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逆転世界



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【この小説が収録されている参考書籍】
逆転世界 (1983年) (サンリオSF文庫)
逆転世界 (創元SF文庫)

逆転世界の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

我々自身の世界の原理原則さえも疑問に思ってしまう作品

<地球市>と呼ばれる都市は軌道上に乗る動く7層からなる都市でその行先の測量をし、軌道を敷設し、断崖があれば橋を架ける。それがギルド員の仕事だった。
1年に約36.5マイル動く都市に住む人々の年齢もまた時間ではなく、距離で表現される。人は650マイル、即ち約18歳になると成人とみなされ、それら複数のギルドの中から自分が就くべき職業を選択する。そして成人になるまで都市の人々は外の世界へでることはないのだ。

クリストファー・プリーストが1974年に発表したSF小説である本書はそんな奇想が横溢する世界が舞台だ。

最適線と呼ばれる位置を目指して軌道の上を北進する都市。しかしそこは目的地ではなく、通るべき道筋に過ぎない。北への進路はすなわち進むべき未来。従ってその進路を測量する職人たちは未来測量ギルド員と呼ばれる。そして進行方向へ敷設する軌道は通過済みの軌道を回収して整備する。通過した軌道は過去と呼ばれる。そう、この移動する都市では過去が具現化して見えるのだ。

しかし物語が進むにつれて、北を未来、南を過去と呼ぶのが単なる通称ではないことが解ってくる。主人公ヘルワードの父は未来測量ギルド員だが、数日後に再会した時にはひどく老いており、また南へ下る旅の連れは次第に背が縮んでいく。

さらには山々や川が谷までもが縮んでいく。やがて地面と平行になって落ちていく感覚になり、南へ引っ張られる、南への張力が強まっていく。それは世界の遠心力によるもの。この遠心力に捉われないために都市は北へ動くのだ。やがてヘルワードは次第にこの世界がどんな仕組みであるのか解ってくる。
それは双曲線をy軸を中心に回転した縦と横に無限に伸びる世界であるとイメージを掴む。最適線とは原点にもっとも近づいた場所のことであり、そこでの1日の時間は24時間となり、もっともバランスの取れた地点なのだ。そして無限の宇宙にある有限の惑星がある地球の世界ではなく、ここでは有限の宇宙に無限の広がりの世界を持つ惑星が複数ある逆転の世界に住んでいるのが彼らなのだ。
むぅ、なんという奇想だ

しかしそんな動く都市と歪む世界の摂理は第4部で驚くべき転換を見せる。

しかしこの真相の衝撃はものすごいものだ。
歪みゆく世界から逃れるために動く都市。彼らの行動原理には原因と結果が備わっており、この世を理解するに十分な論理が存在している。そんな安定した世界観を覆す奇想。
まさにコペルニクス的発想転換。当時のガリレオの地動説が発表された衝撃と黙殺しようとした学会の気持ちが実によく解る。

つまり本書の本当の戦慄すべきところは我々の住む世界の現代科学によって理論づけられ、補完されている原理原則が、実は科学者の独断と偏見による解釈によって成されているかもしれないという恐れだ。
地球には重力がある。地球は自転し、太陽の周りを公転している。紛れもなくこの世界に住む人々はこのような原理原則を信じているわけだが、果たしてそれを実際に目の当たりにした者はおらず、科学者や数学者による数式によって理論づけられているに過ぎない。
本書はそうしたことが盲信かもしれないという警句を投げかけているのだ。

しかし色んな要素を含んだ物語だ。都市に住まう人々の中にはなぜ都市は動かなければならないのかと疑問を抱く者も少なくない。しかしギルド員は南に下ることで知ったこの世の原理に基づき、それを他言することを禁じられているがために都市を動かすことを最優先事項として一心不乱に働くだけだ。

これは現代の我々の社会でも同じではないか?
会社の繁栄という大目的の中、大きな組織であればあるほど業務は細分化し、組織の末端になればなるほど自分の仕事が会社の利益にどのように寄与しているのか解らないにも関わらず、日々の仕事をこなさざるを得なくなる。なぜならそれが彼らにとって与えられた仕事、任務だからだ。
そんな社会の縮図がこの都市を動かすことに執心するギルドの仕組みに集約されているように感じた。

さらには都市の創立者のフランシス・デステインの指導書の存在だ。これはまさに聖書のようなものであり、都市の住民にとっては生きるための成すべきことが書かれた指南書だ。
これはまさに宗教であり、住民は信者という構図だ。

この読後感はまさに『猿の惑星』だ。もしこの作品を観ていなかったら本書の結末の衝撃はまさにカタストロフィが訪れたかのような衝撃に見舞われただろう。
しかしそんな先行作と比較することなく、本書の中に横溢する動く都市の業務に従事する一人の男の人生を中心にした奇想の物語にどっぷり浸って、驚いてほしい。


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Tetchy
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