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エクサバイト



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【この小説が収録されている参考書籍】
エクサバイト
エクサバイト (角川文庫)

エクサバイトの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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No.1:
(7pt)
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新しいものを生み出しても繰り返される愚かさ

20世紀は情報化社会と云われて久しいが、服部真澄氏がこの高度情報化社会をテーマに小説を書くとこんなにも我々の想像を凌駕した世界が広がるのかと唖然、いや驚愕した。
今やウェラブル・カメラが販売されるようになった現在。その6年も前にほくろサイズの超小型ウェラブル・カメラと15テラバイトもの大容量記憶端末を体内に埋め込んで一生分の目にした画像を記憶する“ヴィジブル・ユニット”なる装置を創造した服部氏の慧眼にまず物語冒頭から開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けた。
常に時代の先端を予見し、我々のまだ見ぬ世界を見せてくれる服部氏だが、今回もその期待は裏切らず、いやはるかに超えた高度情報化社会の光と影を見せつけてくれた。

ただこのヴィジブル・ユニットに関しては個人的には魅力を感じなかった。なぜなら365日24時間自分の行動が記録されることは自身の恥部や秘密なども記録されるからだ。
誰がそんなものを過去に残しておこうと思うのか?この価値観の違いに共感を覚えられなかったのは本書を読むのに終始違和感を抱く要素となった。

その違和感は物語の後半である大きな陰謀へと繋がるのだが、それについては後述する。

さてどんな一般人でもその人が一生の中で同時期に体験したことが貴重な情報となり、それが思いもかけない金のなる木になる可能性を秘めている。だからこそ企業は個人情報を欲しがり、不法な手段を使ってまでも手に入れようとするのだ。

しかしそんな文字上だけの情報ではなく、一人一人が目にした画像が一生分記録され、それがデータとして蓄積され、観ることが出来たら?
そんな所から本書のアイデアは生まれている。いやもはやこれは世界の最前線に詳しい服部氏が既に得た確度の高い情報が基礎となっているのかもしれない。

今まで古い書物や残された手記、更には写真と云った媒体を介してでしか当たることのできなかった歴史。それが映像として記録され、再現されることになったのはまだ前世紀の後半になってからだ。そして物語の舞台となった2025年では誰もが歴史の生き証人となり、その目の当たりした画像が貴重な情報となっていく。
しかし企業はそれを買うのではなく、寧ろ料金を徴収してストックするサービスを行う。それは誰もが生きていた証を後世に遺したいという欲望を持っているからだ。この人間の原理に着眼し、新たなビジネスを創造した作者の発想の妙。
しかしいつもながら何と云う事を考え付く人なのか、服部氏は。

しかしそんな新しいビジネスにも影が潜んでいる。いつもながら服部氏は巨大企業のサービスの裏に潜む企みを一般市民の我々に痛烈に突き付けてくれる。甘い話には裏があるというが、この世の中には建前のカバーストーリーがあり、企業の真の目的は個人のプライヴァシーまで踏み込んで私腹を肥やすことにある。

上にも書いたが、あらゆる情報の中で個人情報ほど貴重な物は無いからだ。

人々が望んで自らの体内にカメラを埋め込み、自らの生活の一部始終を記録してくれることになった世の中で、そんな貴重なデータ蓄積装置を開発した会社が黙って放置するわけがない。それらは無料回収というリサイクル事業の名の下、企業に吸い取られ、蓄積され、個人が丸裸にされていく。知られたくない過去や性癖だけでなく、携わったプロジェクトや組織の公には見せたくない醜い争いと云ったものまでが白日の下に曝されるのだ。

高度情報化社会が進んだ行く末路の多大なる危険性を本書は警告してくれる。

しかし驚きはそれだけに留まらない。
思い出は美化されるの言葉の如く、人が記録した画像もまた美化されるように改竄される技術が生まれる。つまり記録された個人の動画から史実を再現する事さえもまた嘘に糊塗されてしまう可能性が生まれるのだ。

2025年から2119年の94年という永いスパンで語られる本書は高度化する技術の果てしのない騙し合いがいつの世でも繰り返される虚しさを物語っている。歴史の証言者たろうとした者が遺した記録媒体は100年後では改竄が当たり前になった世の中で真実であることさえも疑われる。真贋を判定するソフトにかけないと情報の真偽でさえ、偽の画像がリアルすぎるがゆえに判断できなくなってしまっている。
これぞテクノロジーのジレンマではないだろうか。
我々は人々のニーズに応えて色んな物を生み出してきたが、それは果たして本当に正しいものだったのか?ニーズがあるからそれがいけないことだと知りつつも開発され、生み出された物もある。しかしそれを求める人間、いや発想し具現化する者がいる限り、このテクノロジーの果てしのない愚かなゲームは終わらない。

『ポジ・スパイラル』でも服部氏は地球温暖化を解決する新たなビジネスモデルを案出したが、それに伴う危険性もまた容赦なく提示した。そして本書もまた今までにないビジネスモデルを創出しながらも、それが行き着く虚しいまでの袋小路と警鐘を示した。
とにかくその想像力の豊かさゆえにその先を見通す眼力は只者ではない。これは恐らく同じことを考えている人々に対する警告と利用するであろうユーザーへの警告を促しているのかもしれない。

我々はどこに向かい、そして何を得るのか。本書を読んでそんな思いを抱いた。

Tetchy
WHOKS60S

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