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シンガポール脱出



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シンガポール脱出の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 -ランク
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No.1:
(7pt)

日本兵ってこんなに残虐だった?

第1作では極寒の海、第2作目ではカリブ海に浮かぶ難攻不落の要塞と戦時下での男たちの戦いを描いてきた作者が第3作目に選んだのは日本軍が包囲する東南アジアの海からの脱出行だ。

とにかく先の読めない展開ばかりだ。
日本軍が北オーストラリアに進攻する計画書のフィルムを携えたイギリス軍の准将をオーストラリアに送るために、モグリの商船にて脱出しようとするが、あえなく撃沈され、通りがかったイギリスの大型タンカーによって拾われる。そこから大型タンカーによる決死の脱出行になるかと思えば、そのタンカーもゼロ戦によって撃沈され、准将を含んだ残された乗組員は救命ボートにて逃走するが、さらに潜水艦に追われて、機転を利かせて迎撃し、島に上陸するという展開。さらにそこで追ってきた日本軍との攻防が繰り広げられ、ボートを沈めるという奇策で日本軍を欺き、ダーウィンへと死の航海へ旅立つ、そして再び日本軍に捕えられそうになったところで、一人の男の死と引き換えに逃亡に成功し、辿り着いた島で再度日本軍と相見える、とこのように場面展開は実に目まぐるしいのだ。

そして相変わらずキャラクターが立っている。

日本軍のオーストラリア襲撃の計画書のフィルムを持つ退役准将フォスター・ファーンハイムは身分を偽るために酔いどれの飲んだくれを演じる狡猾さを持ち、さらに一級の射撃の腕前を発揮して乗組員たちの窮地を救う。
遭難した彼ら一行を救う英国大型タンカー、ヴィローマ号の船長フィンドホーンは何事にも動じない落ち着きを常に持ち、その片腕の一等航海士であるジョン・ニコルソンは冷静な判断力と海を熟知した航海術を備え、そして船長同様、動揺という言葉の対極に位置する人物だ。

しかし何よりも最も印象の残るのは看護婦のドラクマンだ。欧亜混血の澄み渡るような青い眼と烏の濡羽色のような美しい黒髪を持つ彼女は、常にその目に力強い意志を備えている。そしてその美しい顔の左側には日本軍の銃剣によってこめかみから顎に亘って長くつけられた切り傷があるのだが、それを彼女は動じることなく公然と曝す。その描写だけで彼女の為人を読者に知らしめるマクリーンの上手さに思わず感嘆してしまった。

日本軍が極秘裏に計画している北オーストラリア襲撃の計画書を日本軍が攻め込む前にオーストラリアに渡さなければならないとするスパイ小説から始まり、そこから海洋冒険小説に、軍事小説、さらには島での日本軍との戦いという冒険アクション小説と、あの手この手と色んな手札を惜しげもなく導入するマクリーンのサーヴィス精神旺盛さが本書でもいかんなく発揮されている。

しかし本書では日本軍がこの上なく残虐な軍隊であると書かれており、前述のドラクマンの美しい顔に傷を負わすのは勿論の事、じわじわと真綿を締めるような拷問、捕虜に対する非人道的な行為が語られており、本当にそこまで酷かったのかと首を傾げてしまうくらいだ。特に中国での大虐殺を引き合いに出して、その残虐性を仄めかしていたが、これは今なお史実としては疑問視されている話だ。
これは当時の欧米人が日本のみならずアジアの国の軍隊をひどく恐ろしく思っていたことによるのだろう。だから映画『ランボー』シリーズでもいずこのアジアの兵士による拷問が非人道的に描写されているのかもしれない。

また今回はどんでん返しが非常に目立った。赤道直下の地の戦時下でのエスピオナージュが主軸にあったためか、仲間と思っていた人物が不可解な行動で裏切り、さらに最後でも裏切りが発覚したりと、スパイ小説特有の裏切りの連続が書かれているが、あくまでそれは設定であり、中身は熱帯の地での冒険小説と云った方が正しいだろう。

これほどまでに先の読めなかった作品が、結末が非常に淡泊なのはちょっと残念ではあった。
さて3作続けて戦時下での人間の極限状態に迫った冒険小説を著したマクリーンは次回はどこの地を舞台に迫真の冒険物語を繰り広げてくれるのだろうか。

Tetchy
WHOKS60S

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