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スケルトンキー



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【この小説が収録されている参考書籍】
スケルトンキー (集英社文庫)

スケルトンキーの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
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(7pt)

今だからこその続編の文庫化を望みたい!

少年スパイアレックス・ライダーシリーズ第3作目の舞台はウィンブルドンからコーンウォール、マイアミにキューバ、そしてロシアへと目まぐるしく移り変わる。巻を重ねるごとにそのスケールも本家007シリーズ並みに大きくなってきているようだ。

そして前作に引き続き導入部でのアレックスの最初のサブミッションが含まれているが、前作『ポイントブランク』では学生相手の麻薬の売人を無茶ぶりを発揮して捕まえる内容だったのに対し、今回はMI6のクロウリィからの依頼であることが異なる。導入部から既にMI6の任務となっている。
そしてその内容はウィンブルドン選手権での中国の秘密結社が仕掛けた、オッズを引き上げるための選手への妨害工作を見破るという物。これ1つで既に1話ができるようなハードな任務となっている。更にこの任務がアレックスがあれほど嫌がっているMI6の任務を呑ませるための楔となっている。
アレックスはCIAのスパイと協力してキューバにある元ロシアの将軍アレクセイ・サロフのアジトに潜入することになる。
そう、今回はスパイ小説でお馴染みの共産圏への潜入任務なのだ。弱冠14歳の少年にとってかなりハードな任務である。

そんなアレックスを同行させてまで危険な場所に潜入するCIAの目的はサロフが核爆弾に利用できる濃縮ウランを大量に仕入れたとの情報を受け、その情報の真偽を確認するもの。

ただこういう異色のチームという設定にはありがちなように、CIAのベテラン工作員でアレックスの両親役を務めるトム・ターナーとベリンダ・トロイと14歳の新米スパイ、アレックスの相性は抜群に悪く、CIAの両者は自分たちの実績を誇示してアレックス不要論を唱えるばかりだ。

このようないわゆる犬猿のバディ物ではいがみ合っている者同士があることがきっかけでお互いを認めて、1+1=2以上の効果を発揮する展開になるものだが、本書ではそんな定石通りの展開を見せず、アレックスは機転と持ち前の身体能力を活かして2人の窮地を救うのにも関わらず、彼の欠点である、オーバーワークによる損害を謗られ、なかなか認めてもらえない。
そう、またもやアレックスは孤独な戦いを強いられるのだ。

そしてアレックスは今回拷問に掛けられ、敵から執拗な訊問を受ける。CIAが潜入してきた目的についてコンラッドから問われるが、通常のスパイならば任務のために命を落とすことを選ぶがさすがに14歳のアレックスにそれを求めるのは酷だ。14歳の未熟さゆえに、やりたくもない仕事をやらされている恨みつらみがぶり返し、彼はスパイとしては失格である任務の詳細を嘘偽りなく明かすのだ。
この辺は大人の私から見れば14歳の少年スパイらしい展開だが、少年少女がこのアレックスの行動についてどのように思うかが逆に気になるところだ。

そんなアレックスが挑む相手アレクセイ・サロフの陰謀を読んで慄然としたのはもしこのサロフが云うムルマンスクに無数の―本書によれば100隻―原子力潜水艦が遺棄されており、最も古い物で40年前―本書の原書刊行時2002年時点―の老朽化した、いつ放射能漏れが起きてもおかしくない潜水艦もあるということだ。
もしこれが本当ならば世界は大変なことになるだろう。そしてそれが真実ならばロシアはチェルノブイリの悲劇から何も学んでいないことになる。
またこれらは冷戦時代の遺物であり、いわば負の遺産だ。そしてこれらをきちんと処分するのが国の務めであり、そして世界の務めであるのだ。
このアレックス・ライダーシリーズはジャンルとしては少年少女向けの読み物だが、本書に含まれた世界の危機は大人たちも是非とも知っておくべき事実であろう。

さてこのシリーズはもはや007シリーズのように秘密兵器と特徴ある殺し屋の登場が定番となっているが、前者はアンテナが針のように飛び出し、武器となる携帯電話と唾液と反応して爆薬となるチューイングガム、さらに一時的にショックを与えることのできる閃光弾となるマイケル・オーエン人形―きちんと作者は本人に許可を貰っているんだろうか?―がアレックスに与えられる。
後者はコンラッドというサロフの忠実な下僕だ。ノートルダム寺院のせむし男の如き、醜悪な姿をしたこの男はかつては過激なテロリストだったが仕掛けるはずの爆弾が輸送中に爆破して吹き飛ばされたが、大手術の末に全身を縫い合わされ、どうにか回復し、現在のような風貌になったのだった。
いわばフランケンシュタインのような歪んだ性格の男とアレックスは最後に決闘することになる。

また第1作ではクォッド・バイクでのチェイス、前作がスキーでの雪山チェイスと本家007風味を盛り込んできたこのシリーズだが本書では出るべくして出た海でのスキューバダイビングでの潜入行、そしてお約束通りのホオジロザメとの格闘とやはり期待を裏切らない展開が待ち受けている。

本書では両親のいない、そして唯一の血縁であった叔父のイアンをも喪った天涯孤独の14歳アレックスが親という存在を意識する物語でもある。
ウィンブルドンでの任務中に知り合い、友達以上の仲になったサビーナに旅行に招待されたアレックスは昔からの付き合いであるかのように自分に接する彼女の両親に、自分にもこのような両親がいればと思いを馳せる。

14歳と云えば思春期の只中にあり、反抗期である。従って自我に目覚めつつある彼ら彼女らにとって両親とはいつまでも自分たちを子ども扱いする煙たい存在として映り、疎ましく思うのだ。
しかしアレックスにはそんな反抗をする親がいない。彼が反抗するのはボスの冷血漢アラン・ブラントだ。彼は権力者であり、いつもアレックスを逃げ場のない状況に追い込んで無茶な任務を呑ませようとする。反抗期の少年少女にとって親が越えるべき壁・障害であるならば、アレックスにとっての親代わりは局長のアラン・ブラントになるのだろう。
但し学校と私生活、仕事と私生活での顔が異なるように、なかなかそれが上手く行かないのも事実だろうが。

そして無気力になったアレックスを救うのは今回親しくなったサビーナだった。両親も血縁もいない天涯孤独の身であるアレックスにとって頼れるべき存在は友達もしくは恋人しかいない。アレックスにサビーナという相手ができたことは彼がこの後成長するためには必要なステップだった。
またそれは危険な任務に就かされるアレックスにとって護るべき存在ができたことでもあるのだが。

さて今後サビーナとアレックスの仲がどのように発展していくのかが気になるところだが、次作の『イーグルストライク』は単行本で刊行されているものの文庫化はされてなく、もちろん単行本は絶版状態だ。従って私のアレックス・ライダーシリーズも本書が最後となる。

『このミス』、『本格ミステリ・ベスト10』、週刊文春ミステリーベスト10でそれぞれ『カササギ殺人事件』、『メインテーマは殺人』、『その裁きは死』、『ヨルガオ殺人事件』が1位を獲得し、最新作の『殺しへのライン』も上位を占めるなどホロヴィッツはいまや最も勢いに乗った海外ミステリ作家と云っても過言ではないだろう。
従って今こそホロヴィッツの作品が読まれるのに最適の時であるから、このアレックス・ライダーシリーズもまた再評価の気運が高まるのではないか?

そんな期待をしつつ、近い将来次作の『イーグルストライク』が文庫化されることを期待したい。
ただまだまだ助走状態。少年向け007シリーズの域を脱していない本書を以てホロヴィッツの真価を評することはできないだろう。次からが私のホロヴィッツ本体験となるのは必定。
さてどんなミステリマインドを見せてくれるのか、非常に愉しみである。


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