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(短編集)

あの頃の誰か



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【この小説が収録されている参考書籍】
あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)

あの頃の誰かの評価: 5.17/10点 レビュー 6件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.17pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(5pt)

東野氏だからこそ出版できた短編集

文庫オリジナルで発刊された短編集。しかし収録作品にはある共通項があり、それは後で明かすことにしよう。

まず「シャレードがいっぱい」はバブル全盛期の頃の話。
メッシー、アッシー、ミツグくん、高級ワインにシャンパン、イタ飯、六本木カローラと呼ばれていたBMW、フェラーリ、そしてクリスマス・イヴに備えて高級ホテルの最上階のレストランとスイートルームを半年以上前から予約する、等々、バブル華やかなりし頃のミステリ。つくづく読んでて思うが、バブル期の日本はみな浮かれていて、無駄な事に大金を費やすことがステータスとなっていた、金の狂人たちの時代だったなんだなぁと思わず懐かしむような思いで読んだ。
主人公の津田弥生はそんなバブルの時代を謳歌している女性の1人で、その頃はどこにでもいた女性の1人なのだが、そんな彼女がどこか怪しいところのある尾藤と名乗る男と恋人の、いや友達以上恋人未満の北沢の死を探るミステリだが、ライトミステリながらもダイイング・メッセージを皮切りにシャレード、文字謎がたくさん含まれた作品。特に遺言状のトリックはなぜ気付かなかったのか、非常に悔しい思いがした。

「レイコと玲子」はタイトルから推測できるように多重人格者を扱った作品。
バブル時代に書かれた作品でベンツ、アルマーニ、セルシオ、グッチの財布と当時席巻していたアイテムがそこここに挟まれて、ライトミステリのように思えるが、読み応えは案外深い。

「再生魔術の女」は1つの部屋で繰り広げられるある復讐の物語。
よくもまあ、こんな恐ろしい発想が生まれる物である。

名作『秘密』の原型となったのが「さよなら『お父さん』」だ。設定はほとんど一緒と云っていいだろう。『秘密』がバスの事故で母の意識が娘に入り込むのなら、こちらは飛行機事故という設定の違いくらいだ。
当初は娘の心に妻の意識が入り込むことで生じる違和感を面白おかしく描くのが目的だったらしいが、本作でも『秘密』に通ずるそこはかとない哀しみが漂っている。本書を下敷きに『秘密』を著したのは正解だった。

ホームズのパロディ譚である「名探偵退場」は隠居生活に入ったかつての名探偵アンソニー・ワイクが自分が手掛けた事件の中で最も難易度が高く、印象深かった魔王館殺人事件の記録を著すところから始まる。
名探偵のジレンマとも云うべき永遠の命題を利用した物語の展開と意外な真相が実に印象的だ。しかしただ単純に面白いだけでなく、本格ミステリが孕む危険性を読者は感じ取ってほしいのだが。

「女も虎も」は題名通りリドル・ストーリーの傑作として名高い「女か虎か」の本歌取り作品。但し舞台は日本の江戸時代らしき設定。
殿様の妾に手を出した真之介が2つの扉ならぬ3つの扉のうち1つを選択することで運命が決まる。1つには絶世の美女が、1つには虎が、そして最後の1つに何が入っているのかは不明だった。そして真之介が選んだ扉には果たして…。
たった10ページのショートショートで、オチもまあ単純と云えば単純。

「眠りたい死にたくない」は監禁物。
睡眠薬を飲まされ、酩酊状態の中で監禁状態になった経緯を思い出す一部始終はある完全犯罪のそれだった。

最後の「二十年目の約束」はある夫婦の物語だ。
これは正直ピンと来なかった。最後の1編にしては今いち締まらなかったなぁ。


収録作品は雑誌に掲載されながらもある理由によって短編集として纏められなかった、作者曰く「わけあり物件」らしい。

例えば掲載されていた雑誌が出版社の倒産によって作品がお蔵入りしたり、有名になってしまった長編の原型だったり、単純に短編集に纏める機会がなかったりと、そんな落穂を拾うかのように編まれたのが本作だ。

だからといって駄作の寄せ集めではなく、そこは東野圭吾氏、水準をきちんと保っている。個人的には「再生魔術の女」の発想の妙を買う。被害者の胎内に残された精液から代理母に子供を産ませ、それを容疑者の養子として送り込み、復讐する。顔立ちが似てくれば容疑者が犯人だったことが解る、遠大な復讐だ。
このトンデモ科学のトリックとでも云おうか、鬼気迫る復讐者の執念、いや情念に畏れ入った。

収録作は89年から95年にかけて書かれた作品で、バブル景気に浮かれる日本を髣髴させるキーワードが物語に織り込まれていて感慨深い。特に顕著なのが、第1編目の「シャレードはいっぱい」と2編目の「レイコと玲子」。あとがきで作者自身が「もはや時代小説だ」というように、「バブルは遥かなりにけり」の感はあるが、これはこれでそういう時代があったことを知る貴重な資料にもなるのではないか。

しかしこのような長い創作活動の中で埋もれてしまった短編が再び日の目を見るように本に纏められるのも東野氏が今や当代一の人気ミステリ作家になったからこそだ。こんな東野作品もあったのだと、今の作品群と読み比べてみるのもまた一興かもしれない。
しかしやはりバブルは強烈だったなぁ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

あの頃の誰かの感想

東野としては若干期待外れかな?

kazoo
EMXD4KLV

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