夜毎に石の橋の下で
- 歴史小説 (99)
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幼少の頃サイレント映画の名作『ゴーレム』を見て以来、中世のプラハのユダヤ人地区の迷宮めいた町並みがその衒学的でミステリアスな雰囲気とともに自分のなかで原風景の一部になっていた。 カフカの『審判』でヨーゼフKが裁判に出頭するため出向いてゆく郊外のごちゃごちゃとした貧民街にも似たような面影があった。 とりわけ屋根裏部屋に忽然として出現する未確認飛行物体的な裁判所のイメージは強烈なインパクトを残した。 子供心にもいったいカフカはどこからこんな奇抜なトポロジーの着想を得たのだろうとつくづく感心したものだったが、ここでペルッツが幻想的な小話を重ねながらゲットー化したプラハのユダヤ人街の風景を実に陰影深く描き出してくる ゴーレムの生み親と言われる神秘主義者のラビや神聖ローマ帝国の伝説的な狂王、ユダヤの神話的な大富豪に宮中の策士、天使と幽霊、錬金術師と道化、大道芸人に盗賊の一味・・・魅力的な御伽噺の人物が走馬灯の影絵のように交錯するこの連作集の舞台にも、同じ陰微で謎めいた裏通りの気配が決して晴れることのない歴史の霧のように立ち込めている。 訳者さんの後書きを読んで、ここで語られている多くのエピソードが部分的に史実に基づいていたり、中欧のユダヤ人にとっては馴染み深い伝説の数々に取材していることを知ったのだけど、古典的な怪談の体裁を取りながらも、この作者特有の人を食ったようなユーモアと神妙なアイロニーが現代的で洒脱な趣きを与えています。 所々くすくす笑いが抑えきれずに爆笑に変わってしまうような抱腹絶倒の瞬間があると思えば、夜毎の夢を通して結ばれながらも決して白昼のもとでは成就されることのない皇帝とユダヤ商人の妻の間の悲恋のように色艶があるだまし絵めいた小話にも事欠かない。 『サラゴサの手稿』のファンは迷わず読むべきでしょう。 各章が切りのいい長さで、すっきりとした小粋な落ちとともに終わっているので、気張ることなく各人のペースで読み進めることができるのもいい。 それでいて、それぞれの独立したエピソードが思わぬ場所で連環しているので、大伽藍の全景を確認したり、細部の意匠の微妙を味わいなおすために、一読だけでは飽き足らず、何度も戻って行きたくなるような麻薬的な魅力に富んでいます。 | ||||
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ペルッツは、昔かの名作『第三の魔弾』を読んで、七〇年代くらいのラテンアメリカ作家だとばかり思い込んでたんだよね。それが20世紀初頭の東欧作家とは意外や意外。 で、これはそのペルッツのかなり後期の作品……と書くことにどこまで意味があるのやら。狂王ルドルフ二世に、大富豪のユダヤ人商人、その妻、その財産、ユダヤ教司祭に天使、そのそれぞれの運命が本人すら気がつかないほどかすかに、だが多様な形でからまりあい、そのかすかなからみあいが、それぞれの人生を大きく変えている――読むうちにそれがだんだん明らかになってきて、そして冒頭の短編に出てきた司祭の謎の行動がやがて解き明かされるとともに、すべてのパズルの駒がおさまって、大きな悲しい絵ができあがる――そしてその絵も、もはや語り手が語る時点ではすべて過去のものとなり、これまたかすかな痕跡が残るばかり。 ラノベに代表される下品な小説みたいに、なんかいちいちでかい事件が起きて、いちいち主人公が「うぉぉぉ」とかわめいたり爆発が起きたり、ラスボスが出てきて「ふっふっふ、実は我こそは」とか説明してくれたりしない。説明がむずかしい本で、とにかく読んで、としか言えないし、ある程度の辛抱と頭のバッファがあって、いろんな宙ぶらりんの糸口を宙づりにしておく能力がないと、それがだんだんとつながって大きな輪になるおもしろさあは感じられないだろう。こういうのをうまく説明できたらな、とは思う。最近、小説系があたりが多いので、それをまとめてとも思ったけれど特に共通点もないのでそれもむずかしいし。 でも、静謐でありつつ運命の残酷さとそのはかなさみたいなのをゆっくり感じたい人にはお勧め。夏よりは冬に読みたい小説だと思う。 | ||||
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