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ストームブレイカー



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ストームブレイカーの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
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(7pt)

少年版007シリーズは忠実なる本家のパロディ…だけじゃないぞ!

2018年のミステリシーンの話題をかっさらい、年末の各詩で行われるベストランキングで第1位を総ナメにした『カササギ殺人事件』。その作者の名はアンソニー・ホロヴィッツ。その後現在に至ってまで年間ミステリランキングを制している、今や海外本格ミステリの第一人者の趣さえある。
本書はそのホロヴィッツが本邦初紹介された時の第1作目の作品であり、少年スパイ、アレックス・ライダーシリーズの第1作目である。

ホロヴィッツの特徴はかつての名探偵や名作ミステリの舞台を中心とした数々のパロディ作品が多いことで、本書もまたその例外に漏れない007シリーズの少年版とも云うべきハイテクスパイ小説になっている。
ちなみに007シリーズを大いに意識していることを示すためか、アレックスがスパイの訓練のために入隊するSAS(英国陸軍特殊部隊)で付けられる綽名はダブルオー・ゼロである。

銀行員だった叔父が交通事故で亡くなったが、その死は明らかにおかしかった。そして判明した事実は実は叔父はMI6の工作員で潜入捜査中に殺害されたことを知らされる。弱冠14歳のアレックス・ライダーはその叔父の後釜として若きスパイとして育てられる。

そして叔父を消したコンピュータ会社セイル・エンタープライズを経営する大富豪ヘロッド・セイルが自社で開発した最新鋭コンピュータ、ストームブレイカーの全英の中学校を対象にした無料配布の影に隠れた野望を暴き、阻止するのが与えられた任務だ。

例えかつて凄腕の工作員だった叔父から将来のために鍛えられていた14歳の中学生がMI6のスパイになるとは実に荒唐無稽な話で、これは児童向けの娯楽小説として読むのが正しいだろう。

そしてホロヴィッツはそれを意識して色んな仕掛けを施している。それはさながらスパイ映画を観ているかのような映像的演出に溢れている。

例えば007のQに当たるスパイの秘密道具を開発するスミザーズという技術者が登場する。アレックスに与える秘密道具は特別なナイロンの紐が出てモーターによって巻き取ることの出来るヨーヨーであり、ニキビ治療用のスキンクリームに見せかけた金属溶解剤にニンテンドーならぬブリテンドーのゲームボーイではなく、プレイパームでゲームソフトを入れ替えると通信機器になったり、X線カメラや集音マイクに盗聴機器に発煙装置になったりすると子供が好きそうなアイテムが登場する。

またこれも潜入捜査のお約束で敵の本拠地は個人の軍隊とも云うべき武装集団によって護られているかと思えば、敵の自宅には大きな水槽があり、そこには巨大なカツオノエボシという毒クラゲが泳いでいる―確かにスパイ映画の悪党にはなぜか巨大水槽が付き物だ―。

また潜入捜査中にクォッド・バイクに乗った警備員に追いかけられるシーンもあり、007シリーズの映画を観たことがある人ならばすぐに映像が浮かぶほど、本家のストーリー展開に実に忠実に物語は運ぶ。

とはいえ、ホロヴィッツは単なる勧善懲悪物にしていなく、例えばアレックスが叔父の跡を継いでスパイになるのも自ら望んでではなく、唯一の肉親を喪って天涯孤独の身となったアレックスにMI6の特殊作戦局長アラン・ブラント、即ち叔父イアンの上司はそうせざるを得ない条件を突きつける。

ライダー家の家政婦でアレックスの身の回りの世話をしているジャック・スターブライト―ちなみに彼女は女性である―をビザの有効期限が切れると同時にアメリカに強制送還させ、家も売り払い、児童養護施設に入れると脅すのである。

つまり正義の側は時刻を脅威から救う任務を追いながらも必ずしも清廉潔白ではないこと、また悪の側にもそれを実行するための背景が織り込まれており、単純な二極分化するような構造としていない。

このヤッセンのようなキャラクターは例えるならば『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブルのような存在でクールで危険な雰囲気を纏った人物であり、押しなべて少年少女の人気を掴むのが常で、調べてみるとこのヤッセンを主人公にしたスピンオフ作品まで書かれているようだ。

但し少年少女向け娯楽小説であることを意識してホロヴィッツはこのアレックス・ライダーとヘロッド・セイルの境遇を同一化して、その心の持ちようで人生が変わることを示している。

実はアレックスもまた何不自由なく育てられたわけではない。叔父イアンは小さい頃からアレックスを一流のスパイにするためにありとあらゆる訓練を施していたし、彼をスパイとして引き入れるMI6も苛酷な条件を突きつければ、SASでの入隊訓練で彼は周囲の大人の退院達、特にウルフと呼ばれる隊員から様々な嫌がらせを受ける。最たるものは弱冠14歳の少年に全英の危機から国を救えと任務を与えるMI6の無茶ぶりだ。

しかしアレックスは時折減らず口と愚痴を交えながら、どうにか状況を打破しようとする。一方ヘロッド・セイルは蓄えた巨万の富で壮大な仕返しを行おうとし、それをアレックスによって阻止されるのだ。

つまりこれから君たちは人生において様々な困難や逆境に出遭うだろうが、セイルのように捻じ曲がるのではなく、アレックスのようにどんな苦難にも立ち向かってほしいとホロヴィッツは述べているのだ。

このメッセージ性こそ美女と拳銃に彩られた娯楽物の本家007シリーズとこのシリーズの大きな違いではないだろうか。

しかしそれはこのように本書の感想を書く時に物語を振り返ってみて気付くことだろう。本書を読んでいる最中はただただアレックスの冒険に没入して読むだけでいい。

確かに眉を顰めるような御都合主義的な展開もある。それはたかが14歳の小僧だと敵が見くびった結果と捉えて看過すべきだろう。

先にも書いたが14歳の英国スパイという荒唐無稽さゆえに上に挙げたような瑕疵も見られるが、このシリーズは2011年まで書かれており、全9作のシリーズとして完結したが、日本では6作目の『アークエンジェル』までで訳出は止まっている。

昨年の『カササギ殺人事件』の高評価に続き、今年出版された『メインテーマは殺人』が続けて好評であればもしかしたらシリーズの続きが訳出されるかもしれないがそれはそれ。

まずはホロヴィッツ初紹介となったこのシリーズを読んで彼の作品に馴染んでいこう。


▼以下、ネタバレ感想

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