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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数56

全56件 21~40 2/3ページ

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No.36: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

建築屍材の感想

著者の工学部建築学科卒というフィールドを生かしたミステリだ。名古屋が舞台であるビルの建築中で起きる殺人事件だが、死体消失と目撃した人影も密室内で消えるというトリックで読者を引っ張る展開だ。
著者の持つ学識を充分に使ったトリックで確かにこれまで例の無いトリックだろう。つまり死体消失についてだが。だが、全体を見渡せばそのストーリーにはどうも無理を感じてしまう。意図も動機も理解できない。
話の流れが偏っている。トリックありきのストーリーだからだろう。人間を描くよりも本格としてトリック重視で書くといっているが、それにしても人の心の内が作者の都合で決まるのは勝手すぎると思う。
しかし、セメントもコンクリートもモルタルも良く解かっていなかった自分にしてみればこのプチ知識は勉強になった。ビル建設についての工法、工程などこれまで知らなかったことがいろいろと知れて面白かったので
そういった面からは読んで良かったといえる。しかし、自分の得意分野から外れたところでどれだけ書けるかが作家としての資質を問われる事になるわけで、その意味ではこの後の作品が真価を問われることになるので
鮎川哲也賞の名に恥じない作品を出して欲しい。
建築屍材
門前典之建築屍材 についてのレビュー
No.35:
(7pt)

屋上ミサイルの感想

先に選評を読んでしまった。ここを先に読むと妙な先入観を持って読んでしまうので気をつけていたのだがうっかり読んでしまった。
ほとんどのレビューにあるとおり、選評にもあったように伊坂幸太郎のイミテーションと感じてしまう。内容、ストーリー展開、登場人物、会話、すべてがそうだ。
ただ、素人がまったくのゼロからこれだけの物語を作り上げた、その努力と云うか感性と云うかセンスは評価できると思う。
文体が有名作家に似ているとはいってもその読みやすさは心地よい。
会話も決まっていてツボにはまる人には気持ちよく読めることだろう。
しかし、やはり小説は自分の言葉で書かなくてはいけないと云うことだ。
いろんな本を読んで引き出しを多く持つことは重要だけれど、自分の言葉で物語を書かなければ誰も読んでくれない。
そう再認識した一冊だった。
屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)
山下貴光屋上ミサイル についてのレビュー
No.34: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

臨床真理の感想

基本的にミステリの世界に性的な事柄を入れたストーリー展開にして欲しくない。「イニシエーション・ラブ」もそうだけど、あのようなラブシーンは必要ない。あの部分をカットしてもストーリーは充分成立する。なのにあの描写、著者の
意図が掴めない。動機の問題で男女間のもつれとしての要因とした書き方は充分納得できる。しかし、金田一耕助のベッドシーンなど読みたくない。そう云うことです。福祉施設で暮らす弱者を描くのは良いが、そこに性的な問題を絡めた
ストーリー展開はどんなもんだろう。真犯人も気持ち悪いし女主人公の臨床心理士の対処方もいくら危機とはいえ気持ち悪い。監禁されたあの部屋での逃げ道がないのは分かるが、ちょっと他に手が無いのかと考えてしまう。
でも、読ませる力はある。引き込む文章力は認める。話す言葉が色で見えると云う共感覚保有者の青年が、少女の自殺は殺人だと云う話を半信半疑に受け止め、高校時代の同級生で警官になっている男と調べ始めるストーリーだ。
ここで良いのは安易な訳知り顔の妙に親切な協力者の設定にしなかったこと。女臨床心理士と考え方も生き方も違う人間に設定して、心理士としての彼女との言葉のやり取りのうちにまんまと協力させられる羽目になる彼、と云う事にしてあるのが良い。ご都合主義の100%彼女の言い分を信じ何でも協力する人物として登場してないところが好感を持てた。多いんだよねこういった無条件で主人公を助ける人物設定が。

▼以下、ネタバレ感想
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臨床真理 (角川文庫)
柚月裕子臨床真理 についてのレビュー
No.33:
(7pt)

一千兆円の身代金の感想

現実的なテーマを扱った誘拐事件のお話。リアルな問題に絡めて起きる誘拐事件を追う警視庁特殊班の刑事や各人の視点で進む展開だけれど、そのリアルな内容に囚われすぎて人物が少し掘り下げ方が弱いと云うか通り一遍の
描写に感じられて共感度は低い。圧倒的なボリュームで今の日本の現実を書き表しているが、こういったテーマのものには必ず参考資料が偏っているとか、一面しか見ずに取り上げているとかの批判が出てくるが
それは違うと思う。その問題だけを論じるのならともかくフィクションの物語のバックボーンであり人物を動かす材料なわけで、有る程度の部分を取り上げて背景として書いているだけだからそう神経質になる必要はないと思う。
個人的に興味があるのは、今は選挙権のない十代の人がこれを読んだらどの様な感想を持つだろうかと云う事。肝心のミステリとしての部分はそう謎解きもサスペンスも感じられず経済小説のような雰囲気だけれど警察内部の
動きや捜査のあり方はキッチリ書き込まれていて読ませる。ラストにどれだけの共感を得られるかが少し心配。女刑事も初めだけであまり目立たずに脇役どまりの感じで、どうもこういった点からも登場人物の配置とか動かし方が
中途半端に感じる。経済問題の資料にエネルギーを使い過ぎたのかな。個人的におススメは三好徹の「コンピューターの身代金」「モナ・リザの身代金」「オリンピックの身代金」と本田靖春「誘拐」天藤 真「大誘拐」ってところです。
一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
八木圭一一千兆円の身代金 についてのレビュー
No.32: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

人格転移の殺人の感想

ややこしいことこの上ない。次々と人格が移るので誰が誰だか把握するのに大変だ。芯のネタと云うかトリックは単純だが舞台装置がとにかく派手だ。こんなネタ良く思いついたと思ったが後記でその辺のところを書かれている。だろうね、まるでゼロからこんな発想早々できるものじゃない。しかし、上手く世界を作っているのがステキだ。ラストのオチも良いので読後感は上々だ。良く考えれば最初に犯人が薄々読めるところだけれど、目くらましが巧みなせいで意識がそこから
離れてしまう。この辺は筆者の腕の確かさが現れている。展開がテンポ良く書かれているのもその辺のテクニック。先へ先へと読者の目を向けさせるようにして真犯人へ辿り着かせないようにしている訳だ。こういうSFチックな舞台設定のものは
あまり好きじゃないけれどこれは楽しめた。西澤マジックの所以だろう。森 博嗣の解説も脱力ぎみで楽しめる。二人に交友があるようだけれどこんな解説ありか?
人格転移の殺人 (講談社文庫)
西澤保彦人格転移の殺人 についてのレビュー
No.31: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

白ゆき姫殺人事件の感想

格好はちゃんとしたミステリではあるが、かなり冒険的なレイアウトで書かれている。この作品に合った手法なのでこの場合は良いと思うが、このスタイルはこれだけにして欲しい。人が人を評価するのはその人の主観でしかない。
だから色々な人物像が語られる。しかし、その人の本質を的確に表現することは非常に難しい。そしてしょせん他人事という無責任さがオーバーな表現になったり、見当違いな見方になったりする。肉親であってもこの点は避けられない。
マスコミに追いつめられる一人の女性。ネット社会の弊害こそが問題であると作者は思っているのかな。すぐ実名を晒す無責任な掲示板好きの輩。この物語の中に出てくる人間はみんな歪だ。ルポライターという職業の人間でさえ
許しがたい軽薄さで動く。救いの無い物語であるが主人公のモノローグがこの本のすべて。身も心もキレイな美人女性はこの世にはいない、独身男性はこの教訓を忘れずに。
白ゆき姫殺人事件
湊かなえ白ゆき姫殺人事件 についてのレビュー
No.30: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人の感想

読み終わって一息後「お疲れ」と作者に云いたい。その執念には敬意を表するしかない。これこそがバカミスだと思った。でもなぁ三崎はともかく連続密室殺人て・・・ウソつけ。妙な記述が多いなと思っていたら・・・。
泡坂妻夫の「喜劇悲喜劇」を思い出した。知ってる?★きげきひきげき★上から読んでもきげきひきげき、下から読んでもきげきひきげき。これも労作だと思うけれど、この三崎~も凝りに凝った労作だと思う。
ま、空前絶後の一冊としてその存在価値を保ち続ける作品でしょう。二度読む気はしないけれど・・・。
三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)
No.29:
(7pt)

紙魚家崩壊 九つの謎の感想

ポイントを7にしたのは、この作者がお気に入りの人でないとちょっととっつき難いと言うか少し理解が得られにくいと感じるからです。元高校の国語教師という著者の経歴を示す文章はとてもキレイで美しい。
日常のなんでもない風景からチラッと覗く小さな謎。最後に明かされるその意味。円紫師匠と女子大生の「私」シリーズで充分満足させられたあの時間。九つの謎が収められているが「白い朝」がもうどうしたって
一番の好みとなるのは、これはもう誰もがそうだろうと。憎い物語とオチ・・・堪らないなぁ。楽しめる人は楽しめる、そんな九つの謎を収めた一冊。貴重なミステリ作家である。
紙魚家崩壊 九つの謎 (講談社文庫)
北村薫紙魚家崩壊 九つの謎 についてのレビュー
No.28:
(7pt)

僧正の積木唄の感想

始めに山田正紀氏の作品を読むのはこれが最初です。これまで読んだことがありません。個人的にミステリ作家と認識していなかったせいですが。ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」をリスペクトした作品として気になっていました。
ようやく読む機会を得ました。ファイロ・ヴァンスが解決したあの「僧正殺人事件」が実は未解決だった。真犯人は別にいた。その辺のところを氏は上手く突っ込みながら物語を再構築しています。そして、僧正殺人事件2を解決するのが当事
サンフランシスコに滞在していた若き金田一耕助とくれば、もうわくわくのシチュエーションです。しかし、どうも物語世界に馴染みません。第一部から第四部まであります。しかし、物語が動き出すのが第三部からです。それまでは当事の
世相背景やら社会情勢などが繰り返し語られ、僧正殺人事件のあの雰囲気がまるで感じられません。その金田一耕助にしても違った印象で人懐っこさはそうでも、観察力洞察力の凄さが欠片も見せず単なる好青年のように写ります。
もっと、もっともらしく描いて欲しかったと思います。犯人もその背景も物語世界での辻褄はあっていますがさほど感銘は受けません。もっと金田一耕助を活躍させて、めくるめく謎の解明に挑む、そんなストーリーにして欲しかったと思います。
少しあっさり感が強い印象でした。ただ単にこちらが期待していた内容と違っただけかも知れませんが・・・。
僧正の積木唄 (文春文庫)
山田正紀僧正の積木唄 についてのレビュー
No.27: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

二流小説家の感想

売れない作家に、収監されている死刑囚から告白本の執筆を依頼される。もし実現すればベストセラー間違いなし。ハリーは現在の生活から脱却できると死刑囚ダリアン・クレイがいるシンシン刑務所に向かう。しかし、このあとハリーはアクション映画の主人公さながらの災難と活躍をみせることになる。次々と若い女性を殺害し、バラバラに切り刻んだ後にゴミ箱等に捨てた殺人鬼。しかし、頭部だけは見つからない。そんな猟奇的な事件の犯人ダリアン・クレイ。彼の執筆依頼の条件はファンレターを寄越した女たちに会ってポルノ小説を書けというもの。彼に手紙を寄越した女たち三人に会っていくと、その女たちが次々に殺されていく。前の事件そっくりの殺害方法で。FBIのダリアン事件担当のタウンズ特別捜査官はハリーを疑い彼にまとわりつく。こういった流れでストーリーは進むが、間に彼ハリーがペンネームを使用して書いた、ヴァンパイア小説やらSFものなどが挿入されている趣向で作者の遊び心が見える。ただ、こういったサイドストーリーも本筋のストーリーにも、とてもオープンに書かれている部分が目に付き、かなり大人向きの内容ではないかと思う。少なくても高校生諸君には読ませられない内容と思う。ダリアンが犯人とされる事件とこの三人を殺害した犯人はどう繋がるのか。ダリアンは真犯人なのか。興味を引っ張りながらドンデン返しの結末に至る。さらにその後の真実に気付かされる訳だが、個人的にはそうワクワクしながら読み進んだとは言えないのが実情で、それは何故か考えるとミステリーとして、プロットは面白いが謎解きの要素が少し甘いということだと思う。しかし、翻訳の文の良さもあり物語世界にはすんなりと入りストーリーは楽しめたと思う。ハリーのモノローグや登場人物の造形も上手く文章はこなれている印象だった。
二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
デイヴィッド・ゴードン二流小説家 についてのレビュー
No.26: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

黒猫の遊歩あるいは美学講義の感想

初めて読む作家の本で、たまたま手にしたものです。云ってみればコージー・ミステリーですが、ちょっと異質で変わった視点から捉えた物語となっています。六つの連作短編集ですが、主人公の語るウンチクが小難しくて硬い文章ばかりが目につきます。その辺で多分に損をする作品と云えるのではないかと思います。ポォの作品を下敷きにした物語を見せますが、ポォ自体を読んでいない人には楽しめるのか否かちょっと疑問に感じます。謎解きの部分も多少読者にとってアンフェアなところがあり、主人公の推理にも素直に感心できません。「主人公」と語り手の「私」のコンビはいろいろ意見があるでしょうが、書く側から見れば他とは差別化を図る意味で苦心の設定ともいえます。そう云った点で良しとしましょう。ポォから離れたらこのコンビはどのような事件と遭遇し、どのように謎を解き明かすのか興味があります。これ一冊しか読んでいないので機会があれば他の作品も読んでみます。 文章に多少キザっぽさを感じますが情景や心情などは上手く表現されていると思います。この後もあっと言わせる作品をぜひ見せてもらいたいものです。

黒猫の遊歩あるいは美学講義
森晶麿黒猫の遊歩あるいは美学講義 についてのレビュー
No.25: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

生存者ゼロの感想

バンデミックが主題のストーリーで、この系統はそれならばどれほどリアリティが出せるかが勝負でしよう。
その辺のところは良く描けていると思います。次にどれほど魅力的な主人公を創造できるか、そしてどのように活躍させるかが大事だと思います。陸上自衛隊の三佐を主人公に感染学者、昆虫学者などが主な登場人物ですが、残念ながらある程度読書量を誇る人にはどれも画一的に見えます。政府の対応や高官、総理などもお約束どうり無能ぶりをさらけ出し右往左往する様子しか見せません。この辺はよくあるパターンで新鮮味がありません。
次にどのように終息させるがが大事ですが、この辺もまぁ及第点と云えましょう。やたら難しい言葉の羅列と漢字の多いページばかりですがそれほど読みづらくはありません。「ジェノサイド」的な内容と思ってしまう人もいるかも知れませんが、むしろ西村寿行のパニック小説的な雰囲気と内容に感じました。かなり文献をあたって勉強したようでけっこうキッチリ書かれていると思います。
面白かったか、否か。好みの問題でしょうが私にはイマイチで斜め読みしました。
生存者ゼロ (宝島社文庫)
安生正生存者ゼロ についてのレビュー
No.24: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

青の炎の感想

客観的にみると主人公の秀一は、人、つまり他人とのコミニュケーションの取り方が下手な少年で自分の判断だけで相手を決めつける幼さがある少年と云える。悲劇の元はここにあるわけで、口論になっても良いからもっと相手にぶつかっていれば違った話になっていたであろうと思う。そんな純粋とも云える多感な年代の彼が選んだ道はおぞましい相手を強制終了させること。練りに練った完全犯罪への犯行も意外なところから綻び始める。きっちりと秀一の抱える問題を描写して彼の動きを追っていく展開だけれど、最後まで読んで残るのは
虚しさだけで他人との関わりをできるだけ避け自分の殻に閉じこもる人間の陥りやすい悲劇を描きたかったのかと思った。ミステリーとしては物足りないストーリーでもある。
青の炎 (角川文庫)
貴志祐介青の炎 についてのレビュー
No.23: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

折れた竜骨の感想

あまり好きではない領域の世界を舞台にしたミステリーだった。特殊な舞台設定だけれどストーリーはシンプルだ。つまり、誰が領主を殺したか。自然に守られた小ソロンの島。つまり嵐の山荘と同じ舞台となる。魔法も何もロジックで犯人を探し当てていく過程が極シンプルで、その間に世界とその時に生きる人々の様子や生活ぶりなどがデーン人との戦いをクライマックスに描かれている。悪く言えば誰の本を読んでいるのかさっぱり解からない没個性の文章。まとまってはいるが内容から観ると少し長過ぎるとも感じる。周到な伏線もキチンと回収する術を心得ているがラストのサプライズはあまり効果が無い。好みの問題でしょうが私には少々退屈でした。斜め読みした箇所もあったほどです。
折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
米澤穂信折れた竜骨 についてのレビュー
No.22: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

贖罪の奏鳴曲の感想

これは作者なりのいろんなメッセージが込められた物語なんだろうねきっと。医療事故とか、猟奇的な異常犯罪を犯した少年への国として、法としての在り方とか。裁判員裁判の在り方とか。とにかくいろんな問題を含めて、ひとりの弁護士の姿と集中治療室での出来事に問われる被疑者の裁判が描かれている。豪雨の翌日橋げたに引っかかった死体の身元を追う「連続殺人鬼カエル男」にも登場した古手川刑事と渡瀬刑事。それぞれの視点からストーリーは進むが、少年院で氏名を変える、そういった事実にもちょっと驚かされる。広く世間に知られた重大事件の犯人の更正に妨げとなるからと氏名を変えることは普通のことのようだ。弁護士となった彼の少年院での生活も描かれているが、この辺はありきたりのストーリーにも感じるが最後への伏線とすれば仕方ない。裁判での逆転、さらにその後の真犯人と新事実。こういったミステリー要素を絡めたストーリーだけれど、贖罪の意味は犯した罪の埋め合わせという教務官の言葉がこの本のすべてなのだろう。
贖罪の奏鳴曲 (講談社文庫)
中山七里贖罪の奏鳴曲 についてのレビュー
No.21: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

夏を殺す少女の感想

ヴァルター・プラスキーは妻に先立たれ、娘と過ごす時間を優先した為に州刑事局からライブッイヒ刑事警察の機動捜査官になった。
エヴェリーン・マイヤースは、中小企業を相手にしない法律事務所の弁護士だが、暗い過去の出来事を引きずっている。人間的な魅力のある二人がそれぞれの案件を追っていくうちに、バラバラだつたピースが一つになり事件の全容が見えてくる。発端となる舞台での出来事も事件を追う二人が出会う手法も目新しさは無いが、展開がスピーディで訳も良いためにサクサクと読み進める。ただ、情報を得て先に進む過程で都合のよい協力者が現れるのには苦笑する。もう少しもたついた方が先の展開への興味が増すと思うが・・・。例えば先に読んだ「連続殺人鬼カエル男」の場合、猟奇的な殺人事件の被害者を結ぶ線は中々見つからず、犯人の真の狙いが捜査当局には解らずに通り魔的な犯行と考えられていたが・・・。と云った展開で読者を飽きさせなかった。でも、この二人の行動力ある活躍と、自分を信じ周りの意見に妥協せずに突き進む姿は共感を呼ぶものだ。喘息持ちの警部と家族を失った金髪の美人弁護士にはラストでの微笑ましいエピソードが用意されていて読後感も気分が良かった。点と線、事件はこれを解明することにある。そんなオーソドックスなスタイルのストーリーだけれど読ませる実力を持った作家だ。
夏を殺す少女 (創元推理文庫)
アンドレアス・グルーバー夏を殺す少女 についてのレビュー
No.20: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
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連続殺人鬼 カエル男の感想

猟奇殺人を扱ったミステリーと思い読み始めましたが、こちらの思惑とは少し違ってました。読んでいて
かなりバイオレンス・シーンがキツイので身体に痛みを覚えるほどです。(笑)
犯人逮捕のあとの二転三転する真相には整合性がとれてますが、ラストの皮肉なオチはさてどうでしよう。
刑法第39条をウンヌンするならば、彼の当真勝雄の人間性を貶めている様な気がして余り気分が良くありませんが。渡瀬刑事の云う因果応報で真犯人に罰を与えるつもりの作者でしょうが、少し筆が走った印象を持ちます。回復はするが完治はしない、それがラストの当真勝雄だとしたら39条への作者の答えがこれだと誤解を生むと心配します。ただのサイコ・サスペンスから二転三転する真相への持って行き方は、ミステリーのツボを得ていて楽しめます。ただ、痛い描写が多いので女性の方にはどうでしようか。


連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)
中山七里連続殺人鬼 カエル男 についてのレビュー
No.19: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ベンスン殺人事件の感想

ヴァン・ダインの処女作として知られている。今読み返してみると、なるほど後世に与えた影響の大きさが良く解る。つまり、どこかで読んだような設定とかキャラクターの造形とかの原型をここに見ることができる。ぺダンチックな文体なんて大元はこれなんだ。名探偵ファイロ・ヴァンス誕生の「ベンスン殺人事件」だが、友人のニューヨーク地方検事ジョン・F・X・マーカムへの辛辣な言葉、ほとんど暴言に近いような言葉のやりとりのなかで、アリバイにこだわる検察当局の主張を片っ端からはねつけ、彼の独自の心理分析を駆使したやり方で真犯人を指摘する彼の探偵としての姿に、当時のミステリーファンは拍手喝采したことでしょう。今読むと事件そのものはベンスン殺害事件のみで、大勢の容疑者に悩まされ進展しない捜査の様子と、多彩な登場人物の動きがいろいろと綴られるところが長くて少し退屈な部分もある。しかも、ファイロ・ヴァンスは最初に死体現場を見た段階で犯人像をある程度絞っていたと語る始末で、その辺のことは何度もマーカム検事に話すシーンもある。マーカムも君は何を知っていると問い詰めるが、ファイロ・ヴァンスはまだ話すべきではないとはぐらかす。このへんはお約束とも云える常套手段で読者を煙に巻くやり方だが、、この辺も今のミステリーの定石として受け継がれている。これ一冊でいろいろ楽しめる部分がありベンスン殺害の真犯人を指摘するラストまで楽しく読めた。たまには古典も読み返すと面白い。
ベンスン殺人事件 (創元推理文庫 103-1)
ヴァン・ダインベンスン殺人事件 についてのレビュー
No.18:
(7pt)

弁護士探偵物語 完全黙秘の女の感想

このミステリーがすごい!大賞の大賞受賞作「弁護士探偵物語 天使の分け前」に続く第二作目の本書。前作は未読ながら本作を先に読んでしまいました。完全黙秘の女。傷害事件の被疑者である女はなぜ何も喋らないのか。長いものには巻かれない、しがらみや組織のルールなどに縛られない、はみ出し弁護士と新人女性弁護士のコンビが謎の女と放火事件などを調べていくうちに過去のある事件が浮かび上がってくる。DNT鑑定など法律用語や知識なども解かり易く使われていて、洒落なのかある程度マジなのか弁護士業界のとりまく環境なども愚痴っぽく語られていてクスリとさせられる。最後の法廷のシーンなども現役弁護士ならではのリアルさで読ませる。いろいろな謎が最後に一本の線で結ばれ、完全黙秘の女の正体も明かされる展開は良くまとめられていると思う。主人公のキャラクターも嵌まる人には嵌まるだろう。会話なども多少ハードボイルドぽくて、ヤワで湿っぽくないトーンの描写など一味違った探偵物語でこのあともシリーズとして書かれるのだろう。

弁護士探偵物語 完全黙秘の女 (『このミス』大賞シリーズ)
法坂一広弁護士探偵物語 完全黙秘の女 についてのレビュー
No.17: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

クリスマスに少女は還るの感想

文庫版で読んだが、600ページを超える厚さで少々読み疲れた。やはり翻訳本特有の持って回った文章と緻密な描写のせいで、やたらとページ数が多くなる。この点が海外ミステリーをあまり多く読まない第一の理由となっている。さて、小児性愛のモンスターはこの地元の人間で、まだ外にいて殺し続けている。行方不明になった二人の少女と、捜索に当たる特捜班に入ったルージュ・ケンドル。彼の双子の妹も十五年前に行方不明になり死体となって発見された。当事の事件の犯人として逮捕された神父のポール・マリーはまだ刑務所の中。
ではいったい誰が犯行を・・・。冒頭、謎の女が登場する。顔に傷のあるアリ・クレイ法心理学者。彼女の言葉がルージュ・ケンドルを過去に引き戻す。少女たちの脱出の様子に絡ませてそれぞれの人物たちとの関わりにより少しずつ真相に近づくケンドルとFBI捜査官のアーニー・パイル。もの哀しいラストまで読み込ませる巧みな人物描写と飽きさせない展開をみせる筆致。真相と謎の女の真実にはそういった思いがあったのかと納得する。驚愕のドンデン返しと云うほどではないが上手く読ませるミステリーとして水準以上の出来の作品と評価したい。
クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)