囮弁護士
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初版刊行(参考)
種別
長編
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あらすじ
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評判
囮弁護士の評価:
7.50/10点 レビュー 2件。 B ランク
囮弁護士の総合評価:
7.08/10点 レビュー 12件。
感想一覧
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Amazonレビュー
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トゥローの描く架空の郡、キンドル郡を舞台にしたリーガルサスペンスは過去に登場した弁護士、判事、検事らが重層的に混在して登場し、さながら一大サーガを展開しているようだ。主役が各作品で違うため、それら主人公達から描かれるレギュラー出演者も各々の主観が入り、面白い。その描写は第1作から終始一貫して登場人物らの性格は変えず、違和感なく物語に入り込めるのがトゥローの素晴らしい所だ。
特にサンディ・スターンは今までのシリーズ全てに顔を出しており、自叙伝『ハーヴァード・ロー・スクール』に彼のモデルになる人物(名前もそのまま)を作者は高く評価していることからこのキンドル郡サーガにおいてなくてはならない人物だと捉えているようだ。
今回はキンドル郡の法曹界に蔓延る贈収賄事件の一斉摘発がテーマ。贈収賄に関わる判事ら、特に首席裁判官であるブレンダン・トゥーイを摘発せんとセネット判事はその中心人物の一人、ロビー・フェヴァー弁護士を囮としてFBI捜査官と共に手練手管を使って証拠を掴み、容疑者の連鎖の綱からトゥーイを捕まえようと企む。FBIのハイテク機器を駆使して判事らの証言を取得する中、実はロビーが無免許弁護士だったと判明する。捜査も大詰めの中、セネットは不退転の決意で捜査の続行を決意するのだが...。
主人公は題名にもあるとおり、囮となる弁護士ロビー。プレイボーイで口達者な一筋縄でいかない曲者弁護士として描かれるが、彼の根底にあるのはルー・ゲーリック病に冒され、日々衰弱していく妻ロレインへの愛だった。プレイボーイである彼が妻への献身のため、FBIの囮となる事を了承する、一見ありえない設定だが、これをトゥローは実に説得力豊かに描いていく。特にロビーの秘書として付き添うFBI女捜査官イーヴォンの眼を通して幾度となく語られるロビーの妻の看病シーンはとてもこの物語のサイド・ストーリーとは思えぬほどの濃密さである。
実際、今回の登場人物で最も印象に残るのは捜査の中心人物セネットでもなく、囮弁護士のロビーでもなく、また時に狂言回しとして使われるイーヴォンでもなく、このロレインだった。特にロレインがイーヴォンに語る、ロビーへの愛。これが綺麗事ではなく、寝たきりの身でさえロビーの体が欲しくて堪らないという動物的本能の吐露だというのが実に激しく胸を打つ。本当の夫婦とはこれほどまでに愛や肉欲が深いのかと感嘆した。最後の幕引きもやはり夫への愛に満ち足りている。恐らくロレインの眼には笑顔で手を差し伸べるロビーの姿が映ったことだろう。
2つ星を減点にしたのには二つ理由がある。まずイーヴォンの性格にあまり感情移入出来なかった事。頑固な禁欲主義者という設定から隠れレズビアンだったという移行はあるものの最後まで魅力を感じなかった。嫌っていたロビーに徐々に心を開いていくのは寧ろ物語の常道であるから特に語る事はない。
もう一つはロビーが無免許弁護士だったという設定。これは捜査の致命的な打撃になったがその後、これによって捜査が大幅に沈滞する事も無かった。何故この設定を持ってきたのか納得いかない。物語の起伏を持たせる因子としてはあざとく、寧ろ不要だったのではなかったのだろうか?
さて、今回気付いたトゥロー作品の特徴がある。それは各章の終わりを決めゼリフで括る事。これが非常に効果的で、物語を段階的に引き締め、心に印象を強く残すのだ。さらに登場人物に決めゼリフを云わせることで徐々に彼らの性格付けを読者の心に浸透させていくのだ。もしかしたらデミルもそうかもしれない。注意して読んでみよう。
書きたい事は実はまだまだ沢山ある。セネットという人物の、正義を旗印にかかげているのならば何でもしてもよいといった倣岸な性格付けの見事さ、クラザーズ判事を化け物じみた威厳の持ち主として設定したことでこの物語への介入が更に深まった事、贈賄の証拠を掴むまでの数々の駆け引きはアイリッシュの長編を髣髴させるそれ自体が1つの短編のようである事などなど。しかしこういう濃厚な作品を十全に語る事は非常に難しい。ここに書かれない千にも渡る数々の感想は胸に秘めておこう。
後に出た『死刑判決』を先に読んだ御蔭でジリアン・サリヴァンという人物を実に深く心にとどめることが出来た。今回では単なる贈賄事件に関わった判事の一人としてしか描かれず、登場人物表にも載っていない。もし先にこの作品を読んでいたら『死刑判決』でのサリヴァンの復活は再度想起させられる事はなかっただろう。
トゥロー作品は刊行順に読む必要はない。いや寧ろ、最新作から第1作へ遡って読む方がキンドル郡を愉しく歩けるのかもしれない。