夜想曲(ノクターン)
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種別
長編
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評判
夜想曲(ノクターン)の評価:
7.25/10点 レビュー 8件。 B ランク
夜想曲(ノクターン)の総合評価:
7.54/10点 レビュー 13件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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依井貴裕氏は1990年に『記念樹』という作品で当時東京創元社が出していたミステリ叢書からデビューした本格ミステリ作家である。つまり新本格ブームの中、数多くデビューした作家の1人と云えるだろう。
そのペンネームを音読みすれば「イイ キユウ」、すなわちエラリー・クイーンのイニシャル「E.Q」になることから、この作家の持ち味はあくまでロジックに徹したミステリであり、同じくクイーンを尊敬する有栖川有栖氏の目指すところは一致している。
さて私にとって彼の作品を読むのは本作が初めてなのだが、実に端正な本格だというのが正直な感想。上に述べたように推理はロジックの積み重ねで整然と解かれていく。
休業中の俳優桜木和巳の許へ送られた手紙には数ヶ月前に旧友たちと山荘に集まり宿泊した3日間に起きた連続殺人事件の顛末が小説風に綴られていた。桜木には当日の記憶が一切ないが人の首を絞める感触が実に生々しく残っていた。そしてその文書には桜木が犯人であると告発していた。
この20世紀末の時期、日本の本格シーンにはこういった手記に隠されたトリックを解き明かす類のミステリが一つのジャンルのように作られた。
法月綸太郎氏の『頼子のために』、島田荘司氏の『眩暈』、そして叙述トリックの雄、折原一氏の一連の作品群・・・。
傑作も多いことからこのような題材は本格ミステリ作家ならば一度は挑戦したいと思うのだろう。依井氏がそのジャンルに挑戦したのが本書である。
確かに一見普通の手記のように読み取れるが、なんだか解らない違和感がある。しかしそれがなんだか解らないまま、190ページ弱読み終わり、読者への挑戦状が挿入される。どうにも解らないまま解決編に行くと思いもよらないトリックに驚かされる。
このトリックはネタバレになるので具体的には挙げないが、同趣向の作品と同様のトリックである。しかし無駄の一切ない内容で実にコンパクトにまとまっており、それが故、疑うことさえも難しくなっている。
また真犯人の正体も実に意外だが、当時のミステリ文壇の流行を取り入れた内容になっている。
しかしこの頃すでにこの題材は手垢にまみれていたからさほどの衝撃はなかったのかもしれない。
また探偵役の多根井理のキャラクターが平凡で単純なロジックマシーンになっているのが惜しいところ。理路整然としたロジックもいいがやはり作品として一歩抜きん出るにはトリックの衝撃はもとより、魅力的な探偵というのが必須であることを痛感させられる反面教師のような作品になっている。
しかしこの作家のクイーンへの傾倒ぶりはかなり熱いものだと感じられる。なんせ「読者への挑戦状」も挿入されているのだ。
また先に述べた自身のペンネームに加え、作品の探偵役であるミステリ作家多根井理の名を見て思わずニヤリとしてしまった。エラリー・クイーンのコンビであるフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーのそれぞれのラストネームを当て字にして名前にしているのだ。
他にもバーナビー・ロスの当て字をした登場人物がいるのではないかと目を皿のようにして読んだのだが、さすがにそれはなかったが。
さてこの依井氏、1999年発表の本書以降、新作を発表していない。おそらく公務員との兼業作家であることがその大きな要因であるのだが、数多消えていったミステリ・エンタテインメント作家と違うのは今なお『このミス』で近況報告がされていることだ。そこには次回作のことは一切書かれていないが毎年何がしかの報告がなされているということは再びペンを執る気持ちが残っているからだと推察する。それを期待して新作の発表を待つことにしよう。
それよりも東京創元社ですでに発表された『記念樹』、『歳時記』、『肖像画』といった一連の作品を文庫化してほしいものだ。頼みますよ、東京創元社さん!
▼以下、ネタバレ感想