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(短編集)
アンチクリストの誕生
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アンチクリストの誕生の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全7件 1~7 1/1ページ
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読み始めはなじみのない言葉が並んでいて、 どの話もなんのことやらさっぱりといった感じなんだけど、 いつの間にか物語にとりこまれて、ページをめくる手がとまらなくなります。 なかでも「一九一六年十月十二火曜日」と「夜のない日」が良かったです。 長編のほうが好きだけど、この短編集もなかなかおもしろかったです。 | ||||
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日本の非キリスト教徒には、あまりインパクトのない内容かと思います。こういうブンガクは分かりません。 | ||||
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幻想的と言うのか今まであまり呼んだことがなかった部類の作品でした。不思議な感じの小説で、話の筋が予想できないのがまた面白かったです。 現実味の薄い話ばかりですが妙に印象に残る話もありました。 | ||||
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この著者をわたしは残念ながら知りませんでした。本の帯のキャッチコピーに、「ボルヘス、カルヴィーノをはじめ多くの作家たちを魅了した稀代のストーリーテラー、いよいよ文庫に初登場!」とあったから、興味を持ちました。 読み終えると、「わたしって小さい時からこんな本ばっかり(古典や純文学と言われるものではなく中間小説、エンターテインメントと言われているもの)読んでいるなあ。」と思いました。しかし、それがわたしの誇りでもあります。 解説の皆川博子さんが「花も実もある絵空事の作家」と書いているように、表題を含む8編の短編(あるいは中編)は、素晴らしいストーリー構成の「ホラ話」です(あるいはゴッシク・ホラー)。ある作品はマーク・トゥエインのようなバカバカしい「オチ」の付くホラ話、ある作品は、ドイツ・ゴシック小説と言った感じです。 「花も実もある絵空事の作家」と言うのは、柴田錬三郎の言だと解説を書いている皆川さんは言っています。わたしもシバレンの作品は多数読んでいます。その他「訳者あとがき」などにも紹介されている山田風太郎、夢野久作、久生十蘭、カルヴィーノ、ボルヘス、シャーロック・ホームズやグスタフ・マイリンク等々、悉くわたしの幼い頃から読み親しんだ作家でした。 さて、わたしはこの著者について全く知らないので少々紹介しますと(これを読んで下さる人はご存知か――、と茶々を入れる)、1882年、プラハ生まれウィーンで活躍したユダヤ系作家とありました。ユダヤ系作家と特筆されているのは、ユダヤ人迫害にあったということを意味しているのでしょう。 1915年に第1次世界大戦に従軍。翌年に重傷を負って、ウィーンで暗号解読に携わる。その後ナチスの台頭によりウィーンを追われ、パレスチナのテル・アヴィヴに移ります。しかし、彼はドイツ語で著作しているので、彼の作品がドイツでの出版を許可されなくなると、徐々に忘れられた存在となります。1970年代から再び世界で脚光を浴びるようになって来ました。シュールレアリスムや前衛的なものの流行、あるいは純文学と「そうでないもの」の評価の垣根が少し低くなって来たという時代背景でしょうか。 この本は中短編集です。各タイトルは、「主よ、われを憐れみたまえ」、「一九一六年十月十二日火曜日」、「アンチクリストの誕生」、「月は笑う」、「霰弾亭」、「ボタンを押すだけ」、「夜のない日」そして「ある兵士との会話」です。それぞれが違う時代、違う背景で書かれています。なのでわたしは、「東ヨーロッパとロシアの歴史を少々勉強した方がよさそうだぞ。」と、思いました。 西ヨーロッパの歴史はそれなりに見聞きする機会があり、多少なりともわかりますが、オーストリア、ルーマニアそしてロシアとなると……。(ところが、その辺の国の小説を読むと何故か変な臭いがしてくるのです。学生の時、実存主義の小説を読むと嫌な臭いがしてくるので、それでこれは実存主義の小説とわかると言った人がいました。気のせいでしょうかねえ。) 短編の作品は概ね大法螺のオチ付きの「なるほどね。」と思う作品です。その中で「月は笑う」は少々怪奇小説的な推理小説的な趣があります。中編小説の「アンチクリストの誕生」と「霰弾亭」は、素晴らしいストーリーテリングで、引き込まれます。 「アンチクリストの誕生」は、最初は純愛の夫婦の物語のように、おとぎ話のような優しい雰囲気で始まります。が、徐々にその夫婦の過去が暴かれて、おどろおどろしいお話に。さて、「アンチクリスト」とは何だったのでしょう。誰が誕生したのでしょうか。お楽しみにお読みください。 「霰弾亭」は、一番気に入りました。こちらの方は「大法螺話だあ」という感じで始まります。主人公のフワステク曹長が自殺します。しかし、話はその弾がどうなったかの方向へ。つまり、曹長が自らを撃った弾丸は、曹長を殺した後、その体を突き破り、曹長の部屋を横切り、皇帝の肖像画を粉砕し、隣の兵舎で寝ていた新米兵の膝をぶち抜き、背嚢にめり込み中に詰まっていたものを台無しにし、たまたま開いていた窓から飛び出し、云々かんぬんと続いていきます。 「だがこれらすべてはこの物語に何も関係がない。」と、おもむろに主人公の「人となり」にバック。曹長は毎日酒場でバカ騒ぎを繰り返していますが、その過去に何かがあり、彼自身過去に囚われている。この話は、この事件当時18歳であった新米兵が、12年後に思い出として語っています。 曹長の部屋で彼は一枚の写真を見つけます。曹長と若い美しい女性とのツーショット写真。その御夫人は、彼も幼い時知っていた女性。彼が、「親密な関係だったのでしょうか。」と嫉妬心も込めて曹長に尋ねました。 「覚えておけ」と曹長は言います。「人は人と親しくならない。覚えておけ、いいか。最上の友でさえ隣に立つにすぎない。同じ景色の前でだ。それを友情と呼ぼうが愛とか結婚と呼ぼうが、同じ額縁にむりやり押し込むことでしかない。」 ある時二人が道を歩いていると、写真の女性にばったり出会します。その隣には立派な夫である中尉が。曹長は亡霊にでも会ったように真っ青になります。その後、曹長が兵士に語ったことは、「いいかお前、だしぬけに己の過去に出くわすほど恐ろしい災難はない。サハラ砂漠で迷おうとも己の過去に迷ったよりはたやすく脱出できる。―――――――、ひとつだけ言わせてくれ。過ぎたことは振り返らんよう、くれぐれも気をつけろ。振り返っちゃおしまいだ。――――。」 そして、その日の夜、曹長は自殺しました。 訳者あとがきでは、曹長は過去に迷って自殺したと書かれています。わたしが思うには、曹長は、人間に絶望していたのではないかと。「過去からの亡霊」に会って、その日の夜、いつもの「霰弾亭」で、彼は彼の周りを見回した。そこにたむろしていた人々は、「クズどもや悪党やいかさま師や取り持ち屋」。彼を理解しない人々、理解しようとも思わない人々。 三島由紀夫の『命売ります』の最後で、主人公の羽二男が「人生のドタバタ劇」の後に見たものと同じ。羽二男は泣きたくなって星を見上げたが、曹長は……。 | ||||
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大きな書店の東欧のコーナーや白水社のuブックスの一冊として何度もその名前を目にして気にはなっていたものの、いままで手にする機会がありませんでした。 本書は50ページ前後の短編もふたつありますが、概ね数ページの掌編、幻想的というより奇譚という言葉が相応しい作品が収められています。いずれの作品も、死のイメージに縁取られているため、時や場所の隔たりが読むこちらといかほどあっても、曰く言い難い余韻が読後に残ります。文体というより、語り口に媚薬のような秘密があるのだと思います。 | ||||
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ペルッツの長編は未読です。通勤途中などに読むのにまず短編からのがいいかと思いこちらを入り口としました。 作品紹介から幻想小説と思っていたのですが、これは正確ではありませんでした。「奇譚」という言葉がふさわしいイメージです。 それぞれの内容やテーマは、重厚なように見えて軽いツイストの効いたものが多く、でもその解釈も多様にできるという--英米文学のスマートさと異なる物語の処理の仕方は、私の場合手放しに好きとは言えないものの、どれも面白く読みました。 ただ、出自や経歴が異なる一人称の話し手の言い回し、前時代的なエピソードを連ねる三人称の地の文などは、原文の言葉で知らないと、本当に面白くは読めないのかもしれない...坂口安吾や泉鏡花をその文章のリズムで楽しんだのと同様に... 誤解のないように書くと、日本語翻訳には何も不満はないです。上に書いたことまで翻訳に求めるのは無理なので、これは原語で読めない私の問題なのですが。 長編がもっとストーリーで読ませる内容だとすると、現代日本人が翻訳で読むなら、その方がいいのかもしれません。私も長編も試してみようと思います。 | ||||
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国書刊行会などで長篇が訳出され、幻想文学好きに注目されているペルッツの、珍しい短篇集。8作収録されているが、数ページから20ページ程度の非常に短いものが5本、50ページ超の中篇が2本、短篇なりのページ数でまとまっているものは1本という、かなりバラバラ感のある内容だ。 一読して感じるのは、やはりペルッツは短篇より長篇の方が味わい深いのでは?ということ。ごく短いものは、割と普通かな?と感じるのだが、訳者の垂野氏による巻末の解説を読むと「おおっ?」となる。で、その視点でもう一度読んでみると、違う物語が立ち上がって見えてくる・・・という、ちょっと曲者ぶりを感じる。まあ、垂野氏のペルッツ愛がなせる「深読みのしすぎ」も多分にあるのかもしれないが(笑)。 全作品中ストレートに面白かったのは、90ページ近くある表題にもなっている『アンチクリストの誕生』で、これはまさにペルッツならではの「語りの面白さ」を堪能した一本だった。 以下は個々の作品に関しての感想だが、中には内容に著しく触れるものもあるとお断りしておく。 ◆『「主よ、われを憐れみたまえ」』 ソビエト成立初期が舞台。秘密警察の議長ジェルジンスキーが暗号解読のため、「反革命思想の疑い」で投獄されている男を呼び出し、暗号解読と引き換えに助命を提案する。その男ヴォローシンは、転向するつもりはないが処刑される前に一目妻子に会いたいと歎願する・・・。 妻子の元へ向かうヴォローシンの旅がプチ冒険譚になっていたり、その後の心変わりの様子など、変転していく物語にペルッツの特長をみてとれるのだが、いかんせん尺が短いので、一読しただけではペルッツらしさを堪能とまではいえず、短篇としては普通かな?と感じるのだが、垂野氏によると「主よ、われを憐れみたまえ」をキーワードに、ジェルジンスキーの物語としてひっくり返して読む事ができるという。確かに、この短篇はジェルジンスキーで始まり、ジェルジンスキーで終わっているのだ。 ◆『一九一六年十月十二日火曜日』 負傷し捕虜となった男が、療養所でたまたま手にした「一九一六年十月十二日火曜日」の新聞を暇つぶしに270回も繰り返し読んだことで、その一日に異常に精通した知識を得るというミニマリズムの極致のようなワン・アイディアもの。ペルッツの作品が広範な知識を駆使して構成されるのと対照的、というか逆転の発想で書かれた作品か。 ◆『アンチクリストの誕生』 やはりペルッツはこれぐらいの長さから真価を発揮する、と感じる中篇小説。「逃亡した殺人者」と「出奔した尼」から生まれた赤子は、果たして背徳の申し児なのか?夜な夜な夫の元を訪れる怪しげな3人組に不安を募らせ、疑心暗鬼に陥る妻の姿はローズマリーの赤ちゃんか?と思わせ、そのあと畳みかけるように展開していく物語は幻想小説というよりエルモア・レナードのような面白さ。また、博覧強記のペルッツらしい知識が詰まった内容も注目。鍵の鋳型を作るのに蝋など不要で「パンで取れる。一晩もたてば石みたいにコチコチになるから」とか、「ベーコンの一切れをちぎり取って、古い木綿のナイトキャップを芯に使えば立派にランプの代用になるのさ」とか、18世紀の子悪党どもの世界を覗いて来たかのような生々しいセリフが最高に面白い。 これ一篇を読めただけでも本書を買ったかいがある、と感じた。 ◆『月は笑う』 代々月を恐れ、憎んできた一族の物語。呪われた年代記を語り、月へのオブセッションに憑りつかれた男爵は狂っているのか、それとも-。 ペルッツ未刊の短篇やエッセイなどを収録した『ウィーン五月の夜』(法政大学出版局)に、この作品の習作と思われる、ほとんど同じ内容の短篇が収録されている。 ◆『霰弾亭』 冒頭の、曹長が銃で自殺した弾が、まるで意志を持っているかのように飛び回りあちこちに災厄をもたらしていく描写から超絶に面白いペルッツの語り。ペルッツお得意の、女性の因縁を巡って運命を狂わされていく男(たち)。『月は笑う』にも通じるものだが、主観と客観の違いで、起こっている出来事がいかに当事者にとって忌まわしいものになるか、についての物語。 ストーリーテリング以上に、例えば酒場で浮かれ騒ぐ兵隊たちの喧噪・猥雑さなどの描写力が光る一篇。 ◆『ボタンを押すだけで』 降霊術の会を舞台に描くブラック・コメディで、オチも含め短篇小説定番の展開・・・と思っていると、垂野氏の解説の後に再読すると、色々な裏読みができる物語だと気づく。20ページ弱の内容ながら、ペルッツの曲者ぶりが伺える短篇。 ◆『夜のない日』 具体的に語るとネタバレになってしまうのであいまいに表現するが、実在した夭折の天才数学者エヴァリスト・ガロア(1811~1832)をモデルにした物語なのだそうだ。実は本作と似たようなことを、トム・ストッパードが戯曲『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』でやっている(笑)。 ◆『ある兵士との会話』 わずか4ページのショート・ショート。バルセロナの街頭で「わたし」が出逢った表現豊かな唖の兵士とのやりとりを描く。 垂野氏の解説によると、ペルッツの小説には「万有の獲得の対価としての最愛の女性の喪失」というモチーフが共通してあるという事だが、本作では「あらゆる事を手ぶりで表現できる男」が・・・どうなるのか、は読んでのお楽しみ。 レビュー冒頭でも書いたが、これは訳者の垂野氏の解説を読んで新たな発見がある、言ってみれば解説を読む事で真の意味で完結する、というメタな愉しみがある短篇集でもある、と思うのだ。では再び長篇に戻るとするか。ペルッツ探求の旅はまだまだ続く(笑)。 | ||||
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