わたしを離さないで

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評判

わたしを離さないでの評価:

4.11/5点 レビュー 714件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.11pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1,450件 1,361〜1,380 69/73ページ
No.90
(5pt)

主人公の視点の背景を考えさせられる

小説の中盤で明かされる秘密自体は、そんなにショッキングなものではありません。他の人も言ってますが、粗筋や書評を見て「そうかも」と予想していたネタでした(20年以上前にコバルト文庫で読んだ新井素子さんの小説でも、同じネタを扱っていたのを思い出しました)。
 だから、そういうSF的味わいは2次的なものです。(ただ、この世界はカセットテープとかウォークマンとかとても古臭いものに満ちていて、下手すると80年代の英国では、と思わされます)。感じるべきは主人公キャシーの少女らしい瑞々しい感性や、得られたかもしれない大切なものをほんの少しの選択ミスから失ってしまうこと、それはもう取り戻せないと思い知ること、そんな喪失感、はかなさでしょう。非常に繊細な文章で描かれていて、傑作だと思います。
 ただ、実際的な話としては不思議に思います。主人公達は普通に会話し、車の運転をし、そして、外観も街で一般人に埋没できるもののようです。なのに、何故、自分達の運命に抗おうとしないのでしょう。教育のせいだけとは思えない。
 主人公の視点から語られるのでわからないのですが、やはり彼・彼女は知能その他で実は異なっていたのでしょうか。ヘールシャムで力が入れられていたのは詩・美術などの芸術分野です。わたしはエイブル・アートという言葉を思い出しました。この本の翻訳はとても美しい日本語ですが、もしかしたら、使われている熟語などは、英語だと、もっと平易な言葉なのではないでしょうか。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.89
(5pt)

主人公の視点の背景を考えさせられる

小説の中盤で明かされる秘密自体は、そんなにショッキングなものではありません。他の人も言ってますが、粗筋や書評を見て「そうかも」と予想していたネタでした(20年以上前にコバルト文庫で読んだ新井素子さんの小説でも、同じネタを扱っていたのを思い出しました)。
 だから、そういうSF的味わいは2次的なものです。(ただ、この世界はカセットテープとかウォークマンとかとても古臭いものに満ちていて、下手すると80年代の英国では、と思わされます)。感じるべきは主人公キャシーの少女らしい瑞々しい感性や、得られたかもしれない大切なものをほんの少しの選択ミスから失ってしまうこと、それはもう取り戻せないと思い知ること、そんな喪失感、はかなさでしょう。非常に繊細な文章で描かれていて、傑作だと思います。
 ただ、実際的な話としては不思議に思います。主人公達は普通に会話し、車の運転をし、そして、外観も街で一般人に埋没できるもののようです。なのに、何故、自分達の運命に抗おうとしないのでしょう。教育のせいだけとは思えない。
 主人公の視点から語られるのでわからないのですが、やはり彼・彼女は知能その他で実は異なっていたのでしょうか。ヘールシャムで力が入れられていたのは詩・美術などの芸術分野です。わたしはエイブル・アートという言葉を思い出しました。この本の翻訳はとても美しい日本語ですが、もしかしたら、使われている熟語などは、英語だと、もっと平易な言葉なのではないでしょうか。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.88
(5pt)

無慈悲で、残酷な世界

「日の名残り」と同じ作家が書いたとは思えない作品でした。押さえられた、抑制の効いた文体で、完璧なストーリー構成でした。個人的には、ブッカー賞を受賞した「日の名残り」より、こちらの作品の方が良かったと思います。

人格を認めらず、物体としてしか扱われないクローンたちが、その事実を再認識した時、何を考えたのでしょうか。キャスとトミーの別れのシーンは、淡々と書かれているがために、一層胸にくるものがあります。
科学技術が進歩し臓器移植の技術は進んでも、その提供者がいなければ何にもなりません。毎日の新聞でも、その不足ぶりや、トラブルが盛んに報じられます。それを考えると、この物語は、フィクションとばかりは言えない空恐ろしさを持って、迫ってきます。

マダムは言います。「科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。・・・心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱き締めて、離さないで、離さないでと懇願している。」
この言葉が、この小説のすべてを語っているように思います。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.87
(5pt)

人は生きる、それぞれの「自分勝手な解釈」で

SF的な形式をとりながら、人間のエゴイズムについて掘りさげた小説だなあと、私は思いました。『日の名残り』にも共通する、知り合いの思い出話を聞くような文章で、すんなり読み進んでいけますが、数ページでその異常さに気づき、それは章がひとつ進むごとに増していきます。「人間」でありながら人間ではないキャシーHたちと一緒に、彼らを生み出した「人間」の善良さに期待していくと・・。人間の善良さとはいったい何なのか。実は私たちも形を変えた「提供者」ではないのか。読み終わったあとも、読者にいろいろ考えさせる力を持った作品です。実は私も読み終わった夜、心がざわざわして、よく眠れませんでした。カズオ・イシグロの作品のなかでも、最も読みやすく、また、翻訳の土屋政雄さんの日本語が、私はとても好きでした。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.86
(5pt)

無慈悲で、残酷な世界

「日の名残り」と同じ作家が書いたとは思えない作品でした。押さえられた、抑制の効いた文体で、完璧なストーリー構成でした。個人的には、ブッカー賞を受賞した「日の名残り」より、こちらの作品の方が良かったと思います。

人格を認めらず、物体としてしか扱われないクローンたちが、その事実を再認識した時、何を考えたのでしょうか。キャスとトミーの別れのシーンは、淡々と書かれているがために、一層胸にくるものがあります。
科学技術が進歩し臓器移植の技術は進んでも、その提供者がいなければ何にもなりません。毎日の新聞でも、その不足ぶりや、トラブルが盛んに報じられます。それを考えると、この物語は、フィクションとばかりは言えない空恐ろしさを持って、迫ってきます。

マダムは言います。「科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。・・・心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱き締めて、離さないで、離さないでと懇願している。」
この言葉が、この小説のすべてを語っているように思います。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.85
(5pt)

人は生きる、それぞれの「自分勝手な解釈」で

SF的な形式をとりながら、人間のエゴイズムについて掘りさげた小説だなあと、私は思いました。『日の名残り』にも共通する、知り合いの思い出話を聞くような文章で、すんなり読み進んでいけますが、数ページでその異常さに気づき、それは章がひとつ進むごとに増していきます。「人間」でありながら人間ではないキャシーHたちと一緒に、彼らを生み出した「人間」の善良さに期待していくと・・。人間の善良さとはいったい何なのか。実は私たちも形を変えた「提供者」ではないのか。読み終わったあとも、読者にいろいろ考えさせる力を持った作品です。実は私も読み終わった夜、心がざわざわして、よく眠れませんでした。カズオ・イシグロの作品のなかでも、最も読みやすく、また、翻訳の土屋政雄さんの日本語が、私はとても好きでした。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.84
(4pt)

心が痛くて腫れ上がってる感じ・・

この本を読んだ夜、一睡もできなかった。トミーが最後にキャッシーに手をふった光景に脳みそが振り回されて心が痛くて腫れ上がってしまった感じだ。人としての尊厳を(だけは)与えられず最後は物を与える「物体」として葬られていく過酷な運命をすみやかに受け入れるために仕組まれた(?)ヘールシャムでの教育。いじめられっこだったトミーを救ったありのままでいいと教えたルーシー先生の言葉。そのトミーが自分の無残な最期を最愛の人に見せたくないためにとった態度、プライドと思いやりは人としてこそのものだし、崇高ささえ感じられる。彼らのような存在は決して作り出してはならない。科学の進歩が生み出す酷さ・・少しでも現実になる可能性があるのなら、それを打ち砕く警鐘となる一作になってほしい、ならなければいけないと思う。思わずのめりこんでしまった秀作である。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.83
(4pt)

心が痛くて腫れ上がってる感じ・・

この本を読んだ夜、一睡もできなかった。トミーが最後にキャッシーに手をふった光景に脳みそが振り回されて心が痛くて腫れ上がってしまった感じだ。人としての尊厳を(だけは)与えられず最後は物を与える「物体」として葬られていく過酷な運命をすみやかに受け入れるために仕組まれた(?)ヘールシャムでの教育。いじめられっこだったトミーを救ったありのままでいいと教えたルーシー先生の言葉。そのトミーが自分の無残な最期を最愛の人に見せたくないためにとった態度、プライドと思いやりは人としてこそのものだし、崇高ささえ感じられる。彼らのような存在は決して作り出してはならない。科学の進歩が生み出す酷さ・・少しでも現実になる可能性があるのなら、それを打ち砕く警鐘となる一作になってほしい、ならなければいけないと思う。思わずのめりこんでしまった秀作である。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.82
(3pt)

主人公の静かな息づかいは確かに感じる

読み進めるうち、クローンがどうとか、倫理がどうだとかは
あまり重要じゃない気がし始めた。

この小説ではそういった一見異彩を放つ要素は
実は単なる付録に過ぎないんじゃないかと。

それよりむしろ、主人公の人生経験を
一人称の語りで構築していく作業そのものが
この作品の目的のように感じています。

だから読後、生命倫理について深く考えようという気にはほとんどならなかった。

その一方でこの作品に強く魅せられた点は、
まるで彼女の吐息が耳元にかかるような気配まで感じながら、
あるいは彼女が踏み入れた沼地の湿り気を足元に感じながら、
キャシー・Hという人間の存在感の確かな余韻に包まれたことに他ありません。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.81
(3pt)

主人公の静かな息づかいは確かに感じる

読み進めるうち、クローンがどうとか、倫理がどうだとかは
あまり重要じゃない気がし始めた。

この小説ではそういった一見異彩を放つ要素は
実は単なる付録に過ぎないんじゃないかと。

それよりむしろ、主人公の人生経験を
一人称の語りで構築していく作業そのものが
この作品の目的のように感じています。

だから読後、生命倫理について深く考えようという気にはほとんどならなかった。

その一方でこの作品に強く魅せられた点は、
まるで彼女の吐息が耳元にかかるような気配まで感じながら、
あるいは彼女が踏み入れた沼地の湿り気を足元に感じながら、
キャシー・Hという人間の存在感の確かな余韻に包まれたことに他ありません。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.80
(4pt)

色々考えさせられる


邦訳が書店に並んでいて、著者の名前が日本人ぽいので興味を引かれ原書で読んでみた。

内容については全く予備知識なく、タイトルから恋愛小説と想像していたところ、全く予想外のシチュエーションにとまどった。そして読み終わったあともこの小説のテーマは何だったのだろうと消化しきれない思いが残っている。

主人公のキャシーの職業は一種のセラピストかなと思われるシーンから物語は始まる。その後舞台は、キャシーが幼年時代から生活したヘイルシャムという名の養育施設に移り、一見普通の施設に見えるヘイルシャムにおけるキャシー、親友のルース、トミーの日常生活が描かれるが、キャシーが感じていた違和感の原因を探るうちに、施設の真の意味が次第に明らかになってくる。

一種のミステリー仕立てでもあるので、余り詳しくは書けないが、主人公達が薄々感じている施設の意味と、自分達の存在意義を発見する過程や、その中で描かれる友情と愛情と亀裂が実に見事に描かれており、テーマは重いが最後まで飽きるところは全くない。

でも読み終わるとやはりテーマの重さがずっしりと圧し掛かる感じがする。ただ、主人公達の運命の受け入れ方を見ると、著者には社会的正義を訴えたいという意図があるようにも思えず、著者にとってこの小説のテーマは何なのだろうと消化しきれない思いが残った。

小説としては非常によくできていて最後まで一気に読ませるので、手に取って損のない作品だと思いう。英文は平易で難しい単語も少ないので、原書に挑戦したい人にもお勧めできる。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.79
(4pt)

色々考えさせられる


邦訳が書店に並んでいて、著者の名前が日本人ぽいので興味を引かれ原書で読んでみた。

内容については全く予備知識なく、タイトルから恋愛小説と想像していたところ、全く予想外のシチュエーションにとまどった。そして読み終わったあともこの小説のテーマは何だったのだろうと消化しきれない思いが残っている。

主人公のキャシーの職業は一種のセラピストかなと思われるシーンから物語は始まる。その後舞台は、キャシーが幼年時代から生活したヘイルシャムという名の養育施設に移り、一見普通の施設に見えるヘイルシャムにおけるキャシー、親友のルース、トミーの日常生活が描かれるが、キャシーが感じていた違和感の原因を探るうちに、施設の真の意味が次第に明らかになってくる。

一種のミステリー仕立てでもあるので、余り詳しくは書けないが、主人公達が薄々感じている施設の意味と、自分達の存在意義を発見する過程や、その中で描かれる友情と愛情と亀裂が実に見事に描かれており、テーマは重いが最後まで飽きるところは全くない。

でも読み終わるとやはりテーマの重さがずっしりと圧し掛かる感じがする。ただ、主人公達の運命の受け入れ方を見ると、著者には社会的正義を訴えたいという意図があるようにも思えず、著者にとってこの小説のテーマは何なのだろうと消化しきれない思いが残った。

小説としては非常によくできていて最後まで一気に読ませるので、手に取って損のない作品だと思いう。英文は平易で難しい単語も少ないので、原書に挑戦したい人にもお勧めできる。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.78
(5pt)

不思議な読書の時間、読後の余韻も未体験なものでした

架空な20世紀後半のイギリスを舞台にした物語です。
「介護人」という仕事を10年も続けた女性の独白という形で物語は進みます。
舞台は幼少女期を過ごした「ヘールシャム」という施設を中心に展開していきます。若い男女がおりなす青春物語の一方、その上に不気味な影を落とす「ヘールシャム」という存在。
「ヘールシャム」が、そして彼女らの存在を生んだ闇、それが少しずつ見えてきます。
「使命」を受け入れながら、わずかな希望の「うわさ」にさえ、期待を見つけようとする「生」への思い。
「生命の倫理」なんていう言葉がチンケな言葉にしか思えなくなるような闇を背負いながら、他人の「生」への「使命」と受け入れなければならない存在のもろさ。
どんな犠牲を払ってでも生き延びたいはずの「命」とはを、一方的な使命を背負わされて誕生した「存在」というパラレルワールドから見つめる、とても未体験な小説でした。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.77
(5pt)

不思議な読書の時間、読後の余韻も未体験なものでした

架空な20世紀後半のイギリスを舞台にした物語です。
「介護人」という仕事を10年も続けた女性の独白という形で物語は進みます。
舞台は幼少女期を過ごした「ヘールシャム」という施設を中心に展開していきます。若い男女がおりなす青春物語の一方、その上に不気味な影を落とす「ヘールシャム」という存在。
「ヘールシャム」が、そして彼女らの存在を生んだ闇、それが少しずつ見えてきます。
「使命」を受け入れながら、わずかな希望の「うわさ」にさえ、期待を見つけようとする「生」への思い。
「生命の倫理」なんていう言葉がチンケな言葉にしか思えなくなるような闇を背負いながら、他人の「生」への「使命」と受け入れなければならない存在のもろさ。
どんな犠牲を払ってでも生き延びたいはずの「命」とはを、一方的な使命を背負わされて誕生した「存在」というパラレルワールドから見つめる、とても未体験な小説でした。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.76
(4pt)

この緻密な箱庭のような世界

「日の名残り」を読まれたことのある方は、ほぼ同じテイストをイメージしていただいて間違いないと思います。
ある限定された特殊な社会で暮らす主人公が、幼年期、思春期、青年期に渡るエピソードを、繊細な描写と美しい文章で語ってゆく物語です。「日の名残り」では大英帝国の執事、今回は女性と主人公は違いますが、あたかも作者に主人公が憑依したかのような、リアルに語りきる作者の力量には、同じように舌を巻かされました。

ストーリーの後半でサプライズがあるところも同じです。似たような設定の話は世に多いようですが、カズオ・イシグロの場合、主人公たちは能動的に自らの住む世界を変えようとはしません。そうした類の活劇ドラマに展開させず、あくまで限定された特殊な社会の中で、静かな日常のドラマを繋いで行くことによって、独自の大きな物語世界を作り上げています。その意味では、この特殊な設定はカズオ・イシグロ的世界を構築するためのまさに「設定」に過ぎず、作品のテーマではないとさえ思えました。
カズオ・イシグロの作り上げるこの緻密な箱庭のような世界は、一見特殊なようでいて、逆にわれわれ一般人の平凡な人生のメタファーなのかもしれません。平凡で限定されているからこそ、いとおしい。執事や「提供者」の人生を借りて、それを作者は繰り返し表現している気がするのです。

繊細で、叙情にあふれる丁寧な文体。あまりに謙虚な語り口に、「日の名残り」の執事口調を思わせる、一種のあざとさを感じるところもありますが、それを補って余りある清冽な描写が胸を打ちます。特に最後のシーンは美しく、この一ページのためにこの長い物語が語られたのだ、と思えるほどでした。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.75
(4pt)

この緻密な箱庭のような世界

「日の名残り」を読まれたことのある方は、ほぼ同じテイストをイメージしていただいて間違いないと思います。
ある限定された特殊な社会で暮らす主人公が、幼年期、思春期、青年期に渡るエピソードを、繊細な描写と美しい文章で語ってゆく物語です。「日の名残り」では大英帝国の執事、今回は女性と主人公は違いますが、あたかも作者に主人公が憑依したかのような、リアルに語りきる作者の力量には、同じように舌を巻かされました。

ストーリーの後半でサプライズがあるところも同じです。似たような設定の話は世に多いようですが、カズオ・イシグロの場合、主人公たちは能動的に自らの住む世界を変えようとはしません。そうした類の活劇ドラマに展開させず、あくまで限定された特殊な社会の中で、静かな日常のドラマを繋いで行くことによって、独自の大きな物語世界を作り上げています。その意味では、この特殊な設定はカズオ・イシグロ的世界を構築するためのまさに「設定」に過ぎず、作品のテーマではないとさえ思えました。
カズオ・イシグロの作り上げるこの緻密な箱庭のような世界は、一見特殊なようでいて、逆にわれわれ一般人の平凡な人生のメタファーなのかもしれません。平凡で限定されているからこそ、いとおしい。執事や「提供者」の人生を借りて、それを作者は繰り返し表現している気がするのです。

繊細で、叙情にあふれる丁寧な文体。あまりに謙虚な語り口に、「日の名残り」の執事口調を思わせる、一種のあざとさを感じるところもありますが、それを補って余りある清冽な描写が胸を打ちます。特に最後のシーンは美しく、この一ページのためにこの長い物語が語られたのだ、と思えるほどでした。

わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.74
(4pt)

どのように考えればよいのだろう


全く予備知識なくタイトルから恋愛小説の一種と思い読み始めたが、全く予想外のシチュエーションにとまどった。そして読み終わったあともこの小説のテーマは何だったのだろうと消化しきれない思いが残っている。

主人公のキャシーの職業は一種のセラピストかなと思われるシーンから物語は始まる。その後舞台は、キャシーが幼年時代から生活したヘイルシャムという名の養育施設に移り、一見普通の施設に見えるヘイルシャムにおけるキャシー、親友のルース、トミーの日常生活が描かれるが、キャシーが感じていた違和感の原因を探るうちに、施設の真の意味が次第に明らかになってくる。

一種のミステリー仕立てでもあるので、余り詳しくは書けないが、主人公達が薄々感じている施設の意味と、自分達の存在意義を発見する過程や、その中で描かれる友情と愛情と亀裂が実に見事に描かれており、テーマは重いが最後まで飽きるところは全くない。

でも読み終わるとやはりテーマの重さがずっしりと圧し掛かる感じがする一方で、社会的正義を訴えたいという目的で描かれたとも思えないため、消化しきれない思いが残っており、作者に作品の意図を是非一度聞いてみたいと思った。

小説としては非常によくできていて最後まで一気に読ませるので、手に取って損のない作品だと思います。英語の勉強も兼ねて原書で読みましたが、文章は平易で難しい単語も少ないので、英文に挑戦したい人にもお勧めです。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.73
(4pt)

どのように考えればよいのだろう


全く予備知識なくタイトルから恋愛小説の一種と思い読み始めたが、全く予想外のシチュエーションにとまどった。そして読み終わったあともこの小説のテーマは何だったのだろうと消化しきれない思いが残っている。

主人公のキャシーの職業は一種のセラピストかなと思われるシーンから物語は始まる。その後舞台は、キャシーが幼年時代から生活したヘイルシャムという名の養育施設に移り、一見普通の施設に見えるヘイルシャムにおけるキャシー、親友のルース、トミーの日常生活が描かれるが、キャシーが感じていた違和感の原因を探るうちに、施設の真の意味が次第に明らかになってくる。

一種のミステリー仕立てでもあるので、余り詳しくは書けないが、主人公達が薄々感じている施設の意味と、自分達の存在意義を発見する過程や、その中で描かれる友情と愛情と亀裂が実に見事に描かれており、テーマは重いが最後まで飽きるところは全くない。

でも読み終わるとやはりテーマの重さがずっしりと圧し掛かる感じがする一方で、社会的正義を訴えたいという目的で描かれたとも思えないため、消化しきれない思いが残っており、作者に作品の意図を是非一度聞いてみたいと思った。

小説としては非常によくできていて最後まで一気に読ませるので、手に取って損のない作品だと思います。英語の勉強も兼ねて原書で読みましたが、文章は平易で難しい単語も少ないので、英文に挑戦したい人にもお勧めです。


わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.72
(5pt)

え? でもやっぱりイシグロ。

イシグロさんがこのような世界を描き出してくれるとは思いもよりませんでした。不思議な設定は過去にもなかったわけではありませんが、この形は彼にとって新たな挑戦であることに間違いはありません。しかし、中身はやっぱりイシグロそのもの。嬉しくなってしまいました。静謐で少し余計に丁寧な語り口。そのヒトとして持つべきささやかながら頑なこだわりが、全編を通じてバックミュージックのように流れ続けています。ファンにはたまらない1編になっているのは間違いありません。ヒトとしての生を受けることの出来なかった一人の女の子が(SF的な未来社会の設定です)、素直に「人」としての人生を、静かに、そして逞しく生きて行こうとします。イシグロの語りから紡ぎ出される彼女の人生に、その言い知れぬ切なさに、私の心も激しく揺さぶられてしまいました。翻訳版が出たようで、NHKの「週刊ブックレビュー」で紹介されるみたいです(それで、ふと思い出すようにこのレビューを書いているわけですが)。でも、イシグロの作品って、日本語で読んで意味あるんですかね(翻訳者さん、すみません)。彼の誰のものでもない、私達の宝物のような「英文」は、この作品の中でも健在です。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.71
(5pt)

え? でもやっぱりイシグロ。

イシグロさんがこのような世界を描き出してくれるとは思いもよりませんでした。不思議な設定は過去にもなかったわけではありませんが、この形は彼にとって新たな挑戦であることに間違いはありません。しかし、中身はやっぱりイシグロそのもの。嬉しくなってしまいました。静謐で少し余計に丁寧な語り口。そのヒトとして持つべきささやかながら頑なこだわりが、全編を通じてバックミュージックのように流れ続けています。ファンにはたまらない1編になっているのは間違いありません。ヒトとしての生を受けることの出来なかった一人の女の子が(SF的な未来社会の設定です)、素直に「人」としての人生を、静かに、そして逞しく生きて行こうとします。イシグロの語りから紡ぎ出される彼女の人生に、その言い知れぬ切なさに、私の心も激しく揺さぶられてしまいました。翻訳版が出たようで、NHKの「週刊ブックレビュー」で紹介されるみたいです(それで、ふと思い出すようにこのレビューを書いているわけですが)。でも、イシグロの作品って、日本語で読んで意味あるんですかね(翻訳者さん、すみません)。彼の誰のものでもない、私達の宝物のような「英文」は、この作品の中でも健在です。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196