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虹を操る少年



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【この小説が収録されている参考書籍】
虹を操る少年
虹を操る少年 (講談社文庫)

虹を操る少年の評価: 4.67/10点 レビュー 3件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.67pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

恐らく作者はこれ以上語ることを恐れたのでは?

稀代の天才高校生白河光瑠が創作した音楽と光をシンクロさせるエンタテインメント、「光楽」が一世を風靡し、その奔流に呑まれていく様を描いた作品。

東野氏の作品にはミステリに留まらずいくつかジャンルが存在するが、本書は『変身』にあるような、まだ現代には存在しないが少し未来に存在しうる事象を扱ったプチSF物語だ。従って殺人や何が起こったのかを探る本格ミステリではなく、新たな物が起こることでその渦中にいる人間がどんな人生や運命に引き込まれていくのかを描いた作品。抜群のストーリーテリング力を誇る東野氏だから、先が気になってページを繰る手が止められない。

特に光瑠の光楽を体験した者が次第に光瑠と同じ能力を獲得していくあたりの兆候からそこに至るまでの件は不穏な予感を抱かせながらぐいぐい引っ張っていく。光楽を体験した者に恍惚感と明日への活力をもたらすが、同時にそれを長く体験しないでいると、倦怠感や幻視、分裂症などの禁断症状を齎すという諸刃の刃でもあるのだ。この辺の毒の仕込み方が非常に上手い。

しかし人の感情や考えていることが光となって見えるという能力が本書の受け入れるべき設定であることは間違いないが、それがある歴史的根拠に基づいて設定されていたとは思わなかった。
いわゆる過去の宗教家の肖像画や仏像にあしらわれている後光やオーラという物が実は光瑠が持っている能力が万人にもある能力であることを裏付ける。なぜなら光を見ているのは信者である一般人であるからだ。この辺の話の持って行き方は非常に巧みだなぁと感心した。思わず膝を叩いてしまった。

しかし本書は何といっても光楽という光と音楽を絡めた芸術と主人公白河光瑠の造形に尽きる。光楽が人を魅了していく過程とその光楽の真の目的(疑似オーラを作り出し、オーラが見える人物を発掘していく)が遺跡などに表現されている事象に結びついていくことは面白い。

そして天才児白河光瑠の全てを達観している姿勢と視座。全てをあるがままに受け入れながらも、将来を見据え、そのためには自分が犠牲になっても踏み台になっても構わないと思うキャラクターは正に天才だ。

人の考えを察して云わなくてもしてほしいことを先んじてするという勘の良さも光が見えるという能力ゆえのことだというのが判明する。しかしそんな全てを見通す能力を持った彼に危難をもたらす為に設定したコンサート会場での爆破事件へのいきさつなどは本当にこの作家の構成力のすごさを思い知らされる。

1994年の作品だから時代を感じさせる記述が見られるのは致し方ない。ポケベルでの連絡のやり取りやレーザーディスクやビデオテープなどは懐かしい感じがした。同時代を生きていた私などは解るが新しい読者を次々と獲得している作者のこと、近い将来これらの単語の意味が解らない世代が出てくるかもしれない。

本書におけるメッセージは異端児はマジョリティである一般人に淘汰される人間の愚かさに対する警鐘だ。突出した能力を持つ者は時にはもてはやされ、時代の寵児となるが、安定を求める支配層にとっては自らの地位を脅かす膿であり、排除すべき存在にしか過ぎない。
しかしそれは人類の進化を停滞する愚行だと光瑠は述べる。それは深読みすれば江戸川乱歩賞作家として作家デビューしながら本格ミステリに留まらず色んなジャンルを描き、「明日のミステリ」を模索する作者自身の秘められたメッセージなのかなと思ったりした。

これだけ読ませる物語を書きながら、最後が唐突終わってしまうのが勿体無い。これ以上書くことは蛇足にしか過ぎないとする作者の潔さともいえるが、やはりいい作品だっただけにもっと余韻がほしかった。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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