(短編集)
死者の百科事典
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ユーゴの作家キシュの最期の作品集。 9篇すべて、幻想的な手法で人間の愛と死、生と性の有様を描いていて、控え目な表現の作品、あまり声高に何かを訴える作品ではないですが、不条理な戦争、憎しみ合い等を告発している様に感じました。 キリスト教圏の作家という事で、キリスト教の寓話等からの引用が多く、キリスト教と縁のない私の様なデバガメにはいまいち判りずらい所もありましたが、万人に開かれた短篇集だと思いました。 キシュは自伝的な「若き日の哀しみ」以来二作目ですが、あの小説でも戦時のハイパーインフレのせいで、大金を持っていても何も買えないシチュエーションがありましたが、本書でもそういう場面が出てくる短篇があり、キシュが如何に幼少時、戦争で衝撃を受けたか何となく判りました。 人間の悲しみを描いた味わい深い幻想譚9篇を集めた短篇集。是非ご一読を | ||||
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ダニロ・キシュは旧ユーゴスラビアの作家でもともとは詩人。ユダヤ人の父親はアウシュビッツに収容され帰らない人となった。第二次世界大戦によって翻弄された彼の背景を知っておくと、この短編集でキシュが語ろうとする様々な意味を理解しやすいと思う。 全ての話が様々な異なるスタイルと文体で描かれる。キシュにとっては描く内容と同時にどの様な文体で描くかが重要なテーマである。 私の好きなベスト4は次。 『魔術師シモン』 キリスト教の異端であるグノーシス主義の開祖と言われるシモン・マグス。差異としての異端が描かれる。 空から手足をバタバタさせて落ちてくる様が目に浮かぶようで可笑しい。異説が付けくわえられ、生きたまま土の中に埋められる。空は飛べても土からは抜け出せなかったらしい。 異説と通説とどちらが正しいのかはもう誰にもわからない。 『死者の百科事典』 書簡の形で述べられる。 愛と死に加えて、我々は不明な生を生きていること、それに基づく不安と悲しさ、存在論的なよるべなさが伝わってくる。 スエーデン王立図書館に収められた「死者の百科事典」。その中に記載された一人の平凡な男(Dj.Mとしか書かれない)の人生が、娘である語り手の女性によって読みあげられていく。 「死者の百科事典」は、死んでしまえば誰の記憶にも残らない市井の人達を忘れないために編纂されたもの。他者にとっては意味のない出来事が、その人の視線で、その人が主人公となり、語ってもかたっても語りつくせないはずの全ての事実が言葉としてその中に在り、そしてそれが全てとなる。 しかしその百科事典は、女の見た夢にすぎなかった。そしてその夢から覚めた瞬間、その男の全ての事実が消えてしまう儚さ。そしてそれは本当にただの夢にすぎなかったのだろうか。 『眠れる者たちの伝説』 聖書とコーランを原典とした詩のような小説。 湿り気を帯びた乾いた表現で幻想的な世界が描かれていく。 セリウスの丘の暗い洞窟のなかで繰り広げられる、ディオニシウスとその友マルフス、神に祝福された牧人ヨハネとその犬の生と死、永遠に流れる時間の中で見る夢と現と幻。 今感じ、見て、触れている世界がただの夢だったとしたら、それが夢だとわかっていながら、その息苦しい夢の中から逃れることが出来ないのだとしたら。それは一体何なのか。 『王と愚者の書』 ボルヘスをかなり意識したと思われるドキュメントタッチの歴史小説。「シオン賢者の議定書」に基づいたキシュの練りにねった壮大な妄想。 偶然と運命と時代とにより、あてにならない何かに導かれ、何もかもが決定されてしまう現実の不確実さと愚かしさ・空虚さを描いたもの。そして王に相応しい人物は登場しない。 若干文脈を追いづらい部分があるため、「書」の流れについて、ごく大雑把ですが紹介します。 物語は1906年に書かれたペテルブルグのある新聞の連載記事に始まる。その記事は何時とはなしに「謀略」と名付けられた文書として伝わり、それをもとにある隠者が本を作り、ニコライ二世の愛読書にもなる。またそのうちの一冊はロシアの元女帝に渡り、彼女は虐殺される前にそれに幸福と神の祝福の象徴として逆卍を書込む。 その後その「謀略」の普及版は様々な言語に翻訳され、暴動、紛争、対立を呼び起こし、最後に例の独裁者の手に渡り、それによりホロコーストが引き起こされる。 ところが、世界を導き甚大な厄災をもたらしたその「謀略」と呼ばれる本は、実は1800年代半ばに書かれ、一冊だけ世界に残され、作者が誰なのかも知れない、表紙さえもない、誰からも忘れ去られたただの古本をコピーしたものに過ぎなかったことが明らかになる。 その他、好きな順に。 「赤いレーニン切手」、「師匠と弟子の話」、「未知を映す鏡」、「祖国のために死ぬことは名誉」、「死後の栄誉」 | ||||
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◆「王と愚者の書」 〈『謀略』は、歴史のすべての敗北の陰には「謎めいた、陰険で危険な勢力」 が存在する、ということを教える参考書となった〉 〈こうして、ルネッサンスの王子の教育のために書かれた一冊の参考書は―― ジョリーの哲学的な輪廻を経てニルスの歪んだ鏡で屈折し――現代の独裁者たち の手引きとなるのだ〉 全体主義をテーマとし、ミステリのスタイルで書かれた壮大な政治小説。 一冊の本の変遷により、ロシア、ユーゴスラビアまで含めた二十世紀のヨーロッパ 全土を覆いつくす「陰謀史観」が形作られ、ウクライナでは約六万人が殺されます。 全体主義に至る、人類共通の思考と心理のプロセスが、 淡々と、しかし凄みを持って形象化されています。 ◆「死者の百科事典」 無名の死者の生涯が、すべて収められている「死者の百科事典」。 今世紀のユーゴスラビアを生きた男の生涯を、その娘 (「私」)が、事典の記述に即して語る形式が採られます。 二段構えの結末で、最初はいわゆる「××オチ」。 しかし、「私」が唯一書き取れた、事典の最後の段落に書かれていた記述から、 父が晩年に行っていた奇妙な行動の謎が明かされることとなり、ラストで鮮烈な イメージが読者に突きつけられます。 ▽付記 本作のラストは、作者の実人生ともリンクしていたと知った時は驚きでした。 (詳しくは、本書の山崎佳代子氏による解説をお読みください) | ||||
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