わたしを離さないで

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評判

わたしを離さないでの評価:

4.11/5点 レビュー 714件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.11pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1,450件 1,341〜1,360 68/73ページ
No.110
(5pt)

泣けない悲しみ

涙は出ません・・が・・心の奥深くで泣けます。

近未来の悲劇ともとれるし、現在すでに闇で行われている事ともいえます。
私はこの話を「実験動物が言葉を話せたらきっと・・」とも受け止めました。
作者には不本意でしょうけど・・。

「日の名残り」と同じく、淡々とした語り口調が悲しみを誘います。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.109
(5pt)

泣けない悲しみ

涙は出ません・・が・・心の奥深くで泣けます。

近未来の悲劇ともとれるし、現在すでに闇で行われている事ともいえます。
私はこの話を「実験動物が言葉を話せたらきっと・・」とも受け止めました。
作者には不本意でしょうけど・・。

「日の名残り」と同じく、淡々とした語り口調が悲しみを誘います。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.108
(5pt)

回想としてのSF

Ishiguroの小説を初めて読んだ。流れるようなリズムを持った
不思議な英文に身を任せているうちに、最後には、胸を締め付け
られるような悲しみの描写の中にいた。通常は、SFの手法に
よくあるように、「ありえたかもしれない世界」は、外部からの
視点で描かれることが多いと思う。それを一人称の回想で描きだす
手法は、きわめて独自性が高く、リアリティを感じさせる完成度
に達していた。この物語の描く、生まれ持った特殊性と、その悲劇に、
映画「ブレードランナー」を思い出すひともいるだろう。最初の
1冊なので、この作者のことはよく知らないが、古典となりうる
風格をこの一冊に感じた。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.107
(5pt)

回想としてのSF

Ishiguroの小説を初めて読んだ。流れるようなリズムを持った
不思議な英文に身を任せているうちに、最後には、胸を締め付け
られるような悲しみの描写の中にいた。通常は、SFの手法に
よくあるように、「ありえたかもしれない世界」は、外部からの
視点で描かれることが多いと思う。それを一人称の回想で描きだす
手法は、きわめて独自性が高く、リアリティを感じさせる完成度
に達していた。この物語の描く、生まれ持った特殊性と、その悲劇に、
映画「ブレードランナー」を思い出すひともいるだろう。最初の
1冊なので、この作者のことはよく知らないが、古典となりうる
風格をこの一冊に感じた。

わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.106
(5pt)

「残酷な運命」は普遍的に

残酷な運命に翻弄された若者たちの一生から描き出されるものは、広い普遍性をもっている。

大人になる過程の瑣末なできごといちいちに共感しつつ読み進めると、うすうす気づきはじめていた運命に直面する。
多くの人はアメリカには行けるにしても、映画スターにはなれない。
ある程度決められた運命のなかで生をまっとうするのは共通である。

介護人や提供者という役目を担う登場人物たち。
わたしたちはみな、いろんな意味で介護人であったり提供者であったりするのではないだろうか。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.105
(5pt)

「残酷な運命」は普遍的に

残酷な運命に翻弄された若者たちの一生から描き出されるものは、広い普遍性をもっている。

大人になる過程の瑣末なできごといちいちに共感しつつ読み進めると、うすうす気づきはじめていた運命に直面する。
多くの人はアメリカには行けるにしても、映画スターにはなれない。
ある程度決められた運命のなかで生をまっとうするのは共通である。

介護人や提供者という役目を担う登場人物たち。
わたしたちはみな、いろんな意味で介護人であったり提供者であったりするのではないだろうか。

わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.104
(5pt)

楽しむために!

この作品を紹介するのには恐らく予備知識無しの状態が一番楽しめると思います。なにしろ分からない事が段々と、しかもゆっくりと時間をかけて理解してゆく事を楽しむ小説だからです。

私の場合は必ず裏表紙の内容説明や帯の推薦を読んでから買うかを決めるのですが、この作品にはそれすら無い方が良かったです!

もちろん世界観も登場人物もそして物語も、どれも満足のいく水準ですけど、じわじわと理解してゆく事の快楽をぜひ体験してみてはいかがでしょうか。きっとヘ−ルシャムに私たちの幼少時代の何かをあなたも垣間見ます、ずっと忘れていたけどまだ思い出せる何かを。

そして最後は涙の流れない悲しみがあなたを待ってます。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.103
(5pt)

楽しむために!

この作品を紹介するのには恐らく予備知識無しの状態が一番楽しめると思います。なにしろ分からない事が段々と、しかもゆっくりと時間をかけて理解してゆく事を楽しむ小説だからです。

私の場合は必ず裏表紙の内容説明や帯の推薦を読んでから買うかを決めるのですが、この作品にはそれすら無い方が良かったです!

もちろん世界観も登場人物もそして物語も、どれも満足のいく水準ですけど、じわじわと理解してゆく事の快楽をぜひ体験してみてはいかがでしょうか。きっとヘ−ルシャムに私たちの幼少時代の何かをあなたも垣間見ます、ずっと忘れていたけどまだ思い出せる何かを。

そして最後は涙の流れない悲しみがあなたを待ってます。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.102
(5pt)

リアルなフィクション

驚く程、登場人物の感情の抑揚が押さえられ、淡々と描かれている。
物語は「わたし」の目を通して語られるが、読者は途中で、背景の現実に気付く。
感の良い方なら、かなり早い段階で、気付いてしまうだろうと思う。

「わたし」やトミーは、既に、読者が気付いている現実を追う。
そして、徐々に驚くべき事の断片をつかんでゆくが、意外な事に、登場人物の感情は、ほとんど揺れない。
ある意味きわめて従順だ、とも言える。

私なら、トミーと手に手を取り合って、どこか遠くへ逃げてしまいたいところだ。
そういう事を防ぐのが、この教育の目的の一つなのか?

むろん物語はフィクションであるが、技術的には不可能ではない。
倫理的には許されないが、金と権力を持っている、よこしまな人間が、こんな事を行わないとも限らない。
特に、世界的レベルでは、行われている可能性もあるのではないか、と、要らぬ危惧を抱く。

介護者としての「わたし」はどんな心境だっただろう?
最終ページは、特にやりきれない。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.101
(5pt)

リアルなフィクション

驚く程、登場人物の感情の抑揚が押さえられ、淡々と描かれている。
物語は「わたし」の目を通して語られるが、読者は途中で、背景の現実に気付く。
感の良い方なら、かなり早い段階で、気付いてしまうだろうと思う。

「わたし」やトミーは、既に、読者が気付いている現実を追う。
そして、徐々に驚くべき事の断片をつかんでゆくが、意外な事に、登場人物の感情は、ほとんど揺れない。
ある意味きわめて従順だ、とも言える。

私なら、トミーと手に手を取り合って、どこか遠くへ逃げてしまいたいところだ。
そういう事を防ぐのが、この教育の目的の一つなのか?

むろん物語はフィクションであるが、技術的には不可能ではない。
倫理的には許されないが、金と権力を持っている、よこしまな人間が、こんな事を行わないとも限らない。
特に、世界的レベルでは、行われている可能性もあるのではないか、と、要らぬ危惧を抱く。

介護者としての「わたし」はどんな心境だっただろう?
最終ページは、特にやりきれない。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.100
(5pt)

現実の受容

世界というのは、5%の「死をも惜しまずに理想のためにまい進する人」と、10%のアメリカンドリーム体現者と、そして85%の「現実を、いや運命を享受する人」に分かれるのではないだろうか。

人間は最初から非常に不平等で不公平に生まれつく。死は誰にも訪れるが、そこにいたるまでの人生の大部分は自分がいまいる環境によってでしか選択することはしない。

作中の「彼ら(キャシーたち)」は生まれながら運命が決まっている。それに対して彼らはあくまでも従順にそれを享受し、変化、変貌の期待を薄くもちながらも、不可能であっても打開しようとはしない。介護者として、そしてその後は提供者として自分が歩む道を決して逸脱しようとはしない。

当初、読みながら「なぜ逃げ出さない?」と私は何度も思った。

ただ・・状況はちがっても、われわれだって生まれた環境から脱するのは簡単なことではない。たいていの人は望みながらも、ちょっとの変化を起こすことで自らを納得させる。
人間とは、普通の人々とはそういうものなのだ。

現実にはありえないSF的要素がありながら、彼らの悲劇的生き様に「運命の許容と受容」について中年になった自分とオーバーラップさせずにはいられなかった。

読んだのは昨年だが、今でも折を見て読み返してしまう名作だと思う。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.99
(5pt)

現実の受容

世界というのは、5%の「死をも惜しまずに理想のためにまい進する人」と、10%のアメリカンドリーム体現者と、そして85%の「現実を、いや運命を享受する人」に分かれるのではないだろうか。

人間は最初から非常に不平等で不公平に生まれつく。死は誰にも訪れるが、そこにいたるまでの人生の大部分は自分がいまいる環境によってでしか選択することはしない。

作中の「彼ら(キャシーたち)」は生まれながら運命が決まっている。それに対して彼らはあくまでも従順にそれを享受し、変化、変貌の期待を薄くもちながらも、不可能であっても打開しようとはしない。介護者として、そしてその後は提供者として自分が歩む道を決して逸脱しようとはしない。

当初、読みながら「なぜ逃げ出さない?」と私は何度も思った。

ただ・・状況はちがっても、われわれだって生まれた環境から脱するのは簡単なことではない。たいていの人は望みながらも、ちょっとの変化を起こすことで自らを納得させる。
人間とは、普通の人々とはそういうものなのだ。

現実にはありえないSF的要素がありながら、彼らの悲劇的生き様に「運命の許容と受容」について中年になった自分とオーバーラップさせずにはいられなかった。

読んだのは昨年だが、今でも折を見て読み返してしまう名作だと思う。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.98
(5pt)

抑えた表現の素晴らしさ

読み終わるのが勿体無いような、何時までも浸っていたくなるような、抑圧の効いた、最初から最後までまったく世界観がぶれない文体に脱帽です。この作品を読んでみて、昨今の日本の小説家の表現があまりにも直接的で強いかに気づかされました。淡々と、抑えた表現の中に誠実に書き綴られていく人間関係の厄介さ、成長していくことの辛さ、そして、抗えない運命の残酷さ。小説の王道をいくテーマと、現代(もしくは近未来)が抱えるテーマが見事に共存した傑作です。久しぶりに小説らしい小説に出会えました。そして、柴田元幸氏氏の解説がまた、短いながらも大変素晴らしいです。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.97
(5pt)

抑えた表現の素晴らしさ

読み終わるのが勿体無いような、何時までも浸っていたくなるような、抑圧の効いた、最初から最後までまったく世界観がぶれない文体に脱帽です。この作品を読んでみて、昨今の日本の小説家の表現があまりにも直接的で強いかに気づかされました。淡々と、抑えた表現の中に誠実に書き綴られていく人間関係の厄介さ、成長していくことの辛さ、そして、抗えない運命の残酷さ。小説の王道をいくテーマと、現代(もしくは近未来)が抱えるテーマが見事に共存した傑作です。久しぶりに小説らしい小説に出会えました。そして、柴田元幸氏氏の解説がまた、短いながらも大変素晴らしいです。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.96
(3pt)

萩尾望都でいいや

丁寧に作り込まれた作品ですので(3ページ目あたりでSFネタがわかってしまうのは別として、というかそれが作品の価値を貶めるわけではないので見逃すこととして)最後まで読み切ることはできますが、既にこの手の世界観は萩尾望都によって描かれてしまっているように思えた私にはあまり魅力がありませんでした。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.95
(3pt)

萩尾望都でいいや

丁寧に作り込まれた作品ですので(3ページ目あたりでSFネタがわかってしまうのは別として、というかそれが作品の価値を貶めるわけではないので見逃すこととして)最後まで読み切ることはできますが、既にこの手の世界観は萩尾望都によって描かれてしまっているように思えた私にはあまり魅力がありませんでした。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.94
(5pt)

この物語に出会えたことに感謝

よくある小中学校学園物として、物語は始まる。誠実に、丹念に、物語はつむがれる。だが、「提供」という不可思議な(しかしある予感を持たせる)概念が、次第に物語りに影を落とす。やがて、「ポシプル」という言葉が、予感めいた影に実態を与える。そして、とうとう「クローン」という、身もふたもない設定が明らかになる。
 でも、物語は急がない。ヘールシャムの提供者ジュニアたちが、自然に認識していく速度にあわせて、描写されていく。作者の素晴らしい計算。心憎いまでの抑制。イシグロの並々ならぬ力量を感じる。
 ルースは、よくいる女王様タイプのコンパ主役。いじめられっ子だったトミーも、生々しいキャラクター。だから、この物語の世界は、もうすでに主題を語っている。彼らは、腎臓や肝臓や心臓や網膜の単なる集合体ではない。数ページ読んだだけで、それは明らかだ。
 理屈ではない。この世界に理屈を言っても仕方ない。この世界はそこに存在する。私達は、今や苦役を終えて「提供者」となっていくキャシーに、ただ涙を流すだけだ。
 土屋政雄氏の邦訳はすばらしい。そもそも日本語で書かれたのではないかと思うような自然な語り口に仕上がっている。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.93
(5pt)

この物語に出会えたことに感謝

よくある小中学校学園物として、物語は始まる。誠実に、丹念に、物語はつむがれる。だが、「提供」という不可思議な(しかしある予感を持たせる)概念が、次第に物語りに影を落とす。やがて、「ポシプル」という言葉が、予感めいた影に実態を与える。そして、とうとう「クローン」という、身もふたもない設定が明らかになる。
 でも、物語は急がない。ヘールシャムの提供者ジュニアたちが、自然に認識していく速度にあわせて、描写されていく。作者の素晴らしい計算。心憎いまでの抑制。イシグロの並々ならぬ力量を感じる。
 ルースは、よくいる女王様タイプのコンパ主役。いじめられっ子だったトミーも、生々しいキャラクター。だから、この物語の世界は、もうすでに主題を語っている。彼らは、腎臓や肝臓や心臓や網膜の単なる集合体ではない。数ページ読んだだけで、それは明らかだ。
 理屈ではない。この世界に理屈を言っても仕方ない。この世界はそこに存在する。私達は、今や苦役を終えて「提供者」となっていくキャシーに、ただ涙を流すだけだ。
 土屋政雄氏の邦訳はすばらしい。そもそも日本語で書かれたのではないかと思うような自然な語り口に仕上がっている。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.92
(5pt)

現代科学文明への批判ではなく、生きることに真摯であるかどうかを問いかける小説として読

1990年代末の英国。「介護人」を務める31歳のキャシーは、ヘールシャムで過ごした青春時代を思い返す。特に仲がよかったルースとトミーの二人の友。彼女たち3人をはじめとする子供たちは「提供者」として生きるよう定められていた…。

 「わたしを離さないで」の描写にはけれんみは一切なく、主人公たちは抗うこともなく自らの過酷な運命を静かに受け入れているかに見えます。SF的な設定をもつこの小説を遺伝子工学など医療技術が進んだ現代社会への警鐘と捉えようとする読者もいるかもしれませんが、ならばこそキャシーたちの意外なほどの無抵抗ぶりには得心がいかない思いが募るのではないでしょうか。

 キャシーたちのような「短命族」(と私はあえて呼びますが)と、彼らの犠牲のもとに生きる「長命族」(これもイシグロの言葉ではありません)とが対比された物語の中で私が強く感じるのは、命の優劣はその長短にはない、という至極当然のことです。

 その長短にかかわらず、命はいつかついえるものです。いかに短くとも充実した命を全うすることができるのであれば、その命はいたずらに長い人生より価値がある。だからこそイシグロは抑制した文章で、キャシーやトミーたちに平凡な人生経験---ほろ苦い三角関係や激しく豊かなセックス---を与え、終わりの日に向けて彼らなりに濃密な人生を歩ませようとする、そう私には思えるのです。

 鬱々とした老年の日々を送っているかにみえる「長命族」よりも、彼らのために生きることをアプリオリに決められた「短命族」のキャシーたちにこそ、輝く日々がある。その哀しいまでに美しい人生の果てが、文字通り最後の1ページに込められていて、この場面は幾度読み返しても倦むことがありません。

 SF的設定はあくまで書割にすぎません。この小説の眼目は、私たちが人生を深めようと日々どこまで努力しているか、それを問いただすことにあるのです。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.91
(5pt)

現代科学文明への批判ではなく、生きることに真摯であるかどうかを問いかける小説として読

1990年代末の英国。「介護人」を務める31歳のキャシーは、ヘールシャムで過ごした青春時代を思い返す。特に仲がよかったルースとトミーの二人の友。彼女たち3人をはじめとする子供たちは「提供者」として生きるよう定められていた…。

 「わたしを離さないで」の描写にはけれんみは一切なく、主人公たちは抗うこともなく自らの過酷な運命を静かに受け入れているかに見えます。SF的な設定をもつこの小説を遺伝子工学など医療技術が進んだ現代社会への警鐘と捉えようとする読者もいるかもしれませんが、ならばこそキャシーたちの意外なほどの無抵抗ぶりには得心がいかない思いが募るのではないでしょうか。

 キャシーたちのような「短命族」(と私はあえて呼びますが)と、彼らの犠牲のもとに生きる「長命族」(これもイシグロの言葉ではありません)とが対比された物語の中で私が強く感じるのは、命の優劣はその長短にはない、という至極当然のことです。

 その長短にかかわらず、命はいつかついえるものです。いかに短くとも充実した命を全うすることができるのであれば、その命はいたずらに長い人生より価値がある。だからこそイシグロは抑制した文章で、キャシーやトミーたちに平凡な人生経験---ほろ苦い三角関係や激しく豊かなセックス---を与え、終わりの日に向けて彼らなりに濃密な人生を歩ませようとする、そう私には思えるのです。

 鬱々とした老年の日々を送っているかにみえる「長命族」よりも、彼らのために生きることをアプリオリに決められた「短命族」のキャシーたちにこそ、輝く日々がある。その哀しいまでに美しい人生の果てが、文字通り最後の1ページに込められていて、この場面は幾度読み返しても倦むことがありません。

 SF的設定はあくまで書割にすぎません。この小説の眼目は、私たちが人生を深めようと日々どこまで努力しているか、それを問いただすことにあるのです。


わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196