クローズド・サークルの定番メニューのストーリーで、読む方としては楽しみながら読み進むわけですが。根底にあるのは壮大なイデオロギーでこれがアリかそうでないかは別として、トリックの使い方が普通とは逆の理由で使われているなどある意味新鮮で面白く感じました。限定された人数でストーリーが始まるので犯人を予感させる部分があり、そのあたり微妙なところがあったのですが、うまく話をすり替えて誤魔化してました。誰が犯人か話し合っていて当然話題にしなければいけない問題をまったくしないのは不自然ではありますが、そう感じさせない巧妙さがあるのでその辺には目をつぶりましよう。島に10人いて、全員殺害されれば残った人物が自動的に犯人となるわけですが、その辺のところの着地はどうするのかと思いながら読んでましたが。フム、一応納得させられましたので良しとしましよう。探偵たちも個性豊で最後の二人のキャラの設定など中々凝った登場人物を創造していて、この辺も物語に奥行きを与えていて好感が持てました。ミステリーのトリックとかのウンチク話や泡坂妻夫の本のことなども出てきてニヤリとさせられました。事件そのものは残酷ですがクローズド・サークルものとしては及第点の出来でしよう。他は好みの問題でポイントが高くなるかそうでないかの違いと思います。ずっと未読で気になっていたのですがやっと宿題を終えた気分です。
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作者はホラーとか、サスペンスとかそういった色合いでこの作品を書こうと意図したわけでは決してないと思う。僧侶の経験もある氏の現世感や仏教の世界感を多少交えながら、人の世の無常や何でもないことが歪んで広まったり、悪いことが連鎖して起きたりするが、そんなことは特別なことではなく普通にあることでそんな中を人は生きていくのだと云っている気がする。自分を見失っている、何かに囚われている者も結局救ってくれるのは愛する人であり、愛する人がそばにいるからこそ人は再生出来る。いろいろな因縁やしがらみに振り回されず本当に自分に必要な人、その人は外見や過去や学歴や家柄などといった物差しは陳腐でただ本質をみてその人だと気付くべきだと教えてくれている。そんな気がしたラストだった。安っぽいホラーではない深い意味の物語である。氏の作品はこれで三作目だ。「ユリゴコロ」で衝撃を受けてからますます気になっていく。
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世の中には無愛想と評される人がいます。目は口ほどにものを言い、と云うことわざがありますが、現実には胸の中の想いは口に出さなければ中々人には伝わりません。ですからあの時母が一言でも漏らしていればお互い誤解したまま長い年月距離を置いた関係とはならなかったはずです。つまり物語を構築している世界そのものが崩れ去ることになります。そんな危うい世界ではあるのですが、さすが道尾秀介でありましてそういったところは露ほども感じさせず読者を手元に引き寄せて思うがまま手の上で踊らさせます。
そして、これが真相です、と安心させておいて更に次の仕掛けのタネ明かしを見せて悦に入っています。 あんぐりと口をあけて二の句を告げずに居る読者を悪戯坊主のよな顔をしてにニヤニヤと見つめているのです。愛すべき悪戯小僧なのです。 |
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とてもクラシックな探偵小説の体裁を纏った物語である。それはつまり根本的なトリックを成立させるためには現代社会ではありえないからであり、時代背景を昭和の時代で戦後間もない頃にしたのはそのせいである。
とは云え、双子の兄弟、顔の整形、弟からの兄殺害予告、といった懐かしさを覚える古き良きミステリーの装いで幕を開けるストーリーは面白さを予感させる。ただ、残念なのは登場人物のキャラクター造形があっさりしていて平坦な文章と相まって物語りに深みが無いと云う事である。悪く言えば推理クイズの問題編を読んでいるような感じである。だが、本編はなかなか良く出来ていると思う。謎めいた現象も犯人からすれば必然でありそれを指摘する探偵の論理展開も見事であるが、いかんせん探偵役の思考の道筋がさっぱり読者には見えないことに不満が残る。伏線はきっちりしているがそれだけですべてを解き明かすのはちょっと無理だろう。物語の中の探偵と読者は対等ではないと云う事になる。そのへんがどうもネ。しかし、昭和の香りのする探偵小説を味わえるのは悪くない。 |
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始めに記しておかなければいけないことは、好き嫌いの判れる内容であり作家であろうと云う事。有り体に言えば横溝正史プラス京極夏彦の世界なのだけれど、自分とすればこういった世界を舞台というか背景にした探偵小説は好きなので楽しみながら読み終えた。憑き物落としとして神々櫛村に根ざした谺呀治家の次女紗霧の周辺で起こる怪異と連続殺人。その犯人を指摘するのが小説家で地方の民話などを取材のため全国を放浪する刀城言耶と云う物語。神隠しに遭ったように消える子供や、得体の知れない何かに尾けられる少女。生霊を見たという村人達。禍々しい不可思議な出来事がそれ自体が起こりうると信じられている憑き物筋の村。憑き物とか憑き物落としといった伝承についての薀蓄なども村の医者や和尚などから語られ、プチ京極夏彦なところもオモシロイが、なんといっても色々な怪異を描写する作者の筆の巧みさと物語の世界観を捉えた文体の良さがありこの物語をミステリアスな世界に仕立て上げている。殺人のトリックとか動機とかそういった面はそう重視せず不可思議な物語を楽しむべきと思う。ホラーとミステリーの融合といった文句もあまり気にしないほうが楽しめる。すべて科学的に白黒付けられたら世の中つまらない。曖昧な謎の部分が世の中には有っても良いと思う。そういった意味からも面白い題材を選びミステリアスな物語を書いているこの作家の創作の姿勢は私自身は好みである。
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まず始めに、評価を高くしたのは好きな作家だからです。(笑)。
あらすじはこのページに載っていますので参照して下さい。 さて、閉鎖空間で起きた殺人。純粋なフーダニットの世界です。読み進むのが楽しい。残ったメンバーが意見を述べ合い推理を繰り広げる。誰が・・・。何故?そして謎の組織。テロリストグループの本当の目的が明らかになるラスト。一粒で二度美味しい作者のサービス精神が遺憾なく発揮された良質のミステリーでした。 食事係の男が実は本部の人間であり、彼の示唆により出来事を整理して考えを進めていくと見えてくるもの・・・。一度目の殺人と、二度目の殺人の意味するところは・・・。それはアリかそうでないか、そんなことは瑣末なことで単純にミステリー小説を楽しむべきです。3時間ちょっとで読み終えました。 楽しいひと時でした。ラストの彼女の予定とは?ちょっとブラックで怖いですネ。 |
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評判の良い「退出ゲーム」の続編にあたる四つの短編からなるこの本は、いわゆる青春ミステリーなのだけれど、このジャンルもいろんな書き手がいていろんな作品があるし、日常の謎を扱ったものも数多くある。しかし結局読み手との感性の相違が作品を選ぶことになる。自分としてはこういった作品は◎で米沢穂信の「古典部シリーズ」と同じぐらい気に入った内容の本である。話の作り方が素晴らしく物語の世界がとても素敵だ。過去の記憶のなかにある話から当時の隠された真実を明らかにする、ありきたりのある意味手垢のついた手法であり話だがプロセスが面白い。それを担う役が初恋ソムリエとはとてもユニークで面白い発想だと思う。ハルタとチカのコンビや他の仲間たちみんながしっかり青春しているなと清々しい気分になれる作品である。ひと月に三度も席替えが行われた謎。市内のミニFM局から流れる番組と地学研究会が絡む謎。音楽室に忍び込む謎の人物。初恋の記憶に隠された犯罪など、軽いタッチだが中味は本格派といったところで楽しめる一冊でした。
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児童養護施設・七海学園に勤める北沢春菜を主人公にした物語。私自身は不勉強で行政面でのこういった機関の縦や横の繫がりとかまるで解からないのだけれど、登場人物のなかに児童福祉司で児童相談所に務める海王さんと云う人物がいて、そのずば抜けた洞察力で子供たちの抱える様々な謎や不思議を話すと見過ごしていた些細な手がかりから隠された真実を解き明かしてくれるという探偵役の設定になっている。前作の「七つの海を照らす星」は未読だけれど多分この海王さんと春菜の探偵物語なんだろう。事情のある子供たちが暮らす養護施設を舞台にする、古書店でも駅前の便利屋でもないその作家独自の世界を構築する意味ではとても良い視点といえる。だが、子供たちを描いていけば当然内容は暗く重くなるわけでそういった雰囲気を払拭するキャラクターも用意してあるが、真正面から子供の抱える事情に向き合った内容とかストーリーになっているので胡坐をかいて読んでいたのが気付けば正座して読んでいたといった気分になるほどだ。春の章・夏の章・初秋の章・晩秋の章と繫がっていくが文化祭の日に起きた校舎屋上からの転落事件が最後の晩秋の章で明らかになる構成だ。それぞれの章に物語があり消えた人物や母親の隠された意図、出口に固まっていた子供たちの前に姿を現さずスタジアムのグランドから消えたサッカーチームのメンバー10人などミステリアスな出来事を絡めて最後の章に至る。しかし、最後の章のドンデン返しは予想していなかったので正直驚いた。全体を見渡しても良く出来たミステリーと云える。テーマはハナミズキとアルバトロス。初めて読んだ作家だが読み始めは会話の部分で誰が誰に話しているのかちょっと解かりずらく感じて自分とは合わない作家なのかと思いながら読み進めたが、読み終えてみるととても魅力的な資質を持った作家であると認識した。この本は未読のひとにはぜひおススメしたい。
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う~ん、微妙だなぁ。ラストのドンデン返しの衝撃度はそれ程でもないし、けっこう読める範囲内とも云えるけど・・・。結末が読めるからつまらない本とする気はないものの、この内容ならばちょっと長すぎると云う印象だなぁ。構成と文章は岡島二人のティストそのままで、非常に読みやすい。奇形のストーカー男の恋と独白、そして殺人事件の様子を事情聴取に答える形で読み進めていく展開だが、ある意味アンフェアな部分がある。そこを隠しておいてどうですラストのドンデン返しには驚いたでしょう?と云われても納得できない。印象から受ける心理の逆をつくトリックと云うかプロットは良いけれど、もう少し捻りがあっても良かったんじゃあないだろうか。少しストレート過ぎると思う。
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多分、読んでおくべきミステリーと云ったカテゴリーのなかに収まっているだろう「イニシェーション・ラブ」と似たような趣向の第二弾という内容で知られている本だが、先の本を読んでいれば仕掛けの内容が読めるので生半可なものでは難しいだろうと想像していた。春香の行動は半分は理解できるがもう半分はちょっと理解できない。時の総理の名前とかヒット曲の具体名が出てくるとオヤと思わせるが最後を読み終えると成る程と思う。しかし結局最後の二行が無ければ普通の恋愛小説の体裁であり、仕掛けの多様さから考えれば前作のほうが勝っていると思われる。まぁ読み易い文章でサクサク読み進めるが、恋愛関係にある男女の心の機敏のようなところは上手く書かれていると感じる程度で、それほどのインパクトもないのでこれといった感想も書けない。
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文章が際立って美しい。形容する言葉が美しく深い。老弁護士が回顧する少年時代の頃とひとつの事件。チャタム校の校長を父に持ち生まれ育った少年ヘンリー。 あの八月の午後バスから降り立ったミス・チャニング
やがて悲劇の起こることとなる美しい田園の村。回顧の中から時折関係者の当事の言葉、裁判の様子などを織り交ぜながら物語は語られる。最後まで伏せられた真相。移り行く季節のなかで15才の少年ヘンリー自身の心の内や未来への思い。 黒池で起きる悲惨な事故。あの日黒池でほんとうは何があったのか。 ナイフ・ロープ・瓶入りの砒素。 ゆるやかな時間の流れのなかで、ある季節のおぼろげな記憶を思い起こす老弁護士ヘンリー。 トマス・H・クック 素敵な作家だ。この本に出合えて良かった。 読み終えてから多島斗志之の「黒百合」を思い出した。共通項が何点かあるからだ。 それは幼い頃の記憶、池、秘密、そして最後のページの衝撃。 |
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イリュージョンとは単なる物理的トリックではない。イリュージョニストは観客心理を学び観客を騙す為の
トリックを考案する。観客の目だけでなく心も欺こうとする。演技の目的は25セント硬貨を消して観客を笑わせる事ではない。現実とは正反対の物を見せ、信じさせ、それが現実であることを欠片も疑わせないこと。絶対に忘れてはいけないことは誤導・・・ミスディレクションがイリュージョンの核となすものである事。 捜査協力のマジシャン修行中のカーラの言葉。相手は変相、早変わり、脱出と変幻自在の魔術師。リンカーン・ライムのチームはこの難敵にどう立ち向かうのか。興味は深々。この作ではライムは徹底した現場からの微細物証拠採集を科学的分析で解明して犯人を特定していく。解明された事実をリストにして思考を重ねる。天才的な閃きによる推理ではない。いわば地道な捜査だ。だが、相手はイリュージョンの達人。ミスディレクションにより翻弄される捜査陣。犯人の本当の狙いは? ストーリーにはとても興味を惹かれるが読み終えてしばし黙考。プロローグを派手にして読者を惹きつける狙いは解かるがあれこれと盛り込みすぎなのもどんなものか。かえって捜査陣の眼をひきつける結果となるだろう。結局本当の狙いとは何か、そこの攻防が描かれただけの話しとなっている。その割にはあれこれ横道に逸れる印象で魔術師とライムの頭脳戦を期待したがそれすらも薄い感じ。 エフェクトとメソッド。プロットそのものが歪んでいるようなそんな印象の物語。 長編なのでひと月ほどかかって読み終えたが、ちょっと残念な感想となった。ヒューマンなサイドストーリーもイマイチの感じだ。 |
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リンカーン・ライムとは、四肢麻痺の鑑識の天才。こういったキャラクターだと「鬼警部アイアンサイド」を
思い出すが、ちょっと古過ぎるか・・・。本を手にとって最初のページの登場人物紹介のところに、 ジェラルド・ダンカン・・・ウォッチメイカーとある。何故犯人の名前が?と不思議に感じたが、読み進めてその訳が解かった。始めからきめ細かい描写の文章で状況を読者に示す書き方をしている。海外作家は得てしてこういった文章を書くのは承知していたが、この本に限って云えば計算なのか?自然に作家の意図する方に 眼を向けた読み方をしていく。二重、三重の意外性があり最後まで読者を引っ張っていく力は並みの作家ではない証拠だ。ホンの小さな証言、些細な出来事などを神のごとく閃きと名推理で言い当てる、といったアホらしい設定ではなく、周りにいる仲間や協力者たちの感想とか思いつきなどをヒントに思考を進める捜査官という人物設定が良い。そして事件には真っ向から挑むため微細証拠の収集や周辺の聞き込みなど基本的な作業をきめ細かく指揮し、その役割を充分認識した仲間たちの活躍で謎の犯行を重ねる犯人に肉薄していく。 色々な伏線を回収していく終盤の動きとストーリーの多様さでリンカーン・ライムのファンも初めて読んだ人も楽しめるミステリーと云える。 |
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巷に溢れる殺人事件物、探偵役は刑事でも、便利屋でも、大学のセンセイでも無いモノ、そう云ったセンから
スパイものと云うジャンルに眼をつけたとしたら作者の勝利。 でも、こういったジャンルで短編を書くならば、もっと読み手の思い込みとか想像を見事にうっちゃる捻り手が必要なんじゃないだろうか?情報戦、頭脳戦を制する一流の頭脳明晰な人物を主人公にするなら、その分ハードルも高くなるはずで、それこそ最後の一行ですべてがひっくり返るストーリーを見せてくれないと物足りない。他のレビューにもあるように人物造形が浅いのも影響して物語に厚みがない。 取って付けたような設定とお話ではその世界に入り込めない。 といってもこういったスタイルの長編を書くには相当の力量がないと難しいだろう。志水辰夫や他のベテラン作家の作品を読んでみれば解かる。だが、片鱗は見れる。今後の作品次第と云うところか。でも、このような物語とくれば「陸軍中野学校」を思い出すが・・・。 |
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親子三代に渡る警察官としての人生の軌跡を描いた物語だが、個人的には第三部の和也がいちばん面白い。
現実の歴史的な事件や出来事にフィクションを絡ませて描かれたストーリーはドキュメンタリーのようで、それぞれの時代を写しながら警察官として一人の人間として生きていく様が生々しく書き込まれている。 和也から見て祖父にあたる清二の身の回りで起きたふたつの殺人事件。そして、清二の不審な死。 この事件を背景にしてそれぞれの時代の事件、出会う人々との交流などを絡ませて最後の第三部和也では清二の死の真相が明かされる構成だが、このへんの謎といった部分よりも各人の警察官としての日々の活躍と生き方を描いたところの方がこの物語の大事な部分なんだろうと思う。会話や人物設定など確かな筆力で書かれた男の世界の物語で世相を切り取るセンスも確かだ。読んで損のない一冊と思う。 |
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この人の作品は「中庭の出来事」と「夏の名残りの薔薇」に次いで三作目。前二作は曖昧な話で終始したが、この作品は事実関係が明らかになるストーリーでスッキリとした結末を迎える。
四年前に死んだ高名な女流作家の家に毎年その日に集まる五人の女。警察の調べは自殺で決着が着いている。しかし、それぞれの胸に収めていた小さな違和感を口に出していくうちに、あの日何があったか少しずつ見えてくる。その日だけそこから消えていた小さな額縁。少し動かされた鏡。肩を痛め手を上げられなかったはずなのに、あの日二階の窓から手を上げていた女。そして、五人が集まった日に差出人不明の花束が届く。不穏なメッセージカードと共に。 大人の女の知的で品のある無駄のない会話。飲み食べて本音を吐き出していくうちにあの日の本当の死の様子が浮き上がる。 舞台劇を観るような五人の女のディスカッションで進行する推理劇。 肩の凝らないミステリーとしてなかなか楽しめた。 |
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久しぶりの森 博嗣氏の本。これは異質のSF作品だった。個人的にはSF物は好みじゃない。有名な「星を継ぐもの」なんてのも未だに未読。しかし、森 博嗣は森 博嗣で相変わらずの会話の面白さが楽しくて、500ページ程あるがほとんど一気に読み終えた。未来の世界は森 博嗣の心の内の世界なんだろうが、私も共感できる世界だ。閉ざされた迷宮の島イル・サン・ジャック。宮殿モン・ロゼの内部のレポートは100年間一切存在しない。サエバ・ミチルは相棒ロイディと招待されたこの島にやって来た。しかし、僧呂長クラウド・ライツの死体が発見され切断された首が現場には見当たらない。そして老人オスカも殺され首がない死体で見つかる。ふたつの事件とサエバ・ミチルの運命。メグツシュカ女王と島の秘密。一夜にして森が海になった伝説の島。ミチルとロイディとの会話の楽しさ。犀川助教授と西之園 萌絵や瀬在丸 紅子と保呂草などのシリーズでお馴染みの理系的な思考と言葉のやり取りがとても面白くて楽しい。ミステリー度は低いけれどひとつの物語として充分な面白さで森ファンにはおススメの一冊。でも森ファンじゃない人からすればこの本のどこが面白い?と云われるのも考えられる。ロイディなら「不確定だ」ときっと云うだろう。
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どんでん返しのあるミステリーとして知られているが、それがなくても普通に面白い作品と思う。サイコ・ミステリーとして充分に面白く良く出来た物語と評価できる。ただ、意外な犯人の心の内がもう少し描写されていればより一層事件の異常さや不気味さが増して良かったのではないかと感じた。広告業界の戦略。誘発された殺人事件。刑事コンビの捜査の道筋。特異な視点から始まった事件だが、最後に真犯人にたどり着くまで興味深く読み進めることができた。この作家は「コールド・ゲーム」とこの「噂」の二冊しか読んでいないが、「コールド・ゲーム」はともかく、これは面白かったと云う感想である。
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