悪人

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評判

悪人の評価:

4.01/5点 レビュー 407件。 B ランク

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平均点4.01pt

Amazonレビュー一覧

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全435件 401〜420 21/22ページ
No.35
(4pt)

吉田作品初体験ですが、試しにこんな読み方をしてみました。

物語は、殺人事件の起こる三瀬峠と高速道路の対比で始まる。続いて被害者・佳乃の実家が、JRと西鉄の両久留米駅の対比により描写される。主人公・祐一が住むのは埋立で海岸線を奪われた、「細い路地」ばかりの旧の漁村で、眼前の埋立地は造船所の巨大なドックと広い道路で特徴づけられる(p88)。 土木作業員の祐一、保険外交員の佳乃に対置されるのが、裕福な大学生の増尾や鶴田。祐一は7年ローンで買った中古のシャコタン・スカイライン、増尾はアウディA6。佳乃は祐一とは出会い系サイトで、増尾とはバーで知り合っている。出奔した祐一の母・依子と、その姉・重子も対照的(p89)。佳乃の父母、増尾と鶴田も対比的な役割を振られている。しかし何より重要なのが祐一の住む「海」と、事件の起きる「山中」の対比。そして双子の姉妹、光代・珠代の登場… 「山中」の殺人事件に始まる物語は、光代の介入によって転調していく。祐一と光代の人生が出会い系サイトで最初に交差したことから、物語は徐々に灯台に、つまり「海」へと引き寄せられていく。そしてクライマックスには、三瀬峠の殺人と対比される、ある「事件」がそこで用意されている。 類型と対比が全てを駆動している、と言って過言ではない。素材は中上健次に近いが、むしろ『潮騒』や『午後の曳航』の三島を想起すべきだという気もする。 ついでながら、私は鶴田が作品世界と作者自身との蝶番になっていると思う。この映画監督志望の裕福な大学生がロメールの作品を話題にする場面があるが(p98)、作者もロメールばりのコントを意識していたかもしれない。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.34
(4pt)

「悪人」とは誰を指すのか

事件にかかわった人は全員、孤独を抱えている。寂しいから、誰かを求める。寂しいから、虚勢を張る。寂しいから、嘘をつく。純粋であればあるほど深みにはまっていく。出会いはどうであれ、2人は恥じることなどない真剣な恋をしていた。事件の幕が閉じ、最後の数ページはあまりにも悲しく、離れた2人の今の思い込みが辛い。光代のそばに寄り添って、「あなたのあの恋は思い上がりでも遊びでもない」と言ってあげたい。言いようのないもどかしさが残る作品でした。主人公(語り手)がいるわけでなく、各々の視点から描かれることによって個々の感情が手に取るようにわかります。420ページと読み応えのあるボリュームも苦になりません。隠れた真実が知りたくて夢中で読みました。「悪人」とは誰なのか。犯罪を犯してしまった人物?いや、罪の重さではなく、人間として最も「悪人」なのは誰かと考えると他の人物の顔も浮かぶし。あまりにも深く重いタイトルをどう解釈すべきか悩むところです。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.33
(4pt)

生臭い小説

吉田修一は、人間の「体臭」を描くことのできる数少ない作家のひとりだと思う。この小説からも、登場人物たちの生臭い匂いがプンプンと漂ってくるようだ。「リアル」とはまた違う「存在感」を感じることができて、読んでいると切実な気持ちになってくる。吉田節ともいえる、繊細にして骨太な物語を今後も期待したい。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.32
(3pt)

悪人になりきれないときもある・・・

保険の外交員をしていた石橋佳乃が殺された。犯人は出会い系サイトで知り合った男だった。ひとつの事件が、さまざまな人たちに波紋を広げていく。苦悩を抱える加害者や被害者の家族。殺人犯となった男を慕い続ける女性・・・。「悪人」の真の意味とは? なぜ事件は起こったのか?佳乃が出会い系サイトを利用しなければよかったのか?その男と実際に会わなければよかったのか?それとも?考えれば考えるほど複雑な思いがする。本当の「悪人」とは?殺人を犯した男、清水祐一なのか?だが、佳乃自身の言動にも、事件の引き金となる要素がたくさんある。いろいろなことが重なり合い起こってしまった殺人。そこに至るまでの人間関係が、むなしくもあり恐ろしくもあった。被害者の家族や加害者の家族のおかれた状況も、悲惨というほかに言葉が見つからない。最後に祐一がとった行動は・・・。人は、悪人になりたくてもなれないときもあるのだ。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.31
(4pt)

いじけた寂しさを、許してくれる。

どこか、何かが足りない。ああ、最後がちょっと違うよな。吉田修一の作品はいつもそんな残念さが漂っていた。それでいて、ほかの作家には書けない何かが、彼には書ける、そんな気がしていた。そして、いつか彼はやってくれるのではないか、そんな期待で、出る本は必ず買っていた。その彼が、とうとうやってくれた。そう思える作品。でも、星はマイナスひとつ。彼はこの先、更にもう一歩先を語ってくれそうに思うから。 この作品を言葉でくくるのは難しい。帯に書かれた惹句も、この作品の的を射ているとは思えない。「誰でもよかったわけじゃない。誰でもいいから抱き合いたかったわけじゃない。自分のことを抱きたいと思ってくれる人に、強く抱きしめてほしかった。」 この作品のすべては、この一文にあるのだろう。 この小説は、「感動作」ではない。きっと、描かれているかっこの悪い寂しさが、どれほど心に沁みるかで、作品の評価の度合いは変わる。誰にも言えないけれど、ああ、私はこんな風に寂しいと、そう思いながら読み進んだ者は、自分のいじけた寂しさを許してやっていいような気が、読み終わった後に、少しだけ手に入れられる。こんなことを思わせてくれる作品が他にあったろうか。 僕の母は、僕が八歳になるまでに、二度蒸発した。僕の大学の授業料も生活費も、父から受け取って、僕に渡さず、全てパチンコにつぎ込んで、大学からの督促状も握り潰し、僕は大学の掲示板の除籍通告を見て、初めて全ての事実を知った。それでも母を恨む気持ちにはならなかった。そのくせ、母の顔を見たら吐き気がした。不思議な感情だった。吉田修一という人なら、その気持ちをわかってくれそうな気が、この作品を読んで、僕には、した。
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402250272X
No.30
(3pt)

リアリティー

事件の渦中にいる者達ですら、分からない真相。真実は1つなのか、あるいは、それぞれの目から見たもの、体験したものが全てであり、1つではないのか。殺人と言う、はっきりとした「悪」が行われた過程とその後の状況が、複数の目を通じて語られた長編作。フィクションとしての、作りこまれた物語の面白さまでが消されてしまうほど、現実的である点に、好みが分かれると思う。
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402250272X
No.29
(3pt)

期待させます

登場人物各人が語っていくという手法で、物語はスピーディーに展開していきます。そうしたなかで容疑者はMからSへと移っていきます。このままでは終らないぞ。これは期待が持てるぞ、とんでもない展開が待っているぞ。十分な伏線。最後には大どんでん返しがあることを期待させます。いいぞいいぞと読み進みますが、読者をびっくりさせるような急展開はありませんでした。残念といえば残念でしたが、読んでいて楽しかったです。
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402250272X
No.28
(5pt)

骨太な作品

一日で読み終えました。読後、本当の優しさが身体に深々と染みてきました。作品の全編に渡って、圧倒的な孤独感が漂います。どこまでたどり着けば孤独を感じなくなるのか、生きていること自体が「悪」であり「業」なのか、ちょっとした弱さや寂しさに「悪」が忍び寄るということなのか、人とは何と弱く、悪く、寂しく、強く、そして優しいのだろうと思わせる作品です。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.27
(5pt)

大傑作

本当に素晴らしい作品でした。 最初は単行本の厚さに「読みきれるかな」と不安に思いましたが、読み始めてみたら面白くて、四日間で読了しました。ストーリー展開が「面白い」。人間の描写・心理が「面白い」。エンタメ的要素を持ちながら、人間の業のようなものを描いている。社会の矛盾のようなものを描いている。そして何より、人間の魂の力強さのようなものを描いている。「悪人」を描きながらも、人間への讃歌になっている。マスコミに追いかけられるお婆さんと、バスの運転手の交流の場面、最高です。他にも、いくつもの場面が、一つ一つそれぞれ魅力的な人間ドラマになっています。味わいのある短編が、いくつも繋がっているような作品とも言えるかもしれません。贅沢極まりないです。この作品に出会えて良かった!
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.26
(5pt)

読後感は非常に重く、つらいのですが

傑作です。吉田修一は、パークライフ以来、ずっと読み続けていますが、この作品で突然変異をおこしたようです。これほど「凄み」を感じた作品は久しぶりです。序盤の、石橋佳乃視点のパートは、不愉快極まりなく、のろのろと読んでいたのですが、清水祐一パートに入ってからは、一気に入りこみました。この本の中に、老人を足かせに地方の町に縛りつけられた、感情の表し方を知らない、祐一が確かに存在しました。地方の閉塞感、気だるい空気、見えない鎖のようなもの…あの吉田修一が、こういう世界を、人間を描ききるとは思いませんでした。佳乃の父親の激白部分や、祖母の「正しいことをやらんね」という語りかけには涙を禁じ得ませんでした。これは、この作家にとって、大きい分岐点となる作品です。この若さで、これだけのものを世に出してくる、吉田修一恐るべし、という一冊です。これまでのところ、大きく引き離して今年のナンバー1です。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.25
(5pt)

幸せを願うことと、なれることの絶望的な距離。

デビュー作から読み続けている吉田修一、10年目の新境地。セクシャルマイノリティや、ネット経由恋愛や、バイオレンスや、連作短編や、写真家とのコラボレートや、女性ファッション誌の連載やら、意欲と挑戦心はあるのにここんとこ作者が迷走しているように思っていたのですが、そこへ来て放ったグランドスラムがこの『悪人』。並々ならぬ作者の意欲を感じた、力作です。九州の地方都市で若い女性が殺される事件が起きて、誰が犯人か、という発端から「悪人とはいったい誰か」と考えさせられるエンディングまで、否応なく惹きつけられました。愛に飢えている人、自分の現状に満たされない人、幸福感を感じられない人、金銭的に困窮している人。立場や年齢こそ異なれども、多くの人は、自分の境遇に完全には満足をしていない。そこから脱したくて伸ばした手が、期せずして不幸を掴んでしまった人たちがこの作品にはたくさん登場します。読んでるうちに読者はすべての登場人物に向き合うことになりますが、最後に祐一が光代へ取った行動の、そのやさしさが、特に自分にはたまらなくこたえました。今年読んで最もインパクトがあった本、文句なしの第一位です。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.24
(5pt)

タイトルの意味が言い得て妙だが、実は儚くも美しい純愛小説だったりする。傑作!

凄いな、この本は、、、。読み始めてひとときも中座する事なく一気に読了した。傑作である。恐らく今年世に出た小説群の中でも読む者の心を鷲掴みにするといった点では屈指の作品ではないか。本の帯にある“なぜ、事件は起きたのか?”“なぜ、ふたりは逃げ続けるのか?”“そして悪人とはいったい誰なのか?”とのフレーズが見事にこの作品を読み取るキーワードになっている。冒頭から、今作の登場人物たちのぐだぐだとした満たされない日常生活の中で湧き起こる儚い嘘と悪意の心理描写の上手さにぐっと引き込まれ、ある「悲劇」が起こった後は人間の深淵に潜む「業」の様なものを読んでいくのかと思いきや、物語は第3章で劇的に変貌する。変えたのは馬込光代の存在。彼女の登場で、物語は儚くも美しい純愛路線に大きく舵を取る。世の時流に乗る事などまるで諦めていた生きベタなふたり、生まれて初めて出逢った真に心を許せる者たちの、安っぽいラブホテルでのあまりに痛切な抱擁と逃避行の道行きでの魂の絶叫に、ページをめくりつつ胸が張り裂けそうになる。ラスト、なんとも切なくやるせない気持ちになりながらも、今作に登場する傷ついた者たちの絶望の「闇」の彼方に見える魂の救済を思わせる様な一筋の光明が救いと信じたい。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.23
(5pt)

あした悪人になる人は?

人殺しでも善人、人殺しではないが悪人、こんな紙一重の世界は自分の生活の鼻先に存在していると実感した。この小説を読んでいる時、人を殺してしまった、人を殺さざるをえなかった人間の気持ちが理解できてしまうくらいに感情移入してしまった。それにしても吉田修一はいつの間にかこんな凄い小説を書くようになっていたんだね!(「パレード」以来ひさびさに読みました。)
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.22
(5pt)

読後感は重くて深く,後を引く

吉田修一氏の作品を初めて読んだ.厚さに圧倒されながら,結局2日で読み終わった.最初のうちは,何でこんな無口で暗くって惨めな男の話に,つきあわされるのかとちょっと気が乗らなかった.そのうち殺人事件に関係した人々に次々焦点があてられ,渦がぐるぐる回って,最後に作者が言いたかったことにたどり着いたような気がした.「悪人」の言葉にこめられた清水祐一の孤独感と人としての深い優しさがじわじわ心に沁みてくる.市井に地味に生きる家族にも生きてく苦労があり,気持ちが食い違っていく孤独がある.本当の「悪人」とは誰か,そんなことを考えさせてくれた.
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.21
(4pt)

普通のひとが殺人事件と関わるまで

現実の事件を取り込んだり 現実にあった事件を連想させたりして ”これ フィクションだよな?” 何度か確認してしまった。そのくらい 現実味のある作品。タイトルは悪人だが 実際には悪人は出てこない。全くの善人とはいえないが 普通のひとだ。 その普通のひとが 何かの間違いで(?)殺人事件に絡んでいく。重なる偶然(?) 少しずつずれて 間違った歯車が噛み合い 事件に突き進む。それぞれの立場から見た真実。 ほんのわずか 何かが違えば起きなかった事件。現実の事件も きっと そうなんだろう。それぞれの真実・思惑の違いが 取り返しのつかない大きな溝を生むのだろう。心理学者は 現実世界を生き抜くために人間は嘘をつくという。直接の嘘でなくとも真実を言わないことで 結果的に嘘をつくという。嘘をつく負担から逃れるために 知らないうちに自分で自分に嘘をつくという。作品に登場する人物の嘘。 自分を守る(?)ための嘘が自分を追い詰める。読み終わって 重苦しいものが残る。 著者から たくさんの宿題を受け取った気がする。重い作品には救いを求めたくなるのだが この作品にはそれがない。甘さを拒否したのだろう。その分 読後感が悪いのは否めないが 面白いことは確かだ。事件というのはすぐ其処にあり 他人事ではない。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.20
(5pt)

ありそうな・・・

ありそうな話だったので、感情移入ができました。 そんな中で健気に生きている人々に共感を得ることも出来た。ストーリーの中で体感出来た人生は、良い経験になりました。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.19
(4pt)

参考になった

正直なところ、読後感があまりよくなかった。この作者特有の、ただ通りすぎていったに過ぎないような余韻を残す作風を好んでいた自分にとって、この「悪人」は人物の描写がまるでデッサンのように生き生きしていてそれぞれの孤独感や焦燥感が痛々しいほどに感じられてしまった。それは、過去に見た「君と僕の虹色の世界」という映画に少し似ている気がした。でも読んでいて全く飽きることなく一気に読めたので好みではないが面白かったと思う。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.18
(5pt)

力作です。

初めて読みました、吉田修一、凄い作家さんです。しかし、娘が殺されて、怒り狂う父親とわんわん泣いて泣いて、でも最後は立ち直る母親、母親に捨てられた孫を一生懸命育てたお婆チャン、私に言わせれば、あとの登場人物は、「悪人」です。特に金持ちのボンボン野郎、スパナで一発殴ってやりたい!出会い系で殺されてしまう娘さんも、いったい何で出会い系なんだよ!ほいほい変な男について行くな!若い時は恋愛で見栄をはりたくなるのだろうけれども、そういう恋愛は幸せに結びつかないとみんなにわかってほしいと思いました。祐一だって、こんなに優しい子だったら、もっといい人生があっただろうに。というところで一番の悪人は子供をおきざりにして、男と逃げた母親か!
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.17
(4pt)

つながらないはずの関係性に見えるつながり

吉田修一の小説を読むのは初めて。ぐいぐい引き込まれ、2日で読了しました。冒頭で殺人事件が起こり、その一点へ向けて関係者がそれぞれ自分の視点で語り出すという方法論はさほど新しくはないのでしょうが、「出会い系」を介し、つながりのなかったはずの人間関係につながりを見るという現代的な切り口や、地方に住む若者のいいようのない絶望感、なにが「悪人」なのか、というタイトルへの疑問も含め、最後の頁まで目を離せませんでした。ほかの作品もぜひ読んでみたいと思います。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X
No.16
(5pt)

「人の匂い」は「情報」に置き換えられない

“吉田修一はエンタメでも充分通用する”ってことが証明された作品。この力量は、桐野夏生、宮部みゆきに比肩する。しかもエンタメとして閉じていない。これまでの短編にも見られたように、吉田修一には“時代を写し取る力”がある。それは、本作で言えば、病棟の廊下のサイン、サウナの男たち、岸壁に打ち寄せられたゴミ...といった現実の断片の秀逸なスケッチだったり、一主人公ではなく複数の登場人物たちの叙述から現実の関係性を浮かび上がらせる手法だったりするが、この長編は、こうしたリアリティーをベースに、万人が満足できるような読み物としての面白さが加わっている。 メディアで表面的に日々消費されていく事件、あるいはメディアを賑わせることなど一生ない市井の人々、そこにピンスポットを当てて深く掘り下げているのが、この小説の魅力だ。「一人の人間がこの世からおらんようになるってことは、ピラミッドの頂点の石がなくなるんじゃなくて、底辺の石が一個なくなることなんやなぁ」「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。(中略)失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる」といった言葉が心に突き刺さるし、「人の匂い」が「情報」に置き換えられないってことこそが人間の可能性なんだと思う。 「事件に至る」のではなく「事件から始まる」という構成も、ニュースで取り上げたらおしまいっていうメディア発想のアンチテーゼになっているし、“冒頭で女が死んじゃってこの先どうなるの?”って読者の戸惑い、興味に十二分に答えていく手腕も見事。 それにしても福岡、長崎、佐賀のロケーション、距離感がうまく書き込まれているよなぁ(長崎出身の福山雅治を出す小技とか)。これ、西日本新聞(=ブロック紙三社)の連載小説だったらドンピシャだったね。
悪人 Amazon書評・レビュー: 悪人より
402250272X