どこに転がっていくの、林檎ちゃん
- 復讐 (158)
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今やコンプリートの勢いで邦訳が進むレオ・ペルッツ最新作にして往時最大のヒット作。帝政崩壊期のウィーンから内戦下のソ連、やがては欧州全域を跨にかけての大復讐行。重量級の内容に関わらず分量はコンパクト、その癖、読後感はずっしり満腹、というリーダビリティの見本のような大傑作。読むべし。 な、割に主人公ヴィトーリンは「レオナルドのユダ」よろしく、手前勝手なルールで親弟妹恋人から己の将来までを踏みにじってゆく、およそ好感のもてない人物。にも関わらず読書中は大して不快感を感じずに済むのは、主人公と一定の距離を保ってその内面にあまり踏み込まないペルッツさんの姿勢にあり、ジェームズ・ボンドの薄っぺらさと安っぽさを糊塗すべくその醜悪な内面を書き込んでしまったイアン・フレミングには是非学んでほしかったところであります。 毎度のお楽しみ、訳者の垂水氏による解説は相変わらず快調で、読後、そのまま本編を再読したくなる魅惑に満ちております。しかし (以下、ネタバレあり) 少し残念なのは本作最大の謎である主人公の「動機」についてあまり踏み込んでくれなかったこと。あえて言及を避けたのかもしれませんが、本来、中産階級出身の主人公が「誇り」だの「名誉」だのにこうも固執する必然はなく(それが骨絡みになっているような人間として描くならば脇役の白軍将校たちのように貴族のボンボンか何かに設定するでしょう)、勿論、虐待死した空軍将校の為でもない(何しろろくすっぽ思い出しもしないのだから読者には最後まで名前がわからない)。作中、主人公が執拗に反復し続けるのは仇敵であるセリュコフの気取りと洗練。聖ゲオルギー勲章と中国煙草を持つ挙措にスカしたフランス語の言い回し。屈辱なのは「教養があり高等教育を受け、フランス語にも堪能である男」である自分を犬のように扱ったこと。 「それ」は、元々特権階級に属する主人公の戦友達にはおよそ理解できず、只一人協力的だった赤のコホウトの言う「不当な搾取」に、本筋と無関係な割に無暗と書き込まれた主人公の父親の主張する「陰謀」と同じもの。おそらくは当時の読者達ならばピンときたであろう、「クリスマスまでには帰ってこれる」とわざわざ志願していった多くの若者達が抱いていた、「栄光の戦場」に「偉大なる英雄としての凱旋」と「自分をエスタブリッシュメントとして迎え入れる社会」という「輝ける未来への約束」が反故にされたことへの怒り。それは断じて「無事を喜ぶ家族や恋人」「親身な言葉とともに元の職場へ復職できる」”程度のもの”と引き換えにできるはずがない。 俺の未来を奪った奴は誰だ? いや、知っている。俺がぶち込まれた収容所を支配していたあのロシア人。俺が欲しかった全てを体現したあの男。あいつだ。あいつが「俺が獲得できたはずのすべて」を奪い取ったんだ。断じて許さん。必ずその報いを受けさせてやる。 まるでデュマの小説だ〔あるいはヴェルヌの『皇帝の密使』あたりかも〕。 ゆえに、本書の白眉はロマン派まがいの吶喊を行う主人公が敵の火線に粉砕されるシーン。「世界を変えた第一次世界大戦」の象徴的光景を主人公が反復するこの場面こそ本書の真のクライマックスと呼ぶべきかもしれません。 そう、「輝ける未来への約束」などどこにもなかった。それはせいぜい午前いっぱいの時間潰し程度のもの。そんなものにかまけてあらゆるものをドブに捨ててしまったことがわかる本作の結末は空虚で哀しい。 だが、もしこの結末に納得できなかったとしたら? 反故にされた約束への怒りをボリシェビキへの憎悪と、トルコのシーンで描かれた差別と偏見に満ち満ちた言葉を、「何故か」本作では語られないが、この手の文脈では必ず言及される「ユダヤ人」に嵌めこんだ「オーストリア人」が権力の座に就くのはほんの数年後だ 〔かの御仁が本作を手にしたのなら『「奴らは無数にいる。奴らは無敵である。奴らは偏在する」まったくだ!私の本(我が闘争)から剽窃したのか?豚め、手癖の悪さだけは達人級だ』とのたまったことでしょう〕。 期せずして時代を掬いとってしまったことこそ本作が名作である証しなのです。 | ||||
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わずか300ページばかりのヴォリュームだが、さながら大河小説を読了したかの様に、濃縮された物語を味わった感動を覚える。若き日のイアン・フレミングが作者に向け熱烈なファンレターを寄せたというエピソードも納得。 題名はロシアで流行した俗謡から採られているが、まさに転がる林檎の如く復讐の執念に囚われた主人公の流転の果て、そこに待ち受ける結末に寂寞たる人生の哀歓を感じずにはいられない。 | ||||
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